多重クロス作品世界で人外転生者が四苦八苦する話 作:VISP
新西暦186年10月に入り、漸く地球上での戦闘は一先ずの終わりを告げた。
しかし、その被害は甚大なものだった。
戦闘に巻き込まれた市街地と民間人の数もさることながら、未だ旧式兵器を多く運用する地球連邦陸軍は甚大な被害を出していた。
61式戦車や初期のジムの派生形、戦闘車両や既存戦闘機等を数的主力としている連邦陸軍は量産型特機軍団とも言えるミケーネ帝国軍を相手に成す術なく蹂躙され、その数を大きく減じる事になった。
熟練の戦車兵や対ゲリラ戦に慣れたMSパイロットを始めとした多くの人員を損耗した事で、以降の陸軍は大きな動きをするだけの余裕を失う事となる。
空軍もまた虎の子のVF-11を配備したスカル大隊の2割を始めとして多くの損害を被っており、以降暫くは戦力の補充に専念する事となる。
これは地球上における連邦軍の圧力が減じた事と=であり、今まで連邦の目を逃れていた地下勢力の活動の活発化を意味する事となるのだった。
また、精鋭で知られるISA戦隊もまた暫くは活動を休止する事となる。
死者こそ奇跡的に出してはいないものの、多くの負傷者並びに機体の損耗によって暫くの間は部隊として動く事は不可能だったからだ。
ならば丁度良いとばかりにこれを機に機体の更新やアップデートが行われる事が決定し、パイロットや整備の人員は機体の機種変更に伴う各種訓練に励む事となった。
「父さん、やっぱりマジンカイザーは直ぐには修理出来ないのか?」
『残念だが、現時点では不可能と言うしかない。』
その頃、すっかりトラウマを払拭した兜甲児は父である兜剣造博士と通信していた。
『マジンカイザーは元々未完成の状態を、Dr.ヘルによって無理矢理起動していた。機体全体の負担が掛かった上にあれ程の激戦の上にあの最後で基礎部分以外総取り換えだ。で、他の量産型グレートを完成させる必要もある。』
「人手も時間も足りないかぁ。」
現状、ミケーネ帝国による極東方面を中心とした大攻勢を退け、その指揮官たる七大将軍と闇の帝王ことDr.ヘルを討つ事には成功した。
しかしその被害は余りに甚大であり、戦力の回復が急務であった。
そのために戦略級とは言えたった一機の特機、それも一度は敵の手に落ちていてトラップが仕掛けられている可能性のある機体にばかりおいそれと構う事は出来なかった。
先ずは現行の量産型グレートマジンガーを全機+1機(大破した甲児の分)を完成させるのが光子力技術関係者の結論だった。
『だが朗報もある。今回の戦闘により将来的にだが、量産型グレートのカイザーへの完全なアップデートの道筋が見えた。』
「へぇ、じゃグレートマジンカイザー軍団もいつかは実現するのか!?」
今回の戦闘で改めて実感したマジンカイザーの戦闘能力。
それが量産機として普及すれば、向かう所敵無しだ。
甲児はそんな夢想をするが、剣造は無念そうに頭を左右に振った。
『試算してみたが、一機当たりエクセリオン級に比肩する製造コストが掛かると出た。とてもではないがそんな予算は無い。』
「そりゃ無いぜ~。」
戦略級特機を量産するより強力だけど普通の特機を数揃えてくれ。
それが地球連邦軍の、そしてトレミィの意見だった。
だが、後にどうしても必要であると判断したトレミィにより、その辺の予算は何とか都合される事となる。
なお、このコストに研究費用は加算されていない。
あくまでも純粋な建造コストだけであり、その云百倍がカイザー系の開発コストとして消費されている(白目)。
『まぁそれも父、十蔵が退院してからだな。下手にカイザー関係に手を出すと自分も混ぜろと病院から抜け出して来るぞ。』
「あーそりゃ仕方ないわな…。」
更に言えば量産型グレートをカイザー化させるにはゲッター線が不可欠であるため、早乙女賢ちゃん博士ら早乙女研究所の力を借りねばならない。
魔神覚醒事件後、雪解けを迎えた兜十蔵博士と早乙女博士であるが、それでもやっぱり一方的に敵視していた事もあって十蔵博士の方はまだちょっとギクシャクしている所もある。
無論、互いに仕事に関しては一切のミスも遅滞も無いのだが……二人が寿命を迎えるのが先か、完全にスクラム組めるのが先か、今現在では誰も分からなかった。
そんな訳で、甲児が機種変更するのはもう暫く先の事になるのだった。
こうして、僅かな間だが戦闘の無い比較的穏やかな時間が過ぎるのだったが………事態は彼らの知らぬ所で進行していた。
……………
新西暦186年10月7日 コンペイトウ司令部
「何、アクシズが移動しているだと!?」
副官からの緊急報告に、休憩していたコンペイトウ駐留艦隊司令官が叫んだ。
アステロイドベルトに潜伏していたジオン残党軍最大の拠点であるアクシズ。
それが地球に向けて移動している事が確認されたのだ。
「間違いないのか?」
「はい。哨戒機の報告の後、改めて偵察部隊を出しましたが間違いないかと。」
「えぇい、このクソ忙しい時に…!」
旧ソロモン要塞・現コンペイトウは各サイドを守る連邦駐留艦隊とは別にコロニー並びに地球圏の防衛を担当する連邦宇宙軍艦隊が所属している。
その隻数こそ少ないものの、その質は宇宙軍の中でもずば抜けている。
土星や共和連合、連邦首都ダカールのあるアフリカ、月面に配置されたエクセリオン級を除いたロールアウト済みの3隻全てが所属しており、更にシズラーシリーズも中隊規模で存在している極めて有力な艦隊になっている。
そんな彼らはその戦力に応じた広範囲をカバーしており、今回の一件もそれ故に彼らが最初に発見した。
「直ぐに総司令部に連絡。それと艦隊の出撃準備だ。エクセリオン級三隻とシズラー隊全てを含めてだ。」
「は、は?エクセリオン級とシズラーもですか?過剰過ぎませんか?」
アクシズに逃げ込んだのは、所詮は一年戦争中に多数の戦争犯罪を行った残党兵である。
当時の基準では有力な戦力だろうが、現在の機動兵器は日進月歩の勢いで発展し続けており、ミノフスキー技術のみの第一世代型MSや当時の艦艇。そこから多少独自に発展させているとしても…どう考えても相手にならない。
そんな連中相手に艦隊を動員するのは、一見にして確かに過剰戦力に見える。
「連中が何の勝算も無く動くと思うか?」
「…昨今の侵略者騒ぎに乗じるつもりでは?」
「それも有り得る。だが、私が考えているのはもっと最悪のケースだ。」
ジオン残党として、嘗ての一年戦争の続きでもやろうとしているのか?
或いは戦争犯罪者のならず者らしく、連邦軍の勢いが減じたこの機に乗じて大規模な海賊行為でもしようと言うのか?
だが、それにしては少々不自然だ。
アクシズにいるのは海賊行為にしても今まで連邦軍にギリギリ排除されない、民間には積み荷の被害しか出さないように注意していたコソ泥共に過ぎない。
そんな志等微塵も無い破落戸共が今になって地球にアクシズを向かわせる?
「アクシズが侵略者共に寝返っている可能性がある。」
「は?それは……有り得なくは無いですな。」
ホームである地球上に突如侵略者が現れる昨今、アステロイドベルトにいきなり侵略者が現れても不思議ではない。
その戦力に屈して、命惜しさに従う事も同じ位の確率だろう。
「総司令部のみならず、各サイド駐留艦隊と月面にも情報を知らせろ。最悪、アクシズの破砕作戦を行わねばならん。光子魚雷のチェックを怠るな。」
「了解です。直ぐに取り掛かります。」
こうして、地上の次は宇宙だとばかりに状況は動き出した。
……………
冥王星宙域 ????
「で?」
ズール銀河帝国所属のとある艦隊にて。
ギシン帝国に併呑された星系国家の一つ、キャンベル星人の運用する大型母艦セント・マグマ。
キャンベル星人の総司令官に当たる女帝ジャネラはその美貌に青筋をビキビキおっ立てながら部下の報告を聞いていた。
「て、敵施設の制圧に向かった陸戦隊は僅かな生存者を残して…全滅しました。」
殺気立つ自国の権力者、雲上人とも言える女帝を前にして、報告に来た士官はガタガタ震えながら、それでも職分を果たすべく報告を続けた。
「既に現地名称『冥王星』は今まで執拗だった敵側の妨害工作が殆ど無かったため、放棄されているものと判断し、敵のものと思われる施設に対して陸戦隊を用いての制圧作戦を行いました。しかし、最深部にこちらの兵士が到達したと同時に施設全体が爆発し、離れた場所で待機していた者のみ生き残りました。」
冥王星、そこはU.T.F.にとってそれなりに重要な拠点だった。
この冥王星付近の宙域には巨人族の兵器・兵士を生産可能な工場衛星が複数存在しており、これらを接収して無人化改装を施した巨人族艦隊を生産していたからだ。
普通ならそう簡単に移す事も出来ず、ここでズール銀河帝国相手に地球人類より先に戦端を開く事になるかと思ったが…
『人工衛星なら移動できるでしょ。取り敢えず位相空間に移しておきましょ。』
『畏まりました。』
という偉い人の御言葉により、現在の冥王星には人類が築いた最低限の観測施設とトラップのためのダミー施設だけが置かれていたのだ。
今まで散々罠や嫌がらせを受け、鬱憤を溜めていたズール銀河帝国軍所属となった元キャンベル星人現植民地兵達はその感情のまま突っ走り、こうしてU.T.F.側の狙い通り「汚い花火」と化したのだった。
「今回の件で最も責任ある者を拷問の後、処刑せよ…ッ。二度とこの様な無様を妾の前に晒すな!」
「は、ははぁ!!」
報告を終えて命じられた士官は恐怖で顔色を真っ青にしつ、あっと言う間にジャネラの目の前から駆け去っていった。
「クソ、このままでは我らは敵と戦う前に陛下に消されてしまう…!」
そう言うジャネラの顔には、深く深く苦悩と恐怖が刻まれていた。
ズール銀河帝国軍艦隊、その中でも外様である植民兵所属の彼女らが地球連邦と戦端を開くまで、もう残り僅かだった。