多重クロス作品世界で人外転生者が四苦八苦する話 作:VISP
クローン武蔵との交渉は、辛うじて無事に終了した。
妊婦さん(出産直前)をメッセンジャーにした事だけはしこたま怒られたものの、それ以外に関しては割と穏やかに進んだ。
(流石はゲッターチーム随一の良心、懐のデカさが違う…!)
とかトレミィが思っているかどうかは兎も角、現状でクローン武蔵が取れる選択肢も殆ど無かった事も一因だった。
何せ艦はまともに動かず、武装は歩兵用レーザー銃とナイフ、後は身一つ。
それに対して相手は傘下に入れとか降伏しろとか言わず、絶滅しろとか問答無用な殲滅戦を仕掛けてもこない。
手段は少々どころではなく非人道的だったものの、それでも敵対ではなく話し合いを求める理性的な相手だ。
加えて、要求してくるのが対価ありの艦の解析とゲッター艦隊との交渉の仲介とまともだ。
そして、対価の方もクローン武蔵ですら唸る様な代物だった。
主な内容は以下の通りだ。
1、艦の修理
2、艦に未搭載の技術の情報
3、支援用ナノマシン式自動人形の配置
1はその通りで、提供・解析されたデータを参考にした艦の修理だ。
これには故障して冷凍睡眠せざるを得なかったクローン製造機も含まれる。
一番の問題であるゲッター炉とゲッター線増幅装置に関しては、クローン武蔵立ち合いの下に火星圏にある工業用コロニーにて作成・研究される事となった。
これはもしメルトダウンした際のリスクを考慮したものであり、こうして得られたデータは将来早乙女博士へと送られる契約となっている。
2に関しては、トレミィ側からの申し出だった。
主な内容は時空間跳躍技術、そしてナノマシンだ。
原作でも超高出力のゲッター線は時間や空間、宇宙すら飛び越えていたが、それはとてもではないが安定した技術とは言えなかった。
そのため、それらを技術力にて成し遂げていたTF側の技術を提供する事で、間違ってこっちのいる宇宙に飛び出てくる事が無くなるようにとの思いでワープ・時間移動に関する基礎的な技術情報が提供された。
なお、今現在のトレミィ側では単なるワープなら兎も角、正確な時間・世界間移動は不可能となっている。
これは時間・世界の壁を乗り越えるためのエネルギーの生産手段並び正確無比かつ膨大な計算をするだけのCPUがマトリクスと共に失われてしまったから。
ナノマシンの方は今回の様な事例が起きた場合により早期な戦列復帰をするためのもので、ナノマシン群が周囲の物体を分解・吸収して機体の修復並び搭乗者の治療を行ってくれる。
各ゲットマシンの装甲は特殊な形状記憶合金であり、ゲッター線を浴びる事でその質量を増大・形状を変化させるのだが……一々変形合体する度にゲッター線消費するとか無駄が多過ぎるので、ゲッター線対応ナノマシンを開発し、それを構造材として採用させる事でより継戦能力を高めようという目論見だ。
まぁゲッター線対応ナノマシンとか何処のDG細胞かな?って代物の実用化は今後の研究次第だが。
なお、もしTF本国がいたらここにフィジカルキャンセラーを追加していた可能性が高い。
それさえあれば、変形だけで何光年とかかかる事も無く、比較的早期に時天空に勝てる程に進化してくれるかもしれないからだ(なお周辺被害)。
3だが、これは「男やもめで生まれてから死ぬまで所か死んでもクローンとして生き返って永遠に戦い続けるとか気の毒過ぎて…」というトレミィの厚意(余計なお世話)で用意された。
例え死んで次のクローンになってもずっと愛してくれる糟糠の妻とか、果報者かな?(なお永劫なる戦い)
後、おまけに各種嗜好品(保全用ナノマシン群により消費期限千年を誇る)を満載する予定だ。
そんなこんなで、何とかトレミィは人類以外全てブッコロなゲッターエンペラーと率いるゲッター艦隊と交渉するための足掛かりを築くという偉業を成し遂げたのだった。
……………
新西暦70年代現在、地球圏では増え過ぎた人口問題を解決すべく、地球連邦政府により宇宙並びに火星への大々的な移民政策が推進された。
これが後々宇宙世紀にて大問題の温床と化して棄民政策とか言われたりするのを知っているのは、今現在はトレミィ達ことA.I.M.社内部の調査部門のみだった。
とは言え、地球の外へ出る事それ自体は寧ろ必要な事であり、彼女らとしても寧ろ大歓迎だ。
しかし、現在の低コスト化が難しい状態での推進は移民側、特にコロニーへの移民に対して悪戯に負担を増やすだけという事も分かっていた。
地球圏各地にいる古参・新参問わぬ高性能の上位機種の自動人形並びA.I.M.グループ内の重役達がこの問題に関して秘匿通信にて会合を行った。
『やはりと言うべきか、こうなりましたな。』
「とは言え、対処するしかありません。」
『その通りかと。幸い、コロニー向け各種食料プラントに関しては順調に稼働中です。』
『現状、建設中の完全循環型コロニー並びに空気・水生成プラントの方は問題ないですが…。』
「足りませんか?」
『はい。可能な限り建設を急いではいますが…。』
「空気・水生成プラントのみの生産はどうですか?それなら多少は数が多くなるかと思いますが。」
現在の課題は、コロニー住民の対連邦政府への悪感情に繋がる空気税の軽減に関するものだった。
幸い、水や空気をコロニー内にて完全に循環させるシステムに関しては既に完成している。
実際、地球圏の各ラグランジュポイントではそれらを搭載したA.I.M.社製円筒型コロニーが稼働中であり、中には研究・娯楽用として内部に地球の各種自然環境を再現したものすらある。
こうした実績もあり、コロニー建設の受注を一番多く受けているのはA.I.M.グループだったりする。
無論、それ以外の企業も大なり小なり受注してノウハウや実績の蓄積に努めており、何時地球圏最大の企業グループから蹴落とされるのかと彼女らは楽しみに待っていたりする。
『そちらの方は順調に受注が増えていますね。まぁ購入したものを解析して、自社に取り入れようという連中も多いですが。』
「そういうのは寧ろ積極的にやらせてあげて下さい。どの道特許はこちらのものですし、我々だけに頼られても困ります。」
実際、地球圏最大の企業グループで内部での派閥争いなんてほぼ無いとは言え、その生産力は無限ではない。
また、自分達に何かあったら即詰みになるような状態なんて、不健全極まりない。
そのためにも他企業群には是非ともノウハウを積んで、或いは盗んで自分の力にしてほしい。
そのために今まで幾度も技術提供を続けてきたのだから。
『火星への移民の方は?これ以上は無理ですか?』
『難しいかと。これ以上は環境改善用ナノマシンの処理能力を超え、地球よろしく環境汚染が深刻化するかと。』
そもそも、火星の大きさは地球の半分程度でしかない。
如何に地球圏の常識を超越した技術力があっても、ナノマシンの定期的な投下によって数十年程度で無装備の人類が生活できるだけの環境改造が出来るのは、その小ささも理由の一つだった。
そこに地球から半ば追い出された人々を移住させる?
現在の地球の人口が200億を超えて久しく、一基辺り1000万人しか住めないコロニーを建設して移住させても、未だ地球の自然環境の汚染は止まらないのだ。
自然の環境浄化能力を考えれば、50億を切るべきだというのが定説になっている。
ここに環境改善用ナノマシンを用いればもう少しマシな数値になるのだが、根本的な解決には至らない。
であるならば、やはり他所に住居を増やすしかない。
だが、火星のナノマシン頼りの乏しい環境浄化能力では、その半分である25億でもかなり厳しい。
建設が予定されているコロニーからなる各サイドは多少の誤差はあれど、各サイド毎に10億人は生活できる。
しかし、サイドの数はどう多く見積もっても、10を超える事は出来ない。
サイドの数を5として計算しても、火星と合わせて移住可能な人口は100億を超える事は出来ないのだ。
このままでは何れ、大きな戦乱が起こるだろう。
地球人類を延命させるために過剰な人口を減少させるためという、あんまりな理由で。
事実、宇宙世紀世界ではそうなり、遂には文明の衰退と滅亡すら招いた。
「やはり早急にエーテル技術を用いた亜高速航行並びワープ航法の実用化が必要ですか…。」
『現在、地球連邦政府も各企業と協力して研究を進めていますが…。』
はっきり言って、木星に行くのすら片道5年以上かかる現在の地球圏にワープや亜光速航行技術とか出したりしたら、どんな事態になるか予想できない。
超技術は確かに便利だが、余りにもオーバーテクノロジーだと周囲の技術開発を死滅させかねない極大のデメリットが存在するのだ。
「……仕方ありません。木星方面の開発をこれまで以上に進めましょう。」
『宜しいのですか?』
現在、木星方面はヘリウム3採取のための木星船団公社所属の工業コロニーとA.I.M.グループ位しかいない。
そこには既に完全循環型コロニーが幾つも建造中であり、資源・技術開発にも余念がない。
地球圏では人目があって出来ない事もここなら大丈夫とあのエーテル宇宙の各兵器の再現等も行われており、ゲッター線並びにゲッター系兵器の開発と一号艦の修復を行っている火星圏と並んで他所様にはお見せできない場所だった。
「誰も地球を離れたがらないのは、そこしか住み良い場所がないからです。なら、どうせ必要となるのですから、木星圏に今そんな場所を作っても良いでしょう。」
『畏まりました。ではそのように。』
この会合の後、木星圏の開発が本格的に加速していく。
この数年後、地球圏から木星圏開発の責任者として着任したクラックス・ドゥガチ氏は木星圏の予想以上の開発速度に驚きを露わにするも、整備の追い付いていなかった自治体としての各種制度を纏める事で荒くれ者ばかりだった工業労働者らやA.I.M.グループから信頼を勝ち取り、後に木星自治区成立の父として長く尊敬される事となる。
なお、やっぱりと言うべきか、ドゥガチ氏には親子(下手すると孫)並みに年の離れた嫁が連邦政府から寄越されて大問題に発展しかけた。
しかし、大らかな嫁さんは各サイドの何れよりも多人口・高技術・多資源を持った木星の繁栄ぶりに驚きつつも、のんびりと暮らし、そんな彼女に毒気を抜かれたドゥガチ氏も呆れながら鉾を収めたそうな。
……………
「きゃっきゃっ!」
「ふふふ、元気な子ですね。」
黒髪をうなじの辺りで結った生体式自動人形が、部屋を駆け回る愛息子へと愛おしそうに視線を向ける。
ここは火星圏、とある宙域に存在する秘匿研究用コロニー。
今現在はゲッター線関連の技術を研究するのに使用されているこの場所には、通常空間よりも多くのゲッター線が存在している(無論、周辺に無害な範囲だが)。
あの一号戦艦との交渉開始時、ゲッター線を浴びただろう彼女らは時折ここを訪れて検査を受けていた。
なお、旦那(出張先で酔ってハニトラ食らったのを逆手に取ってやり返してた)は事の次第を証拠付きで話した後に土下座で謝罪し、関係修復したそうな。
「賢、そろそろおやつにしましょうか。」
「あーい!」
後にこの賢少年はゲッター線の研究にのめり込み、地球圏では未だゲッター線の存在すらまともに認められていない事に屈辱を感じ、遂には地球にてゲッター線専門の研究所を設立する。
将来、早乙女という家に婿入りし、大事な妻の実家から支援を受けながら、幼い頃に見た朧げな記憶を頼りにゲッター線を動力とした巨大メカを作る夢に取りつかれる事となる。
彼こそが後のゲッター線の第一人者にてゲッターロボの生みの親。
後の早乙女博士であった。
『…………。』
ソレは未だ眠っていた。
長い、永い、久い時の中を微睡みながら、その身体を癒していた。
否、また生まれようとしていた。
無から有へ、周囲の原子を少しずつ少しずつ結び付けて形とし、胎児へとなろうとしていた。
星が生まれる前、この宇宙が生まれる前から存在したソレにとって、この程度の永さは何でもない。
また生まれ直すかどうかは外部からの干渉任せなのだが…。
『………。』
ほんの少し、ソレは身動ぎした。
自分と近しい存在が、この宇宙に産声を上げようとしているのを感じたからだ。
だが、まだ目覚める事はない。
まだその時ではないと、再びその意識を閉ざした。