多重クロス作品世界で人外転生者が四苦八苦する話 作:VISP
「これで良かったの?」
美しい少女の姿をした上位種に、この戦争の主導者たる男は普段の彼の様な傲慢さを持たぬ、らしくない覚悟を決めた男の壮絶な笑みで答えた。
「あぁ、これが必要だったのだ。」
二人の出会いは男がまだ学生だった頃の事だった。
木星からの外交使節団が到着し、父の側でその仕事を見学した後、疲れからか中庭へと抜け出した時の事だった。
『君大丈夫?疲れてるなら飲み物取ってこようか?』
『いえ、心配には及びません。』
それが子供らしくない少年と、年不相応な無邪気さを持った彼女との出会いだった。
「地球人類には、危機感が足りない。この太陽系の外には、恐るべき外敵が犇めき合い、今この瞬間にも人類を絶滅させかねないのだと、殆どの者が知りもしない。貴女方が死力を尽くして守っているにも関わらず、安穏としているだけだ。」
事実だった。
上位種の少女は、少年に問われるまま事実を答え、少年は人間離れした知性で彼女の語る事実をしっかり事実として認識した。
だからこそ、許せなくなった。
「人類は貴女方の揺り籠から巣立たねばならぬ。立ち上がり、大人にならなければならない。これはそのための産みの苦しみだ。」
宇宙怪獣、インベーダー、バッフ・クラン、共和連合、ズール銀河帝国、ゼ・バルマリィ帝国。
その一つでも本腰を入れれば、今の人類では何も出来ずに滅ぼされるだけだろう。
「『人類に逃げ場無し』。確かにその通り。ならば、この苦しみを以て人類の意識を改革し、この銀河に己が生存域を確立する第一歩を刻む。」
「それで貴方が史上最悪の汚名を着せられようとも?」
「無論。事は私一人の名誉など考慮する必要はない程に大きい。」
少女はただただ悲しかった。
少しでもあの少年が幸福な道を辿れるようにと思って、この関係を続けてきたのに。
結果は、更に苛烈な地獄へ繋がる断崖絶壁にあの聡明な少年を突き落としてしまった事に。
「さようなら、ギレン君。」
「えぇ、おさらばですトレミィ殿。」
こうして、歴史に残らぬ二人の関係は人類に明らかにならぬまま、改エルトリウム級プトレマイオスの量子コンピューターの最奥に厳重に保管される事となった。
……………
新西暦179年、1月3日。
遂にジオン公国が地球連邦政府に対して宣戦を布告した。
直後、地球連邦宇宙軍に対して先制攻撃を仕掛ける。
この際、地球圏全域に偽装貨物輸送船に搭載されていた初期型Nジャマー(プラント製)により地球圏全域で通信妨害並びに初期型コロニーが核分裂炉含む全機能を停止、連邦軍宇宙艦隊の4割近くが救援活動を余儀なくされる。
また、月面都市グラナダを電撃的に制圧。
続いてサイド1・2・4へ奇襲を敢行し、NBC兵器(毒ガス兵器・GGガス)の無差別使用に踏み切った。
これにはコロニー駐留軍による決死の抵抗により、毒ガスは不発に終わったものの、MSが使用する核弾頭によって少なくない連邦軍艦艇が、ミノフスキー粒子並びにNジャマーによってライフラインを破壊されたコロニーへの救援活動中にコロニーごと撃破された。
幸いと言うべきか各サイドの自治機能を担当する行政府は攻撃を免れ、サイド3と地球の間に位置するサイド5ルウムは逸早く無防備都市宣言を出す事に成功、辛うじて以降の戦火を免れる事に成功する。
この後、各サイドのコロニー行政府は同様に無防備都市宣言或いは中立を宣言した。
が、未だライフライン停止中の多数のコロニーに対しては人道的見地から連邦軍は救助活動を続行した。
これにより、コロニーへ電力供給・救援活動中の連邦軍艦艇はジオンの攻撃対象から一時外される事となった。
1月4日、ジオン軍は各コロニー駐留軍を無視し、ブリティッシュ作戦を始動する。
サイド2へ向け移動中だった新造コロニー(無人)を奪取し、地球に向けて移動を開始。
1月10日、地球連邦宇宙軍は新造コロニー迎撃作戦を実行、コロニーを防衛するジオン軍とで大規模戦闘が勃発。
連邦側は艦隊での砲撃並びに地上からの核ミサイルの飽和攻撃を実行したが、奮闘空しく(参加戦力の半数が消滅)コロニーは落下軌道に入る。
が、その直後に地球外軌道から突入してきた隕石群が命中、コロニーは崩壊、大気圏突入と共にその98%が燃え尽きた。
隕石群は三つが残り、それぞれアイドネウス南島(南米)・アタリア島(極東)、そして極東地区の行政・経済の中心地たる東京に落着した。
幸いにもそれらの隕石群による被害はコロニー落下で想定された数値よりも遥かに少ないが、これにより極東地域を中心に太平洋沿岸地域全域で3000万人を超える死者と計算不能な程の経済的損失が発生する事となる。
隕石の被害が不自然に少なく、まるで減速したようだと言う有識者からの意見も出されたが、当時の混乱でそれを気に留める者はいなかった。
開戦からここまでに2億人近い死者を出した一連の戦いを後に「一週間戦争」と呼ばれる。
1月15日、サイド5ルウム宙域にてルウム戦役が勃発。
これはジオン側が再度コロニー落としを計画し、連邦側が阻止しようとしたのだが、実際はフェイクであり、戦力を集中した連邦軍を纏めて撃滅するための作戦だった。
結果は地球連邦軍第三艦隊と第一艦隊の8割が壊滅、連絡艇で脱出を試みたレビル将軍が黒い三連星に捕捉され、捕虜になる。
また、この戦役でシャア・アズナブル中尉(当時)はサラミス級4隻、マゼラン級1隻を撃沈し、連邦将兵から「赤い彗星」と畏怖される。
これ以降の流れは史実に準ずるため、詳細な解説は省く。
しかし、この一連の戦いにて平和を謳歌していた全ての地球人類は一気に戦乱へと巻き込まれていく事は確かだった。
……………
この当時、A.I.M.グループはその稼働戦力の多くを用いて大規模な太陽系防衛戦闘へと注力していた。
もしこれが平時だった場合、間違いなく地球圏から観測され、人類以外の何者かが存在している事を知られていただろう。
攻めてきた相手はインベーダー、正確には宇宙怪獣やバッフ・クラン、ゼバルマリィ帝国製の兵器に寄生・融合してその性能を強化したメタルビーストだった。
これには改トンボ級を初めとしたステルス巡洋艦隊では歯が立たず、急遽ヴァルチャー隊一個師団が緊急展開、戦闘を開始した。
幸いにも全て撃滅に成功したが、その戦闘に紛れて地球圏へと隕石の飛来を許す事となってしまった。
「あの連中、最後の最後で生き残った個体全部融合して巨大化してきやがった…。」
「巨大化はお約束とは言え、結構被害が出てしまったのは不覚でした。」
不幸中の幸いとして、ヴァルチャー隊が取り込まれる事はなかったものの、余りに弱い改トンボ級の生産ラインは廃止する事となった。
「で、対ジオンは如何しましょう?」
「…私達が表に出る事は避けます。」
「賢明かと。」
少なくとも、戦乱が太陽系の内側で完結している内はそうするべきだろう。
現在彼女らが表に出た所で、混乱状態の人類は排斥に走るのがオチだ。
「クラウドブレイカーの開発が終了したよね?」
「はい。先行量産分がサイド7支社の工廠にて生産を開始しています。地球連邦軍にはMSの脅威が知れ渡ったでしょうし、これから売り込みになります。」
「結構。地上仕様も併せて安売りしてあげなさい。」
「畏まりました。」
クラウドブレイカー。
それはストライクスーツ・ゼロ(連邦内での愛称はゼロ戦)の流れを汲みながら、より人型兵器としての色を濃くした機体だ。
上半身はジオン系列よりも細身ながら大型で、直線で構成されたデザインを持つ。
最大の特徴は下半身で、その脚部は巨大なブースターユニットを本体とし、それに格納された着陸脚で構成されている。
脚部ユニットはゼロ戦のブースターユニットを発展させたもので、この配置はより効率よく木星の重力圏で運用するための構造であり、後に木星圏での運用を前提とするMSの多くに受け継がれる事となる。
その機動性は後にジオン軍が配備するザクⅡ高機動型に匹敵し、ジオニック社を始めとしたジオンのMS開発部門に大きな衝撃を与える事となる。
頭部は全体がセンサーヘッドであり、デフォルトで当時の電子戦仕様MSの索敵機能に匹敵、一部では凌駕する性能を持つ。
反面、強度面では不足であり、格闘戦においては一撃離脱が推奨されている。
機体サイズは全長19m、重量は42.9tとサイズの割に軽量(ザクⅡが頭頂高17.5m、重量56.2t)であり、本来ならゼロ戦と同様に木星圏での初期型MSとして運用される予定だった。
装甲材質は一般的なチタン系合金、出力は1450kw、総推力は52000kgを誇る。
武装は左腕にジェネレーター直結式ロングビームライフル、右腕に80mmガトリングガン、肩部内蔵式三連多目的ミサイルランチャー×2、胸部60mmバルカン×2、ビームサーベル(手首内蔵式)×2となる。
腕部の主兵装二つは換装可能であり、片側だけ装備する事も可能。
他、オプションとしてより取り回しの良い主兵装として120mmレールガンと100mmアサルトライフル、脚部側面にゼロ戦と共通の対艦ミサイル×4、7連装ロケット弾ポッド×2、更に肩部側面に5連装対ミサイルチャフ、5連装ビーム攪乱膜噴霧器、5連装ダミーバルーン投射器を選択で装備可能となっている。
一応連邦軍のRX計画が躓くとヤバいので、性能自体は本来の設計よりも性能を落として信頼性・生産性を重視とした輸出用のモンキーモデルとなっている。
なお、本来の仕様ならば「普通のパイロットにも乗れるギャプラン」となる。
明らかなオーバースペックなので、そっちが世に出るのは今次戦争が終了してからとなる。
が、こんな機体でも早期に連邦に提供する必要があった。
「で、隕石の正体は?」
「南アタリア島のものはメルトランディ系中型砲艦、要は初代マクロスのそれです。アイドネウス島のものはゼバルマリィ帝国のズフィールドシリーズの殲滅型、セプタギンです。そして、東京に落着したものですが、僅かに粒子状の物質をサンプルとして回収できたものの反応消失、ロストしました。」
「………。」
メテオ3「郡」という本来の予定にはない隕石群の存在により、より早期かつ少ない被害でこの戦争を終わらせる必要が出たためだった。
次いでモニターに紫色の人工物と思われる粒子状の物質が表示されると、トレミィは露骨にその顔を引き攣らせた。
「サンプルからは有機物・無機物問わず寄生・融合する性質が確認されたため、現在は冷凍し、保管庫は真空に保った上で他の物質に触れないよう重力場にて固定中です。」
「その粒子を観測・感知するシステムの構築を急いで。インベーダーの親戚みたいな連中が地球に潜り込んだって事だから。」
「了解しました。」
地球人類が宇宙に出て初の人類同士の大規模戦争と共に、太陽系は新たなステージへと進もうとしていた。
「ゾンダーとか……木星のアレ刺激するとかマジ勘弁。」
トレミィのうめき声は誰にも聞かれず宙に消えた。