多重クロス作品世界で人外転生者が四苦八苦する話   作:VISP

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第18話 嵐の前の静けさ

 新西暦179年12月、宇宙に上がり始めた地球連邦宇宙軍艦隊は、しかし何処にも敵の姿を見つける事が叶わなかった。

 

 小規模かつ突発的なハラスメント攻撃を除いて、連邦艦隊は一切の戦闘行動を取る事がなかったのだ。

 ハラスメント攻撃の内容もロケットブースターを積んだデブリ(小惑星やコロニー・艦艇の残骸)がセンサーの反応にあった場所へと突撃してくるトラップや対艦ビーム砲による索敵範囲外からの狙撃のみで、本当に全く、一切の戦闘が無かったのだ。

 辛うじて本国やア・バオア・クー方面へと移動する敵小艦隊を発見する事はあったが、ジオンが全速で逃げに徹するために本格的な交戦を行う前に離脱されていた。

 これにより、地上から宇宙へと上がった兵達からは「ジオンはもう戦う力が残っていない」、「ジオンに最早兵無し!」、「この戦争、我々の勝利だ!」等の意見が増え、もう勝ったつもりでいた。

 

 「そんな訳がないだろうが!」

 

 これに対し、レビルを始め艦隊司令部は頭を抱えた。

 

 「し、しかし閣下。こうもジオンが徹底して戦闘を避けるとなると、現場の兵の緩みも仕方ないかと…。」

 「問題なのは我々幕僚の間にすら楽観論が広がっている事だよ。全く、開戦初頭で優秀な人材の多くを無くしたのがここに来て響くか…。」

 

 心当たりのある将兵がそっとレビルから視線を逸らしたのを視界の端で確認しつつ、レビルはため息をついた。

 碌な戦闘を行っていない。

 それはつまり、消耗する筈だった戦力を完全に温存する事に成功しているという事だった。

 確かに物量は人員・艦艇・艦載機・物資全てで上回り、MSも日進月歩の勢いで進化している。

 だが、それはジオンにも言える事だ。

 例え国力差が30:1であったとしても、油断慢心の大国が乾坤一擲の覚悟で最後の戦いに挑む小国に負ける事など、歴史上には掃いて捨てる程にあるのだ。

 

 「ジオンは必ずや万全の態勢で待ち受けているだろうな。」

 「恐らく、ソロモンもグラナダも最初から捨て石にしているでしょう。」

 「とは言え、占領しない訳にも行きません。艦隊を派遣し、降伏を促した上でどう対応するかを決めませんと。」

 「うむ。捨て石とはいえ石は石。取れるならば取っておこう。」

 

 現在の地球連邦宇宙軍の13の艦隊の内訳だが、地球圏で戦闘可能な状態にあるのは各サイドごとに配置された7つの艦隊に地球防衛用の3つ、そして木星から到着したものが1つとなる。

 この内、サイド3にいた艦隊は壊滅済みであり、残存艦は他の艦隊に分散して編成されているので、実際は10個艦隊が動かせるのだが、地球連邦軍としては連邦市民を、コロニーを守らなければならない。

 そのため、サイド3と近場のサイド5を除いた各サイドへと艦隊を派遣し、もしもの場合を考慮して守らなければならない。

 残り5つのサイドの内、サイド7は最もサイド3から遠いので考えないとして、残り4つのサイドは2つずつ同じラグランジュポイントなので、二個艦隊を防衛に派遣せねばならない。

 なお、火星駐留艦隊はジオンが火星へと逃亡を企てる可能性があるので動かせない。

 なので、実質的に自由に動かせる艦隊は8個となる。

 第1と第3が再建したばかりだがMS戦力が豊富でレビルの指揮下にあり、他はMS戦力こそ少ないものの、対空火器の増設や目視見張り員の設置、レーダー・センサー系の強化に艦外にMSを固定できる設備を設ける等の改修を行った改サラミス級が主力となっている。

 そして、木星から来た艦隊はエンジン回りがその任務地の都合上大型化・大出力化して木星の重力圏内でも活動可能となっている。

 木星から急ぎで来るためのエーテルエンジンは現在切り離してはいるが、航行中に突貫で対空火器を増やし、出力の関係から一隻当たりのビーム砲の火力も高くなっており、艦隊砲撃戦においては十分活躍できるだろう。

 なお、艦載機に関してはコロンブス級を改装した空母へと専任しており、こちらの艦載機は全てクラウドブレイカーで統一され、修理・補給用資材にオプションを含めて一隻につき30機の運用が可能となっている。

 

 「ではジオンの策を利用させてもらう。取れる所は全て取り、間も無くこの戦争が終わるという事を知らせよう。」

 

 ジオンを倒すには、ジオン本国たるサイド3、サイド3に最も近い月面都市グラナダ、そしてサイド3本国を守るソロモンとア・バオア・クー、これらを占領しなければならない。

 しかし、この内ソロモンとグラナダは空である事が予想されている。

 それでも見せ札として艦隊を派遣せねばならない。

 この内、ソロモンは民間人がいないが予備兵力として一個、グラナダはその規模から大して数はいないだろうが、ジオン本国とも近いので本国侵攻の可能性もあって一個と、これで使える艦隊は6個艦隊にまで減ってしまった。

 どう見ても戦力分散の愚だが、彼らは地球連邦軍の軍人である。

 故に上から命じられればやるしかないのだ。

 

 

 ……………

 

 

 「とまぁ、そんな事になっているだろうな。」

 

 サイド3本国にて、ギレンはあっさりと連邦軍艦隊の今後の予想を宣った。

 

 「それを私に告げるのは嫌がらせですか、兄上?」

 

 その目の前には実の妹たるキシリアの姿があった。

 先立っての重力戦線での事実上の敗北で責任を取らされ、公職の一切を取り上げられた彼女は今はただ一人の人間だった。

 それでも身内として、目の前の長兄に剣呑な態度を取っても許される立場であるが。

 

 「しかし意外ですな。連中が戦力分散の愚を犯すとは…。」

 「何、要はシビリアンコントロールだよ。」

 

 地球圏はこの戦争によって大いに荒れた。

 地球連邦政府成立以降、最大の戦争が行われているのだから当然なのだが。

 各サイドのコロニーだけでなく、地球自体にも(想定未満だが)ダメージの及んだこの戦争の被害に、そろそろ本格的な復興をしたいと民衆が、民衆に選ばれた政治家が望んでいるのだ。

 戦争の終わりが近い、実質的には詰め将棋に近い状況なのだから尚の事。 

 

 「民主政治故に、それは悪い事ではない。しかし、今現在の状況を考えたら悪手としか言いようがない。」

 「流石の慧眼ですな。で、本題は何ですか?」

 

 キシリア自身を父に隠れて処分するために来た訳ではないのは分かる。

 自らの手で殺す事にギレンは何の感慨もないし、殺すなら事故に見せかけるか連邦に殺させるだろう。

 それをしないのは一体どんな理由からなのか、キシリアは興味を抱いた。

 

 「キシリア、お前に本国防衛隊の指揮を任す。お前の自由裁量で連邦に降伏しろ。」

 「は?」

 

 キシリアにしては間抜けな声だったが、それだけ大きな驚きだったのだ。

 自信家で、冷酷で、傲慢。

 しかし、それら全てを飲み込ませるだけの能力を持ったギレンという長兄を、ある意味で信頼していたキシリアにとって、その言葉がどれ程の驚きだったか筆舌に尽くしがたい。

 

 「必要な書類と形式は整えた。あぁ、コロニーレーザーに関しては私が握るがな。後はお前が承諾すれば良い。」

 「ちょっっっっっっっと待ってくださいませんかね兄上???」

 

 謀略家で鳴らしたキシリアも、余りの事態にキャラ崩壊をしながら待ったをかけた。

 だってこの長兄、昔から頭良すぎて話がいきなり吹っ飛ぶんだもん。

 

 「兄上が既に勝機は無いと判断しているのは分かりました。しかし、それならそれで如何様にも成さりようがある筈です。何故ここで私に任せるのですか?」

 「余命幾ばくもない父上と若いガルマに今後を任せるには不安がある。ドズルはあぁだし、私は聊かやり過ぎている。お前しかいないというだけだ。」

 

 きっぱりとした長兄の物言い。

 しかし、ここでキシリアは違和感を感じた。

 本当に何となくとしか言いようのない、僅かな異物感。

 それは他人なら先程の衝撃で見逃してしまうだろうが、身内故にこのどっきり(心臓停止級)に慣れていたキシリアはある程度だが耐性があった。

 

 「兄上…今更ですが私に全てを明かしてはいませんね?」

 「あぁ。」

 

 短く無駄のない返答に、キシリアは思案する。

 キシリアの知るギレンとは、自信家で、冷酷で、傲慢だ。

 しかし、それら全てを飲み込ませるだけの能力を持っている。

 そんな人物が、敗戦等受け入れるだろうか?

 否、そもそもそんな状況に追い込まれる事こそが有り得ない。

 彼が最初からその気なら、この戦争はとっくに勝っている。

 そも、負け戦だと分かっていたら始める事すらしなかったろう。

 では、どうして後始末なんて自分に頼み込んでくる?

 

 (ではなんだ?何を見逃している?)

 

 この兄の頭脳なら、この状況すら十分予測できていただろう。

 なのに、何故負けると分かっているのに戦争を始めたのか?

 

 (いや、もしかしたら、前提条件が違っている?)

 

 こちらを楽し気に眺めるギレンに目を向ける。

 動揺した様子は無いし、詰みに近い状況であるのにそれを苦々しく思っている様子すらない。

 寧ろ、この状況を喜んで…

 そこまで考えて、漸くキシリアは気付いた。

 

 「ま、さか…。」

 「漸く気付いたか。」

 

 まるで出来の悪い生徒を相手にする様に、ギレンはやれやれと息を吐いた。

 

 「何故、いえ、何が目的なのですか?」

 

 知らず、キシリアは嫌な汗をかいていた。

 宇宙移民独立でも、理想国家建設でも、地球連邦への怨恨でもない。

 このジオン公国すら、サイド3すら生贄に捧げてでも果たすべき、ギレンの真の狙いとは何なのか?

 それを知るのが恐ろしくもあるが、この孤独な長兄の内心を知りたいとも思った。

 

 「知れば後戻りは出来んぞ。」

 「構いません。私も汚れた身です。」

 

 ジオンのため、自分の権勢のため、多くの謀略を成してきた。

 であれば、今更一つ増えた所で揺るぎはしない。

 

 「決断の速さは長所だが、時に長考する事も大事だと教えた筈なのだがな。」

 

 昔と同じ、負けん気の強い妹を諭すと共に、ギレンは懐から出した記録ディスクを渡した。

 

 「これは…?」

 「既に同じものをシャアに渡した。見なくとも構わんが、見たくなったのなら私がア・バオア・クーに入ってからにしろ。」

 

 奴め、私に殺気混じりで問い質してきたぞ、とギレンは笑いながら告げる。

 なお、シャアはまだ真実を知らない。

 記録ディスクの中身を見るのは、戦争が終わってからだと命じられているからだ。

 まぁ、戦中に真実を知れば心折れる可能性が高いので、当然の措置なのだが。

 言うべき事を全て言ってから、ギレンはキシリアに背を向けた。

 

 「ではなキシリア。生き永らえた命だ、大事にしろよ。」

 「兄上も、どうかご健勝を。」

 

 動揺冷めやらぬ中、キシリアはそれだけを去っていく兄の背中へと贈った。

 それが今生の別れになるのだと漠然と知りながら。

 最盛期の父デギンを思わせる厳かなカリスマを纏うようになった兄の背中を見送るのだった。

 

 

 ……………

 

 

 時は新西暦179年、12月30日。

 地球連邦軍がソロモンとグラナダを占領後、デギン公王が休戦条約を結ぶべく連邦艦隊と合流するも、その直後に乗艦のグワジン級戦艦1番艦グレート・デギンにて火災発生、デギン公王が意識不明の重体となる(後にこれがギレン派の破壊工作であり、デギンには薬物が盛られた事が判明)。

 デギン公王の意識不明に伴い、ジオン本国との和平ラインが表向き途絶したため(裏向きでエルラン中将とマ・クベ大佐を通じてキシリアとラインを繋げたが)、レビル将軍はグラナダ上空で待機していた一個艦隊をジオン本国たるサイド3へと向かわせた。

 そしてレビル将軍は星1号作戦の発令を布告、他提督らと共に六個艦隊を率いてギレン率いる残存ジオン宇宙軍が犇めくア・バオア・クーへと歩を進めるのだった。

 そこに何が待ち受けているのかを知らずに。

 

 

 「ドズル、用意は出来ているな?」

 『応!こっちは何時でも行けるぞ!』

 「よし。もう一時間もすれば連邦艦隊からの攻撃が始まる。気張り過ぎるなよ。」

 『兄貴もな!頭良すぎて考え過ぎるのが兄貴の悪い癖だ!』

 「ふん、脳筋め。出撃前に操縦棹を折るなよ。」

 『がははは!大丈夫、特別性だからな、このグレートジオングは!』

 

 

 

 

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