多重クロス作品世界で人外転生者が四苦八苦する話   作:VISP

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第6話 祝福

 「あの時、私は確かに奇跡を見た。」

 

 

 後年、トニー・スタークは自伝でそう記した。

 それほどまでに彼が見た光景はその当時の常識ではありえないものだったから。

 

 

 ……………

 

 

 「く、フライデー!」

 『アーマー、緊急展開します。』

 

 女王の挑発とも取れる言葉に突如暴走を開始したハルクに対して、トニーが選んだ策は一つ。

 即ち、「無力化」である。

 だが、ここには追加のアーマーはない。

 今ある戦力だけでどうにかしなければならない、それも異星の要人を守りながら!

 ハルクバスターがあれば大分マシなのだが、今は最新型とは言えMk50しかないのが辛い。

 

 「止まれハルク!」

 

 咄嗟に女王とハルクの間に立ち塞がり、牽制に両掌からリパルサーレイを発射しようと手を構え…

 

 「退いてください。」

 

 女王の声と共に、至極あっさりとアイアンマンはそのボディを遥か上空へと移動させられた。

 

 「何が起きた!?」

 『極小範囲の空間操作と推測。』

 

 だが、以前潜ったスペースストーンによるワープゲートの類を通った感覚は無い。

 つまり、トニーではなく空間の方を操作して移動させたのだ。

 これが単なる超能力の類なら見えない手によって強引に動かされた様な感覚があるのだが、今回は無かった。

 また、重力制御と言っても落ちる方向を指定したり、特定方向に増減させればやはり自然と分かる。

 それらが一切ない、つまりは自分がいるこの空間を一切の違和感が感じられない程繊細に操作した事に他ならない。

 

 (成程、強いと言う訳だ。)

 

 逆にこれを広範囲で行う事が出来れば、ワープや圧縮・拡張も自由自在となれば、確かに強いと言って何ら不思議ではない。

 加えて、先ず間違いなく奥の手は別に多数存在するとなればサノスですら交戦を避けたのも不思議ではない。

 

 『ハルク氏、交戦開始。』

 「うわお。」

 

 ハルクの突撃に遅れ、隕石の落下の様な衝突音が響き渡る。

 しかし、それだけ。

 ハルクは何度も拳を振るい、しゃにむに突撃を敢行するが、それだけ。

 ハルクの足元だけは見る影もない程に荒れ果てるが、周囲の草原は揺らぐ事なく平和な草原のまま存在している。

 あのハルクが全くの無力だった。

 まるであのサノスの時の様に。

 

 「まるっきり子供扱いだな。」

 『対象の戦闘能力、解析不能。』

 

 やがて力尽きたのか、ハルクは大きく息を荒らげながらその場に立ち尽くしてしまう。

 

 「ばかにするな!たたかえ!」

 

 ハルクが咆哮し、再度攻撃を開始する。

 先程よりも更にパワーの増した攻撃は、しかし先程の焼き直しの様に何の痛痒にもなりはしない。

 

 「ごめんなさいね。私は貴方を馬鹿にした訳じゃないんです。」

 

 咆哮するハルクに対して、それでもなお穏やかにユニクロンは話しかける。

 

 「私の見える範囲にいる限り、貴方がどんなに暴れても大丈夫だと、そうお伝えしたかったんです。」

 

 今まで多くの建造物を、兵器を、地形を破壊してきたハルクの攻撃が、この星そのものであるユニクロンにはまるで歯が立たない。

 ハルクにとっては二度目の経験。

 しかもそれは一見して単なる華奢な女性によるもので、自分に敵対する者ですらない。

 まるで我儘を言って拳をぽかぽかぶつける子供と母親の様な、実態からすればいっそ滑稽な様子にすら見える。

 やがてその勢いは衰え、遂には止んだ。

 

 「ふぅっ…ふぅっ…!!」

 

 息を荒らげて立ち尽くすハルク。

 普段は怒りだけの彼が、今は呆然としていた。

 いや、その表情の中には驚愕と恐怖が宿っていた。

 嘗てサノスを恐れ、一時は呼び掛けられても表に出る事を拒絶していた頃。

 その頃と同じ状況になろうとしていた。

 

 「あぁ、ダメですよ。そのまま閉じ籠っちゃ。」

 

 だが、女王がそれを止める。

 そもそもこの騒動の原因はブルースとハルクの治療、その千載一遇の機会を逃すつもりはない。

 

 「う…うぅ……!」

 「大丈夫、私は貴方を傷つけません。」

 

 後ずさるハルクに対して、ユニクロンは微笑んだまま一歩一歩ゆっくりと近づいていく。

 決して怖がらせないように、傷つけないように。

 

 「ほら、怖くない。」

 「っ、があああ!!」

 

 しかし、あと一歩という所で恐怖に耐え兼ねたハルクが再び拳を振るってしまう。

 そして、その一撃はユニクロンに届いた。

 

 「っ!?!」

 「な!?」

 

 ハルクとトニー双方が驚く。

 先程まで一切の損傷を負う事無くハルクの暴威を防ぎ切っていたユニクロンへの突然の惨劇。

 トニーの神経と胃壁と毛根が今後の展開を予想して悲鳴を上げた。

 

 「大丈夫。」

 「う、ぁ…。」

 

 だが、ユニクロンは動じない。

 その右腕を吹き飛ばされ、インナーの中の人類に酷似した肢体を晒しながら、それでもなお驚きと混乱で膝をついていたハルクの頭を残った左腕でその懐へと抱きしめたのだ。

 

 「大丈夫。何も怖い事なんて無いからね。」

 

 それは、ハルクが生まれて初めて感じ取るものだった。

 それは抱擁で、人間なら家族や友人、恋人に人生の中で一度は経験するものだった。

 しかし、普通の生まれではない、そもそも人格として認められてすらいなかったハルクにとっては、生まれて初めての経験だった。

 誰かに一個の人格として認められ、その暴威に晒されながら恐怖されず、そして慈しみの対象に入れてもらう。

 そんな事は、ハルクにとって一度もない、本当に初めての事だった。

 バナーにとっては嘗てあったが無くしたもので、ハルクにとっては自分が原因で決して得られないもの。

 知らず知らず、二人が心の底から欲して止まないものが、今漸く与えられたのだ。

 

 「私は貴方を傷付けないし、怖がらない。」

 「うん…」

 「私は貴方が暴れても死なないし、壊れてもすぐ治る。」

 「うん…」

 「だから、いっぱい甘えて大丈夫ですよ。」

 「うん…」

 

 そこからはもう止まらなかった。

 ハルクは生まれて初めて破壊衝動や闘争本能、恐怖に因らない理由で大きな声を発した。

 彼は漸く、この世界に生まれてきた事を祝福され、滂沱の涙を流したのだ。 

 

 「うん、うん、沢山泣いて良いんですよ。地球の人達は皆、泣いて生まれるんですから。」

 

 あのハルクを、ただの赤子として扱うユニクロンはただ静かにその頭を抱き締め、声をかけ続けた。

 

 「改めて初めまして。私の名前はユニクロン。永劫に宇宙を漂う知識の収集者、そして全てのTF達の母です。貴方の名前はなんて言うのですか?」

 

 「は、ハルク…」

 「えぇ、初めましてハルク。これからよろしくお願いしますね。」

 「う、ぐ、うぅぅぅぅぅぅ……ああああああああああああああああ!!」

 

 そしてハルクはまた大声を出して泣き始めた。

 それこそ、本当の赤ん坊のように。

 

 「…hello,World.」

 

 それをただ一人始まりから終わりまで見届ける事となったトニーは、その生誕を祝福する言葉を贈るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なお、中枢への門には近衛部隊が完全武装で集結を完了していたりする。

 




なお、近衛部隊は最後の騎士王で封印から目覚めた古代TFの騎士の皆さん+αです。
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