多重クロス作品世界で人外転生者が四苦八苦する話 作:VISP
新西暦185年 6月
「今までお疲れ様、武蔵。」
「いえ、トレミィ様、その名は…」
「あぁ、そうだったね。」
花嫁姿の腹心の、否、腹心だった一人の元自動人形に、トレミィは告げるべき事を告げた。
「武蔵型高級自動人形4号機、正式に君の任を解く。」
そして、生体式ボディへと意識を写した沢山の娘の一人を笑顔で祝福した。
「おめでとう、兼定。君が一人の人間として幸せになる事を祈ってるよ。」
「ありがとうございます、プトレマイオス様。」
鋼鉄の女とすら言われた4代目武蔵。
またも彼女は自らを好いてくれる人と出会い、その名と役割を捨てて、トレミィの元を巣立つのだった。
こうして見送るのも最早何度目だったか忘れる程に、トレミィは繰り返していた。
「さようなら、兼定。きっともう私と会う事は無いだろうけど、その幸せを遠くから見守っているよ。」
「はい。今までありがとうございましたお母様。どうかお元気で。」
既に彼女の跡目は5代目武蔵が就任し、既にして引継ぎを完了、業務に精励している。
外見上はちょっと若くて堅苦しさの抜けていない、物言いが先代よりもズバズバしていて髪型の変わった武蔵であるが、歴代武蔵は皆最初はそんな感じなので、事情を知っている社員らは何も言わない。
「宜しかったのですか?」
「いつもの事だよ。」
歓声の響く式場から離れた場所で、トレミィは問うてくるSfにいつも通りそう返した。
機密の関係上、A.I.M.の外に嫁いでいった元自動人形には接触できない。
否、してはいけない。
それだけA.I.M.は近現代史の裏の深い所で蠢き続けてきたのだ。
下手に裏向き含めた交流を続けてはどんな厄介事が寄って来るか分かったものではない。
まぁ、密かに護衛は配置しているのだが。
「じゃあね、兼定。」
部下のセンサーアイ越しに見る新郎と新婦の姿は、それはもう美しく、幸せそうだった。
……………
新西暦185年
太陽系があのA.I.M.の元敏腕女社長とアズラエル財閥総帥の恋愛結婚に湧き上がっていた頃、密かに動く者達もいた。
『漸く工作が実りそうですな。』
『全く、レビルの奴には困ったものだよ。』
『一年戦争時はあれだけ支援してやったというのに…。』
悪巧みするにはお約束とも言える「モニターだけが光る暗室」において、老人達が口々に愚痴を溢した。
「何、それもこれも地球を守るためのもの。異星人の脅威から身を守るための投資と考えれば安いものですよ。」
そんな老人達に自信満々で言い切るのはロード・ジブリール、アズラエルとブルーコスモスの主要スポンサーを二分する出資者であり、同じくロゴスの若手メンバーである。
そのためか、アズラエルには対抗意識剥き出しで接しているのだが、能力と忍耐力双方で劣るため、素気無くあしらわれているのが現状だ。
なお、その名前は敬称ではなく本名であり、苗字は仕方ないにしても親のネーミングセンスと正気を疑うレベルのイタイ名前である。
「いい加減、棄民共と人形女共にデカい顔をされるのは我慢がなりませんでした。ここいらで主導権を我らの手に取り戻そうじゃありませんか?」
問いの形で発せられはしたものの、実質的にそれは断言だった。
今後、地球圏を牽引する役目はアズラエルでも地球連邦でもA.I.M.でもなく、己だという宣言。
その様子に老人達は内心を隠して取り敢えず追従する動きを見せていた。
『どうあれ、地球防衛並び治安維持用の精鋭部隊の設立は悪い話ではない。以前より意見はされておったようだしな。』
『うむ、ジャミトフ少将じゃな。』
『あやつは元々コリニー閥で財務部門担当じゃしな。こちらの意図も上手く汲んでくれるじゃろう。』
事実、ジャミトフは以前から地球防衛用の特務部隊の設立を要請していた。
しかし、設立する部隊の規模は地球上で素早く展開できる小艦隊程度に留まっており、決して制服やら予算やら兵器やらが連邦で現在配備中のものとは異なる完全に独立した部隊ではない。
寧ろ財務部門担当としてはそんな事をされては頭が痛い限りだろう。
(対テロを名目とした特別扱いや便宜については通らなかったのが不愉快だが…まぁ良い。これで大手を振って自由に動かせる手駒が増えた。)
ジブリールはこれを機に自身の邪魔をする政敵の排除を政治・軍事両方から推し進めていく事を考えていた。
(私のグループが開発した新兵器の数々。それにロームフェラ財団のスペシャルズとも既にパイプは出来ている。後少し、後少しで全てが手に入る…!)
目的さえ、邪魔者の排除と自身の更なる権益の獲得が達成できれば、こうして同士面している老人達も斬り捨ててやる。
そんな暗い感情を(本人なりに)隠しつつ、ジブリールは次の手を打つのだった。
「さて、早速ですがティターンズで採用予定の機動兵器に関してですが…」
……………
『やれやれ、これではピエロだよ。』
『ジブリール君もなぁ、決して無能ではないんじゃが…。』
「しょうがないですよ。彼、プライドがもの凄いですから。」
自身の会社のオフィスにて、アズラエルは溜息を吐いた。
『早い所戻ってきてくれ、とは言えんなぁ…。』
『何せこれから新婚旅行じゃしなぁ。』
『美人の姐さん女房、それも初恋の女性とはよく頑張ったものだ。』
「はっはっは、そりゃもう頑張りましたからね。」
嫉妬とか色々向けて来る疲労した老人達の愚痴を聞きながら、アズラエルは嬉しそうに笑った。
「で、首尾の方はどうなんです?」
『ジャミトフ少将は協力を約束してくれたよ。』
『ゴップ大将も設立に関しては黙認はしてくれるし、本命の外宇宙移民政策については既にレビル首相から話が通っておるそうだ。』
先程まで行っていた密談は、あっさりとアズラエルの元へと流れていた。
ジブリールを頼みに出来ないと判断したロゴスの老人達は、今後更なる発展が見込めるアズラエルの方へと既に旗を変えていたのだ。
つまり、ジブリールは既に完全に見捨てられ、捨て駒としての役割を課されていたのだ。
「となると、後は本当に戦力と人手が揃えれば実行ってレベルですか。」
移民船団を構成するだけの船はA.I.M.は既に用意済みであり、後は移民の募集を出してどれだけの人が乗って来るかだ。
少なくとも宇宙怪獣の艦隊の一つや二つ程度返り討ちに出来るだけの戦力は船団に付けられるが、移民船団となるとそれ以上に民間の業者や移民希望者がどれだけ乗ってくれるかが重要となる。
『安心せい。必ず人は集まる。』
『まだまだ地球には人が多過ぎる。穏便な手でそれを他所に移せるのならワシらも否応もない。』
「勿論、協力して頂けた分以上には稼がせてあげますので、その辺はご安心ください。」
ブルーコスモス過激派を始めとした、「行き過ぎた地球人類至上主義者」達。
ジブリールを始めとした一部の者はそうした連中を纏めて処分するための旗頭にされたのだ。
これにはロームフェラ財団の貴族主義者もかなりの割合含まれており、どれだけ彼らが周囲から嫌われているのかがよく理解できる話だった。
「別に地球至上主義は悪じゃないんですよ。主義主張が強いのも。」
『問題なのは拗らせた挙句、周囲にそれを強制させて、断る者は敵とする所だよ。』
『まるっきり新手の宗教団体じゃな。』
別に地球至上主義はそう特別な事ではない。
太陽系の開拓が進むにつれ、地球の相対的価値が減っていく中、それでも地球人類としてのアイデンティティーから地球を重視する気持ちは分かる。
異星人の存在が明らかとなり、地球人類としてのナショナリズムが勃興し、そういった連中の声が世間からの耳目を集めやすい土壌が出来ているのもある。
しかし、己の主義主張と私利私欲のため、外宇宙には敵だらけという状況を理解せず、政敵を排除するために精鋭部隊を組織して運用するとかいい加減にしろと怒っているのだ。
「ま、これで目ぼしいアホは釣れるでしょう。」
『うむ。今後の事を考えれば、そういった連中は一か所に纏めて、状況が揃い次第掃除するのが一番だろう。』
『それまでの出費は…まぁ損切りと割り切っておくべきじゃな。』
こうして、アズラエルを筆頭としたロゴスのメンバーはA.I.M.との取引をしっかり実行したのだった。