多重クロス作品世界で人外転生者が四苦八苦する話   作:VISP

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感想板が予想通りの事になってるのを後目に最新話投稿!

一日二話投稿にならなかったのは流石に仕事ある日は無理だと悟ったからでした。


第20話 束の間その2

新西暦186年7月末 地球 極東方面 早乙女研究所

 

 

 「…………。」

 「賢ぢゃあああああああああああああああんんんんんっ!!!!!!」

 

 魔神覚醒事件から一週間、連邦政府の公式見解と今後の方針も決定・公開された後。

 異星人やら何やらが一時的に大人しくなった時、早乙女賢はここ10年で一番困っていた。

 と言うのも、この大婆様とか身内で密かに言われている見た目少女の200歳余裕でオーバーな巨大宇宙戦艦(元宇宙要塞)の管制統括AIの化身が突然現れたと思ったら身も蓋も無く泣き喚いて縋り付いてきていたからだ。

 

 「いい加減泣くのは止すんじゃ…。」

 「お婆ぢゃんっで言っでぐれないどやだぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 実年齢100歳オーバーであり、嫁が亡くなってからは研究に専念して手入れする事なくボーボーと伸びた白髭と白髪をげんなりとしな垂れさせつつ、早乙女賢はガチで困っていた。

 しかもこの「年齢考えろよ」歳の見た目少女のお婆ちゃん、見た目だけは若い所か幼くて美人なため、事情を知らない人間が目撃してしまうとエライ事になるのだ。

 更に古参の自動人形らと共に自分の事を幾つになっても「賢ちゃん」呼びなため、威厳も何もかも蹴散らされ、数カ月は研究所職員らの恰好の話題となってしまうのも困りものだった。

 

 (いい加減、この歳でちゃん付けはキツイんじゃがのぅ…。)

 

 自分の事を妖怪呼ばわりする若造共に、本物の妖怪はここにいるぞと教えてやりたい。

 それ位には自分が物心付いた頃と現在まで、この見た目幼女のお婆ちゃんは変わっていない。

 まぁ人間じゃないのだから当然なのだが。

 

 「で、今回は何なんじゃ?」

 「私の娘達が一億人以上殺されちゃった…。」

 

 脂肪の付いた下腹部に縋り付いて未だぐすぐすとすすり泣くトレミィの頭を撫でながら、早乙女賢ちゃんはあぁ、と納得した。

 マジンガーZに搭載された人工知能、通称マジンガーZEROが暴走し、太陽系防衛用無人機動部隊の最終防衛ラインを担う地球直掩部隊が壊滅したのはつい先週の事だった。

 

 「対策はしておったのだろう?」

 「うん……でも、油断してた。足りなかったの。」

 

 ぽつぽつと小声で告げられる内容に、賢ちゃんは「いや、そりゃ仕方ないじゃろ」と素で思った。

 本当に7つの魔神パワーとそれを自在に操って暴れ回る超物騒なAIが搭載されているかを確認し次第、十蔵博士の記憶操作すら視野に入れてその機能を削除すべく、トレミィは旗下のナノマシン式自動人形らを十蔵博士の監視に当てていた。

 しかし、気付けばその辺りの思考ログがさっぱりと消去、或いは接続不能になっていた。

 つまり、人間で言う所の忘却状態になっていたのだ。

 余りにも不自然だが、これこそが因果律兵器の成せる業だった。

 総旗艦たるトレミィですらそうなのだから、旗下の他の自動人形らは更にはっきりと「その様な命令は受託しておりません」と解答した個体すらいたのだ。

 マジンガーZEROの因果律兵器の影響を脱した現在、トレミィらは侵略者らの動きが停止した事を好機として思考・行動ログの総点検を行い、そこまで行って漸く事態の全容を把握したのだ。

 

 「気付いた時にはもう遅かった。因果律兵器…舐めてた訳じゃないけど、あんなの反則過ぎ…。」

 「じゃろうの。今聞いたのだけでもどうしようもあるまい。」

 

 マジンガーZEROは自身を産まれて直ぐ、或いは完全に産まれる前に抹消せしめんとする脅威をその平行世界すら知覚する第四の魔人パワー「高次予測」によって察知していたのだ。

 であれば後は簡単、因果律兵器の力によって「脅威となる者達がZEROの事を一時的に認識できなくなる」因果を持って来れば良い。

 それだけでトレミィらの監視と警戒は無効化されてしまった。

 しかし、事前に構築されていたコードREDパターンZの戦略までは消されておらず、しっかりと機能してくれた。

 数にして優に1億以上、時間にして5年もの軍備と引き換えにして太陽系は、この銀河は滅びを回避する事に成功した。

 とは言え、一時的なものに過ぎないが。

 

 「あの子達の稼いでくれた時間、絶対無駄にしない…。」

 「今日はもう寝るのじゃ…。」

 

 頭を撫で、休む様に言い聞かせる。

 このお婆ちゃんにとっては人間の睡眠なんて意味は無いだろうが、小さい頃は他の自動人形らと交代で自分と一緒に横になって寝かしつけてくれたものだった。

 

 「うぅぅぅ……賢ぢゃんんんん…。」

 「一度落ち着けぃ。その上で、また頑張るのじゃ…。」

 

 一緒に部屋に備え付けのベッドに横になり、すっかり逆転してしまった体格差を活かしてトレミィの矮躯を包む様に抱き締めながら、賢ちゃんは眠りに就いた。

 そして、うっかり熟睡したせいで、トンデモナイ事になった。

 

 「そ、そんな…。」

 「ひいお爺ちゃんがまさか、そんな…。」

 

 翌日、珍しく起きて来ない賢ちゃんの様子を見に来た達人とミチルが見たものは、正に事案としか言いようがない光景だった。

 尊敬する曾祖父が腕の中に銀髪の幼女を抱き締めた状態で熟睡していたのである。

 しかも幼女の方は酷く泣いたと分かる程度には顔に涙の痕と目元の赤い腫れが残っており、それでいてその両手は縋る様に賢ちゃんの服を握り締めている。

 日々の研究による睡眠不足とナノマシン製幼女ボディのちょっと高めの体温が織り成す快適な睡眠が、この時ばかりは仇となってしまったのだった。

 この日から暫くの間、早乙女研究所内では若手の職員らを中心に「早乙女博士には幼女の愛人がいる」と言う噂で持ち切りになるのだった。

 なお、ベテラン職員らはとっくに真相を知っているので、毎度の恒例行事であるとして困っている早乙女博士と距離を置く曾孫二人の様子を笑いながら見守るだけだった。

 

 

 ……………

 

 

 「ただいまー。」

 「お帰りなさいませ。」

 

 そして賢ちゃんに丸々一晩癒されてきたトレミィは目覚めると別れの挨拶もそこそこに、来た時とは真逆にあっさりと帰還した。

 なお、若手職員らへの事情説明なんて端から無視である。

 

 「で、本当にマジンカイザーを太陽に投棄するのですか?」

 「んな訳ないじゃん。ブラフだよブラフ。」

 

 そして、あっさりとネタバレをした。

 現状、太陽系に存在するあらゆる勢力がマジンガーの情報を得ようと血眼になっている。

 そのため、厳重に守られた地球上ではなく、太陽系の最も内側ながらも特に戦力の配置されていない太陽とその近傍宙域であればチャンスはあると、きっとあらゆる勢力が一も二も無く押し寄せて来るだろう。

 とは言え、正面から行くには太陽系防衛ラインを全て突破する必要があるが、かなり損耗しているとは言えおいそれと破れるものではない。

 

 「故に、取れる戦術は精鋭部隊によるワープを用いた一撃離脱と接舷強襲。」

 「どの勢力もそれ狙いかと。」

 「それっぽくでっち上げたダミー(屑石なジャパニウム鉱石やマジンガーの壊れた部品が材料)に縮退炉を乗っけて、後は暴走させてしまえば…。」

 「低コストで敵精鋭を一網打尽ですか。どれだけ引っ掛かるのか見ものですね。相変わらず敵には容赦のない様で安心しました。」

 「一体何年稼働してると思ってるのさ?これ位の事で敵味方識別にバグなんか起こしたりしないよ。」

 

 こうして、完全に復調したトレミィ達により、偽マジンカイザーの太陽投棄作戦がスタートするのだった。

 

 「所で、本物のマジンカイザーは何処に?」

 「光子力研究所地下から動かしてないよ。ミネルバXの搭載してる試作型の因果律流入阻害力場発生装置を使用しながら、一度完全にバラシてAI回りを念入りに調べてから本格的に対ZERO用マジンガーとして開発していく予定。」

 「それは十蔵博士は…。」

 「ダミーが出発するまでは内緒ー。」

 

 あくまで十蔵には塩スタイルなトレミィだった。

 

 

 ……………

 

 

 しかし、これは地球外の侵略者からは効果覿面だったが、地球内部に潜み、トレミィらの索敵・警戒網すら潜り抜ける正真正銘の化け物集団相手には余りに隙だらけと言う他なかった。

 

 「ふむ、やはり囮でしたか。」

 

 BF団が十傑集にして軍師、諸葛孔明にはこの程度の策、丸っとお見通しだった。

 

 「では仕掛けるのか?」

 「いえ、今はまだ期ではありません。それにデータさえ頂ければ時間はかかりますがより完全な物に出来ます。」

 「ふん、誰かに火中の栗を拾わせるのか?」

 「えぇえぇ、是非とも拾って頂きたい方々がおりまして…。」

 

 にこりと口元だけ微笑んで、相変わらずの油断ならなさで孔明は次の策を十傑集へと説明するのだった。

 

 

 ……………

 

 

 魔法や超能力、霊能力なんかに耐性の低いトレミィらにとって、霊体だけとなってあちらこちらに分身・分霊を派遣可能なバラオはある意味で天敵だった。

 無論、正面からの戦闘ならどうとでもなるのだが、センサーやレーダー、カメラに映らないものには滅法弱いのが彼女らだった。

 

 『ふん、人形共めが小癪な真似を。』

 「如何いたしましょうか?」

 『そちらは放っておけ。先ずはライディーン、そしてムートロンだ。』

 「は、畏まりました。」

 

 バラオは思考していた。

 このままでは嘗ての先史時代が如く、何も得られぬままにドローとなる可能性が高いのではないか、と。

 

 (大いにあり得るな。)

 

 あの人形共。

 あれらのせいで随分と人類が強化され、妖魔帝国と言えど軍と軍の戦いとしては圧倒的に不利な状況だった。

 

 (まぁ良い。今はまだこの器でやれるだけやらねばな。)

 

 バラオとは、自らを妖魔へと変じる程の悪意や敵意、憎悪や欲望を抱いた者の成れの果てであり、元は人間である。

 ワーバラオと言う負の無限力の端末の一つから芽を植え付けられ、周囲の恐怖や憎悪、怒りや絶望、悲嘆といった負の感情を糧として育ち、遂にはバラオに成る。

 こうなったバラオは物理的な攻撃が殆ど無効化され、超能力や霊能力、魔法等での攻撃やそれらで構築された兵器による攻撃しか有効打を与えられない。

 それにしても余程の高出力でない限りは焼石に水となる。

 そんな成り立ちの生命体だからこそ、バラオは戦況が中盤戦に入った事を確信していた。

 

 (大凡の勢力の情報は出揃った。後はここから如何に敵を減らしていくかだが…。)

 

 バラオもまた、次の最善手を考えて思考を深めていった。

 

 

 ……………

 

 

 一方、その頃の科学要塞研究所ではある問題が噴出し、責任者である兜剣造と弓絃之助は頭を悩ませていた。

 

 「で、まだ甲児は出て来ないのか?」

 「残念ですが…。」

 

 兜甲児。

 救出後、意識が戻るまで徹底的に検査を繰り返された結果、甲児は多少の消耗があるものの、健康的な男子であるとA.I.M.医療部門からのお墨付きを貰う事が出来、無事に退院した。

 しかし、未だにその心の傷は完全に治ってはいなかった。

 

 「事情は説明したのだろう?」

 「はい。それでも『お爺ちゃんのマジンガーZを悪魔にしちまったのはオレが弱かったからだ』って言って…。」

 「室内で出来るトレーニングを一人で限界まで、か…。」

 

 念のため設置された監視カメラには、甲児の部屋内での生活が映し出されている。

 食事と睡眠、排泄を除けば、徹底的に己の身体を苛め抜き、動けなくなれば這いずって軍事や科学の専門書籍を読み漁り、限界に達すると気絶するように眠る。

 ここ暫くの間、甲児はそんな日々を繰り返していた。

 

 「こうなれば止むを得ません。」

 「よ、よろしいのですか弓教授?」

 「はい。さやかは寧ろバッチ来いと言った様子ですので…。」

 「あー止めても自分から行きますか?」

 「育て方を間違えたのか正しかったのか…決断力は人一倍になりました。」

 

 男がこうまで追い込まれてしまったのなら、解決策は随分少ない。

 一つは時間を掛けて問題を解決し、ゆっくり心を癒していく方法。

 二つ目は取り敢えず酒や女の力を借りて、態と泣かせたり、怒らせたりしてストレスを発散させ、心機一転させる方法。

 三つ目はその問題に関する事全部を忘れさせちゃうという、医学的難易度は高いが、それでいて一番意味のない方法である。

 

 「さやか、聞こえているかい?甲児君に関してだが、今許可を貰った。監視カメラやマイクは電源を切っておくから、後はお前の好きにしなさい。」

 『はい、ありがとうございますお父さん!』

 「でも避妊だけはしっかり行ってくれ。君達はまだ若過ぎる。事前に薬を服用しておいた方が良いぞ。」

 『もう飲みました!では行って参ります!』

 「あぁ、うん……気を付けて行くんだよ。」

 『はい!』

 

 こうして、洸の婚約者となったマリの助言を元に準備をしたさやか(勝負下着等完備)は意気揚々と甲児の部屋の合鍵を片手に突撃するのだった。

 

 「複雑ですな、これが花嫁の父という奴でしょうか…。」

 「そういった繊細なものとは違うと思いますよ、これは…。」

 

 その後、甲児とさやかは順調に清い身体を捨て、立ち直った。 

 二人の関係は父親達からの勧めもあって正式に婚約者となり、以降二人はオシドリカップルの一角として過ごしていく事となる。

 なお、これをどっから聞き付けたのか、兜十蔵博士がお赤飯を山と持ち込んで「祝いじゃ祝いじゃ!」と騒ぎまくった。

 これには弟子と息子の二人組すら流石に激怒し、十蔵博士をとっ捕まえた後に護衛の自動人形らに速やかに引き渡したという。

 

 


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