「そう言えば、生徒会って結局どんなことをするんですか?」
ミーティング二日目。生徒会を便利扱いするための出馬とは言え、具体的なことを知らないのであれば言葉に重みが出ないと思った俺は先輩たちに質問してみた。
「ハンコ作業とは言っていましたけど、購買のプリンをぷっちんプリンにすることぐらいはできるんですよね?」
そうですね、と大きいリボンのせいでツインテールと眼鏡と言う知的なアイコンを全滅させている奈々先輩が答えてくれる。
「基本的な活動としては学園、生徒のためになると思ったことを話し合い、先生たちに発案することができます。でも、あまり大きく派手なことはできませんし、結局例年と同じようなことばかりになったりしちゃいますね……」
「ハンコ作業とはそう言うことだよ。例えば、挨拶週間をやろうとするだろ?奇をてらってペッパー君でも置こうなんて職員室に持って行ったって予算の都合でダメだと返される。仕方がないから、結局いつもの、新入生の君たちでも想像できる普遍的な挨拶週間を行うことになる」
何も面白いことなんてないだろ、とレア先輩が言う。
白河・明日翔麗亜(あすとれいあ)。一年生時に二期連続生徒会長を務めた、黄金の絹を思わせる髪に、日本人離れした長身のスタイル、均整の取れた顔と、何よりもそれら全てが飾りと霞ませる自信に満ちた態度。ルックスと態度、どれをとっても彼女には勿体なさが無い。仰々しい名前も、重りになっていない。
「面白そうなものと言えば、生徒会には生徒会直属の組織を作る権利があるが。これもよっぽど職員室側に有効だと思わせない限り、使える権利ではないがね」
結局、俺たちが生徒会議席を欲する理由としては、部活動承認の決する際に生徒会委員及び学級委員によって行われる会議時に与えられる承認権のため。
「そう言えば、まこ後輩は学級委員になれた?」
「はい!」
塚端は名札につけられた学級委員を示す星型のバッジを見せる。
「先輩たちも?」
「ああ」「もちろんです!」と、見せてくれる名札には塚端と同じものが付いている。いや、でも、奈々先輩は胸張って近づけないでください。当たりそうで怖い。
「私たちよりも、さすが塚端さんです!噂は届いてますよ!学級委員投票で並み居る候補者たちをドミノのように薙ぎ倒し、一票も与えぬほどの満場一致の集中票!この学園始まって以来の快挙だそうです!」
「いや、まあ、運がよかっただけで……」
「実際、章後輩はどう見ている?」
「ええ、と」
俺は塚端のクラスでの立ち振る舞いを思い出す。とにかく皆に慕われている。その理由は彼女の性格もあるだろうが、加えて、
「塚端は、人のいいところを見つけてその気にさせるのが上手いんですよ。委員会とかあるじゃないですか。入っても部活動には入らなくちゃいけないやつ」
「あるね。入れば自動的に部活動との両立を強いられるから、どこのクラスでもやりたがる人はそうそういない」
やっぱりそうなのか。俺たちのクラスも同じだった。
「でも、塚端は適材を見つけていくんですよ。体育委員とか、体育の時とか前で体操しなくちゃいけないじゃないですか。皆、それが嫌でやりたがらないですけど、塚端は一人女子で体操が上手い人を見つけて、めちゃくちゃ褒めるんです」
しかも、ただ体操の上手さを見つけるだけじゃない。その人がなぜ上手いのかも当ててしまう。
「ダンスやっているからでしょって、その人が得意なことも当ててしまうんです。またそれをべた褒めして、ついにやる気にっと言った具合で」チラシの隠された文字を沢辺が見つけたときも褒めまくっていたっけ。あとから聞けば、あの文字を見つけられるかどうかがシェア部入部の条件だとレア先輩は言っていたけど、見つけたの沢辺なんだよな……。あれからちょっと自信がついたみたいだし、クラスの連中と喋るのをよく見る。
「だから皆、相談事とかは塚端にするんです。自信がつくから。その結果だと思います」
「解説すんなし!私はそんなに考えてやってないから!」
顔を真っ赤にした塚端が二の腕を叩いてくる。
「なら天賦の才能と言うやつだよ。誇っていい」
「そうですよ塚端さん!女の子を言葉巧みにその気にさせてしまう才能!ぜひ今後に活かしましょう!ハーレムだって夢じゃありません!」
奈々先輩の言っていることには活かさないほうがいいと思う。
「わ、私は一途に思うタイプですから!色んな人に声かけたりしません!」
「じゃあ、その才能を目の前で味わえる人は幸せだね」
口には出さないけど、俺もレア先輩に同意だった。誰だって人は、人に認められることに喜びを感じてしまう。昨日、俺の武器をレア先輩に見つけてもらったとき。どうしたって熱くなった。一晩経った今でも鮮明に思い出せる。たぶん、一生忘れることができない。
その喜びを与えてくれる人と一緒にいれたら、人生はどれだけ幸福だろうか。
「そ、そんなことより、日下部の選挙のことです!どんなマニフェストや作戦で行くんですか?日下部はレア先輩より小さいですけど可愛くないしカッコよくないし顔も整ってないから先輩みたいな作戦はできませんよね?」
そこまで言うなよ。俺だって人の子だ。
「うん、やっぱりまこ後輩はその気にさせるのが上手いね。私は逆境に立たされるほどに燃えるタイプだ」
逆境で悪かったな。これから鏡見るときどんな顔をしよう。
「なに、心配することは無い。私が使った作戦が必要な段はもうクリアしているんだ。話たろ?知名度はもう獲得している。あとは、その知名度をどのように扱うかだ」
そう言うと、レア先輩に代わって奈々先輩がホワイトボードに何かを書いていく。
「実は昨日、レアちゃんと日下部君のプロデュース方法を考えてみました!」
プロデュース。なんだかくすぐったい言葉だ。
奈々先輩が書き記す、その作戦名は。
「名付けて、シークレットブーツ解禁作戦です!」
これまたデカデカと書かれた作戦名。その横に一枚の紙が貼られる。『低身長の救世主 日下部・章‼』とプリントされているので選挙ポスターやチラシのデザインだろう。イラストも載っている。そこに描かれているのは、恐らく俺と思われる人物が不自然なほど厚い靴を履いてビルよりも巨大になっている絵だった。
「これ、誰が描いたんですか?」
「私です!どうです?日下部君らしく小さい人が厚底ブーツを履いて大きくなった光景をイメージしてみました!」
イメージしてみました、と言うよりそのままだ。
いや、僕が大きくなっていると言うよりも建物を異様に小さく描いているだけで、イメージも何もない。遠近感の無い子どもの落書きみたいだ。これを配るの?知名度どころか失笑されるだけじゃない?
「あのー、私、こういうの得意そうな人知っているんで、頼んでみましょうか……?」「え?」
塚端が手を上げる。
「本当?それじゃあお願いするよ。得意な人に頼むのが一番いい」
あっさりレア先輩が承認する「ええ⁉」
「わかりました」
奈々先輩の驚愕を聞きつつも容赦なく承諾する塚端の顔はなんだか冷酷な女上司みたいな顔だった。「ええぇ⁉」
奈々先輩がホワイトボードからチラシの原案を取っては抱え込み、その場にうずくまる。
「こんなに可愛らしくかつ大スケールで壮大なのに……。日下部君らしさを表現できていると思ったのに……」
かなり思い入れがあったらしくなんだかいたたまれなくなる。拾った子猫を戻して来いと言われた子どもみたいだ。
「あのー、それ貰えませんか?」
なんだか申し訳ないので、とは言えなかった。
「も、貰ってくれるんですか⁉ありがとうございます!ありがとうございます!どうぞ、私だと思って毎晩枕元に置くか同じ布団で温めてください!そうしてくれたら私、幸せですから!」
奈々先輩の体温が残るチラシを受け取る。たった一枚の紙だが、なんだか今すぐにでも置きたくなる重さだった。これが、愛の重さと言うのだろうか。