次の日、立候補期間最終日。つまり、投票日であり、最後のアピールの場である全校生徒へ向けた演説スピーチを午後に行う日だ。
妙な視線を感じつつ塚端と教室へ入ると、クラス中がこちらに振り向いた。
生徒会庶務に立候補してから見られることは多くなったけど、今日向けられるそれらは、どちらかと言う居心地の悪いものだった。
「ねえ、」
と席が隣の女子が控えめに話かけてくる。
「まこちゃんと同棲しているってホント?」
「はあ?」
突拍子もない質問に上ずった声が出る。
塚端も別の人から同じ質問をされたのだろう、似たような声を出している。
「どういうことだよ、なんでそんな噂」
「ほら、この写真が出回ってて」
スマホの画面を見せてくれると、そこには俺と塚端が、塚端の自宅へと入っていく姿が写っている。
「これ、やっぱり日下部君とまこちゃんだよね?一緒に住んでるの?」
「そんなわけないだろ、俺は普通に家族と住んでるよ。塚端が、」
「まこちゃんが?」
「な、何でもない。ほら、今日、演説があるだろ。その練習を、家でやらせてもらっただけで……」
危なかった。塚端が一人で住んでいるから飯を食いに言っているとは言えないことに気づいて、踏みとどまれた。思い返せば、正直に言ったところでこの好奇の視線を消すことはできなかっただろうが、何よりも塚端が一人で住んでいることを俺から広めていい訳が無い。彼女は、クラスメイトに同情されぬため、自身が母親と死別していることを隠している。
「へー、けど何度も一緒に入っていくのを見たって人がいるらしいよ?」
「誰だよそれ」そんな気色の悪いことをしているやつがいるのか。
「そこまではわかんない。私も噂を聞いただけだし」
バツが悪くなったのか、その女子は俺から離れて、登校してきたクラスメイトの方へ駆け寄っていった。
「大丈夫?」
後ろの沢辺が心配して声をかけてくれる。
「大丈夫、ありがとう。チラシのためにも頑張らないと」
そうだ、動じるな。たかだか変な噂が広まっただけじゃないか。落ち着け。この学園に不純異性交遊禁止だなんて校則があるからって誰も恋愛していないわけじゃない。探せばいくらでも出てくる。だから、大丈夫。こんなことで、票は減らない。
これまで集めた注目もあってか予想以上に噂は広まっているようだった。授業中も背中を這いずる視線が付きまとうし、入ってくる先生によっては明らかに俺と塚端を交互に一瞥するときもあった。移動教室のために廊下を歩けば他のクラスや学年の生徒も俺を見つけては、クラスで感じている視線と同じものを向けてくる。
極めつけは歩鳥先生に呼び出されたことだ。こちらを気遣って放送で呼び出したりせず、場所も人気の無い階段の踊り場を使ってくれたが、俺たちがそんな関係が無いことを信じてもらうのにはなかなか苦労した。
「私も学生の恋愛については反対しないわ。ただ、上手くやりなさい。それだけは忠告しておく」
本当に信じてくれたのか怪しいが、少なくとも味方でいてくれるようで胸を撫で下ろす。なんなんだいったい。誰が、何が楽しくてこんな噂を流した。