仮面ライダージャオウ 作:否下
ジャガーマンシリーズで多用されるキャラクターの一人。ある投稿者が描いた、一見雑にも見える棒人間風イラストだが、使い方は多岐にわたり、秘められたポテンシャルの高さを感じさせる。さまざまなバリエーションが投稿されている。
この動画によれば、顔がでかくて、首が太くて、足が短くて、ちょっとずんぐりむっくりな感じ、するフレンズ・ジャガー。彼女には、魔豹にして時の王ジャ、ヒョーマジャオウとなる未来が待っていた。
パークの裏で暗躍する黒い影。仲間を守りたいと願ったジャガーは、仮面ライダージャオウの力を得ることを選び、怪物を倒す。そしてジャオウは「フレンズ」の力を奪い、魔豹への第一歩を踏み出し……あかん、先まで読みすぎましたやんか。
ジャガーの姿を見るなり、そのアニマルガールは襲い掛かってきた。
その装甲は、色こそ違えど、よく見ればジャガーが今身に着けているものと似ているかもしれない。腰にはジクウドライバーも装着されている。その左方には、彼女の髪と同じ黄褐色のウォッチ。
「行くわよ……ヒョーマジャオウ!」
紅の鎧から突き出した、鮮やかな黄色の爪が、続けざまにジャガーを斬る。何が起こっているのか全然わからん中、とっさにジャガーは左拳を相手の腹部に食らわせた。想定外の攻撃に、後ずさりする「まーげい」。先刻の戦いと同じ流れに持ち込もうと、ベルトに差されたジャオウウォッチの天面ボタンを押す。使い方はさっぱり理解できずにいたが、本能から来る直感が彼女を動かしている。
『フィニッシュタイム!』大きく跳び上がるジャガー。相手の周りには、桃色の「キック」の文字が傾斜し、標的を中心に円を描き始めた。
「くっ、させるかぁッ!」腕のホルダーから、水色のウォッチを取り外すアニマルガール。慣れた手つきで、片手で上蓋を回すと、ジクウドライバーの右側に差し込んだ。
『ハイゴッグ!』
両手で抱えるようにしてベルトを180゜回転させる。『アーマータイム!』発せられた音声とともに、赤くスレンダーなボディの横に現れたのは、ウォッチと同じ水色をした
兵器は分解・浮遊すると、次々に「まーげい」の各部に装着されていく。肩に、腕に、胸に、背に、足に、より強壮なアーマーが重なる。そして、彼女の背部に現れた「はいごっぐ」の5文字が前面を舞う「キック」を次々に弾き飛ばし、「まーげい」の4文字と入れ替わった。
一方、上空のジャガーはベルト上部のボタンを押すと、片手でベルトを回す。
『タイムブレーク!』円い陣形を乱されながらも、「キック」はひとつ、またひとつと重なり数を減らしてゆき、一つになった。1字ずつに離れ、一直線にキックする彼女の足裏の文字と融合する。
一瞬にして、ジャガーの一撃は「まーげい」のもとに突っ込んだ。
土煙に包まれる着弾地点。
が、煙晴れたその先に「まーげい」の姿はない。
その時。直上から電子音。顔を上げると、遥か上に薄青い装甲が微か見えた。背にはジェットパック。
『フィニッシュタイム!』『ハイゴッグ!』流れるように2つのボタンをプッシュし、その勢いでベルトを傾ける。
「――この時代のお前に恨みはない」ベルトが回る。
『ビームカノン・タイムバースト!』右手を掲げ、地上で狼狽するジャガーに掌を向ける。じわじわと光を帯びてゆく砲口に、ジャガーはジカンギレードをジュウモードに変化させて構え、幾発も放った。しかし、射程外。
「さらばだ、ヒョーマジャオウ!」
限界まで輝きの集束した掌から、慈悲の欠片さえ感じさせぬ力強い光線が撃ち出された。
その刹那、物陰から蒼いバケツが投げ込まれ、ジャガーを護った。
バケツはそのまま素早く自転したかと思うと、忽然とジャガーごと消え失せた。
抉られた大地に降り立ったアニマルガールは、ウォッチを取り外す。装甲が淡く輝きを帯びながら、粒子レベルで離散する。消滅した「はいごっぐ」の向こうに見えた、黒縁の眼鏡。
「……逃げたか」
マーゲイが静かに呟く。その様子を、茫然としたカワウソが木陰から見ていた。
恐怖。かつてヒトが戦士と崇めた肉食獣であるジャガーが、恐怖に慄いていた。
今でこそ川渡しという仕事をしているが、何かがあった時のために体は鍛えているし、元来の戦闘センスもそこそこある。だが、先の戦いでは、自分の持てる力が一切通用しなかった。ほんの数分前に手にした、強大すぎる力さえ。
身体の震えが未だ止まない中、目を開けると、そこにはナカヤマの姿があった。彼の笑顔を見ると、心なしか肉体の緊張もほぐれるような。気づけば変身も解除されている。
「――あぁ、君か。おにいさん、あの子は……?」
「心配はありません。かなり遠くまで来たはずやぞ、ほら」ナカヤマが振り向くと、ジャガーの眼前には見慣れたじゃんぐるの景色が広がっている。悠然と流れる大河、修繕された橋。その光景に、ジャガーは何ともいえない安心感を覚えるのだった。
むくりと身体を起き上がらせると、ナカヤマが何やら薄っぺらい四角を取り出している。表面を指でなぞっているようだ。しばらくすると、その四角から音楽が流れ始めた。TSUYOSHIのとは違った、勇壮な調べ。
「この動画によれば、君にはこの先、時の王ジャに即位するための覇道が待っている。しかしそれを阻もうとする者たちが君の前に立ちはだかる、とあります、やんか」
「えっ、トキの……? わからん」
「わかりやすく言うと、未来が変えられようとしている、ということです。そして我が魔王、そのウォッチを受け取ったその時から、この世界が辿る歴史は決まった」
戦いの後で疲れていたからか、ジャガーには何一つ理解できなかった。そんな様子もお構いなしに、話を続けるナカヤマ。
「正しい歴史が著されるよう、この私が尽力します。そのために、我が魔王には覚えておいてほしいものがありますやんか」
そう言うとナカヤマは平べったい四角をジャガーの前に向けた。26種の模様と、それとはどこか異なるように見える10種類の模様が映し出されている。
「さっき戦った怪物の身体に、これのうちのいくつかが書いてありました。例えばこの模様は……『オー』と読みます。この36個を覚えなあかん。アナザーフレンズがもう1度現れる前に」
「あなざー……もう1度? あたしが倒したのに」
「あ、いや、もしもの話です。その時は、これを覚えておいた方がいいと思いますやんか。ここを触れば音も出ます」
ジャガーはしばらく考えたが、大きく目を見開いた。
「――いいよ。これを覚えればいいんだね?」
光線に削られた大地が、痛々しい赤土を露出している。その脇の茂みに、オマエは倒れ込んでいた。呼吸も脈もあるが意識はなく、虚ろな表情。
そこに、学生服のような詰襟を身に着けた男が歩み寄る。不気味に笑んだ男は、オマエの頭を軽く指ではじいた。すると、何事もなかったかのようにオマエが起き上がり、辺りを見回す。
「お前は、あの時の……バビル、とかいう」
「覚えていてくれるとは光栄だね。――心配はいらない、ここまでは想定内さ」
「……何の話だ?」
訊き返されるや否や、バビルの手がオマエの身体に侵入した。苦しみ悶えるオマエの体内から、アナザーウォッチが拾われる。
『オレ!』再度押される天面スイッチ。ウォッチを手にしたバビルの顔は、形容し難いほどに歪んだ笑みに溢れている。
「や、やめろっ。来ないでくれ!」
「『あの人』から言われてるんだ。契約破棄は、認めないってね」
アナザーウォッチが、ほんの少し前に抜いたのと同じ場所に再び埋め込まれた。最初の契約よりも怨みに満ちた呻きと共に、怪物は再誕したのである。
太陽は既に、わずか西へ傾き始めていた。PPPのライブの時間まで、あと少しだろうか。
近未来的な板を地べたに置き、ジャガーは難儀していた。半分くらいしか覚えられない。これが「イー」で、いや、「エフ」だったっけ……? 形が似ているのが多すぎる。しかも、いくつも並べると違った音になる、ときた。途中までは懇切丁寧に教えてくれていたナカヤマも、やらねばならないことがある、などと、少し前にどこかに行ってしまった。自身のキャパシティを大幅に超過した難関に、ジャガーの心は半ば折れかかっていた。
だが、ジャガーに諦めるという選択肢はないに等しかった。恐れ、すくむことしかできなかったあの砲撃の光がフラッシュバックする。かなり時間は経ったはずだが、未だに体が震える。
もし、またあの怪物が現れたら。あの強いフレンズが現れたら。その時のために、今あたしにできることはこれしかない。瞳が輝きを取り戻す。
でも……何か大事なことを忘れているような?
「――っ! TSUYOSHIの! でもこの平たいのは……あぁもうっ、急がなくちゃ!」
今日は、何だかフレンズのちほー間移動が激しい。スタッフカー型の
検索結果が出た。画面内に桃色のラッキービーストのホログラムが投影される。
『本日、ペンギンズ・パフォーマンス・プロジェクト、通称PPPによるライブイベントが催された、と記録されています』無機的ながら、どこか温かみを感じさせる機械音声が、狭い操縦室に響く。
「……そう。他には何か?」
『このイベントにおいて、アニマルガールではない何らかの外部存在が1体確認された、とのことです』
「――何?」何らかの外部存在、とのワードに、獣の耳を微動させる。
侵入者。この時代では「フレンズ」と呼ばれていたか。この時代に、ジャパリパークが存在するこの世界と、異なる数多の時空が接続した。同時多発的に発生したこの事象は、マーゲイが転移してきた未来からのいかなる干渉をもってしても防げなかったとされる。ただ唯一はっきりしているのは、こうして接続した異世界から「フレンズ」が流入し、ジクウドライバーやジャオウライドウォッチがジャガーの手に渡ることになった、ということ。そこで手を打てなかったことが、未来の世界の崩壊を招いた、とマーゲイは考える。ならば、まだ力の弱い現時点で、諸悪の根源になる前に消してしまえばいい。それだけの話だ。だが、同じルーツを持ち、この世に出ずることとなった力を使わざるを得ないのは、いささか抵抗があるが。
「降ろして。この人混みに紛れられると厄介だから」
『了解。キョウシュウエリア・ミズベチホー近隣にて潜伏します』
じわじわと高度を下げていく。ハッチが開いた。身軽に飛び降りるマーゲイ。ハッチを閉じると、タイムマジーンは一気に加速し、あっという間に姿を消した。吹き荒れる風に、マーゲイの短く揃えられた髪が揺れる。
「……どこに隠れたのやら――」
ジャオウを探索していた彼女の鼻が、不意に慣れぬ臭いを感じ取った。メガネを正位置に直し、周囲を見回す。マーゲイの眼は、木の幹の陰に向かっている。
「出た、わね」マーゲイの視線の先には、くすんだ空色の拳。漏れ出した吐息は、かつて茂みを駆けていたであろう獣よりも獣の如き、理性の欠片も感じさせぬ荒い息であった。
マーゲイはジクウドライバーを手に取り、腰に当てた。独りでに巻かれてゆくベルト。そして、彼女の右手には真紅のウォッチが握られている。上蓋を器用に片手で回し、上部のボタンを押す。
『マーゲイツ!』
ベルトがウォッチを受け、近未来的なパターンを発し始めた。右拳でベルト上部を押すと、両手を前方に突き出し、大きく回す。そのまま2つの手でベルトを抱え込むように持つ。背後には、赤と黒の2色からなる文字盤が、中央に「0000」と表示しながら回転している。
「変身」
ベルトが転回した。
『ライダータイム!』
『仮面ライダーMarゲイツ!』
幾重にも重なった帯が、マーゲイの体を覆った。それが離散した奥には、紅い装甲を纏ったスレンダーな姿。顔には目を引く黄色で「まーげい」と記されている。
「この力がジャオウに渡る前に、私が倒す!」
声を張り上げながら、マーゲイは怪物に向かっていった。
急がなくちゃ。太陽の位置からして、そろそろライブが始まっているかもしれない。この「平たいの」を早めにナカヤマに返し、みずべちほーに向かおう。ジャガーは焦っていた。
とはいえ、ナカヤマの行方が分かるわけでもない。むしろ、向こうの方が自分の行く先を知っていて、待ち伏せしているかのようだ。ならば、下手に動かずにナカヤマを待った方が得策ではないのか? いや、不確実すぎる。第一、待つだけなんて自分には似合わない。
ジャガーが河岸を疾走していると、川向こうに座り込む影が見えた。支流の中でも、この辺りは川幅が広く、橋も架かっていない。渡りたいのだろうか。決して時間的余裕があるわけではなかったが、困っている子を見捨てることはジャガーにはできなかった。
「大丈夫? 今行くよっ!」
おーい、と大声で呼びかけると、泳いで渡るときに落としてはいけないもの――ジクウドライバー、ライドウォッチ、テープレコーダー、「平たいの」――を川辺に置き、大きい川に飛び込んだ。幸い、このところ雨も少なく、川の流れはとても穏やか。1分もかからず、ジャガーは対岸にたどり着いた。
そこにいたのは、ショートヘアの白髪が目を引く少女だった。
首周りのもこもこ、無限の未来を予感させる翼をかたどったような肩回り。瞳の澄み渡った水色は、靴やタイツ、腕を覆うオペラグローブとも同色で、全身の中心たる胴の純白を引き立てる。そして、そこにはこれまた同じ色で、クレヨン調の「オレ」の文字。その姿を見ていると、ジャガーはなぜだか目が離せなくなってしまった。
「困ってるのが見えたからさ。向こうに渡りたいんだね? じゃあ、あたしの背中に乗って」
「えっ……いいんですか? ありがとうございます」少しばかりオドオドしながらも、彼女は顔に感謝をにじませる。その表情に、ジャガーはどこか、かばんに似たものを感じた。いつも以上に、大切に送らなければ、と思った。
「ごめんね、ほんとならイカダがあるんだけどさ。大丈夫? 濡れたりとかしてない?」
「いえ……! すっごく助かりました――」彼女が、ふと地面に転がったウォッチに目を向けた。
「――!!」
突然、彼女が懐に手をやり、何やら取り出した。優しく握り締められたそれをジャガーが不思議そうに覗きこむ。
「……それって」
「オレ、いつの間にかここにいたんです。どうやって来たのか、何にも覚えてなくって。でも、これが勇気をくれる、っていうか。あっ、これも気づいたら持ってて。何となく、持ってると安心するんですよね」
「ふっ!」拳に力がこもる。
マーゲイのパンチに怯んだ怪人の横に、うっすらと何かが浮かぶ。怪人は戸惑い、周囲を見回す。その「何か」が、自身が一撃に沈んでいる姿だと理解するまでに、そう時間はかからなかった。
『フィニッシュタイム!』『タイムバースト!』幻影に向けて、黄色の文字の隊列が形成される。眼からは「まーげい」、足裏からは「きっく」。慌てふためいた怪人は逃避を試みるが、幻影にじりじりと引き寄せられていく。幻影は、逃れようのない運命の実体なのだ。
「はあああああああっ!」予期されたとおりに、怪人の中枢を直撃したキック。ライブ前の熱狂を遠く背に、断末魔がこだました。
突然、彼女の手に握られた「それ」が淡く光りはじめた。ジャガーはさらに顔を近づける。
その光が薄れ、消えたとき、ジャガーの眼前にいた彼女ははっとしていた。
「――! なんで忘れてたんだろう……!」
「えっ? 思い出した、ってこと?」
「あぁっ、さっきは、その、ありがとうございました! ジャガーさん。オレは、『オレ』っていいます」あたふたとしながら、早口で話すオレ。
「……あたしのこと、知ってるんだ」
不思議と、驚きはそこまでなかった。今日1日だけで、ジャガーの身には理解が追いつかないほどのことが起きている。それに比べれば、彼女の様子が急に変わったことなどちっぽけな変化なのかもしれない。
「はい! ここに来る前から、何となく、ですけど。あっ、そうだ……」
オレは、大切に握っていた「それ」をジャガーに差し出した。
「ライド……ウォッチ」
「ずっと、渡さなきゃと思ってたんです。これが何なのかは、よくわかりませんけどね」
「でも、大事なものなんじゃ」
ウォッチを向けるオレの瞳は、青空と同じくらい晴れ渡っていて、深かった。
「――わかった。大切に、するね」
はい、よろしくお願いします、と、オレは笑顔で応えた。
丁度その時、茂みの向こうからナカヤマが姿を現し、ジャガーに手招きした。
「来てください。またあの怪人が……それは?」
ジャガーの手中に在る水色のウォッチに目をくれたナカヤマだったが、どうやら一瞬にして事の次第を察したらしい。ウォッチ正面の下側には、台形に押し込められた「2017」のデジタル。それを見たナカヤマはジャガーの手首を掴むと、
「我が魔王。2017年に行かなあかん」
「にせん……じゅうなな……? 行くって?」
応えぬままに、ナカヤマがジャガーを引っ張ってゆく。その様子を、オレがくすくすと笑いながら見送っていた。
ナカヤマに連れて行かれた先は、ジャガーもよく知る、少しばかり開けた場所。先日、比較的大きめのセルリアンが現れた際にできたという。
ナカヤマが持つモップの先が、天に向けられる。すると、空に小さな窓が開き、奥から細長い巨躯が飛び出し、広場の地表近くに停泊した。魚のような形状だが、パーツを接いで接いでを繰り返したようなボディ。胴の紋様は、ジャガーのスカートのそれと全くの同一であった。戸惑いを隠せない中にあれど、これが自分と何か関係のあるものだということは容易に理解できた。
「さあ、これに乗りましょう」
「乗る……?」ジャパリバスとも見た目が明らかに違う。乗る? どうやって?
そう思った矢先、
見た目ほど、機体内部は狭くなかった。だが、壁面には所狭しと数々の計器が並び、床にはバスのように、腰かけられるモノが1つ備え付けられている。壁のスイッチに触れたくなる衝動を抑えながら、ナカヤマに促されて座るジャガー。『タイムマジーン!』座ったことで、機器が完全に始動するようだ。
「では、今回は私が。時空転移システム、起動」
『
中空に浮かび上がった半透明の画面。隅に、見慣れた
『初メマシテ。僕ハ、
「あぁ、よろしく。で、どうすればいい?」
「とりあえず、そのウォッチを画面に向けてください」
言われたとおりに、オレからもらったウォッチを画面の方向に向ける。映された映像が、向けられたウォッチのスキャン結果に変わった。
『――すきゃん完了。2017年、通称《ジャガマニズム》ニ転移スルヨ。シッカリ、掴マッテテネ』
「え、えっ?」理解するより早く、腰掛けたジャガーの身体を超加速のGが襲った。
モニターに映し出された外の景色を恐る恐る見ると、このマシンが今さっき出てきた窓がもう一度開き、その中へと入って行く様が映し出されていた。さながら、先の全く見えない洞窟である。紺色と思しき直通路の中を、ガー型のタイムマジーンが猛スピードで泳いでいった。
紅い装甲を纏ったマーゲイは、疲弊し、困惑していた。
少し前に、必殺の飛び蹴りで撃破したはずの怪人が、他方からまた現れたのである。先とさほど強さは変わらないとはいえ、立て続けに戦っていては、こちらのスタミナが切れるのも時間の問題だろう。
「……これで!」『ジカンザックス!』
斧形の手持ち武器に、ベルトから外した紅のウォッチをはめ込む。
『フィニッシュタイム!』『ザックリカッティング!』
「おらぁっ!」力一杯振るわれた斬撃に、怪人は真っ二つに引き裂かれ、爆散した。
だが、肩で息をするマーゲイを嘲笑うかのように、またもや怪人が現れる。
「くっ……キリがない!」
『
少しずつ後ずさり。矢の一撃一撃で間合いを広げる中、マーゲイは腕のホルダーから水色のウォッチを外し、ジカンザックスにはめ込んだ。
『ハイゴッグ!』『キワキワシュート!』より力強く一直線の輝く矢が、怪人を貫いた。叫び声と共に爆ぜる怪人。
顔アーマーの下部から露出している口が、荒々しく吐息を放出している。しばらくそのまま爆発を見つめていたマーゲイだったが、何かを察し、晴れぬ煙の奥に矢を1発放った。微かに呻きが聞こえる。不幸な予感は的中した。
「うおおぉおぉっ!」マーゲイは己を奮い立たせるかの如く吼えると、再び斧に変形させた武器を手に、見え隠れする怪人のもとに走り込んで行った。
2017年。
ここは《ジャガマニズム》の世界。この世界の住人たちは、ある日突然創造され、生まれ出でた存在、もしくは別世界から転移してきた存在のどちらかだ。彼らの関係性は、彼らを創造したと思われる高次的存在にしかわからない。しかしながら、何者かが《ジャガマニズム》と命名したこの世界において、一見何の接点もないように映る彼らを結び付けているのは、「
温かみに溢れたこの世界に、突如絶叫が響く。
「やめろ、来るなっ」「誰か」水色のオマエが2人。彼らもまた、《ジャガマニズム》の世界の住人だ。彼らを脅かしているのは、かつてこの世界で平凡に暮らしていた者。歴史が正常に進んでいれば、今でもそうだったのだが。
不自然に接合された左足が自重に歪む。「ORE 2017」と記された怪人――オマエ――が、2人のオマエを襲撃していた。
怨みに満ちた唸りが地を揺るがす。その怨みは果たして、目の前のオマエに向けられたものか、はたまた。オマエたちは恐怖に立つことすらできない。
噴水のきらめく広場。動けないオマエたちに、怪人が飛びかかろうとした。
その瞬間。
怪人の目の前を、斑紋のある黄色いボディが横切った。その場にいた皆人が、降り立った少女と男に視線を向ける。
「『オー』、『アール』、えっと……『イー』だっけ? 並ぶと読み方が変わるから、あれは」
《ジャガマニズム》の世界にいる者は全て、ジャガーのアニマルガールたる彼女のことを本能的に知っている。
「――オレ、か」
「そうです。あれがアナザーフレンズ、それも生まれたばかりですやんか」
自分たちを襲っていた脅威の興味が逸れた隙に、オマエたちは焦りつつ路地に逃げて行った。ジャガーが怪人――アナザーオレを鋭く睨む。
「ゥウ……?」怪物化したオレの人格に乗っ取られ、理性さえかき消されてしまった。本能の赴くまま、アナザーオレがジャガーに突進していく。
刹那、時が止まった。
そのままの体勢で静止した醜い身体には、時折ノイズのようなものもかかっている。困惑するジャガーの横で、ナカヤマすらも固まっていた。周囲の木々の葉も、窓辺に揺らめく布も。
「……ジャオウ、邪魔しないでくれよ」
どこからともなく、アニマルガールでは見たことのない服に身を包んだ男がジャガーの前に現れた。
「僕たちは新たな王を擁立したいだけさ」
「新たな王……? っていうか、誰?」
ジャガーの戸惑いを隠せない表情を見てもなお、男は語り続ける。
「知らないのか。僕はバビル、タイムジャッガーだ」今にも動き出しそうな格好のアナザーオレに目をやる。
「彼は、このまま歴史が進んでいれば今頃ここにはいなかった。彼の立場上、比べられるのはもはや当然だからね。そんな人生に嫌気が差したんだろう」
「止まりそうだった時間を、僕の手で再び動かしてやった、ってことだよ」
聞いて、ジャガーはしばし考えた。そして、バビルの顔を見てはっきりと言った。
「よくわからんけど、それがホントにこの子のためになるのかな?」
こいつは何を言っているんだ? 怪訝そうにバビルが眺める。
「自分のこれからは、自分で決めていくものだと思う。誰かが勝手に変えていいものじゃない。えっと……例えばさ」
ポケットから、ジャガーは大事そうにテープレコーダーを取り出し、バビルに見せた。かつてTSUYOSHIにもらった、ジャガーの大切な宝物だ。
「これだったら、歌を途中で止めたり、始めまで戻したりできるよ。何なら、新しい歌に変えたりもできる。でも、お日さまが昇って、沈んで、そういうのは二度と戻れない。だから、今を、これからを、自分で生きていかないといけないんだ。誰かがやったって、それは自分じゃなくなっちゃうっていうか、その……うまく言えないな」
彼女なりに絞り出したその言葉を、バビルは興味深げに聴いていた。頬を上げると、一歩、また一歩とジャガーのもとに歩き寄ってくる。
「面白いね。さすがは若き日のジャオウだ」
ジャガーの顔の真ん前で、密か囁いた。
「君が決めた未来がどうなるのか、見せてもらうよ」
そう言うとバビルは足早に去っていき、すぐに見えなくなってしまった。姿が消えたのと時を同じくして、再び時が動き出した。アナザーオレの突撃をひらりとかわすジャガー。ジクウドライバーを握る。
『ジクウドライバー!』
「えっと、こうだったよね」
ベルトを腰に装着すると、たどたどしさの拭えない手つきでウォッチの上蓋を回し、ボタンを押す。
『ジャオウ!』「次は、こうして、こうして……」
左にジャオウウォッチがはめ込まれたジクウドライバーの天面ボタンを押し、ミルキーホワイトの本体を傾けた。準備は整った。
「変身!」
『ライダータイム!』『仮面ライダー(ウィー)ジャオウ!』
眼に「ジャガー」の文字がはまり、各部アーマーの装着が完了した。
「――よし、行くよっ!」
右腕に渦巻く炎の一撃を軽くいなすと、すかさず右拳を腹に叩き込む。続けて足元を払うように蹴りを入れると、元々不安定なアナザーオレの体勢がさらに崩れ、前方につんのめった。隙を逃さずワンツー。天に放物線を描き、怪人は大きく吹っ飛んだ。
今だ。先刻渡されたライドウォッチを取り出し、慎重かつ確実に起動する。
『オレ!』「……頼むよ」
空いたジクウドライバーの右側スロットにウォッチを差し込み、先と同様に回転させる。「まーげい」のを何となく覚えていたおかげで、比較的スムーズにこなせた。
その様子を、停泊するタイムマジーンの陰で、ナカヤマがにやりと笑みながら見ていた。
『アーマータイム!』
ジャガーの横に、マゼンタカラーの「オレ」2文字と共に、純白の四角いキャンバスに水色の細い線で描かれた平面の人型が現れた。その体にも、「オレ」とカタカナで記されていたが、その場にいた者の中で読めたのはナカヤマだけだった。同一な3層に分裂したオレは、そのうち2つが体を縮め、ジャガーの両手に覆い被さった。その手足は位置を変え、ジャガーの指にぴったりフィットする。残った1つは、ジャオウの胸の前掛けにボディをきちっと重ね、立体化して2分割された頭部が肩に。四肢が肩パーツと化した頭部を目指して伸びる。そうして形づくられた空間には、水をたたえた星と、そこに迫る火球のモチーフが浮かび上がった。
『「オレもそう思います」オレ!』複眼の「ジャガー」と入れ替わった「オレ」が自信たっぷりに輝く。
新たなる姿に感嘆の声を漏らすジャガー。後ろから歩み出てきたナカヤマが、歓喜に声を上げる。
「祝え! 全フレンズの力を受け継ぎ、時空を超え過去と未来をしろ示すけものの王ジャ。その名も仮面ライダージャオウ・オレアーマー。まず1つ、フレンズの力を継承した瞬間である!」
さっき会ったオレとは見た目がだいぶ違う。でも、このアーマーを身に纏っていると、彼女のあたたかな笑顔、迷いのない瞳が、ジャガーの脳裏に浮かんでくるのだった。その優しさにあふれた声が、ジャガーを勇気付ける。
彼の内なる何かに触れたのだろうか、アナザーオレの足音が大きくなった。心なしか足も速くなったように感じる。唸りを上げながらジャガーに突っ込んでくる。
だが、昂る感情に任せた荒っぽい突進をジャガーは難なく受け止めると、素早い動きで背後を取り、「オレ」のグローブで一撃突いた。当然受け身の取れなかったアナザーオレは地べたに転がる。
さっきよりも効いている。アナザーオレはどうにか立ち上がったものの、続けざまに飛ぶ拳に防戦一方。加えて、青いオーラに覆われたジカンギレードの一閃が、その歪な肉体を弾き飛ばした。
「よくわからんけど、行ける気がする!」
『フィニッシュタイム!』『オレ!』初めよりは少し慣れたような。勢いよくベルトを転回する。
ジャガーが大きく跳躍すると、彼女の後方から烈火の如き火球が迫った。離散し、「キック」に集約される。狼狽えるアナザーオレのもとに、高速でダイブする足の外側からは炎が漏れ出し、やがて彼女の全身を包み込んだ。遠巻きに眺めていた者には、星目がけて飛来する隕石のようにも映ったという。
『いつもの・タイムブレーク!』
「やぁぁぁぁぁぁああ!」
アナザーオレの重心に、燃え盛る一蹴り。大地を削り抉らんばかりの威力に、肉体は耐えきれなかった。凄まじい断末魔を上げ、アナザーオレは滅されたのである。
爆散した身体を通り抜け、難なく着地したジャガー。変身を解いて辺りを見回すと、周囲の地面は半径数mにわたって消し飛び、広場の景色は抉れた噴水のみが残っている。大変な力を手に入れてしまった、と戦慄するジャガーの後ろには、眠ったように身を横たえたオマエがいた。足元に転がり出たアナザーウォッチが砕け散る。
ナカヤマがジャガーのもとに歩いてきた。
「あそこを見てください。このウォッチに描かれてるのと似た感じ……するフレンズがいますやんか? 彼に、これを渡しておかなあかんし」
そう言って彼は、ジャガーにブランクウォッチを渡した。
戸惑いながらも、ジャガーは怯える「オレ」に近づく。
「えっと……初めまして。あたしはジャガー。……いきなりだけど、これを持っててほしいんだ」
「ジャガーさん……あなたが。え、まぁ、ありがとう、ございます」
「――じゃあ、元気でね」
「オレ」は、何が何だかわからないといった表情を浮かべ、タイムマジーンに乗って去ってゆくジャガーを長いこと眺めていた。
『フィニッシュタイム!』『ハイゴッグ!』
もう10体を超える数倒しているはずだ。それなのに、倒すたびに湧いてくる怪人。仮面ライダーマーゲイツ・ハイゴッグアーマーと言えども、これほど戦い続けた事はない。切れる息。悲鳴を上げる肉体。マーゲイに限界が近づいていた。
残る力を振り絞り、マーゲイは掌を怪人に向けた。砲口の中心から出でた光が周囲を満たしてゆく。
『ビームカノン・タイムバースト!』
光子の奔流が放たれんとしたその刹那。
照準を合わせていたはずの怪人が、消滅した。
寸前で気づいたマーゲイ。予想される反動に備えて添えていた左手で、急いで両ウォッチを外した。収束された輝きは放たれることなく失せ、彼女を覆っていたアーマーも虚空に消える。
地に転がった2つのウォッチ、その傍らにマーゲイが倒れ込んだ。つい先刻まで怪人がいたはずの空間を力なく見つめる。
「……どうなってるの?」
――割れんばかりの拍手、響く黄色い声援。
PPPを見に来た観客の多くが、アイドルとは趣の異なる曲の数々に感じ、心を揺さぶられている様子だ。
《ジャガマニズム》の世界からジャガーが帰ってきたとき、無念にもTSUYOSHIの歌は全て終わってしまっていた。非常にジャガーは残念がったものの、心配は全て吹き飛んだようだ。
日が沈もうとする頃、ジャガーのねぐらにTSUYOSHIが立ち寄った。
「お疲れさま! ……ごめん、いろいろあって見に行けなかったんだ。ジャパリまん、食べる?」
「ありがとうございます。ジャガーさんが励ましてくれた通りでしたね……あんまり考えすぎたらいけなかったかもしれません。おかげさまで、次のライブの時にも来てほしい、なんて言われましたよ」
「えっ、その、おめでとう、TSUYOSHI!」
照れ笑いを浮かべるTSUYOSHIの横で、大きく口を開けてジャパリまんをほおばるジャガー。こんな時間がいつまでも続けばいいのに。2人ともが、そう、思っていた。
かくしてジャオウはオレの力を手に入れた。彼女の歩む覇道は始まったばかり。しかし、次なるフレンズとの出会いはすぐ訪れた――。
石造りの古風な街並み。のんきに鼻歌を歌いながら、店々を渡り歩く若い男がいた。
「おかしい……町がやけにひっそりしている」