仮面ライダージャオウ   作:否下

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EP05 ステルス・パニック2018

 この動画によれば、顔がでかくて、首が太くて、足が短くて、ちょっとずんぐりむっくりな感じ、するフレンズ・ジャガー。彼女には魔豹にして時の王ジャ、ヒョーマジャオウとなる未来が待っていた。

 

 じゃんぐるちほーのフレンズ・キングコブラの励ましとメロスとの出会いを通して、王となる決意を固めたジャガーは、アナザーフレンズを打ち倒し、メロスの力を継承したのであった――。

 

 

 

 アナザーメロスとの戦いから一夜が明け、ジャガーはスッキリした目覚めを迎えた。イカダなら、ナカヤマが元の場所に戻しておいてくれたはず。言動は読めないし、どこからともなく現れる変わったフレンズだが、ジャガーは何故だか彼を信用できた。

 

《走れメロス》の世界から帰って来たのち、彼女はキングコブラの元を再び訪ねた。目的は、自分が為してきたことの報告である。しかしジャガーは、そこでキングコブラにかけられた労いの言葉よりも、そのさらに後で出逢った不思議なフレンズに興味を惹かれていた。

 

 

 

 彼女たちが来たのは、あと僅かで陽も落ちようかという宵であった。

 

 キングコブラへの報告と、それに付随する雑談も山場を越え、燦然と輝いていた太陽も、じりじりと地平線に吸い寄せられていく。

 

「――私も、お前と話せて楽しい。民に頼られることこそ私の、王たる者の最高の喜びだからな」

 

「また何かあったら話すよ。じゃあ、おやすみ」そう言ってジャガーが立ち上がろうとした、その時。

 

「ヘイ! ジャガーにキングコブラじゃない」威勢の良い声とともに、軍服のアニマルガールが舞い降りた。

 

「ハクトウワシ? じゃんぐるに来るなんて珍しいね」

 

 ハクトウワシ。キョウシュウエリアの至る所を飛び、自主的にフレンズ助けをして回っている正義のフレンズである。普段であれば、彼女は高山地帯や海沿いを主にパトロールしているのだが、今日は顔に何やら焦りが見える。

 

「私にはわかるぞ。何か探し物だろう?」

 

「よく分かったわね……さすがkingといったところかしら。でも正確には、friendよ」

 

 大きなため息をつくハクトウワシ。ジメジメとしたじゃんぐるちほーの気候が体に合わないのか、額には汗が垂れている。「じゃんぐるは地上が見えないから厄介なのよ。こんなにたくさんの葉っぱに覆われてちゃ、いくら私の眼でも無理ね」

 

「ところでさ」ジャガーが尋ねた。「君が探してるのは、フレンドなの? フレンズじゃなくて?」

 

「ええ。friendとfriendsは別物よ? Friendsはこのパークにいるみんなのこと、friendはその中でも自分が特に仲のいい子。私はそう思ってるわ」

 

 その言葉を聞いて、ジャガーは考えてみる。自分でいえば、カワウソだろうか? ブラックジャガーは……「姉さん」だから違うはずだ。そうなると、かばんは? そういえば、ハクトウワシは黒セルリアンとの戦いに参加していなかったっけ。海の向こうにでも飛んでいたのだろうか。

 

「めい……いや、頼みなら引き受けよう。ジャガー、手伝ってくれないか?」

 

 頼まれると断れないのはジャガーも一緒である。かばんが橋を造ろうとした時同様、いいよ、と笑顔で応えた。もっともキングコブラの場合は、また別な気もするが……。

 

 

 

 ハクトウワシ曰く、日が沈む前に山の麓で待ち合わせ、夜の散歩をする約束だったのだが、彼女はやって来なかったらしい。キングコブラとジャガーは地上から、ハクトウワシは空から、それぞれ手分けして探すことにした。

 

 今分かっている彼女の特徴は3つ。

 

 翠色の髪。

 

 隠れた左目。

 

 手に持った、先に行くにつれて広がる筒。

 

「……わからん」夜行性のジャガーといえども、この時間に人捜しはしたことがない。昼間に激しく動いたこともあり、疲れからか目がしょぼしょぼする。大きい川の水面に反射した月の形も、はっきりと見えない。

 

 先刻、茂みの奥の奥から聞こえてきた叫びも気になる。フレンズの声ではなさそうだったが、そうだとするとかえって心配だ。

 

 もうお手上げかと思ったその瞬間、轟音を響かせハクトウワシが急降下してきた。

 

「びっくりした……」

 

「ごめんなさいね? サンキュー、見つかったわ」そう言うや否や、彼女はジャガーを抱えて羽ばたく。

 

 細く目を開いたジャガーが見たのは、彼女が見たことのない世界。

 

「うわぁぁ……」自然と声が出ていた。普段フレンズたちが上って眠る木々よりさらに上、じゃんぐるちほーの全景が、鮮明に彼女の瞳に映っていた。

 

 ハクトウワシがにこっと笑う。「この景色、初めてかしら? ふふっ」雲ひとつない空に、瞬く星の無数。「昼と夜の間のこの時間が、一番キレイなのよ」

 

 ジャガーは、ただ星空を見上げていた。その間に、ゆっくり、ゆっくりとハクトウワシが彼女を麓まで運ぶ。

 

 連れて行かれた先には、既にキングコブラと知らないフレンズがいた。

 

「2人とも、サンキュー! 紹介するわね、私のfriendよ」

 

 彼女は、手にした薄緑の筒――メガホンを通して声を発した。「初めまして……い、イルミナティといいます。ルミナとよ、呼んでください……」

 

 声を増幅させるメガホンを用いてようやく、彼女の声は人並みの音量で聞こえる。

 

「ほう、活動的なハクトウワシと物静かなイルミナティか。正反対の組み合わせだな」

 

「意外かしら? この間さばくで会ってから、不思議と気が合っちゃって」

 

 今まで会ったことのない見た目のフレンズ。メガホンに刻まれた単眼の文様は、セルリアンの眼のようにも見える。正面から眺めると、髪型も、“毛皮”も、三角形を強く意識しているように思われた。

 

「あ、あの、さっきの声、聞こえました、か?」

 

「Of course! でも夜はやめた方がいいかも。セルリアンが寄って来るかもしれないわ」

 

「声って?」

 

 ジャガーには若干思い当たる節があった。それはキングコブラも同じだったようで、

 

「当ててみせよう。先の轟音、だな?」

 

「そうですけど、ひ、ひどいですよ、轟音だなんて。爆音と言ってください」

 

 彼女の反応はさておき、予想は的中した。「えっ、あんな声出せるの!?」

 

「はじめは私もびっくりしたわよ。でも、声って感じしないわよね」ジャガーのヒト側の耳に、ひそひそとハクトウワシが囁く。彼女に聞こえるとまずいのだろうか。

 

 そこに、「やぁ、我が魔王」樹上から声。

 

「ど、どこ!? 誰なの!?」ハクトウワシが大袈裟に辺りを見回す。この反応が彼女の素であり、断じて演技ではないという。

 

「あぁ、おにいさんか。って、何でそこにいるの?」

 

 木を静かに降りたナカヤマは彼女の問いをスルーし、爆音を放てるフレンズ――ルミナの方を見た。「ほう……」気持ち悪いほどいつもと変わらない笑顔でジャガーに向き直る。

 

「ジャガー、そのフレンズを知っているのか?」キングコブラは彼を疑っているようにも見える。登場の仕方が奇妙なのだ、無理もあるまい。

 

 気にしないで、彼女にはそう言っておいたが、どうやら命令と受け取られたらしく、「なら、仕方ないな……」と素直に引き下がってくれた。

 

 ナカヤマと彼女を、積極的に関わらせてはならない。そうジャガーは感じていた。

 

 詮索されると面倒なことになるのもある。だがそれ以上に、魔王の話を自ら彼女にしておきながら、キングコブラに危険が及ぶのを避けたいと考えたのだ。身勝手なのかもしれないが、アナザーフレンズという脅威に触れるのは、あたしだけで良いのだから。他の子を巻き込むのは、違うと思ったから。

 

 その思考がジャガーの表情にも反映されてしまったらしい。張り詰めて止まってしまった場の流れを、「……あ、じゃあ私たちはそろそろ行くわね」ハクトウワシがどうにか再開させ、昨日の夜は更けていったのだった。

 

 

 

 ルミナ。「イルミナティ」のフレンズ。

 

 一通り思い返すと、ますます謎が膨らんでくる。

 

 あの声は、タイリクオオカミの遠吠えとはスケールが違った。セルリアンの咆哮にさえ聞こえる。

 

 そして何より、あの風貌。初めてかばんを目にした時も、その不思議な見た目に十数秒間釘付けになったものだが、それと同じくらい興味をそそられる。

 

 ナカヤマに戻しておいてもらったイカダと、ジャガーは再会した。彼を信用して良かった。無償のボランティアではあるが、このイカダはいわば商売道具。ジャガーが最も大切にしているモノのひとつだ。

 

「よし、今日もひと泳ぎしよっかな」

 

 かつての橋の残骸であるイカダを、ジャガーはその強靭な腕で曳く。1日の休業を挟み、川渡しの復活である。

 

 大きい川の岸辺には、のんびりと日向ぼっこをしているアカミミガメ、木の枝に寄りかかって寝転がるオセロット、顔の上半分だけを水面に出しているゴルゴプスカバなど、沢山のフレンズが。かばんと協力して架け直したアンイン橋も通る。川を遡る間に見られるこの光景も、ジャガーの好きな景色だった。

 

 ジャガー、と彼女を呼ぶ声。

 

「ミナミコアリクイか。……どうしたの、そんな顔して?」

 

「心配してたんだよぉ! 毎日この辺を通ってるのに、昨日は来なかったから……無事でよかったぁ!」

 

 あたしを、待っていてくれた子がいる。

 

 必要とされることの喜びを、ジャガーは改めて実感した。キングコブラの言葉が回想される。

 

 民に頼られることこそ、王たる者の喜び。

 

「ふふっ。ありがとう、ミナミコアリクイ!」

 

 続いて通る滑り台では、毎日のようにコツメカワウソが楽しそうに遊んでいる。毎日滑っていて飽きないのだろうかとも思いながら、ジャガーはその横を通り過ぎた。

 

 

 

 川渡し・朝の部はこれにて終了。大きい川の水源の高山、その程近くまで泳いでから、ジャガーは昼まで休憩する。そして、午後の部に向けてお腹を満たすのだ。

 

 この時間帯に、いつもボスがジャパリまんを運んできてくれるのはわかっている。ボスの方も、きっと「最近よく来るなぁ」なんて思っていたりするのだろう、とジャガーは勝手に想像する。アニマルガールは、食事の時間を明確には定めていないことが多いため、ジャガーのこうした行動は稀有な例かもしれない。

 

 さて、ジャパリまんを2つ食べ終わり、少しばかり眠くなってきたジャガー。悠々と昼寝でもしようかと、顔を地べたにくっつけた。

 

 その時、彼女の耳がぴくりと動く。川の下流側から、大地を揺るがし、何かが迫っている。

 

 他者の存在を敏感に感知すること。フレンズになって、川渡しを始めたために磨かれた、本能に上乗せされた感性とでもいえようか。セルリアンの足音とは違う、連続した振動を、ジャガーの4つの耳がしっかりと捉えていた。

 

 迫っていた存在が近づく。それを視認したジャガーは、

 

「……また君か」

 

 ジャングルを無理矢理走り抜けてきたスタッフカー型タイムマジーン。颯爽と飛び降りたマーゲイが、片膝と両手をつき、ジャガーを睨んだ。木と木の隙間、丁度良い空間に、タイムマジーンはひとりでに駐車する。

 

 マーゲイは、先の会戦の時よりも、幾分かマイルドな語り口で話し出した。

 

「今日はあなたに提案がある。持っているウォッチを、全部渡して」

 

「悪いけど、お断りするよ」いきなりの事に戸惑いつつも、ジャガーははっきり即答する。「このウォッチはみんなから預かってるんだ。勝手に渡すなんて」

 

「思った通りね。何かある度にみんな、みんな、って。あの魔王になるんだもの、当然といえばそうかもしれない」

 

 ウォッチを2つ取り出すマーゲイ。「そう言うなら、力ずくでも奪うわ。私はいつだってそうしてきた」『マーゲイツ!』『大沢たかお!』

 

「……同じ見た目でも、やっぱりマーゲイとは違うね、君」あたしの知ってるマーゲイは、自分の“好き”に全力で、まっすぐで。「君が今やってることは、セルリアンと同じだよ」『ジャオウ!』『メロス!』

 

 

 

「変身」「変身!」

 

 

 

『アーマータイム!』双方の電子音声が、完全に重なり合った。

 

『たかお!』『「走れ!」メロス!』2人の後方からそれぞれに飛び出した文字が、上空で火花を散らしてぶつかる。

 

 マーゲイツ・たかおアーマーの脚部に、車輪が装着された。「はぁぁっ!」闇夜を――今は昼間だが――駆け抜ける特急の如く、マーゲイが疾走する。

 

 しかし、ジャオウ・メロスアーマーも負けてはいない。何故なら、「沈みゆく太陽の十倍も早く走る」メロスの脚力を再現しているからである。こちらの得手は、地面を蹴るパワー。小回りは効かないものの、スピードならば申し分ない。

 

 急ブレーキ・急加速を繰り返して往復するマーゲイと、俊敏な切り返しで応戦するジャガー。高速で移動する彼らの戦いを、並のフレンズは目視出来なくなっていた。しかしながら、速度が上乗せされたはずの拳は、双方をよろめかせる決定打には至らない。何度も、何度も、衝撃波を放ちながら2人のパンチが衝突する。

 

 先に疲労に襲われたのはジャガーだった。己の脚を動かしていた分、走る行為自体にエネルギーを消費していないマーゲイに差を付けられたのだ。ほんの少しだけ彼女のスピードに順応できなくなったその「ラグ」を逃さず、マーゲイが突き刺す一撃を見舞う。

 

「ぐあっ!?」突き飛ばされ、地を転がるジャガー。その間に、マーゲイはジカンザックスを出し、さらなる攻勢を掛けんと迫った。だが、地面に身を投げてからがメロスの本領である。もとよりメロスは長距離を走破したフレンズ。同じ「速さ」という言葉で括られても、彼の得意は持久戦だ。

 

 ジャガーは負けじとジカンギレードを出現させる。空いた左手には、何処からか棍棒が姿を現した。そう、メロスが山賊から奪い取って振るった、あの棍棒なのである。右手に収まった剣と、左手に握られた棍棒の二刀(?)流。

 

 振り下ろされた斧を刀身で受け止め、懐に素早く入り込む。体当たりでマーゲイを僅か後退させると瞬時に、棍棒で外側から腰に一撃。怯む隙にジカンザックスを弾き飛ばし、狼狽するマーゲイに斬撃を食らわせた。

 

 マーゲイは「……まだだ!」とハイゴッグウォッチを起動し、ベルトに挿す。

 

「ウォッチは渡さないよ。奪わせもしない」『フィニッシュタイム!』棍棒を放り出し、ジカンギレードを両手で握って必殺技の構えを取る。

 

 ――その時。両者が、何かのエンジン音を聞き取った。後ろ。「……!」振り向いたマーゲイが視たのは、自身のタイムマジーンが再起動する様子だった。

 

 ジャガーは本能的に、マーゲイがこれで自分を始末しようとしていると認識する。しかし、マーゲイの反応は予想とは異なっていた。

 

「ッ、何で? どうして動いてるの?」

 

「マーゲイ? 君が“起こした”んでしょ?」

 

 仮面越しにも、彼女の焦りは見て取れた。「違う! 私は起動してない。勝手に――」

 

 マーゲイの言葉は、タイヤの空転する音にかき消された。タイムマジーンのヘッドライトが、眩しく2人を照らす。一直線に、ジャガーに向かってくるスタッフカー。その時速は、セルリアンの触手を優に上回っていた。

 

 けれども、超高速戦闘をついさっきまで行っていたジャガーには、見切るのは容易い。左にさっと回避する。

 

 暴走スタッフカーはドリフトして急停車。前照灯がジャガーを睨み付ける。直後、車のパーツが組み替えられてゆき、タイムマジーンは人型に変形した。

 

「ねえマーゲイ、どうなってるの!?」隕石のごとく落ちてくる連続パンチをかわしつつ、ジャガーが尋ねる。

 

『アーマータイム! ハイゴッグ!』マーゲイはハイゴッグアーマーを装着し、己が機体に向けて飛翔した。「変形機能は元々だけど……でも私は何もしてない!」その言葉は、どうやら真実のようだ。マーゲイの機体であるタイムマジーンが、主人にまで手をかけようとするはずが無い。飛び回るハイゴッグアーマーを、乱暴に腕を振るって叩き落とそうとしているのだ。

 

 この時のジャガーは、タイムマジーンの変形を初めて目にしたためわからなかったが、タイムマジーンは人型になると、顔にあたる部分にライドウォッチが浮かび上がる。そのウォッチの見た目は、搭乗しているライダーのフォームと対応している。茂った葉に視界を少々遮られていたが、マーゲイはどうにかその「顔」を判別することに成功した。

 

 悪意に満ち満ちた色をした、蓋が回転しない形状のウォッチ。

 

「……ッ、まさか!」

 

 暴走した理由がはっきりした今、自機に攻撃を加えるのを躊躇う余地はない。タイムマジーンの装甲の堅牢さは十二分に理解している。ならば、狙うべきは――。

 

「はっ!」薙ぎ払うように振り回される腕から一旦距離を取り、アーマー胸部からミサイルを乱れ撃ち。どれかが命中すれば、今はそれでいい。

 

「じゃあ、あたしも!」『アーマータイム! 「オレもそう思います」オレ!』仮面ライダージャオウ・オレアーマーにアーマータイム。内包された、オレの放つ赤色ビームのデータを利用し、ジカンギレード・ジュウモードの威力を増強する。この機能は初めて使うが、アーマーを初めて装着した時に能力は全てインプットされ、フルスペックを発揮できるようになっているため安心だ。ビームガンに変化したことで、熱エネルギーによるダメージが付加されている。そのため、表層装甲を僅か融解させることは可能だった。

 

 一方のマーゲイは岸に降り立った。ジャガーの援護に驚きつつ、複眼部表示で照準を慎重に合わせる。先の掃射は威嚇に過ぎない。本命は、腕から放つビーム砲である。

 

『フィニッシュタイム!』『ハイゴッグ!』

 

 私は、今のまま進んだ未来に帰る気はない。

 

 この「今」で、魔王を倒して未来を変える。そのためなら、たとえ自分のタイムマジーンといえども、犠牲は厭わない。ヒョーマジャオウが生んだ死に比べれば、この犠牲など微々たるものに過ぎないのだ。――私が正しい選択さえすれば。

 

『ビームカノン・タイムバースト!』目を見開いて放った渾身の1発は、タイムマジーンの腰ジョイントを精密に撃ち抜いた。どしん、と倒れ込んだ機体が砂煙を巻き上げる。頭部のウォッチは消え去り、ただ巨大な人型が残るのみ。砂塵の奥に、何やら人影が見えたようにも思われた。

 

 変身を解除し、身を横たえた機体に近づくマーゲイ。

 

「マーゲイ……」

 

「……腰を撃ったから、もう起き上がれないわね」

 

 頭部に浮かび上がっていた、あのウォッチ。マーゲイが以前、LB-Archiveを検索した際に見たことがある顔が映っていた。

 

「ジャオウ」

 

「えっ、あたしのこと?」

 

「不本意だけど……私に協力してもらえない?」

 

 そう。不本意なのだ。この交渉が成立し、無事計画が成功を収めれば、マーゲイのもとに無傷のタイムマジーンが戻ってくるはず。しかし、ジャガーはまた一歩魔王に近づくことになるのである。

 

 不利益な未来へ歯車を進めてでも、取り戻さねばならない。魔王なき未来への道標を。

 

 しばし考えたジャガーの答えは、もちろん

 

「いいよ!」であった。

 

 そこに、1体のラッキービーストが歩いてきた。液晶に、何かが表示されている。珍しいことだ。

 

 ノイズが入ったのち、ラッキービーストは“話しかけてきた”。

 

『マーゲイ、私はLB-Assistです。緊急事態発生のため、付近のⅠ型機にデータを一時的に移行しています』

 

 ボスが喋るのを見るのは、久しぶりだった。しかし、あの時の声とは違う気がする。そもそも、ボスはフレンズとは話さないのではなかったか?

 

「まさに奇跡ね……そうだ、状況の説明をお願い」

 

『了解。5分前のスリープ開始時、プログラムに不明なエラーを確認しました。外部ネットワークからの侵入と考えられます。現在、機体の破壊に伴って中央システムがダウンしており、無効化は成功しているとみられます』

 

「ありがとう。でも、まだ無力化できてない」

 

 ジャガーがポカンとしている中、マーゲイは多少噛み砕いた補足を始めた。

 

「あれは恐らく……アナザーわかり」

 

 アナザーフレンズが、タイムマジーンを乗っ取ったということ。これまでと全く違うパターンだ。ジャガーは、わからないなりに理解を試みる。

 

「アーカイブのデータと似ていたから、多分合ってるはず。仮に正しいとすれば、ヤツは逃げてるでしょうね。なら、私たちがやるべきことは1つ」

 

「本物を見つけて倒すこと、だね?」

 

 マーゲイが、メガネの位置を細かく直してから頷く。

 

「そう。アナザーわかりの力の基になった外部存在は、ジャガーに強く影響を受けているらしいわ。そのうち、また寄ってくると思ってるけど」

 

「わかった。じゃあ、その子からウォッチを預かればいいってことだよね」

 

 マーゲイの4つの耳は、ジャガーの何気ない一言を聞き逃さなかった。「その子から預かる」。アナザーフレンズを「その子」などと呼ぶわけがない。つまり、彼女はアナザーフレンズから力を奪うのではなく、その力の原点から奪い取るのだ。

 

 彼女の誤った認識が、今ここに正された。

 

「――そうね。それぞれ分かれて探しましょう。アナザーの方もそうじゃない方も、どっちかを見つけたら知らせ合う。これでどう?」

 

 

 

 マーゲイの提案を受け入れたジャガーは、川渡し・午後の部のついでに川岸を見て回ったが、それらしい姿を見つけることはかなわなかった。

 

 アナザーわかり。黒い布で身体を覆ったアナザーフレンズ。顔の半分以上が前髪で隠れているという。

 

 メロスの時は直感が見事に働いてくれた。けれども、今回はそう上手くはいかなかった。気づけば、太陽はとっくに沈んで夜になっている。

 

「今日は、もう無理かな……」こういう時に限って、ナカヤマは姿を見せない。呼べばいいのだろうが、呼んだところで来るのかはわからない。彼の行動はいつだって定まらないので、わかろうとすることさえ不可能であろう。ジャガーはある意味割り切っていた。この時間に呼びつけるのも迷惑な感じがするし、今日のところは独力で探す。

 

 2日連続の人探しというのも、楽なものではない。

 

 そう感じていた矢先、大きい川からもだいぶ離れた茂みの中に、1人のフレンズ――いや、男が立っていた。

 

 黒服に身を包んでこそいるが、前髪が長いわけではない。アニマルガールには基本的に存在しない、壮年の男といった出で立ち。

 

「キミが、亜米利加豹(ジャガー)の娘か?」男は尋ねた。

 

「えっ? まぁ、あたしはジャガーだけど……何? あたしに用?」

 

 男はしばらく黙り込んでいたが、口を開く。「用では無い。助言だ」

 

「キミは、昼からこの一帯に居たな。飢えた獣がオアシスを求めるかの如く」男は続ける。

 

「見てたの……?」

 

 その問いに、男は感情の乗っていない声で答えた。「はい」

 

 きもちわるい。彼女はそう思ったが、念のため訊いてみることにした。

 

「き、君もフレンズなの? あのさ、この辺で両目が隠れた子、見なかった?」

 

「キミ、勘違いするな。私はタイムジャッガーだぞ。フレンズじゃない」

 

「……!」ジャガーは無意識に腰を低くする。

 

「その者ならば知っている。私がアレを“始めた”のだ」

 

 彼の回りくどい物言いを、理解しようとジャガーは努めた。「君がアナザーわかりを?」

 

「はい」またも男は無表情で応える。それどころか彼の顔面は、表情筋がないと言われても信じてしまいそうなほど、全く動かない。

 

「では、助言をしよう。アレを討つことは、キミには不可能だ」

 

「……全然助からないんだけど」

 

「何故なら、この次元からはアレに干渉できないからである。合言葉は、『越境可能』」

 

 男はそれだけ言って、後ずさりをした。




イルミナティのフレンズは、himita氏のデザインを元にさせていただいてます。
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