神社に帰って来た頃には既に日が真上に昇っている頃だった
「お帰りー」
「お帰り、早苗」
諏訪子と神奈子は賽銭箱を挟むように座っており俺達に気付くと手を振りながらそう言った
「ただいまです!」
早苗は二人の姿を視認すると駆け出し諏訪子と神奈子に抱きついた
「……虚どうしたのさ?」
早苗が駆け出した場所で動かず三人を見ていた俺を諏訪子は不思議そうな顔をしてそう言った
「……そろそろ俺は此処から去ろうと思うよ」
これ以上ここに居ると俺はきっと離れられなくなってしまう……それほどまでにここは居心地が良い……
「……どこに行く気なのさ?」
諏訪子は目を細めて俺を睨む
「幻想郷……俺の友人が作った場所、かな……」
「なんでそこに行く必要があるのさ?ずっと此処に居ればいいじゃないか」
「前にも言っただろう?今日が俺が居なくなる日だっただけだよ」
「そっか……」
諏訪子は顔に影を落とす
「……嫌ですよ虚さん」
「早苗ちゃん?」
拒否の言葉が出るのは予想していたが早苗から来るとは思っていなかった
「諏訪子様と神奈子様が虚さんのお話をするときどこか悲しそうな雰囲気でした、けど虚さんが来て諏訪子様と神奈子様が笑うようになりました、いつも幸せそうに……もうお二人を悲しませないでください!」
力強く叫ぶように早苗はそう言った
「……すまない」
「私は謝罪を求めた覚えはありません!私が求めたのははいと言う肯定の言葉です!」
「それは出来そうにないよ……」
俺がそう言うとずっと前から感じていた気配が近寄ってくる
「見つけたぞ妖怪!」
振り向くとそこには何人もの陰陽師がいた
先頭に立っているのは男は東風谷の家で誰が家督を継ぐか言い争っていた人間の一人だった
「早苗、やはり忌子か!妖怪と繋がっていたか!」
陰陽師全員の目が早苗に集まり、憎悪に歪んでいる
俺は陰陽師の視線から早苗を隠すように早苗の前に立つ
「忌子とは随分な言い様だね?」
「そんな化物、忌子と言わずして何と言う!」
後ろの二柱の神から怒気が立ち上ぼり始める
「私が化物ですか……いいですねそれ!」
「え?そこ喜ぶところなの?!」
早苗は目をキラキラさせながらガッツポーズ
「なんか格好いいじゃないですか化物って!」
俺も化物とか名乗ってるが相手から見るとこうも痛々しい感じになるのか……
後ろを振り向くと諏訪子は苦笑い、神奈子はあちゃーと顔を手で覆い隠している
「早苗ちゃん、君よくズレてるとか言われない?」
「ほへ?何でですか?」
あっダメだこの子気づいてないや……
俺は手で口を隠して笑う
先程まで人間の悪意にさらされていたとは思えない程にあっけらかんとしている早苗を見て苦笑が漏れる
「何時も早苗はそんな感じなんだよ」
「あはは、そうかい……なんか毒気抜かれたよ」
諏訪子の発言に俺は笑って返す
「何と話しておる!」
陰陽師の癖にして自分達をずっと見守り加護を与えていた祭神すら見えていないのか……
「アンタ等には見えない人達だよ、さてとここは大切な場所なんだ、できれば争いたくないのだが……」
「我々がここで退くとでも?」
「よろしい!ならば戦争です!」
尊大な態度の男を指さし早苗はどこかの戦争好きな少佐のようなことを言う
「ネタによく走るね君は」
俺は再度苦笑する
「一度言ってみたかったのです!……それにあの人達に今ここで退かれても後々何かありますでしょうし」
最後のほうは俺と諏訪子と神奈子しか聞こえないほど小さな声で言う
前々から思っていてがこの子は強い子だ
あの二人に育てられ、あの人間の孫なのだから順当なのだろうか?
「式神召喚!」
それを一言で表すなら鎧武者だろうか?
顔の部分は札が貼られており中の顔の部分は黒く塗り潰されているようで表情を見ることは出来ない
「こいつに勝てると思うのか?」
「その程度で俺を倒す?寝言は寝てから言ってくれ、それで俺を倒すなんて億の数を持ってきても無理だね」
「その慢心叩き潰してくれる!」
鎧武者が腰に指していた太刀を鞘から抜き放ち、振り上げて走る
「遅いよ」
太刀を上段に構え空いた胴を袖から取り出した太刀で薙ぐ
胴から二つに別れた鎧武者は白い煙を上げて消え去った
それを見届けて俺は創造していた太刀を消す
「格好いいです!」
「ありがと…さ…ん……」
早苗の声援にそう返し後ろを振り向くと二柱の怒気を感じ取り言葉がたどたどしくなる
「ねぇ神奈子」
「なんだい諏訪子?」
「あの式神、殺しに来てたよね」
「そうだねぇ……私も流石に頭にキテるよ」
なんだろう二人の背中にゴゴゴゴと擬音が見える……だめだ早苗ちゃんが移ってきてるな
どこか漫画的に考えてしまう早苗の考え方をしてしまい俺は内心苦笑を漏らす
「な、なんだ?!」
そんな悲鳴が聞こえて後ろを振り返ると
白い蛇が辺りから顔をだし陰陽師達を睨み付けている
「アンタ等見る限り東風谷の縁者に見えるけど、こんなことして優美子がただでは済まさないじゃないか?」
「あ、あんな老害もう死んだわ!」
その男の言葉を早苗は即座に否定する
「嘘です!だって、だってさっきまであんな元気そうに話していたんですよ!」
神奈子と諏訪子も少し動揺しミシャクジにもそれが伝播している
「本当の事だ!あの婆は死んだ!」
「……ん?」
そのわめき散らす男から微かに妖力を感じた
その疑惑を核心に到らすためさらにその男を視る
「虚どうかしたのかい?」
いつの間にか隣に来ていた諏訪子に声をかけられる
「成る程ね、憑かれたか」
「つかれる……憑かれるか?妖力なんて見えないけど」
「たぶん微弱なんじゃないか?それほどまでに弱った妖怪今の時代おかしな話ではないだろう、なぁ木っ端妖怪」
俺は最後にそう言いながら男の方を見る、すると男の中から煙のようにソレは出てきた
「足りない……足りない……力が、力が足りないぃぃ!!貴様達の力を寄越せぇぇぇぇ!」
その姿を保てすら出来ていない煙のような妖怪は神奈子に向かって飛び掛かる
「神に祈りなさい、貴方に残された猶予は長くない」
俺の隣から五つの札飛び出し妖怪に貼り付いた
「祈りは済みましたか?赦しは請えましたか?ならば、消えなさい!」
張り付いた札は線で結ばれ輝く五芒星の印を描く
「あぁぁ?!あぁぁぁ!!」
「風よ邪なる者を祓え」
早苗がそう唱えると風の刃がその妖怪を切り刻む
「……俺居なくてもよかったな」
正直出る幕がないうえに下手をすれば式神も余計なことをした可能性すら浮上してきた
「言ったでしょ?早苗は私が認めた風祝で、神奈子から術を仕込まれてるってさ、あの子に勝てる人間なんか居やしないし人間に憑かないと生きられない程弱い妖怪なんかには負けやしないよ」
諏訪子はこうなるとわかっていたと言わんばかりに優しげな笑みを浮かべて言う
煙のような妖怪は体とも言えない体を形作るが先程よりもかなり小さく、ただの煙のように薄くなっている、その妖怪は言葉にならない声をあげて人間に憑こうと陰陽師の内の一人に飛び掛かる、その陰陽師は一歩たりとも動こうとしない
「させると思いますか?風よ護れ」
その陰陽師を護るように風の防壁が張られその妖怪を弾く
「邪魔をするなぁ小娘ぇぇ!」
その妖怪は標的を早苗に変えて襲いかかる
「私もそろそろ動かないと示しがつかないねぇ」
神奈子はそう呟くと共にダンッと言う音が鳴り、空より飛来した細い御柱がその妖怪を突き刺していた
「がぁぁ?!」
「まぁ私達を襲うなんて思った馬鹿な自分を怨みな」
「皆食べていいよ」
諏訪子がそう言った瞬間その妖怪に白い蛇が群がる、中心からは細い悲鳴の様なものが聞こえ、やがて白い蛇がそこから居なくなるとそこには妖怪の影も形もなかった
「諏訪子、俺はそろそろ消えるとするよ」
「やっぱり行くの?」
「ごめんな」
俺は一言謝る
「……ねぇ虚そっちの管理者にさ私達もそっちに行っていいか聞いてくれない?」
諏訪子の中でも今回の一件は大きなものらしく少し悩む素振りを見せてそう言った
「わかった……待ってるよ」
「待たれるのか、あははこれは絶対行かなくちゃいけないね」
諏訪子は笑いながら頬を掻いて言う
「諏訪子」
俺は隣に立って居る諏訪子を抱き寄せてそっとキスを落とす
「ん?……ん、それじゃまたね」
「またな諏訪子」
諏訪子はにへらと柔らかく笑う
俺はその場を後にして神奈子の隣まで歩く
「神奈子」
「なんだい?」
機嫌の悪い、不貞腐れるような声で返事を返される
「不貞腐れないでくれよ」
「別に私は不貞腐れてなんかないよ、ん?!」
俺は神奈子の唇を奪う
抵抗らしいものはされずに俺の背中に回された腕が行くなと言うように強く力が込められる
「なんかごめんな神奈子」
「謝るんじゃないよこのバカ、さっさと行っちまいな」
神奈子は腕の力を抜き、俺が離れると少し名残惜しそうに自身の腕を見て顔を背けてヒラヒラと手を振った
「またな神奈子」
「またね、虚」
俺は最後に早苗の耳元に顔を近づけ囁く
「またね早苗ちゃん」
「え?虚さん待ってください!」
パチンと指を二回弾く
一回目は俺が地図の場所までの道のりを
二回目は……
私が呼び止めたときにはもう虚さんの姿はありま せんでした
「さっきの男の人がどこに行ったか知りません か?!」
私は東風谷の家とその分家の人達に聞く
「男ですか?早苗様」
「そのような者を見たものは居るか?」
誰も何も言わず全員が知らないと言う
それに加えてそんな者は最初からいなかったと言 う
「そんなはずありません!さっきまで居ましたし 式神を斬ったのだってその男の人ですよ?!」
全員私が何を言っているかわからないという様子
「早苗様?式神を切ったのは早苗様でございましょう?」
「え?私が斬った?」
私はおうむ返しに聞く
「え、えぇ早苗様が風を呼び式神を切り裂いたのでしょう?」
私とこの人達とで何か認識の齟齬がある?
「そうですか……私は社に帰りますあなた達も帰ってください」
陰陽師の皆さんは各々帰っていく
「諏訪子様……虚さんは……あれ?虚さん?虚って 誰でしたっけ……」
先程まで姿形、顔も出ていたのに今は顔どころか性別までわからなくなって私は虚と言う誰かの名前を呟き続ける
「黄昏虚だよ?早苗」
諏訪子様は首を傾げて疑問符を浮かべる
「早苗は思い出せないのかい?黄昏虚のこと」
黄昏虚……黄昏虚……
「どこかで聞いたことがあるような……」
私が思い出そうとすると手が何故か袴のポケット に向かいそこに触れると固い感触がありそれを取 り出してみます それは綺麗なオレンジ色をした球でした
「あっ?!」
うっ……頭が痛い……
私は頭を押さえてうずくまります
「……なんで忘れていたんでしょうか……」
そうです黄昏虚さん……
「思い出せたみたいだね」
諏訪子様は少し安堵したように息を吐いて微笑みを浮かべました
「虚が行った場所が原因かね?」
「私は違うと思うな」
神奈子様の言葉を諏訪子様は否定しました、その顔は呆れたような顔でした
「たぶん虚が単純にポカしたんじゃない?」
「ポカ?」
「そ、私の耳には虚は二回指を鳴らしたように聞こえたよ、片方はここから逃げるため、もう片方はここの
諏訪子様は人間という言葉を強調しました
私も半分は人間です、きっと記憶消去の対象に私も入っていた、きっと諏訪子様もそう言いたいのだろうと思います
……思い出しました
虚さんは……諏訪子様と神奈子様の夫で……
「思い出せました……けど怖いです……」
「怖い?」
「思い出せたのに何故か消えていくんです、虚さんと笑い会ったりしたこと、諏訪子様と神奈子様が虚さんと楽しそうにしていたこと、全部こぼれ落ちるように消えていくんです……」
「早苗……」
諏訪子様と神奈子様に怒られてしまうけど私の……
「でも、これを見ると思い出せます」
「それは?」
「虚さんがくれました」
私はもらった球を見せます
「なら肌身放さず持っておきな」
「はい!」
……私の初恋の人です
これにて守矢の神々との話は閉幕
次は幻想郷での話