橙
私は柱の陰から縁側に胡座をかいて座っている男の人を見ます
白い肌に肩くらいまで伸ばした黒髪を一つに纏めて後ろで流しています、紺色の羽織に袖を通して下は黒い着物、黒い袴を履いています
名前は黄昏虚と藍様が言っていました
そして、とてつもなく昔から生きた強い妖怪とも聞きました
「ん?」
その人は私に気づき私を見ます
私は柱の奥に隠れて、もう一度覗きます
「えっと君が橙かな?」
私は少しずつ体を出してその人を見ます
「は、はい初めまして!私が
式にされてまだ短い私はまだ上手く喋れず、所々噛んでしまいます
藍様はそれも私の個性、無理に治す必要もない、もし治したいのならばそれは追々治して行こうと私の頭を撫でながら言ってくれました
「はい初めまして、俺は黄昏虚と言う少しの間だがここに住まわせてもらうことになった」
優しげな笑みを浮かべて黄昏様は言います
「よろしひくお願いしましゅ!」
黄昏様はクスクスと笑いながら言います
「別にそこまで緊張しなくてもいいよ」
「は、はい」
そこで会話は途切れてしまいした
「……あぁ感じていた違和感はこれか」
そこで黄昏様はふと何か分かったように呟きました
「違和感ですか?」
黄昏様の視線の先には庭に咲き誇っている綺麗な桜があります
以前に私と紫様と藍様の三人でお花見したのを思い出します
「ん?あぁ、玄関に咲いていたのは
季節が合わない、その言葉で以前紫様が言っていたことを思い出します
「……えっと確か紫様が四季の境界を曖昧にしたと仰っていた気がします」
「……」
黄昏様は少し大きくため息をついて空を眺め始めます
あわわわ!?私何か失礼なことを言いましたでしょうか?!
「あぁ、ごめんね、ただ紫の力が思っていた以上に強力だったから少し驚いていただけだよ」
どこか慌てたように黄昏様は言います
心臓に悪いです、ハッ!?まさかこの人は私の反応を見て楽しんでいるのでは?!そう思い始めると少し困ったように見える顔も、どこかニヤついてるように見えてしまいます
「そういえば君はどうして藍の式に?」
「お魚です!」
「……魚?」
少しだけ間を開けて黄昏様は首を傾げて言います
「はい!藍様のお魚料理とっても美味しいのですよ!塩焼き、ムニエル、甘露煮、唐揚げとかとても美味しかったでしゅ!私はやっぱり
ふふと微笑むように笑いながら黄昏様は言いました
「……そうだね俺は刺身が好きだったかな」
「あぁ海魚ですか良いですねー、でも幻想郷では手に入らないんですよね……」
あぁ懐かしいなぁ、いや今の生活が嫌いな訳じゃないんですけど、やっぱり海魚食べたいなぁ
「幻想郷には海がないのか?」
「はい、なのでお魚も川魚なんですよね……」
ふむと言って黄昏様は何か考え込みます
そのあと手を伸ばして指で何かをつつくような動作をします
「……その気になれば結界越えて外の世界に釣りに行けるな」
……今この人は何と言いました?!聞き逃しませんよ私は!この人は海魚を取りに行けると言いました!間違いなく言いました!
「本当ですか!!?」
「お、おう」
黄昏様は少し体を仰け反らせて首を縦に振ります
「えーっと、黄昏様」
「あぁ、うんまぁ気が向いたらね」
「う……」
私が潤んだ目で黄昏様を見ると、まいったなと黄昏様は呟きます
だけど私は諦めません海魚が食べられる可能性があるのです!なんとしても言質はとります!
「まぁ獲れそうならね」
「絶対ですよ!絶対でしゅからね!」
困ったような顔をして黄昏様はコクりと頷きます
よし言質は取れました!
内心私は万歳をしていると勝手場の方から大きな声が聞こえます
「あぁ!!紫様!つまみ食いは止めてください!」
「藍の料理が美味しいのがいけないわ」
その声は藍様の声と紫様の声でした
黄昏様は口許に手を当ててクスリと笑います
「紫は何をやってるんだか」
「本当でしゅ、ですねぇ」
私は噛んだ言葉を直ぐに言い直して黄昏様に同調します
「ちょっと見てくるよ」
そう言って黄昏様は立ち上がり勝手場の方へと足を運んで行きます
私は何時になるか分からない黄昏様が獲ってきてくれる海魚を楽しみにします