東方暇潰記   作:黒と白の人

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第94記と一緒に投稿しましたので
そちらもどうぞ


第95記 買い出し

出てきた場所は人里の入口、鈴奈庵があった近くだった

 

「それでは行こうか虚?」

 

振り返れば藍がスキマから現れ、藍が地に足を着けるとスキマはひとりでに閉じた

 

「行くか」

「ふふっ♪」

 

藍は嬉しそうな声をあげて俺の腕に自分の腕を絡ませて抱き付く

 

「言っただろう逢い引きだとな?」

 

俺はとても嬉しそうに笑った藍から目を逸らし頭を掻いて里を進んでいく

 

入口付近は少し閑散としていて、とは言っても人の通りがないわけではなく、たまに散歩をしている人間や妖怪とすれ違う程度の人は通っている

 

「ここは居酒屋通りでな、妖怪も酒は飲む、酒が好きな奴は気が合う、こればっかりは人間も妖怪も変わらないのだ」

 

藍はクスリと笑って続けた

 

「基本的に居酒屋は日の落ちくらいから開店する、だから少しここは閑散としているのだ、あぁだが日が落ちてからは凄いぞ、顔を赤くした妖怪や人間が談笑して違う居酒屋の暖簾を潜る、そんなものでこの辺りは賑やかなのだ」

 

そう語る藍はとても楽しそうで嬉しそうだった

 

人間と妖怪が共存できる世界を作りたい、こういった場所を作りたかったんだろうな紫は……

 

「あぁ最初この辺りで飲んだ時は驚いたぞ、誰も妖怪が入ってきたところに驚いたりせず、むしろ気安く話しかけてくる始末だ」

「……従者が主の下離れて居酒屋で一杯やるってのはどうなんだ?」

「…………わ、私だってたまに飲みに生きたい時もある」

 

藍はプイッとそっぽを向いて拗ねてしまった

 

「拗ねるな拗ねるな」

 

俺は苦笑してどうやって機嫌を治してもらうか少し考える

 

「拗ねてなどおらん、ただお前と顔を会わせるのが嫌なのだ」

 

そう言いつつも藍は離れまいと俺の腕を先程よりも強く抱き締めた

 

「悪かったって」

 

俺は藍の頭を撫でて帽子越しに藍の狐耳を撫でる

 

「誤魔化されてはやらんぞ……ん!」

 

俺は体を少し捻って藍の背中に手を回し抱き締める、藍はそれに応えるように絡ませていた腕を解いて俺の背中に回して抱き締め返した

 

昼を少し過ぎた今、人通りが少ないこの居酒屋通りで助かったかもしれない、往来が激しければ今の俺の状況はかなり恥ずかしかっただろう

 

「虚、好きだ、何度でも言わせてくれ虚、好きだお前を愛してる」

 

藍は息が掛かる程俺の耳元に顔を近づけ囁くようにそう言って抱き締める力を強めた

俺は何も言わずに藍を抱き締めた腕に一度一際力を込めて抱き締めて藍を離した

だが俺を抱き締め返していた藍の腕は解かれることはなかった

 

「虚、お前はやはり危険な男だ、人をこうも簡単にダメにしてしまう、お前のようなたらしはそうそう見んよ」

「嘘をつくな、お前は毎日見てるだろう?」

 

藍は何を言っているかよくわからないと言いたげに小首を傾げた

 

「鏡の前に立ってみろ、嫁持ちの男すらたらしこんだ女が写るだろうからな」

 

藍は一瞬呆けた顔をしてニヘラと少しだらしない笑顔を浮かべ、顔を俺に擦り付けるようにさせながら俺を抱き締める力を強めた

 

「ふふ……そうであったな、お前は私を愛してくれると言ったのだったな?」

 

昨夜の事が余程嬉しかったのか藍は昨夜の事をしきりに話そうとする

 

「あぁ言ったよ」

 

嬉しそうに俺にそう訊いた藍の言葉を俺は少しぶっきらぼうに頷きながら肯定した

 

「……なぁ藍、正直な話を良いか?」

 

少し暗めの声で俺は言った

 

「どうした?」

「藍、正直俺はお前に好かれる程の男か?その…なんだ、俺は藍の思う程良い男と言われる程の男ではないと思う……」

 

少し躊躇いがちに俺はそう言った

藍は大きく呆れたようなため息を吐き、ジトリとした目で俺を見た

 

「お前は本当に自己評価が低いな……良いかよく聞け、これは私の嘘偽りのない本心だ……」

 

藍はそこで言葉を切って息を吸った

 

「私はな虚、お前の優しさが好きだ、毒にもなりそうな程甘く依存し、溺れてしまいそうになる優しさがたまらなく(いと)おしい、だから私はお前が……黄昏虚と言う男が好きなのだ」

 

藍は焦るようではなくユックリと断言するように言葉を紡いだ

昨晩の俺の告白、いやそれ以上恥ずかしい告白が藍の口から放たれ、俺は目をパチクリとさせ言葉に成らないようなうなり声をあげた

 

「ーー!!」

「これで少しは自信が持てたか?持てたのなら胸を張れ、自虐的にならなくてもお前は良い男だ、私が保証してやる」

 

藍は俺の頭に手を置いて軽く二、三回撫でる

俺はたまらなくなって藍の背中に手を回して力強く抱き締めてしまった

 

「虚よ少し苦しいぞ」

 

藍は苦笑するように笑い声を漏らして俺の背中を二回程叩いた

俺は無言でさらに力を強めた

 

「……藍、お前を紫に預ける前の時覚えているか?」

「私が紫様の式になった時か?」

「あぁ、あの時俺は藍が、その…怖かったんだ」

「怖い?私がか?」

 

藍は驚きの声をあげた

 

「俺と一緒に居た時間、お前はかなり短い部類なんだよ、だから怖かった」

 

俺は抱き締める腕の力を緩め藍の顔を見た

藍はしきりに首を傾げて話を整理しようと考え込んでいる

 

「……お前がもしもの話をしただろ、もし嫁さんと会わずにお前と先に出会っていた場合の話、その話を聞いて俺は正直凄く怖くなった」

「私と居た時間が短いのに私に惹かれてしまっていたからか?」

「そうだ、だから怖かったこのまま続けばいつか嫁さんのことなんて忘れてしまいそうになるんじゃないかってな」

 

俺は藍から目を逸らしてそう言い、さらに続けた

 

「まぁ結局昨日の夜、俺は見事に愛してるって言葉を引き出されてしまったわけなんだよな……藍、もう言わないから聞き逃すなよ?」

 

俺は藍と目を会わしてコホンと咳払いをして息を吸った

 

「嫁さんと出会うことなく、お前と出会っていたのなら、俺は間違いなくお前に惚れていた、情けない話だがおそらく間違いない」

 

俺は藍から離れてバツが悪くなり目を逸らした

 

「くふふっ……ふははっ!」

 

藍は腹を抑えて笑いを堪えていたがやがて噛み殺せなくなったのか笑い声を漏らした

 

「あぁ!本当にお前は女たらしだ、国を傾けた私が太鼓判を押してやる!」

 

ドンと後ろからの衝撃に耐え振り返ると藍が後ろから抱きついていた

 

「出来るのならこのままずっとこうしていたいが、そうにもいかん、用事を終わらせて帰り早く続きをしよう!」

 

そう言った藍は俺から少し離れて俺の腕を取り、藍は俺の手を引きながら里を進んで行く

 

 

しばらく歩くと人が少しずつ多くなり、やがて賑わいのある大通りに出てきた、善く言えば活気がある、悪く言えば雑多な雰囲気の街並み

 

だが嫌いな雰囲気ではないな、悪くない

 

俺は心の中でそう呟いた

 

店の前で人間の女が客を呼び込んでいた、店先で店主らしき男がいくつかの酒瓶を見せ人間の男に勧めていた、長椅子の上に将棋盤を置いて茶を飲みながら人間が指していた、屋台のような物を引いて飴細工を売っている人間……とまるで祭りでもやっているのか?と少し錯覚しそうな程活気があった

この辺りはどうやら以前靈夢と来た場所のようで、ポツリポツリと見たことのある店が見える

 

「驚いたか?」

「正直、な……ここは何時もこうなのか?」

「ふふっ何時もというわけではない、今は九月だからというのもある、だがこれにはまだ先があってだな、来月か再来月あたりの農作物の収穫が本腰に入ると本当に凄いぞ?」

 

藍は意味深に笑い、少し遠い目をした

 

「そんなにか……」

「あぁ、良い意味で私は人間に恐怖したよ」

 

藍は渇いた笑い声をあげた

 

「それは気になるな」

「ふふ、本腰に入ればまたこうやって外に出よう」

「そうだな」

 

俺は藍につられるように笑ってそう応えた

 

 

 

八百屋や魚屋を回り酒屋で酒を買う、他には葉茶屋で茶葉等を購入、他にも様々な店を回って買い物をした

必要な物を買い終わり一段落着くと茶屋に寄って団子を食べる

 

「すまぬな、荷物持ちなどさせてしまって」

「妖怪にこの程度の荷物なんて荷物の内に入らんよ、しかし金物屋らしき店がいくつかあったが頼まなくて良かったのか?」

 

俺は未だに藍が持っている包丁の入った風呂敷を見ながらそう言った

 

「おどろけー!」

「うを?!何だ!?」

 

突如後ろから衝撃と少し高い声が聞こえて驚いてしまった

 

「ーっっ!美味しいっ!」

 

振り返ると水色のドレスを着た少女が嬉しそうにピョンピョン飛び跳ねていた

 

「この小娘は私の旦那に何をしておるのだろうか?」

 

藍はその少女の頭をガシリと鷲掴んだ

 

「へ?痛?!ちょっ痛い痛い痛い痛い!?」

 

そしてギリギリと掴む手の力を強め始めたらしく少女は悲鳴をあげた

 

「……あっ、ま、まぁ落ち着け藍、俺は別に気にしてないから!」

 

中々に凄味のある笑みを浮かべた藍が少女の頭を潰そうと握りだしたのを確認して俺は慌てて藍を止めた

 

「しかしだな……」

「貴方いい人!たすけてー!」

「まぁそこまで害がある子じゃないと思うから離してあげて、な?」

 

藍は渋々と少女を掴む腕を離した

 

「ありがとう!」

 

少女はまだ痛むのか頭を擦りながら少し涙目で俺に礼を言った

 

「そ、それじゃわちきはこれでっ!」

「まぁ待つが良い多々良」

 

藍はその水色の髪の少女、多々良の肩を掴んで引き留めた

多々良は油の切れたブリキの玩具のようにぎこちない動きで振り返る

 

「そこまで警戒せんで良い」

 

藍はため息を吐き風呂敷を多々良へと差し出した

 

「こ、これは?」

「見て分からんか?研ぎの依頼品だ」

 

多々良は無言で風呂敷を開け、さらに布で包まれた包丁の布を外して一本一本確認していく

俺は包丁を確認する少女を見る

水色の髪、白い長袖のシャツに青色のベスト、水色のスカートを着ている、包丁を見るその瞳が左右で色が違い赤と青の所謂オッドアイだった、その隣には雨も降らない空模様には似合わない奇抜で大きな紫色の傘らしき物が置かれている

 

傘、で良いんだよな……?

 

開かれている紫色の傘は大きな目が描かれており、口のようなものも描かれて、いやそれは口そのもののようで長い舌がダランと垂れている

 

「痛っ?!」

 

横腹に鋭い痛みを感じた

 

「あまりジロジロと見てやるでない、私が不愉快になる」

「あー、その悪い」

 

藍はジトリとした目で俺を睨み、俺はそれに軽く頭を掻いて謝った

 

「うん!これなら直ぐに終わるよ!今から家に戻って手をつけるから少し時間かかるけど良い?」

「それで構わん」

「了解!それじゃ暫くしたらわちきの家に来てね!」

 

少女は包丁に布を巻いて風呂敷に包み直し、隣に置いてあった傘を取り空を飛んで何処かへと行ってしまった

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