孤独を愛したバーテンダー   作:格好いい囲い

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スコットランドからの使者

我輩は猫である。名前はまだない。

なんて呟いた猫がこの国にいるけど、私にはちゃんと名前がある。しかも私の先祖は世界一有名。ギネスブックにも名前が載っている。勿論お酒を飲んで溺れたりはしないわ。

 

ーーーーーーーーーーー

 

「注文は…ペリエでいいか?」

 

「あら?あなた好きな子にイタズラを仕掛けて気を引こうとしているのかしら?」

 

懐かしい事を思い出しながらからかってやろうという気持ちは見事に打ち返された。

流し斬りが完全にはいったのに…逆にこっちの腕力低下まで発動してしまう。

ヴィクトールの気持ちを考える前に真面目に仕事しますか…

 

「そんなんじゃねーよ、ただからかってやろうと思っただけだ。それで注文は?」

 

はいはい気にしてませんよっと強がりつつ雪ノ下に注文を促す。

 

「そうね…ウイスキーを貰おうかしら」

 

「了解」

 

ウイスキーか、少しだけ意外だった。まさかコイツがウイスキーを飲むなんてな。まぁ誰だって大人になるか…相変わらず変わらない平なもんはあるがな…

何て思いながら胸元に視線を送ると雪ノ下に気付かれそうになり、危ない危ないとウイスキーの準備をする。

 

「それにしてもあなたの様な人間がバーテンダーなんて世も末ね」

 

「アメリカじゃ人間最後に会いに行くのはバーテンダー何て言われてるぜ。こんな俺でも必要としてくれるだろうよ」

 

「そう…まるでゾンビ映画の最後みたいにね」

 

「おいおい最初から俺だけバッドエンドじゃねーか」

 

「誰もあなたがゾンビなんて言ってないのだけれど、あら?少し目が腐ってるんじゃないかしらゾンビ谷君」

 

「言ってるから、もうゾンビって言ってるから」

 

懐かしいやり取りを交わしながらお互いに顔をあわせながら軽く笑う。

 

「少しいいかしら?」

 

少しばかり会話が落ち着いたタイミングで雪ノ下が声をかけてくる。

 

「あぁどうした?」

 

雪ノ下が空になりそうなウイスキーに口をつけながらこちらに視線を送る。

 

「お酒とお酒を足して新しいお酒を作る。これってとても難しいの?」

 

完璧主義のコイツの事だ、こういう時にも手を抜かないか。

 

「1+1を2にするのは簡単だ。だがプロってのは1+1を3にする何かがあるんだよ。」

 

「そう…私にも簡単に出来る物はあるかしら?」

 

ふっと笑い軽く首を横に振る。

 

「止めとけ、凝り性のお前には向いてない。どうせ作りすぎてその内倒れるに決まってる」

 

「なら、一人遊びが大好きなあなたには天職なのね」

 

ふふっと笑いながら毒舌を披露してくれる。

 

「折角だ雪ノ下、次はグレンタレットなんてどうだ?」

 

そう言いつつツマミを準備する。

普通はナッツや乾物などが主流だろうが、ここはラング・ド・シャがいいだろう。コイツだしな。

 

「グレンタレット…スコットランドのウイスキーよね?」

 

流石に知ってるか、コイツ猫大好きだもんな。

 

「あぁ、正解だ。じゃそのグレンタレット蒸留所にはとても有名な話があるんだが知ってるか?」

 

「確か…ウイスキーキャット、タウザーよね?ウイスキーの原料である大麦をネズミから守る為に飼われていた猫。その生涯では28,899匹のネズミを捕獲しギネスブックにも掲載され、さらに偶然誕生日がエリザベス2世と同じなことで女王陛下からバースデーカードまで届いた世界一有名な猫」

 

「流石だな」

 

ユキペディアさんは健在か、と思いながらグラスと共にラング・ド・シャを出す。

 

「これは…ラング・ド・シャ…猫の舌なんて洒落てるわね」

 

「さっきの話だが…1+1を3にする何か、バーならそれは客との会話のきっかけ…これはコミュ障の俺が師匠に教わった小細工の一つだ」

 

「小細工や口先で問題解決してきたあなたらしいわね」

 

少しの沈黙を置いて口を開く。

 

「曲がり角を曲がった先には悪魔がいた…あん時は由比ヶ浜家の犬にお前ん所の車だったが…その後そのまま変わらないでいた俺にはあの場所は眩しかった。あの時変わるのは現状からの逃げって言ってた俺があの眩しかった場所に…その先の違った風景を見たかったから…頑張って歩いた次の曲がり角には天使がいた」

 

「そう…変わったのね…」

 

そう言っておかわりを頼む雪ノ下と時には笑いながら過去を振り返る。

誤解は解けない、既に解は出ているから。

ならまた新しく始めればいい。懐かしい事を思い出していた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「比企谷君、あなた何処を見ているのかしら?誰も視線を合わせてくれないからと言って明後日の方向を見るのは止めた方がいいわよ」

 

「雪ノ下…そいつは狸の置物だ…」

 

ついでにお前が今手を置いている場所は大きなおいなりさん。なんてことは口が裂けても言えない。つか俺じゃなくても顔ちけーよ。

 

「あら?あなたいつの間にか背が縮んだのではなくて?」

 

「だからそいつは狸の置物だって、ほら取り敢えず水飲め」

 

飲み潰れた雪ノ下を介抱しながらどうしてこうなってしまったんだとふらふらと歩き出した雪ノ下に声をかける。

 

「おい、危ねーぞ」

 

「大丈夫、よ、少し世界が回っているだけ」

 

こりゃダメかも知れんな。と俯き気味にお手上げと首を振る。すると前からキャっと小さな悲鳴をあげ雪ノ下が転ぶ。

 

「おい!大丈夫か?」

 

「えぇ…そこの角から何か飛び出してきて驚いてしまって…」

 

足を痛めたのか顔を痛そうに歪めた。

はぁ…と軽くため息をつき雪ノ下に背中を向ける。

 

「ほら…乗れよ送っていく」

 

そう言って少しの間を置いた後、軽い衝撃と一緒に襲ってきた酒の臭いを確認し歩き出す。

 

「比企谷君…乗り心地が悪いわ…」

 

「へいへいわるーござんした」

 

「比企谷君…目付きが悪いわ…」

 

「へいへいわるーござんした」

 

「比企谷君…最近付き合いが悪いわ…」

 

「へいへいわるーござんした」

 

「比企…君、あなた……の………わ」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

曲がり角ちょこんと座る小さな影

 

私は猫。名前はタウザー8世

スコットランドからやって来た

曲がり角の先に…幸運を運ぶ猫

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