孤独を愛したバーテンダー   作:格好いい囲い

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蘇るモノ

「これは剣を極め、剣の為に生き、剣の境地にたどり着いた俺の究極奥義…」

 

ゆらりと剣帝は上段に剣を構える。

 

「この世の全てを斬り裂き、その一閃は空をも裂く…故に空断-カラタチ-」

 

「貴様の剣は人々の犠牲で磨きあげた技ではないか!」

 

そう、剣帝は全ての剣、剣術、剣技を己がモノにするために抵抗する者を全て斬り、技を試す為に人を斬り、後世に伝える者を斬る。

剣の為に戦い続け、この世の剣全てを極めた。故に剣帝。

 

「弱き者に用は無い、消え去るがいい」

 

「民を守らずして何が帝か!我は決して負けはしない!人々の思い出を奪い斬り裂く貴様の剣には負けはしない!」

 

「受けよ!空断!!」

 

鋭い殺気を込めた空間を斬り裂く剣帝の一撃。

受ける事は不可能。鋼など容易く斬り裂く剣帝が磨きあげた究極の奥義。

 

「皆…我に力を!幻紅刃閃『ブラッディナイトメアスラッシャー』!!!」

 

空間が歪み斬り裂けて行く剣帝の一閃、しかし、まるでそこだけを避けているような一点が存在した。

 

「やる…ではないか…剣豪将軍…」

 

その一点が、剣に乗せた想いが剣帝を貫く。

 

「人は間違う生き物なのだ…貴様は剣を極めたが民を導く事はなかった。その民の想いが貴様の剣を越えたのだ」

 

「剣を極めた俺が…最後に敗れたのは剣ではなかったのか…」

 

「しかし、貴様は強かった…ソードキングの名は伊達ではないな」

 

「ふっ…貴様も…な」

 

そう言って剣帝は息を引き取った。

 

「我もいつかは元の世界に帰れるだろうか…なぁ八幡よ」

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

さて、何処から突っ込んだものか…剣帝なのかソードキングなのか、剣豪将軍なのか材木座なのか、皆の想いが悪夢なんて呪われてるじゃねぇか。つか何で俺が登場人物にいんだよ。仮にこれがヒットしようものなら「あ、あの人剣豪将軍の友達だー!」なんて周りから言われるのは死んでも嫌だ。

 

「で?何で俺が出演してる訳?人の黒歴史勝手に増やさないでくれる?」

 

「やはり主人公には友が必要であろう!最近では主人公の親友ポジションが闇落ちしてラスボスになるのが受けがいいのだぞ!特に女性からのな!」

 

はい、ホモの匂いがしますね。

主人公が葉山で俺が親友ポジションなんて事があれば一部の女性には受けが良すぎる。特に海老なんとかさん。ましてや闇落ちまでするとは一度で何度も美味しい思いをされる。ハヤ×ハチからハチ×ハヤとかキマシタワー!!

 

「いや、お前何言ってんの?そもそも友達じゃねーから」

 

「やはり流行と言うモノは大事であるからな、うむ。異世界転生で俺TUEEE!」

 

「ねぇ、人の話聞いてる?だからって自分を異世界転生させるのはどうかと思うぞ。どうしてこの作品を書いたんですか?って聞かれた時に自分が異世界転生した物を書きたかったんです。なんていい笑い者じゃねーか」

 

俺だって出来るなら異世界で俺TUEEEしたい。

黒の死神って呼ばれて電撃を自由に使えるようになりたい。どことなく俺に似てる気がするし、特にあの死んだ目とか。メシエコードはFriend000。ダメだこりゃ。

 

「はーはっはっは!笑い者にされるのはとうの昔に慣れておるわ!」

 

「そりゃ俺もだ…」

 

そもそも笑い者にされる程に人と関わってねぇわ。

 

「んで、何飲むんだよ」

 

「無論、マティーニである。なんと言ってもカクテルの王様であるからな。この我にピッタリであろう?」

 

コイツ何処で知ったか分からないが、絶対変な知識でマティーニ頼んでるんだろう。そう思いながらマティーニを作る。

実際の所、初めてバーでマティーニを頼む時は注意した方がいい。基本的にジンとベルモット2つの酒を合わせて作る為、度数も30度程あり酒に飲み慣れていなければかなりキツイ。

そう、コイツみたいに。

 

「ぐ…こ、これは良い味わいであるな…」

 

「はぁ…ほら、氷入れてやるから無理せず薄めて飲め」

 

俺も最初はこうだったな。度数の高さもさながら、ピンに刺さったオリーブをどうすればいいかも分からず困惑したもんだ。

 

「それにしてもカクテルの名前はカッコいいのだ。我も登場人物がカクテルの名前を使った作品はどうであろうか?」

 

「それは名探偵だな。マティーニやマンハッタンはオススメだが、お前が使えるのはレモンサワーとか巨峰サワーとかそんくらいだろうな」

 

「八幡酷くない?」

 

でもその内お酒を擬人化する作品が出てきそうだよな。

例えば…クールな金髪長髪のジン。

恰幅の良い渋みのあるウォッカ。

この2つを組み合わせて新しいカクテルを作る…これじゃただのBLじゃねぇか。

 

「しかし最近我もスランプ気味でな…何を書けばいいのか分からんのだ」

 

確かに沢山書いてはいるんだろう…右手には今の時代じゃ珍しいペンタコが出来ている。デジタルじゃなく手書きの方がカッコいいからって理由を貫いているのがコイツの凄いとこではある。

 

「大したアドバイスは出来ないが…先に一杯どうだ?」

 

本当ならアイ・オープナーかオールド・ファッションドと行きたいところだが…度数が高いのが難点だな…ここはレッド・アイしよう。

レッド・アイならビールをトマトジュースで割る単純なもので度数も低し大丈夫だろう。

 

「ほぉ…ただのビールと違って苦みが無く飲みやすいぞ。さすが八幡、褒めてつかわす」

 

「俺もバーテンダーとしてはまだまだ未熟だ…だから勉強の為に違うバーで飲む事があるんだが…」

 

少し間を置いて口を開く

 

「そん時のマスターにバーテンダーの仕事は磨く事がほとんどだって言われたな。開店前には店を磨き、グラスを磨き、ボトルを磨き、氷を磨き、腕を磨く…それ以上に大事なのはバーテンダーとして魂が曇らないように魂を磨くことだって」

 

「カッコいいマスターなのだな…」

 

「今まで生きてきた俺は言い訳に言い訳を重ねて生きてきたが、師匠にはどんな事があってもお客様に出す一杯に妥協してはダメだって何度も教えられた。美味しくないと言われて、客のせいにしては腕も魂もダメになる。妥協して…ただ客に媚びる一杯を出すようになったらバーテンダーとしては終わりだ」

 

押して駄目なら諦めろ。懐かしい座右の銘を粉々に打ち砕かれるまで最初の頃はよく怒られたな。

 

「どんな世界もそうだろうが、誰しも調子の悪い時はある。疲れたり、病気だったりな。でも、それは受け手の人間には関係ない。ただ、自分がそれに合った仕事を出来ていないだけだ」

 

「読み手が満足出来るだけの作品が書けていない我が悪いと言うのか!」

 

「ちげーよ、ただそこで言い訳して進むことを諦めるのが悪い事なんだ…自分が進むのを諦めたらそこから先に進むことは無いんだよ」

 

「諦めたらそこで試合終了なのだな…」

 

おい、ボケるくらいには結構余裕ありそうじゃねぇか。

 

「まずは真似ることから始める。いきなりオリジナルカクテルなんて作れはしないからな。レシピを真似して練習する。どんなモンでも真似から始める。音楽やファッションなんて流行れば皆が真似をする。ゲームで強いパーティや装備があれば皆真似するだろ?」

 

「勿論、勝てばよかろうなのだ」

 

「究極生物みたいにどんな汚い手でも売れちまえばこっちの勝ちだ。なんてのは冗談だが、お前は色々と考え過ぎなんだよ。まず最初に周りなんて考えずに、ただ自分が面白いと思った物を書いてみろよ」

 

深く考えすぎずにただ自分が面白いと思った物を書いた方がコイツの場合いいだろう。

 

「自分が面白いと思えなければ誰も見てくれはしないか…やはり貴様は我が相棒なのだ!比企谷八幡よ!」

 

「いや、相棒じゃねぇから…」

 

後ろ指指されながら今でも中二病を貫いてるコイツの情熱は多分きっと誰にも負けないだろう。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「はちえもーーん!新しい作品を書いたのだ!早速読むが良い!」

 

 

 

 

 

 

 

ここは地球…新たな生命を育む星。

 

 

「俺達も昔は新しい世界に出る為、一つの席を賭けて過酷な戦いを潜り抜けて来た優秀な戦士だった」

 

「あぁ…まさに生死をかけた戦いであった…」

 

 

 

書き始めを少し読んで原稿用紙を伏せる。

 

「ねぇどうして微妙なド下ネタなの?」

 

「あの後帰ってからレッド・アイの事を調べたら遠回しに我を元気づけようとしてくれたのだと思い嬉しくてな。飲みながら書いたら悪乗りが進んでこうなったのだ」

 

いや、まぁそうなんだが…こう、なんだ?自分のボケを改めて解説されるくらい恥ずかしさが込み上げてくる。

 

「ただのオヤジギャグじゃねぇか…これはこれで面白そうだけどな」

 

ふっと軽く笑い昔の事を思い出していた。

人はバーテンダーという職業につくんじゃない。

バーテンダーという生き方を選ぶんだ。

給料も安いし体もキツイ。そう教えられても、俺はこの道を選んだ。

それはコイツも同じだろう。作家という職業ではなく生き方を選んだんだ。

 

「今日はこれで帰るのである。いざまた会おうぞ!」

 

「チャージ1000円、マティーニ1000円の計2000円な」

 

「…出世払いじゃダメ…?」

 

やれやれと軽く首を振る。

やっぱ生き方を選ぶ前に職業についてもらわなきゃダメだなこれは…

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