Fate/Grand Order CCC tearDrop   作:アマシロ

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第8話:死因/堕落

 

 

 

 

 

 

―――――誰か一人を相手にするのなら、相性を考えて、やはりヴァイオレット!

 カーマの相性の良さもさることならがら、ギルガメッシュ王との相性の悪さも見過ごせない。もちろん、二度同じ手が通じる王様ではないだろうが。

 

 

 

 

「ええ、楽なのは嫌いじゃないですし――――撃ちますよ」

「―――くっ、厄介ですね」

 

 

 

 恐らくは最大の武器であろうid_esを封じられ、冷静ながらも僅かに焦りも見えるヴァイオレットに考える暇を与えぬとばかりにカーマが弓を連射する。

 と、そのヴァイオレットの腕がまた布のように解けると、鞭のようにしなってあらぬ方向に向かってのび―――――空間の穴のようなものに飲み込まれた。

 

 

 瞬間、カーマの真横に出現した“穴”からその布が出現し――――即座に反応したカーマが、華麗にバク転を決めつつ蹴り落とす。

 

 

 

「……わぁ、こわーい! 初見殺しですかぁ?」

「――――っ!」

 

 

 

 まあ当たらなかったですけど、と嘲笑するカーマに続けざまに飛ばされる空間跳躍?攻撃だが、その尽くが当たらない。が、お返しとばかりに放たれる矢もヴァイオレットの機動力と身のこなしから回避される。

 

 互いに機動力のある中距離タイプ―――しかし<王の財宝>と比較して、多くて同時に二門までしか攻撃できず、更に来るタイミングも分かる。いや、どう考えても比べる相手が悪すぎるのだが、王の財宝を見ていた身としては「まだマシ」というレベルである。

 

 唯一気になるのは、ヴァイオレット自身の身の軽さか―――――。

 

 

 

 

「――――ならば、これはどうでしょう」

 

 

 

 と、これまで両手の二本だけだった鞭が、細分化――――無数に十数本に枝分かれしてカーマを狙う。防ぐか、いや。

 

 

 

――――撃ち落せ(バスターだ)、カーマ!

 

 

 

「こんなのが好きなんですか――――」

 

 

 

 瞬間、カーマの周囲から立ち上る“影”――――紙芝居のような、薄っぺらい黒い影が刃のように鋭く旋回して放たれた鞭を呑み込む。

 見た目通りというか、細分化された分だけ個々の耐久性が低下していたらしい鞭はカーマに直撃する寸前であっさりと迎撃され。

 

 

 

 

「――――ならば、これはどうでしょうか」

「っ―――――野蛮、ですね!」

 

 

 

 近距離型のサーヴァントにも劣らないだろう鋭い蹴撃。

 弓で防ぎきれずに後方に流されたカーマに、間髪入れずに放たれる二撃目。

 

 

 

―――――なら、第二再臨!

 

 

 

 

 ガンドを撃ち込み、僅かにヴァイオレットの動きが止まった瞬間――――黒い影に包まれたカーマが、青い炎と共に姿を変える。

 幼い少女の姿から、成長し大人と子どもの境目に。手にした得物も弓から金剛杵(ヴァジュラ)に。

 

 

 

「しょうがない、ですね―――――召し上がれ」

「ぐ……っ!?」

 

 

 

 見るからに強大な質量を、そして神秘を秘めた黄金の杵が青い炎と共にヴァイオレットの腹部に直撃し、そのまま吹き飛ばす。

 

 

 

「えいえい、っと」

 

 

 

 更にカーマが手を振るうと黒い球体が無数に生み出され、追撃とばかりにヴァイオレットを襲う。明らかに異様な雰囲気を持つ球体に、ヴァイオレットは吹き飛びながらも再び腕を鞭状に変形――――地面を押すことで上空に回避する。

 

 

 

 

「上の方ばかり――――ワンパターンですね、それじゃあ飽きちゃいます」

「なっ――――!?」

 

 

 

 それはさながら、インド神話のミサイルか。

 青い炎を撒き散らして飛翔したヴァジュラが空中でヴァイオレットを吹き飛ばし、燃やし、叩き落とす。

 更に地上に落下するヴァイオレットを迎えるのは先程放った黒い球体であり―――――激しい爆発と共にヴァイオレットの姿が見えなくなる。

 

 

 

 

 

 

「――――はい、お終いでーす」

 

 

 

 

 ―――――いや、多分まだだ。

 

 

 なんとなく、ただの直感に過ぎない。

 並のサーヴァントであればとっくに致命傷だろう。機動力に優れていると思えるあのヴァイオレットであれば、それほどの耐久はないかもしれない。

 

 けれどあのメルトや、リップ、BBを見ていて――――彼女たちが、そう簡単に諦めるとは到底思えない。

 

 

 

 

 

 

「――――なるほど、評価を改めねばなりませんね。貴女がたは、決して相性だけで私を追い詰めたのではなく―――――それに値する実力を持っている。そして子どもの姿でいたのも油断を誘うためだけではなくあの方が一対多では戦いやすいため」

 

 

 

 そうだ。

 カーマの武器は弓かヴァジュラ。弓矢は中距離がメインであるが、接近戦もできなくはないし矢は無限に放つことができる。が、ヴァジュラは基本的に一つしか出せない。その分だけ攻撃力は高く、また“影”を使った近接攻撃もあるが、多数を相手にする時に安定感があるのは弓だ。

 

 

 

「そして――――“彼女”たちは岸波白野に夢中でこちらには見向きもしない」

 

 

 

 

 

 僅かに視線を向けると、怪獣映画さながらに荒れ狂うキングプロテアの手をそれと同レベルに巨大な英雄王の財宝―――――山すら切り裂こうかという巨大な“翠の刃”が激突し、その衝撃で吹き飛ばされるメルトリリスを、パッションリップが放った手が掠める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あああああ―――――」

「チィ――――なんてしつこいの!? というかリップ、危ないでしょう!」

「………メ、メルトが邪魔…なのがいけないんだもん。やっぱり、お邪魔虫から先に片付けたほうが……」

 

 

「ええい、無事か白野! 無事だな、ならばよし! 海神の加護だ、魔力は尽きぬ――――出ろ、ヴィマーナ!」

 

 

 

 

 黄金の閃光が戦場を切り裂く――――人智を超えた速度と軌道で光の方舟が電子の海を縦横無尽に煌めく。

 

 

 

 

 

 

「ブンブン、とばないで――――!」

「っ、あら、怖い怖い――――っち!」

 

 

 

 

 

 

「水の神に太古の海獣、戦乙女ども、ティアマトらの大地母神――――女神を切り抜き、己が分身とするその剛毅さだけは我も認めてやろう! だが、貴様たちに用など無い! さあ、死にものぐるいで足掻くがいい――――! ゲート・オブ………バビロン!」

 

 

 

 

 キングプロテアが振り回す腕を危なげなく回避しつつ、展開されるのは英雄王の財宝を象徴するかのような、見渡す限り、どこが9割の財宝を落としてきたのかと言いたくなる凡そ300を超える砲門。

 特級の宝具だけではなくヴァジュラのようなそれほどランクの高くはない宝具まで。黄金の波紋が海のように、雲のように、見渡す限りに広がり不規則に光が煌めく。

 

 

 

 よくよく見ればとにかく巨大であったり、重量のあるもの、行動を阻害するものがキングプロテアに降り注ぎ。メルトリリスの付近には素早く、麻痺などの追加効果のあるものが。パッションリップの眼前には―――――魔剣グラムといくつかの剣が、固まって現れる。そう、“ちょうど、視界に収まるように”。

 

 

 

 

「こんなもの――――!」

「下がりなさい、リップ―――――!」

 

 

 

 

 トラッシュアンドクラッシュ――――パッションリップが、視界に映る全ての宝具を、魔剣グラムを破壊する。

 その瞬間、パッションリップの身体から力が抜けた。

 

 

 

 

 

 

「―――――ブリュンヒルデは、シグルドを殺して、物語から姿を消していく―――。そして、そのグラムこそはシグルドを象徴する武器」

「此れこそはその竜殺しめが扱った宝剣。それなりの財ではあったが、投げ捨てるべき時には我は財を惜しまぬ―――――が、白野よ。その分だけ我を楽しませろよ?」

 

 

 

 

 

 

――――あの英雄王、ガチで殺しにきている――――!?

 

 ハイ・サーヴァントは女神の複合体。その女神の逸話の元になった能力だけでなく致命傷は、当然の如く受け継いでいる―――!

 シグルドを殺して目的を失ってしまったブリュンヒルデと同じように、シグルドを象徴するグラムを破壊したパッションリップが苦しげにその異形の手を床に突く。

 

 

 

 

「どう、して――――力、が……私は、ちがう………センパイがいれば……やさしくしてくれれば、それだけでいいのに――――」

 

 

 

「一度下がりなさい、リップ! 邪魔者には、そろそろご退場願おうかしら――――! さあ、呑み込まれてしまいなさい!」

 

 

 

 

 メルトリリスの宝具は、全てのものを吸収し己の力にする“オールドレイン”を象徴するもの!

 噴出する水が、キングプロテアと周囲の空間を覆う。

 というか、キングプロテアを吸収してどんどん巨大になっていく――――!?

 

 

 

 

「では、こちらも全力でお相手しましょう―――――」

 

 

 

 

 魔力を高めたヴァイオレット、その髪の毛が蛇のように渦巻き――――その姿は、ゴルゴーン! キングプロテアに含まれているというティアマトに続いてゴルゴーンまで。爆発的に高まった魔力とともに、蛇がやはり鞭のように(しな)ってヴァジュラの防御ごとカーマを吹き飛ばす。

 

 

 

 

――――あのヴァジュラ以上のパワーなのか!

 

 

 

 筋力というより魔力によって動かすヴァジュラは、カーマのA+にも相当する魔力数値もあって相当な威力を誇る。更にそこに付与されるシヴァの炎もあり、大抵のパワー型サーヴァントさえも吹き飛ばすほど。

 

 

 

 

 だが、それなら――――。

 

 

 

 

「―――――仕方ありません、こちらも奥の手です」

 

 

 

 

 吹き飛ばされたカーマの姿が再び変わる。

 大人びた姿と、星空のように透き通る手足。そしてそこに宿る炎。

 

 今もシヴァの炎に炙られ続けるカーマのたおやかな手指が、振り下ろされたヴァイオレットの蛇を柔らかく包む。

 

 

 

 

「そんな――――押し込めない…!?」

「こんなのが好きなんですか――――?」

 

 

 

 

 宇宙を焼き尽くすというシヴァの炎、それを受けたカーマの四肢は燃やされ、シヴァの宇宙の一部になっている――――そのカーマがサーヴァントとして人の形を取ったことにより、逆説的にその四肢は宇宙を内包しているとも考えられる。

 

 つまり、カーマを一息に倒すには宇宙、とまではいかずともそれ相応の規模の攻撃でなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、私の愛に溺れなさい――――万欲応体」

 

 

 

 

 カーマの姿が、変わる。それこそはマーラとしての権能。

 対象にとって最も好ましい姿――――茶色い髪に、どこかの美形揃いのクラスで三番目くらいに可愛いとか言われそうな少女の姿。

 

 というか、ぶっちゃけ岸波さんだった。

 戦場ではあまりにも長すぎる数瞬、呆然としたヴァイオレットに岸波白野(カーマ)が艶めかしい表情とともに手をのばす

 

 百合の花が咲き乱れそうな状況に、なんか岸波さん(本物)とアルターエゴたち(メルト)から文句が飛んできた気がする。

 

 

 

「――――…まあいいです、岸波さんで出来た宇宙で愛に溺れなさい」

「かはっ――――!?」

 

 

 

 

 

 宇宙の星々、その全てが岸波白野――――。

 BBとかが憤死しそうな光景である。

 

 ロリに大人、少女に学生、スク水、ブルマ、教師、巫女、メイド、全裸、シャツ一枚にバスタオル姿、想像しうる限りの岸波白野が溢れる宇宙で、ヴァイオレットが震える。

 

 

 

 

 

 

「私が――――こんな偽物などに」

『偽物? おかしなことを言いますね、これは貴女の欲望(エゴ)そのもの――――アルターエゴ(欲望)として生まれた貴女にとっては本物と何ら変わりがないでしょう?』

 

 

 

「―――――ああ、ですが――――これは、悪くない気分ですね」

 

 

 

 

 無数に押し寄せてくる岸波白野が、ヴァイオレットの思考を甘く溶かしていく。あらゆる人間を堕落させずにいられない愛が、アルターエゴに突き刺さる。

 

 そうしてヴァイオレットは、考えるのを止めた……。

 

 

 

 

『―――――というか、最初から惚れているのなら堕とすのも簡単すぎですよね。だって、()に突き落とすだけでいいんですもの』

 

 

 

 

 

――――カーマがアルターエゴに相性有利を使える理由がよく分かるというか、アルターエゴの弱点(岸波白野への愛)が明確すぎるというか。

 

 

 

 満足げな顔で撃沈したヴァイオレットを、嫌そうな顔でカーマがヴァジュラで突く。

 

 

 

「どうしましょうか、コレ。堕ちてますし、持ち帰れば岸波さんの言うことは聞きそうですけど。消しときます?」

 

「―――――悪い子たちじゃないから、できれば殺さないであげてほしい――――!」

 

 

 

 

 

 と、どこからともなくドップラー効果つきで岸波さんの声が聞こえ、キングプロテアの腕が上空を通過する。そして、もう海といっていいほどに膨れ上がったメルトリリスが押し寄せてくる。これもう災害では。

 

 

 

 

「ええい、このような時に限って海を切り開いた剣の宝具の原点を落としているとはなぁ!」

「行くわよ、行くわよ行くわよ行くわよ―――――!」

 

 

 

 

 生き物のように、竜のように蠢く水が四方八方からギルガメッシュ王を追いかけて、キングプロテアの攻撃と合わせて乖離剣を使う暇を与えない。

 援護をしようにもあれではカーマの第二宝具を開放してなんとか――――なる、かなぁ……。

 

 

 

「いえ、あれは恐らく条件によっては対界宝具にも匹敵するもの――――無限に増殖するキングプロテアをも効果範囲に飲み込んだあの“海”は、宇宙であり“私”でもある第二宝具だと下手をすれば私ごと飲み込まれますね」

 

 

 

 死なないのを良いことに味方ごとって、パラディオン以上に凶悪すぎないだろうか。

 しかしそうすると天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)くらいしか対抗手段がないわけなのだが、それはメルトリリスも分かっている。そしてもう大海となったメルトリリス相手に時間稼ぎできる宝具がない。

 

 

 

 

 

―――――その瞬間、“黒”が蠢いた。

 

 

 

 

「貴様、よもや――――!?」

『――――かは…っ!? な、にが――――』

 

 

 

 “何か”が、メルトリリスの宝具に混じる。

 黒い絵の具が広がるように、海に流れ出た重油のように。

 

 瞬く間にドス黒く染まっていく“海”は、先程までの猛追が嘘だったかのように一切の動きを止め。

 

 

 

 

 

「―――――……ギルガメッシュ、宝具は!?」

「無理ではないが、“アレ”を黙らせねばな!」

 

 

 

 

 

「せんぱい―――――とまって!」 

 

 

 

 

 

 乖離剣を取り出すギルガメッシュ王だが、凶悪すぎるキングプロテアの癇癪の前に真名開放するだけの余裕がなく。無数の宝具も僅かに時間を稼ぐのみ。

 

 

 

―――――その間に、“海”が黒く染まりきる。

 

 

 

 

『あ、あああアアアアアァァァァッ!』

 

 

 

 

 それは、異様な光景だった。

 冷酷であっても美しく、プリマドンナとしての誇りを掲げていたメルトリリスが憎悪に溢れた声を上げる。歪んでいようと、誰もが岸波さんを求めていたアルターエゴが、殺意を以て咆哮する。

 

 岸波さんが初めて見せる焦燥を滲ませて叫ぶ。

 

 

 

 

「――――っ、一時撤退!」

「良いだろう! 乗れ、藤丸とその(ペット)よ!」

 

 

 

「それが良さそうですね―――――マスター!」

 

 

 

 カーマの手を掴み、跳ぶ―――――!

 すかさず現れた黄金の船に飛び乗り、そのまま電子の空へ。

 

 

 

 

「――――ギルガメッシュ!」

「……ふん、仕方あるまい」

 

 

 

 

 と、天の鎖が倒れていたヴァイオレットを回収し――――離れていたために為す術もなく黒い海に飲み込まれたパッションリップを見て、岸波さんが僅かに目を伏せる。

 

 

 

 アルターエゴのうち、一体を撃破し一体を捕獲。

 おおよそ順風満帆であるはずのこの戦いの結果は、自分たちの心に黒い不安を落としていた―――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




申し訳ありません、クオリティアップのため、読んで頂いている方により楽しんでいただけるように色々考えたいので少しだけ次回投稿が遅れます。
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