Fate/Grand Order CCC tearDrop   作:アマシロ

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第1話:月面/校舎

―――――およそ、サーヴァントというのは英雄ないし反英雄である。

 

 

 半人前未満の魔術師である自分、藤丸立香は身を以て識ったことであるが、“座”に記録されるレベルの功績ないし名声を残した人物というのはブッ飛んだ性格をしていることが殆どだ。

 

 

 例としては未来予知にも思える直感に従い、常に勝利を模索する常勝の騎士王……の部下であるマッシュでポテトなガウェインや全てを見通す賢王などの一般的な英雄のほか、ステゴロ聖女なマルタや皮肉屋なアンデルセンなど。およそ全員『キャラが濃い』。

 

 人類の歴史は創作の歴史。後年になって付け足されたり解釈が変わったりということも多いはずであり、そういった意味でも英雄はキャラが濃くなるのだろうが、そもそも『人と違うことをする』からこその英雄とも言える。

 

 

 他と同じでは記録する、語り継ぐ意味がない、あるいは面白みがない、ということか。

 

 

 ともかくそういった意味で、藤丸立香は英雄には程遠い。

 村を切り捨て民を救うことも、法によって民を治めることも、ステゴロで竜を鎮めることも、物語を創作することもできはしない。

 

 

 

 

 

 

 

「―――――いや、ホントにどうしましょうか。ここはやはり先輩に……でも流石にちょっと無理がありますよね。肝心のムーンセルもアレらのせいで処理落ちしているくらいですし」

 

 

 

 故に、サーヴァントが本気でテンパっている姿なんて滅多に見ることはない――――それこそ生前の縁で修羅場になった時くらいである――――し、仮に見た時は黒猫の大名行列が目の前を通過して靴紐が全てキャストオフされたくらいの不幸の兆しと言ってもいいかもしれない。だいたい何かの騒ぎ(イベント)ともいう。

 

 それが未来の月のスーパーAIことBBであれば嫌な予感しかしない。

 さて、それを踏まえた上でどうするべきだろうか。

 

 

 

 

 

ANSWER  ⇒ そっと踵を返す

        話しかける

 

 

 

 

 もちろん、場合によっては自分も対応を考える。

 だが仮にイシュタルやギルガメッシュ、BBが困っていたとしてそれはレイシフト適正があるだけのマスターになんとかできるものだろうか?

 否。断固として否である。もちろん、世界の危機であれば必然的に手伝うことになるので今は見つかる前にさっさと逃げ出すことにした。

 

 

 

 

「―――――あっ、どこに行くんですか。センパイ?」

 

 

 

―――――いや、ちょっと急用を思い出して…。

 

 

 

 

「なんですかー、ちょうどいい所に出てきて照れちゃってるんですかこのこのー。キュートな小悪魔系後輩の頼みも聞けないなんてセンパイ失格ですよ?」

 

 

 

―――――照れていないし、どちらかというと厄介事を避けたい。

 

 

 

「ひどい!? 顔を見るなり厄介事だなんて……あのカルナさんでもそこまで辛辣じゃないですよ!」

 

 

 

―――――カルナなら「自覚があるのならまだいい方だ。だが俺には自覚しながらも口にする厚顔さは真似できそうにない」とかフォローしてくれそうだもんね。

 

 

 

「それフォローじゃないですー。追い打ちですー。まあ話すつもりがないのならそれはそれで構いません。いつもどおり世界が危ないのでちょっと救ってきてくださいね、センパイ?」

 

 

 

ANSWER  わかった

     ⇒ それはどんな要件なのか?

 

 

 

 

 

「――――――、」

 

 

 

 

 BBの表情が固まる。

 いや、別に行くのが嫌なわけではないのだ。

 ――――人類最後のマスターとして、それが誰かのためになるならやるしかないと、できる限りやっていきたいと思っている。

 

 とはいえ、命がけだったり大変だったりすることを考えればせめて事前説明くらいあってもいいのではないだろうか。

 

 

 

 

 

「むむむ……微妙に痛いところを。今回ばかりはちょっと本気でヤバそうなので流石のBBちゃんでも有無を言わさず、というのはどうかなーと思わないでもないですし」

 

 

 

――――そんなに!?

 あのキアラとの戦いに、一切の説明も何もなくというか詐欺まがいな感じで放り込んだBBが躊躇するレベルとは一体。今更ながらに本気で行きたくない気持ちと、行かなければならなそうだという諦めが同時に湧き上がってくる。できればあまり味わいたくないハーモーニーである。

 

 

 

「まあ、例えるのなら月の“聖杯大戦”です。ムーンセル規格のサーヴァントしか使えないので現地で調達してもらいますけど」

 

 

 

―――――そ、れは。

 確かに辛い、辛いが……。

 

 

 

 

ANSWER    それくらいならよくあることだ。任せてほしい。

        そんな聖杯戦争に参加できるか。帰らせてもらう!

      ⇒ ダウト。BBがその程度で躊躇するはずがない。

 

 

 

 

――――――BBなら規格変更くらい余裕では? というか誰が黒幕とかわかっている範囲の情報は出しておいてほしい。

 

 

 

「………聞いておいてやっぱり嫌だ、なんて受け付けませんよ? はーい、逃しませーん! 今回の事件は月にある聖杯……ムーンセル・オートマトンに起きたとある異変によるものです。まあそもそもムーンセルがあるコト自体がおかしいんですけど。それだけなら無害なので省きます」

 

 

 

 どこからともなく出てきた黒い影に拘束されつつ、いつもどおりの声音で、しかし真剣な表情のBBが言う。

 

 

 

「もともとムーンセルはいわゆる宇宙人が作ったスパコン、観測装置にして記録装置です。これは特に何もしない『傍観者』とも言える無害な品ですが、その姉妹品というか類似品であるヴェルバーは文明を破壊することによって記録する『捕食者』です」

 

「ヴェルバーと、その尖兵によるムーンセルによる侵略行為……それこそが全ての始まりだったのですが。方法が問題だったんです」

 

 

 

 聖杯が侵略を受けている、というだけで大問題な気がするのだが。

 それ普通にセラフィックスの時と同じかそれ以上の大災害では。

 

 

 

「いえ、普通に侵略されただけなら月の王……私の先輩がなんだかんだで解決しちゃうので特に問題ないんですが」

 

 

 

 問題ないのか。先輩凄すぎでは。

 BBの先輩……そんな凄い人ならどんな性格なのかも気になるところ。例えるならどんな………もしかしてギルガメッシュ王みたいな人なのだろうか。

 

 

 

「全然違いますー! もっとこう、影が薄くて個性も薄そうだけど実は優しくて何があっても絶対諦めないところが素敵な――――こほん。そ、それはともかく。問題はその先輩が月の王でないタイミング、いち参加者でしかない聖杯戦争に殴り込みをかけてきたことです!」

 

 

 

 

 ……? つまり、例えるなら選定の剣を抜く前のアーサー王が襲われた的な?

 

 

 

 

「……そうですね、まあそんな感じです。実際のところ先輩が月の王なのは確定しているのでそこは問題ないんですが、それでも先輩が襲われるのを見過ごすとか後輩としてどうかと思いますし――――あとムーンセルが乗っ取られると後々面倒なので。既に微小特異点くらいのリソースは軽く奪われていますけど」

 

 

 

 なるほど、つまりはいつもどおり聖杯を持ってる感じの相手が敵ということか。

 

 

 

 

「いつも通りって……センパイも割と大概ですよね。まあとにかく、平行世界のムーンセルが次々と掌握されるようなことになればどんな問題が起こるか分かりません。本当ならばこちらも相応の戦力を送り込みたいところなのですが―――――そのヴェルバーの特性は、侵略です」

 

 

 

 うん? つまりムーンセルが侵略されているせいで上手く対処できていないということだろうか。

 

 

 

「そうですね。聖杯大戦をモチーフに2陣営、128対128の戦いくらいならまだなんとかなったんですが」

 

 

 

 ……いや、256騎もサーヴァントが戦っていたらセラフィックスでも跡形も無くなりそうな勢いでは? もちろん、キアラがいなければだが。

 

 

 

「残念ですが最大128陣営128サーヴァントの聖杯大戦が勃発しました」

 

 

―――――え、今なんて?

 

 

 

「最大で総勢16384騎くらいのサーヴァントによる領域制圧型聖杯大戦です。あと超級の

2体が暴れまわって(怪獣映画して)いるのでムーンセルがリソースの不足に苦しむレベルですね。そのせいでセンパイみたいな軽量ファイルを送り込むのが精一杯です」

 

 

 

 いちまんろくせんさんびゃくはちじゅうよん。

 それはえーと、普通の聖杯戦争が7騎でやるとすると2340倍くらいの規模?

 

 

 

――――もうそれカルデアの全戦力を叩き込むレベルの災害では。

 

 

 

「最終的にはそれしかないかと。単純戦力だけなら、ムーンセルを除けば私の知る限りカルデアはぶっちぎりです。神話礼装だとか真性悪魔だとか、数の暴力が効かない相手でなければ戦いは数ですよ、数」

 

 

 ただ、その数の有利をひっくり返すのが英霊でありサーヴァントなのだが。

 128騎もいたら普通に意味不明では? 128本の聖剣を開放されたりしたら指示が追いつきそうもないのだが。まあいつもそんなに指示してないと言われればそのとおり。最前線で命を張り、適切なサーヴァントを選ぶだけのお仕事である。

 

 

 

「いえ、最大が128騎というだけでリソースを確保できていない陣営はそこまで多くのサーヴァントを呼び出せません。それに空間のリソースも枯渇していますし、マトモに戦おうと思えばこれまで通り3対3で良いと思いますよ」

 

 

 

 なんだ。それなら問題ない。

 やるしかないのならなんとかする。本当にどうしようもなければBBも頼んでこないだろうし。

 

 

 

「本当に良いんですね――――ええ、分かりました。ムーンセルのリソース不足のせいでサーヴァントを送り込むだけの余裕がないので容量100MBなセンパイを単身送り込んで現地でリソース確保という過酷な任務ですが、きっとセンパイならしぶとく生き残ってくれると信じてます」

 

 

 

 

―――――いや、ちょっと待ってほしい。

 確かに前回とかもそんな感じだったけれども! 

 

 

 

 

 

「残念、一刻の猶予もないので待ちませーん! BB、シフト―――――!」

 

 

 

 

 せめて心と所持品の準備を―――――!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光とともに落ちてゆく。

 天と地が逆さまになったかのように上に落ちる。

 

 過ぎ去る星々の光だけが、自分の位置が変わっていることを教えてくれる。

 

 

 

 

『――――れは、―――――きをしっかり―――――』

 

 

 

 

 途切れがちな声が耳に響くと、何かに引き寄せられるように徐々に地面が近づく。

 広大な海――――虚数の海に揺蕩う、白い校舎。

 

 そして、そのまま魂を揺さぶられるような激しい衝撃とともに意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ました時、感じたのは不自然なまでの空虚さだった。

 光や匂い、風や色――――到底電脳世界に変化したとは思えなかったセラフィックスとは真逆の、あるべき刺激すら極限まで絞られたような空間は、まるでレトロな白黒ゲームの中に迷い込んでしまったいような違和感を覚える。

 

 

 

 

 白い天井だ、というより白いだけの天井というべきなのだろうか。

 清潔、というより無機質にも思えてしまう部屋はどこか、保健室のように思える。とはいえ、ベッドが一つと椅子が一つだけしかないのだが。

 

 

 

 

「――――目が覚めたみたいですね。ご加減はいかがですか?」

 

 

 

 

 重い瞼を開くが、声はすれど姿は見えず。まだ気怠い体に鞭打って上体を起こし――――ようやく目に入ったのは、保健係なのだろうか白衣を纏った少女―――――にしては少し小さいが。

 

 なんというか、どこかで見たような感じもする少し幼い少女。

 とりあえず助けてもらったようなので、丁重にお礼を述べておく。

 

 

 

「いえ、お礼なんて――――健康管理AIの本分ですし、こっちもむしろ嬉しかったと言いますか………ところで、どうしてこんなところに?」

 

 

 

 どうして、と言われればムーンセルの問題解決のために放り込まれたのだが。

 こんなところ、と言われても残念ながらここがどこだか知らない、と答える他にない。

 

 

 

「ここは聖杯戦争の会場……だった月海原学園の保健室ですが。ムーンセルの問題解決……? その、失礼ながら人類にどうにかできる範疇にないといいますか……貴方は、一体」

 

 

 

 

ANSWER   カルデアの者です

        藤丸立香です

     ⇒  ルイス・フロイスです

 

 

 

 

 私の名前はルイス・フロイ―――――。

 

 

 

「違いますよね? 流石にそのアジア系の見た目でその名前は無理がありませんか?」

 

 

 

 にこり、と笑顔だが静かな迫力を感じる。

 例えるならそう、マルタさん(ライダー)に別の聖人の前でステゴロについて話題を振ってしまったときのような。どうやらこのジョークはお気に召さなかったらしい。

 

 

 

 

ANSWER  カルデアの者です

     ⇒ 藤丸立香です

       ルイス・F・藤丸です

 

 

 

「はい、よろしくお願いしますね。私はここの健康管理AIで、桜と呼んで下さい。……それにしても藤丸さん、あんな自己紹介をされるなんて。もしかして衝撃でバグってしまったのかもって心配したんですからね」

 

 

 

 

―――――それは悪いことをした。申し訳ない。

 

 なんとなく、妙な電波を受信したというか。

 しかし心配をかけるのは良くない。ふざけるのはこのへんにしておこう。

 

 

 

 

 

「……こほん。ともかくムーンセルの問題解決とおっしゃいましたが、藤丸さんは現状をどこまでご存知ですか?」

 

 

 

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 通信端末に応答はない。

 以前のセラフィックスでもそうだったし、今回もBBが完全にスルーしていたのでそうだろうと思ったがノウム・カルデアとの通信も不可能らしい。

 

 とはいえ、BBは愉快犯に見えて意外に考えているらしいことは前回のことでも明らかだ。メルトリリスがいてくれなければ、生き延びることすら難しかった――――…本当に計算づくなのか、あの言動だとけっこう不安だが。

 

 

 そこから考えれば、聖杯戦争の会場だったというこの月海原学園に送り込まれたこと、そしてこの桜という少女の下に来たことにも何か意味があるはず。

 

 

 

 

「えーと、藤丸立香さん……あ、聖杯戦争参加者リストに登録されてますね。あれ? 既に陣営に登録されて――――」

 

 

 

 

―――――陣営? そういえば、128の陣営がどうとか聞いたような。

 

 

 てっきり128人のマスターが、それぞれサーヴァントを128騎という意味不明な聖杯戦争なのかと思ったが、違うのだろうか。

 

 桜も思う所があるのか、顔を若干引きつらせつつ頷く。

 

 

 

「ええ、本来の聖杯戦争では有り得ない――――SE.RA.PH.を根底から覆されかねない異常事態です。最も異常なのは、そのことに対してムーンセルが無反応なことですが……ともかく、更新されたルールによるとマスターはリソースを奪い合う他、敗北したマスターすらリソースの一部として自陣営に加えることが認められています。ただし、同意が必要な上にサーヴァントは消滅しますが」

 

 

 

―――――サーヴァントの、消滅。

 

 

 

 それだけ、とはとても言えないだろう。

 カルデア式の召喚では軽く100騎以上のサーヴァントと接しているが、本来の聖杯戦争では常に共にいる存在――――自分で言うなら、マシュのような存在。

 

 それではどうあっても協力体制を取るのは難しそうだ。

 

 

 

 

「……いえ、どうやら藤丸さんは既に陣営に入っていらっしゃるみたいですよ? 岸波白野さんの陣営に所属となっています」

 

 

 

 

 え、それ噂のBBの先輩では。

 BBの……先輩。本当にそれ大丈夫な人なんだろうか。いや口には出さないが。

 

 

 

 

―――――そういえば、謎の愉快犯に放り込まれたので状況がよくわからない。

 

 

 

 

「謎の愉快犯……すみません、それってもしかして私と似た顔の……?」

 

 

 

 

 心当たりがありすぎるのか、頭を抱える桜に頷いて返す。

 

 

 

 

「ごめんなさい、BBが本当にすみません……」

 

 

 

 どうやら桜は、BBを知っているらしい。

 それなら話が早い、なんだか知らないがムーンセル正常化のために殆ど説明もなく送り込まれたことを説明していく。

 が、話が進むにつれて桜が気の毒そうな顔で見てくる。

 

 

 

 

「その……はっきり言いますが無理です。ムーンセルを正常化できる可能性があるとすれば聖杯戦争で優勝することくらいです。けれど――――サーヴァントを失った岸波さんにはその可能性が」

 

 

 

―――――なんか既にサーヴァントを失ってらっしゃるー!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




Data

現在の陣営数:128
総サーヴァント数:127+■



桜(■■■■■■■) 性別:女性
身長・体重:133cm/30kg 属性:■■/■

筋力:■ 耐久:■ 敏捷:■ 魔力:■ 幸運:■ 宝具:■



進行度:ロストベルトNo.5終了後 ⇒ 聖杯戦争■回戦前
サクラメント:0 Sm
サーヴァント:0騎
■■■:1%
所属:岸波白野☆(陣営主) サーヴァント:■
   藤丸立香       サーヴァント:なし


tips
ルイス・フロイス:ポルトガルのカトリック司祭にして宣教師。インドのゴアにおいて日本宣教に向かう直前のフランシスコ・ザビエルに出会ったとされる。
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