Fate/Grand Order CCC tearDrop 作:アマシロ
どこまでも続く草原。
一体どこをモチーフにしたのか、どこか広大なシン(ロストベルトNo.3)を思わせるそこはしかし、四角かったり丸かったり、いかにもな雑魚エネミーたちがうようよしている。
『いいですか、岸波先輩に藤丸さん。今の聖杯戦争は領域制圧型――――各陣営は徘徊するエネミーを倒してSmを集め、自分の領域を拡張していきます。また他陣営のサーヴァントを倒すことでそこに割り振られたリソースを手に入れることができ、マスターを撃破することで所持している全てのSm及び領域を入手できます。またサーヴァントを失ったマスターは配下に加えることが可能ですが、その場合所持していたSm及び領域はムーンセルに還元されます』
「なるほど、マスターを増やせば勢力は増える。勢力を増やすとマスターが増えない。マスターが足りなければどれだけ大きな勢力でも指示が追いつかず―――――」
――――マスターだけいてもサーヴァントがいなければなんの意味もない。
『はい。差し当たっては藤丸さんを戦力にするためにサーヴァントの召喚が必要だと思いますが……一度割り振ったリソースは再分配できません。適度に先輩のサーヴァントであるギルガメッシュにもリソースを割り振ることが必要だと思います』
「いや、そこは問題ない。この英雄王は掛け値なしに最強クラスのサーヴァント。そしてその強さはステータスではなく財宝に依存するもの。つまりリソースが少なくとも彼にとっては大きな障害にならない―――!」
「褒めるではないか、白野。だが――――残念な知らせだ。月の裏側から貴様を追いかけるにあたって我の財、その9割を投げ捨ててきた。捨てた場所が場所故な、回収にはそれなりのリソースを必要としよう」
「な、なんだって―――――!?」
と、驚きながら若干嬉しそうな岸波さんである。
まあ、英雄王は財宝を大事にしてるもんね。それを投げ捨ててまで……自分がティアマトに狙撃された時もそうだが、この王様いざという時に格好良すぎるのである。
―――――しかし英雄王の財の9割か。1割でも並のサーヴァントには負けないだろうが、あのエルキドゥのようなトップクラスのサーヴァントを相手にするのは不安が残るだろうか。
「まあこのAUOにはエアがあるから、魔力リソースさえ残っていればどうとでもなる」
「――――ふはは、このような凡庸も極まったエリアで我にエアを抜けと! 良いだろう、だが気を引き締めろよ白野。この気配、エアを抜いたその後に何が“出る”のか――――この我でさえ読み切れぬぞ」
「む。…………わかった」
ギルガメッシュ王の持つ千里眼は未来を見通す――――それを好んで使わないのは知っているが、王様の場合は単純な頭脳だけでも状況を見通す。
改めて周囲を観察すると、確かに何か妙な気配があるというか。違和感というか。
………景色の解像度が低い、とかだろうか。
「―――――なるほど。BBが出た時に似てる。処理落ちかもしれない」
『処理落ちしている箇所では少ないリソースでの領域確保が可能ですが――――“嫌な気配”があります。気をつけて下さい』
つまり、容量の重い“何か”がいる気配があると。
桜からの解説を聞きつつ、つまりは“何かしら”の危険があるが安売りされているエリアということか。普通なら避けたいところだが―――――ここはギルガメッシュ王のマスターである岸波さんに判断を仰ぎたい。
「何にしても、自分たちは今は進むしか無い。――――それに、何がいるにせよ正体が何かくらいはわかっておいた方が戦略も立てやすいだろう」
―――――わかった。俺もできるだけの礼装、ガンドの準備はしておく。
「――――さて。では改めての初陣と行くか、マスター。見事に我を使ってみせよ!」
真っ直ぐにエネミーの群れに向かって近づくと、単純なプログラムでしかないエネミーは恐れもなくギルガメッシュ王に向けて突っ込んでくる。
それが突進ならば財らしき盾で受け流して反撃し、力を溜める気配があれば即座に剣で切り伏せる。
まるで敵の考えが読めているかのような指示は淀みなく、稀に読みが外れた時であっても黄金の主従に動揺はなく即座に反撃を潰していく。
例えるなら、それは――――王者の戦術。
湯水の如く溢れる財を、どう使うか。
何が、いつ、どのように必要か。
彼女の“読み”は、ギルガメッシュがあらゆる相手に有効な財を持つこと、そして王様自身は決して肉体的には優れていないことを熟知している。
その上で、本来なら湯水の如く行われる宝具による飽和攻撃――――リソースの不足で十全に機能しないはずのそれを最適化している。
例えるのなら、財を持つ至上の主君であるギルガメッシュの、その財を戦術という局所的な盤面、戦士の呼吸においてどう使えばより確実であるかのアドバイザー。あらゆるものに打ち勝つ最強の剣を振るう
「剣3丁――――斧!」
「ふむ、いいだろう―――――我が引導を渡してやろう」
あるいは、ギルガメッシュ王であれば彼女がおらずとも十全に財宝を扱い勝利するだろう。だが、その時――――余分な財宝を使うことを嫌うかもしれない。
王ゆえの慢心。しかしそれが、今のギルガメッシュ王にはない。
何故なら、今の彼はマスターを守る剣であり、盾。
前を見据え、戦術を練り、必死にギルガメッシュのために最適な“答え”を求め続ける
白紙だったページが埋まるように、同系統のエネミーと戦う度に“読み”が正確になっていく。それはきっと、ギルガメッシュですら手こずる強敵に見えた際にこそ彼女の真価は発揮されるのだろう。
―――――つまるところ、雑魚敵相手だと何もすることがない。
「うん、さすがAUOの黄金率。Smの方から集まってくる」
「ふはは、当然であろう――――そら、褒美に飴をやろう」
じゃらじゃらと増えていくSmを表示しながら岸波さんが頷き、ギルガメッシュ王もどこか満足げだ。
「わーい」
ほぼ無表情で、しかし心なしか嬉しそうにギルガメッシュ王が宝物庫から取り出した飴を口に入れる岸波さん。――――そして、無表情が崩れた。
愛想さえあればサーヴァントに匹敵する美少女だった岸波さんである。
「――――これは人を駄目にする飴だと思う」
「案ずるな白野。我には鞭の用意もある、駄目になったら躾直すまでのこと――――いや、それはそれで」
「だからゴージャスな変態とか言われるのでは」
「なに、王としての嗜みの一つであろう。むしろ貴様もBBめの一人くらい躾直してみせよ」
「いや、あれはあれで可愛い後輩なので……というか変なのに目覚められても困る」
「ふむ――――すまぬ、我が悪かった」
「やめて――――謝らないで!? 私の後輩にそっちの気がありそうなんて現実に気づかせないで!?」
「まあBBめの分身を見れば一目瞭然よな。ところで藤丸よ、貴様は召喚する英霊は決めているのか?」
露骨に話をそらしておられる……。
とはいえ英霊の話は大事だ。誰がきてくれるかによって全く戦況が変わる……ん?
――――え。英霊って、ガチャ……ランダムで呼び出されるものでは?
「……………それは、なんというか」
「―――――その発想、ハサンよな」
―――――な、んと。英霊召喚するとマーボーが出てくるのは一般的ではないのか。
「―――――なんだって。そんなすばらしいガチャがあるなら回さなくては」
「―――――なに。そのような駄作、この我が手ずから絶版にしてくれよう」
なんとなくこれまでは息ピッタリだった主従が顔を見合わせる。
あの、胃を破壊するマーボーを食べてみた身としてはギルガメッシュ王に賛同したい。
「そんな。――――なぜあの神父以外マーボーの良さが分からないのか」
「白野、貴様がアレを常食するのなら我は藤丸に契約を移すことも考えるぞ」
「酷い、酷すぎる――――私との戦いはその程度のものだったのか」
「ええい、戯けめ! あの劇物がその程度で収まるものか! 匂いだけで痛いことに飽き足らず、この我にアレを食わせようとするマスターなぞ二人もいらぬ!」
なんだかんだ常食にしなければいいと言ってくれているあたり相当に譲歩してくれていると思うのだが。まあじゃれ合いの一部なのか、食い下がる岸波さんと本気で頭を抱えそうなギルガメッシュ王―――――いや、まさか本気なのかもしれない。
「まあいい、藤丸。貴様が望みの英霊がいるのであれば、この我が適切な触媒を貸し与えてやろう。―――地球の、英霊と呼ぶに値するものであれば誰であろうと網羅できよう」
――――それは、正直ものすごく魅力的だ。
しかしギルガメッシュ王がいる今、必要になるとすれば……前衛か、あるいはサポーターだろうか。
「うん。ギルガメッシュの財も減ってるし、前線を支えられるか、継戦能力を高めてくれるサーヴァントだと助かる」
「そうさな、間違っても贋作者などは不要だぞ」
セイバーなら前衛ができるので◎、アーチャーは不要、ランサーは○だが、敏捷の高さで逆に邪魔にならないかは心配。ライダーはギルガメッシュとの相性を考えると△。乗り物で岸波さんが安全になるのは良いのだが、彼らの信頼関係を考えれば不要な気もするし多分絨毯爆撃の邪魔になる。アサシンは……まあキングハサンさんとかでない限りギルガメッシュ王とは相性が悪そうか。キャスターは◎、例えばマーリンの幻術や強化は間違いなく強敵との戦いで役に立つしリソースを集める上でも頼りになりそうなのがキャスター。バーサーカーはリソース不足だと十全に働かないので不要。
――――やっぱりセイバーかキャスターだろうか。でもマーリンは世界が滅んでいないと召喚できないんだっけ。
「ふむ、そうさな――――今はピックアップされておらぬ故、諦めよ」
ピックアップ―――――!?
やっぱりここに来てもそれを聞くことになるのか!
「まあ特殊な英霊には特殊な条件が必要なものよ。我の財であれば、条件さえ整えば確実に狙った英霊を呼び出してやるが――――無いものはどうにもならん」
「ピックアップされてれば呼べるんだ、かのアーサー王に仕えた花の魔術師。……ギルガメッシュピックアップは?」
「ふん、前にも言ったはずだぞ白野。我が凡百の魔術師に応える道理はなく、この時代において我の役目はとうに終わっている。――――が、そうさな。藤丸であれば応えるとは思うが………我は二人もいらぬ」
「うん。なんというか、ミラーマッチが始まりそう」
―――――ちなみに、賢王様は?
「あれもまたウルクの危機に応じての召喚故な、貴様の名誉ウルク民ランクが上がったその時は考えてやろう」
「――――もしかしなくても、ギルガメッシュの別の姿の話だろうか」
「ええい、急に食いつくでない! 何故我の雑種を我に分け与える機会を作らねばならぬ、断固拒否だ。我以外の凡百のサーヴァントからマシなものを選ぶが良い!」
「ギルガメッシュ以外の英雄――――玉藻の前とか、ネロ・クラウディウスとか、無銘とかだろうか。ガウェインはレオのところにいるだろうし」
割とピンポイントでキャスターとセイバーだ。
……しかし無銘とは。錬鉄の英雄とかそういう感じの響きなのだろうか。
「英霊―――――アーサー王とか?」
「――――――ふん、あやつの宝具は神造宝具。我の蔵には原型となるものが無い―――かの選定の剣、その原型となるものはあるが、それを使えばむしろカラドボルグ由来の英霊が呼び出されるだろうよ」
そういえば、確かに。
神造宝具以外の英雄……あとギルガメッシュ王は神が嫌いなことも考慮しなくては。沖田さんはちょっと紙耐久すぎるし―――――。
そんなことを考えている間に、不意に世界が“ブレ”た。
世界という薄皮を破るように。
シャドウボーダーが虚数潜航するように、突然に。
独特の寒気のような感覚とともに、身体が重くなるのを感じる。
明らかな、旧世代のパソコンのような処理落ち――――!
およそ伝え聞くムーンセルにふさわしくないこの状況が、どれほど異常であるのか。それを判断する暇すらなく、“円”が見えた。
それは、オリュンポスで見たものと本質的には近しい。
理解できないもの――――あまりに大きい、規格が違うもの。
人が、あまりに巨大なものの形を把握できずに見上げるように。
その“円”が、“目”であるのだと、気づくまでに時間をかけすぎた。
「――――――ぁ、ぁあああ―――――――はくのせんぱい、みぃつけた」