Fate/Grand Order CCC tearDrop 作:アマシロ
「ギルガメッシュ―――――」
「―――――天の鎖よ!
空間を引き裂くようにして現れた“目”に続くように、“指”が裂け目を押し広げようとする。その指に巻き付くようにして押し留めようとするのはかつてティアマト神すら押し留めた
が、かつて第7特異点でのそれがエルキドゥ自身による
「――――“お願い”!」
「この我に慢心を捨てろと来たか――――良いだろう白野! 今再び、貴様が召喚した者が何者であるかその眼に焼き付けるがいい! ―――――起きろ、エアよ!」
黄金の波紋が無数に現れ、一丁一丁が大英雄のそれに匹敵する武器群――――ランクにしてAは下らないそれらが、波濤のように押し寄せ。裂け目の向こうの“目”が僅かに細められる。
「なに―――――じゃまです。きえて」
二本の指が構えられ、力を溜めて放つ――――ただのデコピン。
たったそれだけが、想像の埒外の破壊となって吹き荒れる。
例えるのなら宝具の開放。衝撃だけで殆どの宝具を遥か彼方に弾き飛ばし、かき乱されたデータの奔流が暴風の如く吹き荒れる。
「くっ――――!? そのまま撃って!」
「チィッ、白野! ――――
こちらはカルデア戦闘服に搭載されていた防御結界、ダ・ヴィンチちゃんたちによって日々更新され続けるそれが辛うじて衝撃を受け流す。そして吹き飛ばされた岸波さんを緩めに、かつ網のように張り巡らされた鎖が受け止める。
吹き飛ばされる岸波さんを見て血相を変えたのはギルガメッシュだけではなく。
大きく“目”が見開かれたかと思うと、凄まじい衝撃がSE.RA.PH.を揺らす。
小さく舌打ちしたギルガメッシュが体勢を変え、“天の理”―――――最大パワーで開放しようとするのではなく“地の理”、その場で力を溜めエアの回転速度が増していく。それに伴って空間の断層、真紅の風が“指”の衝撃波すら切り裂き始める。
「――――――どうして。なんで、にげるんですか」
「
ギシリ、と空間が“軋む”。
対界宝具である<天地乖離す開闢の星>と、空間そのものを破砕する圧倒的なまでの質量が激突する前から空間に多大な負荷をかけているのである。
ただの質量と侮るなかれ。
力とは質量×速さ――――ティアマトを始めとする地母神の神秘が凝縮された圧倒的な、それこそ恒星すら超える質量であれば、その威力は対界宝具にすら引けを取るものではない―――――!
―――――瞬間強化ァ!
「<gain_str(32);>!」
この瞬間、この瞬間のためだけに戦闘開始から溜めていた魔力の全てをギルガメッシュに送り込む。エアの巻き起こす空間断層が甲高い悲鳴のような音を響かせて更に激しく巻き起こる。
「あいをくれるって、いったのに―――――!」
「――――――
名をつけるのなら、“
SE.RA.PH.ですら処理しきれないほどの負荷によりあらゆる束縛・法則を上書きし、破壊する究極の力任せ。あらゆる防御を無にする、チートどころかバグ技にも等しいそれを防ぐことができるものは、SE.RA.PHというルールの上で戦うのであれば存在しない。
仮に防御宝具<熾天覆う七つの円環>であろうと、“壊れない”という特性を持つ宝具であろうと空間ごと“無かったこと”にされるそれを防ぐことはできない。
―――――だが、ここに例外が存在する。
ギルガメッシュが扱う剣こそは原初の地獄の具現すら可能とする神造兵器。擬似的な空間断層によりあらゆるもの、世界すらも破壊する。言うなれば最強の矛と矛、全く同じ特性を持つ二つの究極は純粋な威力による押し合いとなる。あるいはギルガメッシュがマスターに構わず“天の理”で放てば“領域破壊”すら一方的に押し込むほどの威力であったかもしれない。
マスターと協力者、二人分の強化によりほとんど威力の倍加した<天地乖離す開闢の星>が“拳”と激突する。
―――――永遠に引き伸ばされたかのような一瞬。
荒れ狂う空間断層も、衝撃波を撒き散らす“拳”も、全てが止まったように見えるその瞬間。ギルガメッシュの黄金の鎧が半身分だけ吹き飛び、凄絶な笑みを浮かべたギルガメッシュがエアを更に押し込む。裂け目の向こうの“目”が苦しげに歪み、激突の中心点が激しい閃光を放ち――――――音が消えた。
その瞬間自分の前に黄金の波紋と共に巨大な山のような“剣”が突き立ち。
それでも防ぎきれなかった空間そのものが“たわむ”ような反動を受けて為す術もなく吹き飛ばされる。
………
……
…
―――――こういう時、本当にマシュの有り難みを実感するよなぁ。
派手に吹き飛ばされ、肉体派英霊たち直伝の受け身を取ったまでは良かったものの――――――勢いが強すぎたためか、あるいは地形の問題か右腕の骨が完全に折れてしまった。礼装に用意してあった回復魔術を使うことも考えるが、補給がなければ一度しか使えないことを考えられば使い所は考えなくてはならない。いつもならカルデアからの支援で、一定時間で復活するのだが。
――――足が無事なら、動くには問題ない。腕が使えなくても、元々抵抗できないエネミーなのでさして状況は悪化してない。
幸いにも、見ていた限りではギルガメッシュ王の一撃は“目”の主――――恐らくはキングプロテアに打ち勝っていた。
合流することができれば特に大きな問題もないだろう。――――あのプロテアが、完全に岸波さんをロックオンしていることがわかったのは問題と言えば問題だが、くるのがわかっていれば罠を張るなり何なり対策のしようがある。
ともかくあの初見殺しすぎる超威力の攻撃を凌いでみせる岸波さんとギルガメッシュ王の主従には脱帽ものだ。一体何度死線を越えればあれほどの練度に至るのか。自分はそのあたりマシュに頼りきりなのがよく分かる。
マシュがいてくれれば、と弱りそうになる心にムチを打つ。
痛みではっきりしてきた意識で、おそらく近くまで飛ばされたと思われる月海原学園を目指した。
…………
………
…
一種の
まだギルガメッシュ王たちは戻ってきていないのか、あの金色の輝きは見えない。
ともかく安全地帯であるのなら、と礼装の回復魔術を起動すると腕の痛みもマシになり、そのほか腹部などの細かい痛みもなくなっていく。
先程の激突の影響もあったのか更に校舎の一部が崩壊し、スケルトンでも出そうなレベルの廃校舎にしか見えない月海原学園だが、少なくとも出発前に調べ、桜にも聞いた限りでエネミーも存在せず、“本来の聖杯戦争”のためにSE.RA.PHによってマスター間の戦闘行為も禁止されているのだという。
――――そういえば、桜は大丈夫だろうか。
どこか、何かがマシュと似ているような気もするがマシュよりも幼い少女――――いや、マシュも見た目はともかく幼いのだが。AIの年齢も見た目通りではないだろうし、これは不毛か。
とりあえず無事でいることを祈りつつ保健室に足を踏み入れると、いた。
―――――桜!?
真っ白な椅子にもたれ掛かるように、力なく座り込む桜。
慌てて駆け寄り抱え起こすと、桜は僅かに目を開いて瞬かせた。
「――――――すみません、スリープしてしまいました。あれが英雄王ギルガメッシュの宝具――――激突の衝撃で校舎の保護プログラムにすらダメージが通ってしまったみたいですね」
――――保護の貫通、いやそれくらい起きておかしくはないかもしれないが。もしかして、校舎の保護プログラムすらリソースを削減しているのではないだろうか?
普通であれば、これほど離れた距離の、しっかりと保護されているべきエリアにまで校舎が倒壊しかかるほどの影響が出るのは流石に考えにくい。あらゆるリソースが削減されている有様を見てつい口を出た言葉だったが、桜は僅かに目を見開くと力なく微笑んだ。
「――――仕方がないんです。今では、SE.RA.PH.全体でリソースが不足しています。そしてこの月海原学園は、もう不要な施設なんです。リソースの奪い合いもできず、近くには“キングプロテア”が彷徨く危険エリア――――以前ここを管轄していた“間桐桜”は新たなるセーフティエリアとして“旧校舎”をサルベージ、他の上級AIたちと聖杯戦争を維持するために働いています」
「そして、限られたリソースを有効に使うためには人員も選抜する必要があり。私は、“間桐桜”と役割が被っていた。ムーンセルによって義務付けられた自己保存のために消えることもできず、リソースの不足で“仕事”をすることもできない――――不完全なAIです」
そこまで言ったところで桜は一旦言葉を切り、どこか遠くを見るように呟いた。
「誰かを活かすべき健康管理AIが、自己保存のために無駄にリソースを食い潰している。そんな不完全なAIなんて、不快で、迷惑で、不要でしょう――――?」
――――なるほど、つまり仕事が無いと。そんな君に頼みたいことがある。
先程のギルガメッシュとキングプロテアの激突、その際に発動した瞬間強化で“戦闘に参加した”と判定されたのだろう、巻き添えを食らって消滅したエネミーのSmの一部がこちらに流れ込んできていた――――そのなけなしのSmを、全部譲渡する。
「――――――どうして、ですか。貴方に必要なのは、戦うための戦力でしょう」
桜の顔は真剣だ。
決して同情も、哀れみも求めていない。
本気で自分が不要な存在だと信じているから、そこに投資する真似をした自分に対して怒りを覚えている。
―――――しかし思い出してほしい、自分は一人では外に出ることはできないし、英霊を召喚するのにこのSmでは足りない。だから安全な場所が必要だし、自分の腕前では十分に回復することすら難しい。客観的に見て、此処から動くことすらままならない半人前の魔術師に健康管理AIは本当に不要だろうか。
「それでも、私は――――――」
――――それに。思うに、怪我人が頼んでいるのに健康管理してくれないAIの方がよっぽど無能では?
―――――どこぞの弓兵のように、皮肉げに言い放つ。
どこか苦しげだった桜が真顔になり、譲渡したSmが光の粒子になってとあるものを形作っていく―――――それは一抱えもある透き通る硝子のような円筒。藤色のような、それだけ見ると綺麗な色のように見える液体。そして、鋭い針。
それは、どう見ても。
―――――何故にそんな巨大な注射器を!?
「――――ご存じないですか? 私、無能なAIなので……これなら確実に打ち込めますし、再発予防にも効果があって―――――何より、一番効率がいいんですよ?」
―――――何の。何の効率!? ちょっと、落ち着いてほしい。それもう武器じゃなかろうか。そんな太い針は魔獣とかそういうのの治療に使うべきでは――――アーッ!?
この後めちゃくちゃ治療された。
Smの活用法
・領域を広げる(自分の領土であり、定期的にSmが手に入るほか、領域内での戦闘にバフがかかる。また他マスターの侵入を感知できる)
・回復する(健康管理AIの協力が必要。礼装の使用回数、MPなども回復)
・アイテムの購入(購買NPCの協力が必要)
・施設の建築など
*令呪も強力なリソースとして活用可能である。が、カルデア式令呪は相変わらず『霊基修復』『宝具開放』が主な効果。他の使い方は(恐らく)されない。なお令呪の補給はカルデアに帰還しなければ不可能。