仮面ライダーヒーロー   作:NORI

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皆さま大変お待たせいたしました。
結構サボっていました。
本当に申し訳ないです。
次は、来月中には投稿したいと思います。
それと、一回間違えて、投稿してしまったのですが、そちらは執筆途中の為削除させていただきました。
※11月27日修正しました。


愛と憎悪

もう随分と昔の頃の事なのに、出久はその一連の出来事を昨日の事のように鮮明に記憶していた。

 あれは、15年前。まだ出久が5歳の頃。

 

 「ひどいよかっちゃん・・・!泣いてるだろ・・・!?これ以上は僕が許さゃなへぞ!!」

 

 出久は胸の内から湧き上がる恐怖を・・・・・必死に抑え、目の前の幼馴染、後にナンバーワンヒーローとなる爆轟勝己とその手下の虐めっ子たちに対して、必死に威嚇をしていた。

 

 泣いている少女を背に震える膝を立たせ、緑がかった癖毛とそばかすのある出久は、必死に目の前の同年代の虐めっ子たちを威嚇し続けていた。

 全ては、自分の後ろにいるもう一人の幼馴染の少女を守るために。

 

 しかし、その奮闘空しく、出久はなすすべなく、相手達にやられた。

 同年代の虐めっこらは、嘲笑いながら、様々な個性を使い、少年を痛めつけた。

 しばらくして気がすんだのか、彼等は少女には手を出さず、どこかへと去っていた。

 

 出久は5歳の子が負うには、相応しくないほどの痛々しい姿となり地面に倒れ伏していた。

 口内で切った血と地面に倒れた時に入った砂利が、口内で混ざり合い、彼にとって一生忘れられないような不快な味になった。

 

 「だ、大丈夫?イズくん?」

 

 少女が心配そうに出久に声をかけ、綺麗なハンカチで彼についた土の汚れを落としてくれた。

 

 「だ、大丈夫だよ!✖✖✖ちゃん!」

 

 彼女を心配させまいと、痛みと辛さで今にも泣きそうになる自分を、必死に抑え、無理やり笑顔を作り安心させようとする。

 

 「ごめんね、私のせいで。ごめんね」

 

 繰り返し謝る彼女を落ち着かせようと、出久は彼女を優しく抱きしめた。

 

 「気にしないで。君は悪くない。僕が君を守ってみせるから」

 

 その言葉に耐えきれず、滝のように涙を流す少女。

 

 「ありがとう。ありがとう。イズくん。イズくんは、私にとって最高のヒーローだよ!」

 

 ヒーロー。自らが憧れ求めるその言葉を、言われた出久もまた、彼女と同じように滝のように涙を流した。

 愛しい彼女を守ろう。まだ幼い出久は心の中でそう誓った。

 互いに抱きしめあい、涙を流しあう二人の少年少女がいるこの公園。

 

 昔は、この公園には三人の少年たちが肩を並べて仲良く遊んでいた。

 一人は、臆病な所があるが、他者を思いやれる心を持つ少年、緑谷出久。

 一人は、勝気な性格で、常に前へと進める行動力溢れる少年、爆豪勝己。

 一人は、二人の幼馴染を大切に想う、紅一点可愛らしい少女、✖✖✖✖✖。

 

 三人は、互いの家が近くとあって、親も顔見知り同士、おまけに幼児園まで一緒。

 三人は、赤ん坊の頃からの仲で、遊ぶのも、食べるのも、風呂も、寝るのも一緒だった。そして、それは夢も一緒だった。

 

 三人はヒーローが大好きだったが、特に当時のナンバーワンヒーロー、オールマイトの大ファンだった。筋骨隆々、放たれる拳は幾万ものヴィランを打倒し、笑顔で幾万もの人を救う、それが最高のヒーロー、オールマイトだった。

 

 しかし、同じ人に憧れながらも、三人が憧れる姿はそれぞれ違った。

 出久は『どんなに困っている人でも、笑顔で救う姿』に。

 勝己は『どんなに強そうなヴィランでも勝利する姿』に。

 ✖✖✖は『どんなに血だらけになっても、倒れない姿』に。

 憧れの形こそ違うもの、それで三人の絆が断たれることはなかった。

 

 三人はいつしか自らの夢を語り合うようになっていった。

 出久は『オールマイトのような、笑顔で人を救う最高のヒーロー』。

 勝己は『オールマイトをも超える、最強のナンバーワンヒーロー』。

 ✖✖✖は『オールマイトみたく、血だらけになっても立つヒーロー』。

 三人は、それぞれがそれぞれ思い描く、ヒーローを目指して走っていくと、信じていた。

 

 個性が発現するまでは。

 

 通常、個性は異形型を除いて4、5歳ほどで発現する。

 しかし、出久は何の能力も持たない、世界で二割しかいないという無個性だった。

 その事を医者から告げられた際に「ヒーローは諦めた方が良い」とまで諭された。

 絶望に満ちる出久に、母親が何度も「ごめんね、ごめんね」と繰り返し謝ってきた。

 

 けれど、少年は夢を諦めれずにいた。幼馴染たちと語り合った夢を、捨てる事は出来なかった。

 だが、運命はどこまでも出久に対して残酷だった。

 勝己の個性、『爆破』。その個性は、これまで三人の関係までも、爆破し壊してしまった。

 

 勝己は、自身こそが一番であると思い込み、他者を見下し、特に出久には『木偶の棒のデク』と詐称し、いじめを行うようになっていた。

 出久は「自分が無個性であるのにも関わらず、ヒーローを夢見ているから、虐められるのだ」と感じていた。

 そして、その虐めの魔の手は、✖✖✖にまで伸びていった。

 

 何故関係が、ここまで壊れてしまったのか。何故自分たちのみを虐めるのか。かつては同じ夢を抱いた友だったというのに。

 どんなに泣いても、どんなに苦しくても二人にはその理由が分からなかった。

 

 だが出久にとって、一番理由が分からなかったのは『こんなにも、苦しくて痛いのに何故、ヒーローたちは自分たちを助けてくれはしないんだろう?』という疑問だった。

 

 その疑問は、成長するごとに増していったが、出久はヒーローに対する憧れを失うことはなかった。

 出久にとって、オールマイトを始めとするヒーローたちは、自らが『なりたい』と思う憧れだったからだ。

 

 三人が同じ小学校に進学し関係性が完全に瓦解した後でも、出久は相変わらず勝己の後ろについていった。

 幾度となく自分たちを突っぱねる勝己、そんな彼に辟易し距離を取ろうとする✖✖✖、そしてその関係を修復しようとする出久。

 

 出久が勝己に対してここまで執着するのは、偏に勝己に強い憧れを持っていたからだ。幼少の頃より多才で物怖じしない性格を、オールマイトと重ねていた。彼にとって一番身近で、強さの象徴が『爆豪勝己』だったからだ。

 

 そして、何よりも、彼にとって大切な友達だったからだ。

 だが、だからと言って、自分たちに対する愚行に何もしないという訳ではなく、特に✖✖✖や他の子が虐めを受けた場合には、率先して声を上げ、周りの大人たちにも、勝己をいさめてもらうよう協力を仰いだ。

 

 しかし、結果は無駄だった。

 ヒーロー絶対主義社会。

 良くも悪くも、ヒーローによって回るこの社会は、強い個性や、格好いい個性であればあるほど『ヒーロー向き』だと褒められ認められるという風潮があった。

 

 結果的に彼の行いは、『強い個性』をもっているからという理由で、見て見ぬフリをされ誰も出久の声に耳を傾ける者はいなかった。

 せめての救いは、出久と✖✖✖と勝己の両親が常識人であり、この両親たちのみが親身に話を聞き、何度も勝己に対して厳しく注意してくれたことだった。

 しかし、それも結局、勝己には響くことはなかった。

 

 「何でだろう。正しいことを言っているだけなのに、何で誰も僕の話しを聞いてはくれないんだろう。どうして、『個性がヒーロー向き』という理由だけで、虐めっ子のかっちゃんにばっかり、大人は味方するんだろう。・・・・・どうして、どうしてこんな時、ヒーローが来てくれないんだろう。人を救うのがヒーローじゃないの!?助けに来てよ、ヒーロー!僕らを助けて!全部、全部元に戻してよ!!」

 

 出久の叫びは、誰の耳に入ることはなく、ただ、空気に溶けて消えた。

 そして、この頃から出久のヒーローに対する、不信感は大きくなっていった。

 世界はどこまでも、残酷で非常だ。なら、世界と戦おうと決意した出久は、『国際反個性差別団体』の会員になり、個性差別や世界の現状の醜悪さについて、民衆に訴えた。

 

 「いつか、僕と同じような無個性や、個性で苦しんでる人々が、笑顔で暮らせる社会を作ろう」

 

 出久は静かに胸の奥で決意した。

 それが出久が、僅か小学二年生の時である。

 その頃から出久の生活は一気に忙しくなった。

 街頭演説、ビラ配り、個性差別の撤廃の署名の勧誘、実際個性差別を受けた人の話しを聞く。世界を変えるために、出久は、団体の仲間と共に出来うる限りの事をやっていた。

 

 小学三年の時。

 出久が署名のために駅前で勧誘を行っていた。

 三時間ほど前からやっているが、大勢の人間が歩いているにも関わらず、足を止めてくれるのは数人。その内の三割は冷やかし。二割はこちらを指さしなにやらひそひそと話している。

 

 残りの五割が署名をしてくれた。

 しかし、僅か数人の内の五割。

 数が少なすぎるのは誰が見ても歴然だ。

 

 「僕たちの話し聞いてくれる人ってこんなにも少ないのか・・・・・。いや、諦めちゃだめだ。もうちょっとだけ頑張ってみよう!」

 

 気を取り直した出久は、また笑顔で署名の勧誘を続けた。

 その内、一人の若い男性がこちらに向かって歩いてきた。

 

 《もしかしたら、署名してくれるかも》

 

 出久は男に向かって、署名の紙を差し出そうとしたが。

 

 「もう、やめな。こんなこと」

 

 男の冷たい一言に、出久やその場にいる誰もが凍り付いた。

 

 「こんなことしても無駄だし。誰も話しなんて聞いてくれないよ。あんたらには悪いけど、あんたらみたいな人間は、すみっこで大人しく生きていくしかないんだから」

 「いや、でも!」

 「ていうかさ、社会はマイノリティーの人間がいなくても回っていくし。そんないてもいなくても大して変わらないあんたらの言葉なんて、社会は聞いちゃくれないよ」

 

 淡々と、まるで正論を言うかのような男の言葉に、先ほどまで見向きもせずに歩いていた人々が視線をやった。

 それは驚きや困惑だったり、出久たちに対する同情だったり、もしくは男の声に同調する視線だった。

 

 その日はそれで解散したが、出久はその日の事を忘れられなかった。

 スナック感覚で行われる差別は、社会の現状をありありと物語っていた。

 ただ、それでも、いつか、いつか、必ず変わる日が来ると信じて、仲間たち同士で励ましあい、出久は戦い続けた。

 

 ただ、相変わらず勝己や同級生らの虐めは変わらなかったが。

 その当時、出久はクラス替えで、別クラスになってしまった✖✖✖も団体に誘おうとしたが、何故か✖✖✖は首を縦に振ることはなかった。断る理由を聞いても彼女は答えをはぐらかすばかりだった。

 出久としては、当時唯一の友である彼女を、仲間に引き入れたかったのでしつこく食い下がったが。

 

 「やめて!イズくんと私は、もう友達でもなんでもないの!金輪際近づいてこないで!!」

 

 顔を不快そうにゆがませ、✖✖✖は出久に向かってはっきりと、絶縁の意思を示した。

 

 「何で?どうして?君まで、僕を嫌いになるの?僕が何かした?教えてよ?」

 「うるさい!とにかく、もう近寄らないで!!」

 

 悲痛な顔を浮かべる出久に、彼女はそれだけ言うと出久の前からいなくなってしまった。

 涙は出てこなかった。

 酷く傷ついているのに、突然の理不尽な返事に怒りすら沸いているのに、彼の瞳は涙一つ流すことなく、ただ虚空を見つめるままだった。

 

 絶望的な状況下であるにも関わらず、それでも出久は団体の仕事をし続けた。

 それはもう彼には団体しか、心の拠り所がなかったのだ。

 

 出久は、団体の仲間から心配されるほど、仕事をやりまくった。それは絶望的な状況下から少しでも目を背けたかったからに違いない。

 ただそれでも、出久は笑顔を絶やすことはなかった。

 

 「いつか、オールマイトに笑顔で人を救うヒーローになるために」

 

 彼は、どんな辛い状況に立たされようと、笑顔であり続けようとした。

 幼い頃に友たちと誓った夢を守るために。

 だが、その想いは無残にも、打ち砕かれる事になる。

 

 出久が小学五年生の時。

 時刻は午後五時。

 場所は人影のない街路樹。

 天気は雨。

 

 振り続ける強い雨に身体を濡らしながら、出久は笠をさすことなく、走っていた。

 ✖✖✖の自宅へと行くためだ。

 息を切らし、雨の冷たさに身体が冷え始めていても、出久は走っている。

 自分の身体から伝う水が、汗か、雨か、わからないほどに。

 

 しかし、途中で足がもつれ、盛大に転んでしまう。

 かなり派手に転んだ所為で、身体のあちこちに擦り傷が出来、雨が傷口にしみるが、出久は気にすることなく、再び立ち上がり、走り始めた。

 

 その手には、一通の手紙が握りしめられていた。

 その手紙はかつての親友である✖✖✖から送られた最後の手紙だった。

 

 『出久くんへ。突然のお手紙ごめんなさい。

 出久くんに言いたいことがあったので手紙でお話しします。

 

 前に出久くんが、仕事一緒にやろうって誘ってくれたよね。あの時、本当はすごく嬉しかった。でも、私は酷いことを言ったよね、ごめんね。実は私はその時にクラスで酷い虐めを受けていたの。

 

 私も先生には何度か話したんだけど、先生は、聞いてくれなくて。その内、私の事をいつも気にかけてくれる出久くんの事を、クラスの子たちが知って、出久くんも虐めちゃおうって話しになって。

 

 「それだけはやめて」と頼んだら、「じゃあ、あいつに酷い事言え。そうしたら、そいつは見逃してやる」って言われて。私、本当はすごく、すごく悔しかったし悲しかったけど、仕方なく言う事聞いたんだ。

 

 でも、こんな話ししても、もう信じてもらえないよね。許してくれないよね。それでも手紙を書いたのは、もう会えなくなっちゃうから。私、お父さんの仕事の都合で引っ越す事になったんだ。

 

 それで最後に、クラスの目を盗んで、君にお手紙を出すことにしたんだ。酷い事を言って、本当にごめんなさい。それから、今までありがとう。

 

 大好きだよ。✖✖✖より』

 

 気が付いたのは、自分の下駄箱に一通の手紙が入っていることに気づき、内容を読んだ後だった。

 息を切らしながらも、出久は何とか✖✖✖の家にまでたどり着いた。

 

 しかし、そこに表札はなかった。

 すでに引っ越した後だった。

 出久は、その場に膝から崩れ落ちた。

 

 何故、自分に相談してくれなかったのだろう。

 何故、もっと早くに気付かなかったのだろう。

 何故、傷つかなくてはならないのだろう。

 

 しばらくうなだれていると、ふと、自分の近くに開いた雑誌が落ちている事に、気が付いた。

 ポイ捨ての類であろうその雑誌のページの内容は、とあるヒーローが個性差別について語っているものだった。

 放心していた出久は無自覚のうちに、その内容を読んでいた。

 

 「・・・・・なんだ、これ?」

 

 それが読み終わった出久の感想だった。

 記事の内容は酷いもので、薄っぺらく、雑で、無知で、結局最後には綺麗ごとで片付けられていた。

 自分たちが、普段人々に投げかけている言葉とは、天と地ほどの差があった。

 

 特筆するべきは、無知で薄っぺらい内容だというのに、その雑誌では大きく取り上げられているということ。

 出久たちの言葉には、ほとんどの人が耳を貸さななかったというのに。

 

 その瞬間、突如として、出久の脳裏にこれまでの出来事がフラッシュバックし始める。

 夢を諦めろと諭されたこと、親友に裏切られたこと、人は、生まれながらに平等じゃないと知ったあの日のこと、無個性だと見下され、馬鹿にされたこと、ずっと助けを求めてたのに、ヒーローは助けに来てくれなかったこと、世界を変えようと努力したのに、耳を傾けてくる人がほとんどいなかったこと、まるで息をはくように、差別されたこと、そして、何より『守る』と誓った相手を守れなかったこと。

 

 それらの出来事が一気に、出久の腹の奥底にたまった黒い感情を火山のように、噴火させた。

 

 「う、うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」 

 

 跪き、コンクリートの地面に両の拳を打ち付け、のけぞり、獣のように叫ぶ出久。

 雨が豪雨となり、雷が轟く中でも出久の憎悪の叫びは消えることは、なかった。

 身体の中で、激しくのたうち回る、後悔、憎悪、憤怒、悲しみ、絶望。

 あまりの感情の爆発に、身体全身から痛みさえ感じた。

 それでも、叫ぶのをやめられなかった。

 

 それからどれほど、時間がたったのだろう。

 しばらくして、出久は叫ぶのをようやく止めた。

 心はまだまだ叫び足りないのに、身体はそうもいかない。

 身体のほうで、せき止めれられた憎悪は、流れを変え、頭の方へと激流のように流れ込んでいく。

 

 憎悪の感情が、出久の頭の歯車を急速に回転させ、脳内をこれまでにないほど冴えわたらせていく。

 一つ一つの出来事を、単純作業のように脳内でまとめていく出久。

 全てをまとめた後、出久は一つの結論に思い至った。

 

 「ヒーローになろう」

 

 だが、それは幼馴染たちと誓いあった夢のためではない。

 

 「この世界は、ヒーローを中心に、回っているんだから。僕らのような端っこに生きる人の言う事なんて、誰も聞いちゃくれないんだから」

 

 世界のどうしようもない現実を知ってしまったから。

 

「だから、ヒーローになろう。そして、声を大にして言うんだ。この世界に個性で、差別で、虐めで苦しんでいる人がいることを。ヒーローになって、見返してやるんだ!僕らを見下したあいつらを!!」

 

 全ては復讐のために。

 

 「この世界に本当のヒーローはいない。それでも、なるしかない」

 

 本当のヒーローならば救いを求める人には、必ず手を指し伸ばすから。でも、出久たちの事は、誰も救ってくれなったのだから。

 

 「諦めよう」

 

 ヒーローに助けを求めるのを。

 

 「なるんだ。どんな方法を使ってでも。必ず、必ず、ヒーローに!」

 

 立ち上がり、未だ豪雨が降り、雷がなる空へと、手を伸ばす出久。

 

 「もう、笑顔は捨てよう。そんなものでは、人を救えないんだから。これからは、分厚い冷徹な仮面を被るんだ。誰にも負けないために!」

 

 その瞬間、脳裏に閃いた名を叫んだ。

 

 「僕は・・・・・仮面の戦士ッ!仮面ライダーだ!!」

 これが緑谷出久の原点である。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 時は変わって現代。

 時刻は夜の十二時。

 場所は人影のない路地裏。

 天気は晴れ。

 

 町の陰に隠れ、人々に『ショッカーベルト』を渡している、黒いローブを羽織った、男女の二人組が、何やら話している。

 

 「もう、十分だろう?さっさと戦いたい」

 

 片方の男が、隣にいる相棒であるもう片方の女に聞いた。

 

 「駄目です。データがまだ十分集まっていません。首領はもっとデータを集めるようにと、おっしゃていましたわ」

 「フン、チマチマと、こんなことして。怪人のデータなら、俺のを使えばいいのに」

 「首領はより多くの多種多様の怪人のデータを欲しています。つまり、より多くの人間に怪人になっていもらわないといけません。貴方だって、それは分かっているでしょう?」

 

 男の好戦的な態度を何とか諫めようとする女。

 これが初めての事ではないらしく、女の声からは男の我儘に対する苦労が、にじみ出ている。

 しかし、男の方も何度もこんなことやり取りを続けているからか、今度ばかりは。と、引き下がろうとしない。

 

 「いつまでも『受け渡し係』なんて、やっていられるかよ。最初の頃に、首領とした約束もいつまでも果たされないままだしな」

 

 参ったな。

 女がそんな声を込めるかのように、長くため息をはいた。

 こうなると、男は頑固だぞ。はてさてどうしたものかと、女が頭を悩ませていると。

 

 女の携帯に着信が入った。

 タイミングが良いのか、悪いのか。着信相手は『首領』だ。

 一度、男に断りを入れてから女は、電話に出た。

 しばらくして、話し終えた女は、男の方へと振り返った。

 

 「・・・・・良いそうですよ。首領に感謝して下さいね。貴方の我儘を聞いて下さるのですから」

 

 それを聞いた男の口は、ニヤリと笑みを浮かべていた。

 

 「待ちくたびれた。やっと戦える。まずは手始めに、闇からの報告にあった仮面ライダーってやつを潰すとするか」

 「忘れないでくださいね。私たちの目的は、『人類無個性化計画』なのですから」

 

 人類無個性化計画。

 一見すると、恐ろしい言葉を平然と口にした女は、男を問題児に言い聞かすかのように注意した。

 しかし、男の方は、まるで聞いていない。

 

 暗闇の中で、唯一輝く満月の浮かぶ夜空へと、手を伸ばす男。

 それはまるで、夜空に浮かぶ満月をその手で握りつぶすかのように。

 

 「待っていろよ。もうすぐ全部潰してやるからな」

 

 男のオッドアイに、美しい月が浮かんでいた。

 




仮面ライダーヒーロー設定裏話
出久の母、引子は×××が引っ越す事をしていたが、×××から「自分の事を考えさせたくないから、彼には言わないで」と口止めをされていた。
言うべきか、言わないべきかでかなり迷っていた引子だったが、彼女から、何度もお願いされたので、渋々了承した。
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