仮面ライダーヒーロー   作:NORI

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10月には投稿出来そうかなとか、言っておいて、遅くなってすみません。
今回は結構長めです。
それと、文章の書き方が変わりました。勝手に変えてしまい申し訳ないです。
今後はこの書き方でいこうと思います。またこれに合わせ、全話の文章も変更していく予定です。よろしくお願いします。
※11月27日修正しました。


鯨と飛蝗

 「それじゃ、僕はこれで」

 

 出久は玄関まで、見送りに来てくれた母子に手を振りながら去っていく。

 

 「おにいちゃん!バイバーイ!」

 「はい、どうも、ありがとうございました」

 

 子である和樹は元気に手を大きく振りながら、母親の方は厳かにお辞儀をしながら、別れの挨拶をした。それに合わせて、また手を振りながら、出久は榎宮家宅から遠ざかっていく。

 

 「ふぅ・・・・・」

 

 駐車場で止めてある愛機、ブラックホッパーを撫でながら、出久は今日の事を振り返っていた。

 一週間ほど前、怪人に捕らわれた少年、榎宮和樹を救う為、出動した出久。しかし、一瞬の油断によって逆に捕らわれてしまい、危機に陥る。そこに爆豪勝己こと爆発ヒーロー爆心地によって、窮地を救われる。

 結局の所、出久は彼を救えず、役に立てなかった。

 

 今日、和樹の自宅に来たのは、彼と彼の親に謝罪をするためだった。事件からしばらく経っても罪悪感に悩まされていた彼は、この日、榎宮家宅へとやってきたのだ。仮面ライダーの秘密を守るため、眼鏡とマスクと鬘をした変装は、和樹たちを騙し、また罪を重ねているようで、申し訳なかったが。

 

 仮面ライダーの情報が外部にもれ、彼らが何かしらの事件に巻き込まれないために、彼は偽名と変装を用いて、ここまで足を運んだ。足を運んだ場所は寂れた団地だった。部屋は狭く、荷物も少ないその家は、おおよそ裕福であるとは、言えないものである事は見ただけで明白だった。

 

 和樹の母に菓子折りを渡し、和樹とその母に謝罪しようとしたのだが、母はそれを止めた。母曰く。

 

 「貴方が頑張って時間を稼いでくれたから、和樹は死なずにすみました。むしろお礼を言いたいくらいです。本当に、本当にありがとうございました」

 

深々と下げられる頭を今度は、出久が止め。片方が頭をさげれば、もう片方がそれを止めを繰り返し、我慢の限界がきたらしい和樹の「ねぇ、いつまでやっているの?お兄ちゃん、遊ぼうよ!」という声に。

 

 「じゃあ、もし罪悪感を感じていらっしゃるなら、息子と少しだけ遊んでくれます?」

 

 と、母の状況を打破する為の案に、もちろん断る理由などもたない出久はこれを了承。出久と和樹。二人して外で、追いかけっこをしたり、ヒーローごっこをして、夕刻まで遊んだ。しばらく遊んだ後、和樹がトイレにいっている最中に母が漏らした話に出久は息をのんだ。

 

 和樹はあまり小学校になじめておらず、最近では休みがちになり始めているとの事。

 和樹曰く、最初の方こそ、楽しく学校に通えていたそうだが。ある日、クラスで個性の話しで盛り上がっている時に、和樹本人が自身が無個性である事を喋ってしまった。

 

 そうしたら、いきなりクラス内の空気が変わり、その日から彼をいじり始めるようになっていったのだそうだ。クラス内での彼のあだ名が個性がないから「ナイナイ君」になったり。話しをしていると決まって彼を率先的に、主に個性の事などで、いじってネタにするようになっていった。最初の方こそ、我慢していた和樹だが、やがてそれも限界になり、母に全てを話して、学校を休みがちになっていた。これが事の顛末だった。

 

 今は担任や校長にも相談しているが、学校としては、証拠がないから判断出来ない。つまり我関せずの状態なのだそうだ。これでは、学校は頼りにならないと母は語っていた。部屋を見渡せば、母親と自分を描いた和樹自作の絵が多数飾られているが、その絵のどこにも父親らしき人物がいなかった。母の話しからも父親の話しがないため、なんとなくの察しはつく。父もいず、学校も味方に出来ない中で母が、彼女が一人っきりで我が子を守っていたのだ。

 

 そのあまりの状態の醜悪さに、出久の腹の奥底にたまった憎悪のマグマが噴火しかけた。

 あの頃から、大切な彼女がいなくなってから、何も無個性やいじめられている子への扱いは変わっていなかった。そして、今の自分ににはそれらの件を、どうすることも出来ない。世界と自分の無力さを出久は呪った。

 

 「もっと、もっとだ。もっと強くならないと!誰も何も守る事が出来ない」

 

 その静かな叫びは誰にも聞かれる事はなく、彼は愛機に跨ると風の如くその場から去っていった。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 昼下がりの午後、本来なら、多くの自動車が行きかう高速道路。しかしそこには、転倒したトラックの上で一人のヴィランが暴れていた。その所為で現場は一時封鎖されていた。

 飲料水を運搬していた大型トラックは、横向きに倒れ、煙が噴き出ている。

 

 転倒させた犯人であるヴィランは、鯨のような男の怪人だ。

 海のように、鮮やかな青色の装甲、鯨のような大きな顔、そして特筆すべきは、両肩に乗るバズーカーと腕から生える鰭のような、突起物。その見た目からして強靭そうな鯨男はトラックの荷台の上に立ち、現場に駆け付けたヒーローたちを、バズーカーからジェット噴射のように、発射された水で牽制している。

 

 「たかが、水だ!怯むな!全員で取り囲め!!」

 

 リーダー各らしきヒーローが、そう指示すると、周囲のヒーローたちは自身の個性を用いて、一気に鯨男を押さえつけようと、荷台に飛び乗った。

 

 しかし、その寸前で荷台に穴をあけ、逃げる鯨男。

 ヒーローたちは、臆する事なく、同じように穴から侵入を試みようとした、その時だった。

 

 突然の大爆発。

 トラックは木っ端みじんになり、紅炎から、黒い煙が上がる。

 仲間の危機に駆け付けようとするリーダー。

 しかし、突然足が怯む。

 

 「・・・・・何だ、あれは?」

 

 未だに燃え続ける、トラックから現れる謎の巨人、いや。

 

 「・・・・・鯨?」

 

 リーダーの口が自然とその名を呟いた。

 そう、それは、まごう事なき、巨大な鯨そのものであった。

 

 「ウボォアァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」

 

 畏怖さえ感じさせるその雄叫びを発する鯨を前に、リーダーはただ立ち尽くす事しか出来なかった。

 後日、ヒーロー部隊全滅という記事が、新聞の一面を飾ることになる。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 「待機ですか?」

 

 その新聞を手にした出久が、自身の上司である男性の所長から、その言葉を聞かされた。

 

 「今回の怪人は、無個性のお前には荷が重い。待機か、もしくは後方でヒーローたちに、指示をしていろ」

 

 一瞬の静寂が、ほぼ白色で統一されたオフィスの空気を重くする。

 

 「・・・・・無個性とか、関係なくないですか?僕は戦えますし、指示よりも前線で他のヒーローたちと共に戦った方が良くないですか?」

 「奴は、これまでの怪人とは違う。7名のヒーローを一瞬で潰した強敵だ。今までもギリギリだったてのに、今回の奴なんて、危険すぎて任せておけん」

 「僕はこれまでも、戦ってこれました。ギリギリなんかじゃないです」

 「駄目だ。後方にいろ。それが受け入れられんって言うなら、待機していろ」

 

 一切答えを変えず、切り捨てる所長。

 彼の深く刻み込まれたしわが苦々しく歪む。

 来るな、という意思を所長から感じ取れる。

 

 「僕が、無個性だからですか?」

 「そうだ。加えて言うならば、お前がいつまでも、あのシステムに頼っているからだ。あれだって所詮はただのパワードスーツ。純粋な身体能力である個性には、一歩出遅れる。良いか、出久。個性がある奴とない奴とでは、どうしたって埋められない差があるんだ」

 

 所長のその言葉で会話は終了した。

 

 出久は、いつものラボに来ていた。

 共用の休憩所では、同僚たちの空気感が合わず、どうしても身体を休められないため、基本出久はいつもここにいる。

 隣で仮面ライダースーツを修復中の明は、気を苛立たせている出久の事など気にせず作業に没頭している。

 

 彼女は仮面ライダーのサポートをやってくれているが、出久の心身のサポートなどは、励ましの一つもないため、出久自身はこの事を少し、苛立ちを感じていた。

 

 「・・・・・明さん。仮面ライダーの修復。もっと早くに出来そう?」

 

 「もっちろん!クライアントの無茶無知無謀に答えるのが、出来るデザイナーですから!お望みなら、もっと早くに、より完璧に、ついでに改造なんかも施しちゃったりして、あなたにお届け出来ますよー!!」

 

 出久の無茶ぶりに笑顔で答える明。

 彼女の良いところはこういう所だよな、と出久は考えなおした。いつだって、出久の無茶苦茶に彼女は付き合ってくれたのだから。

 

 「改造はいいよ。それより修復を早めにしてほしい。・・・・・そうだな、三日以内に頼めるかな」

 「むむっ!?これはまたハードな注文ですね~。本来ならば一週間はかかる代物を三日とは。良いですよ。その代わり、改造はさせていただきますから!!」

 「いや、改造はやめて」

 

 出久は、そう言うとバイクのヘルメットを持ち出し、ドアノブに手をかけた。

 しかし、外を出る寸前、ある事を思い出した出久は、彼女の方を振り向いた。

 

 「明さん、ありがとう。本当に」

 

 既に集中状態に入っている彼女には、その言葉は届かなかったが、出久はどこか安心したかのように笑うと、ドアを彼女の集中の邪魔にならないように、そっとしめた。

 

 数時間後、ブラックホッパーで、鯨男発出現の現場に到着した出久。

 自身の素顔がばれない様に、ヘルメットはしたままだ。

 現場は未だに関係者以外の立ち入りを禁じられており、現場となっている高速道路が一時使用出来ない状態になっている。

 その現場の先客は警察。彼らもまた調査のために、現場確認などをしていた。

 

 現場を監視中の同業者に挨拶を済ませ、出久は現場確認をし始める。

 トラックは既に消化されており、後数時間もすれば撤去作業に入るとの事だ。

 

 昨日戦闘があったとは思えない程、静まり帰っている高速道路。しかし、焼け焦げ、大きく破損したトラックと、見渡せばあちこちへこんでいる道路を見ると、一気に事実であるという事を突き付けられる。

 

 《今回の怪人は数年前から、双子のコンビで活動している片割れ。しかし、これまでは、ヴィランとしては細々とした活動をしていたが、それがいきなり急変化。破壊活動などを主な行動とし始めた。丁度、その頃に、例の双子が鯨型の怪人へと、変身する所が目撃されているため、双子がショッカーベルトを使用し怪人になったと思われる。けど・・・・・。妙だ。片割れにもそしてもう一人の片割れの方にも、巨大化や鯨に変身する個性はないはず》

 

 ショッカーベルトはあくまでも、個性を強化するだけの物にすぎず、個性を変化させたり、別の個性を増やす事は出来ない。

 

 《それにどうして、トラックを襲った?奴らは破壊活動をしているが、いつもはもっと大々的に破壊工作を行っている。それがどうしてここ最近、その規模が縮小している?どうして、あのトラックのみを狙った?》

 

 狙われたトラックは、飲料メーカー、シャウタ社の所有する物だった。飲料水を運搬中に、怪人に襲われた。これまで、破壊工作が行われてきた場所は、非常にランダムだったが、いつからか、双子は互いに別々の行動をとるようになり、片割れの方は自販機、コンビニ、スーパーなどの場所で破壊工作を行うように、なってきた。そして、そのどの場所でも、一部の飲料水が盗まれていた。

 

 今回出久が、狙っているのはその片割れの方。トラックを襲った怪人だ。

 

 《場所にも一切の関連性がなく、ただ無暗に暴れまわっているにしては、全ての場所で飲料水が盗まれている事が引っかかる。だが、盗まれた飲料水は全てではない。一部の物。何かしらの、関係性があるのか・・・・・》

 

 そこまで思考を巡らせていたが、どうにも先ほどからボソボソとした声が聞こえてくるのが気になって、ついそちらの方に耳を貸してしまった。

 

 「なぁ、もしかしてアレが?」

 「しっ!聞こえるぞ!」

 「おぉ、あれが無個性の・・・。初めて見た」

 

 若い数人の警察官が話すその声は、出久を好意的に思う声質ではないと感じ取れる。それは、どちらかと言えば、奇異の物を見るかのような。

 話していた警察官たちに、睨みをきかせ静かにさせた後、予定を早めすぐに現場を後にする。

 

 《イライラする。ヒーローになれば多少は、無個性の評価も変わると思ったのに。いつまでも見下され、陰で噂される位の扱いなんて!・・・・・だけど、これも自分がイマイチ活躍出来てない所為だ。もっともっと活躍出来れば。そう、自分よりも遥かに強いヴィランを倒しさえすれば!!》

 

 出久の瞳に、憤怒と渇望の炎が燃えている。

 しかし、その炎を宿す瞳は、立ち入り禁止テープギリギリをうろつく男を捉えた。

 

 「・・・・・何、しているの?黒井君」

 「あっ!出久さん!?」

 

 親に悪戯がバレた時のような顔をした咎彦は、出久によって、近くのカフェテリアに連行された。

 

 「いやぁ~。あのですね。最初は普通に、出久さんの取材しようと思ったんですよ~。でも、出久さんったら、例の現場の方に行ったって聞いて。これは何か面白そうな物があるんじゃないかな~と追いかけて来たってわけなんですよ~」

 「取材する日以外は接触を避けるように言ってたよね」

 

 そして、今現在。どこかのんびりとした口調で言い訳を続ける咎彦を、出久は冷ややかな眼差しで見ていた。

 二人とも向かい合って座っているので、尋問でも受けているような印象がある。

 

 「あ~。そんな事言っていいんすか?こないだ、蟹男おびき寄せるの手伝ったの僕でしょ?そういや、あの時のお礼してもらってなかったな~」

 

 わざとらしく、今回の件は見逃せと言ってくる。

 しかし、あの時の借りを返せていないのもまた事実で、多少のいら立ちはあるものの出久は、フンと鼻を鳴らすだけで今回の事を見逃す事にした。

 

 「全く。君は他の記者どもとは違うと思ったから、取材を許可したけど、それは間違いだったかもしれないね」

 

 僅かに怒りを滲ませた声でそう言うと、咎彦はどこか勝ち誇ったような笑みを浮かべた。

 

 咎彦との出会い。

 それは、出久が初の無個性ヒーローという事で記者会見をした日の事。

 記者のほとんどが出久に暖かい言葉をかけることもなく、まるで嘲笑うかのように、質問を投げつけていた。その理由の多くは『無個性』だから。

 

 個性が無い。

 それだけの理由で彼を物珍し気に、時に揶揄うように、貶すような態度を彼らはしていた。無個性という存在自体が彼らにとっては、最高の玩具だったのだろう。

 いい加減、机の一つでもひっくり返してやろうかと、出久が思った。その時。

 

 「出久さんは何故ヒーローを目指したいと思ったんですか?」

 

 記者の一人がそう質問してきた。

 彼からの質問は、悪意や嘲りのようなものは一切感じられず、むしろこの陰鬱とした空気を切り裂くかのような純粋さを秘めていた。

 

 「僕が、僕がヒーローになりたいと思ったのは―――」

 

 その後も彼との質疑応答は続いた。

 彼からの言葉の節々からは出久を『無個性』としてではなく、同じ『人間』として対等に見ているという事が伝わってきた。

 記者会見が終わるころには、彼の事がすっかり気に入った出久は、いくつも来た密着取材の中で、彼、黒井咎彦を指名した。

 

 それが、彼との出会い。

 

 なのだが、彼自身の知的好奇心の固まりのような性格と、そのしたたかさから、今ではすっかり頭を悩ませる種となっている。

 彼のあの純粋さは、ただ記事を書きたいが故のものだったんだろうなぁと、出久は眉間を押さえながら思っていた。

 

 「で、どうなんです?怪人の件の進捗の方は?何か分かりました?」

 「いや、まだつかめないね。鯨男の個性が、何なのかもよく分かってないし」

 「ほーん。でも、いつかは戦う事になるんですよね?今の調子で大丈夫なんですか?」

 

 咎彦のその言葉に、ようやく静まってきた怒りを思い出してきた。

 

 『良いか、出久。個性がある奴とない奴とでは、どうしたって埋められない差があるんだ』

 

 自分の事をよく知りもしない癖に、無個性であるだけで正論でも言うかのような侮辱的な言葉に、出久は固く拳を握った。

 

 「どいつも、こいつも、個性だ。無個性だ。馬鹿らしい」

 

 小さく吐き捨てるかのようなその言葉は、咎彦の耳にかすり、咎彦は『何だ?』と言わんばかりに、首を傾げた。

 

 「・・・・・僕は今回、前線から外されているよ。僕じゃ荷が重いから、後方にいろってさ」

 「えぇっ!?そうだったんですか!すいません、そうとは知らず」

 「別に良いよ。今回は無理やりにでも、戦う気だったしね」

 「え?」

 

 それだけ言うと、出久はゆっくり立ち上がり、凶悪な笑みを浮かべた後、軽やかとも思える足取りで店を出た。

 

 「ちょ、ちょっと待って下さいよ!出久さん!駄目なんじゃないっすか!?命令を無視して!?」

 

 慌てて追いかけるように店を出てきた咎彦に、そう呼び止められる。

 

 「時間がないんだよ。僕が弱い所為で無個性の扱いは、変わらないまま。そろそろ欲しいんだ。新聞に飾るぐらいのデカい活躍が」

 

 大切な人を奪われた怒り、救えなかった後悔、このままでは、またあの時と同じ事が起きてしまうという焦りと不安、あの子の笑顔を取り戻したい、自分のような思いはさせたくないという優しさ。それらの憎悪と僅かに残った善意が入り混じり、出久は、より派手な活躍を渇望していた。

 黒い物を抱いている自覚はあれど、その感情を御する事は出来ない出久は、店前に着けたブラックホッパーに跨った。

 

 「な、何をする気ですか!?出久さん!!」

 「派手にやる気だよ」

 

 咎彦の制止とも取れるその叫びに、出久は吐き捨てるように答えると、ブラックホッパーを走らせ咎彦の前から、疾風の如く過ぎ去っていった。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 きっと運命だったのだろう。

 今回の、一連の事件の犯人であるヴィラン、怪人鯨男こと、鯨丘水底はそう感じていた。

 

 彼と彼の兄は、ヴィランとしては、小物と呼ばれれば良いほうで、実質は個性を使って少し悪さをする程度のチンピラに過ぎなかった。しかし、ある事をきっかけに、自分たちに『ある条件と引き換えに、身体の巨大化と、力の増強』の個性がある事が分かった。

 だが、その個性の力は微々たる物であまり、役に立つような物ではなかった。

 

 そんな時、仲間内から『個性を増強させるヤバいアイテムを、くれる奴らがいる』と言う情報を聞いた二人は、急いで聞いた情報を頼りに、その奴ら、裏で『受け渡し係』と呼ばれる二人組に会いにいった。

 受け渡し係からは確実に、関わっていけないようなマズイ空気を察したが、ここら辺で一旗あげたかった二人は、受け渡し係に事情を話して、アイテム、ショッカーベルトを貰う事にした。

 

 ショッカーベルトの方はすんなり貰う事が出来、何か金か、代金が必要なのか聞いたが、受け渡し係によると、そういう事でもないらしい。

 細かい事は気にしない二人は「ただでスゲーアイテムをくれた」と喜び、二人はベルトを使用して怪人へと変貌した。ベルトの力は凄まじく、これまで微弱だった自分たちの個性は、一気に協力なものとなり、そこら辺のヒーローならば一捻り出来るぐらいの実力へと、育っていった。

 

 しかし、自分たちの破壊活動に目を付けたヒーローと警察によって、また動きにくくなってしまった。強くなったと言っても、それでも高位に位置するヒーローや、多勢な警察には勝てず、二人の活動は徐々に右肩下がりになっていった。

 この状況を芳しく思わなかった、兄は弟である彼に提案を持ちかけた。

 

 「このままじゃ、俺たちはまた小物と呼ばれ、馬鹿にされる生活に逆戻りだ。そこでだ。兄弟、ここは一旦活動の方向性を変えよう。俺が暴れる準備を裏で進めるから。お前は少しの間、警察とヒーローを引き付けてくれ」

 「・・・・・あぁ、分かったよ。兄弟、準備が出来たら、また二人で暴れよう」

 「おう、約束だ。少しの間だけ頑張ってくれ。俺もすぐ戻るから」

 「約束だ、兄弟」

 

 二人は、そう約束すると互いに別々の仕事をし始めた。時折、連絡を取り合い、互いの仕事の進捗状況などを報告しあったりした。そして、兄の方から「まもなく、こちらの準備が整う」との連絡が、つい最近きた。

 

 長かった。ここに至るまでかなりの時間を要した。しかし、後もう少しすれば、また兄と暴れられる。もう誰にも自分たちの事を、小物なんて呼ばせない。もうヒーローや警察にビクビク怯える生活なんてしない。これからは兄弟二人揃って、町で大暴れするのだ。

 

 きっとこれは運命だったのだ。

 自分たちは、こうなるような運命の元に、生まれてきたのだ。日陰者のチンピラが町を恐怖に陥れる最恐のヴィランだなんて、最高じゃないか。これからだ、俺たちは。まだまだ、これから成長し続けるんだ。ヴィランとして。兄弟二人一緒に。

 

 水底は、そんな思いにふけりながら、眠りについた。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 「・・・・・何か、何かが引っかかる。」

 

 町中をブラックホッパーで走らせながら、出久は思案していた。

 

 「今回の怪人である鯨男は何故、あそこまでの個性を持っていながら、こっそり隠し持っていた?今のタイミングで発動させた理由は何だ?いや、もしかしたら、本人すらも知らなかったのか?自分の個性を?駄目だ、分からない」

 

 答えが分からないのであれば、別方向へ考えをシフトするしかない。今分かっている情報を基に、次の怪人の出現場所を特定する事にしよう。バイクがティー磁路を右折すると同時に、そう考えを切り替えた。

 

 「怪人が出現した場所はランダム。最初にコンビニ。次にデパート。スーパー。そして、最近ではトラックを襲った。だが、一体何故だ?ほとんどの場所で、飲料水のペットボトルが盗まれている。なら水を狙っているのだろうか?いや、しかし全ての水を狙っている訳ではなさそうだ。コンビニやスーパーでは、まだ多くの水が残っていた。抱えきれず逃げたという訳でもなさそうだし」

 

 ブツブツと独り言を喋りながらも、運転に淀みはない。かと言って、明確な目的地に向かっている訳ではない。ただ走っていた。広大な思念渦巻く、町と言う名の脳みその中、自分の意識をバイクに置き換え、あちこちへと走らせているのだ。

 一筋の活路を見出す為に。

 

 ただ夢中になって走っていると、ふと目の前を一台のトラックが過ぎ去っていった。

 シャウタ社のトラックだ。

 

 「そういえば、同じトラックだったな。同業者も可哀そうに。同僚たちが狙われて不安なのに、仕事を休めないなん、て・・・・・」

 

 一瞬、出久の思考が停止する。

 

 「同じ・・・・・?」

 

 《同じタイプ?盗まれた飲料水は?全部、同じ?同じもの?まさか・・・・・!》

 

 出久はハンドルを切り、自らの事務所に走っていた。

 遂に見つけたのだ。

 事件を解く鍵を。

 

 「やったぞ!これであいつを!捕まえられる!ヒーローの集団でも捕まえられなかったあいつを!この僕が!これで、これでようやく。無個性の存在が認められる!!」

 

 どこか壊れたかのような笑顔を浮かべながら、出久は事務所へと走っていった。その彼をビルの屋上から、見下ろすものが一人。銀色のショッカーベルトを腰に装着させた彼は、オッドアイの瞳で彼を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




仮面ライダーヒーロー設定裏話
榎宮和樹は、実はここまでレギュラーキャラにするつもりはなく、1、2話で登場するゲストキャラのつもりだったけど、必要に迫られてここまで書いたよ。
でも、よくよく考えれば、彼が今の世代の無個性の代表という扱いが出来そうだから、今後もちょくちょく登場するよ。
そして、次に出久。
彼は独学でヒーローになったので、雄英には通ってないよ。雄英で起きた事件、原作では出久が解決してきた事件は、一部を除いて、ほぼ勝己が解決しているよ。
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