10年前、降魔との世界規模での戦いが発生した。後に語られる降魔と人の最終決戦、降魔大戦だ。
それはここ帝都が中心になり、世界にある全ての華撃団が集結した。帝国華撃団、巴里華撃団、そして紐育華撃団だ。
総勢19名の花組は、身を挺した獅子奮迅の活躍によって降魔の危機は去った。
しかし、それの代償は余りにも大きかった。
総勢18名の華撃団の消滅と引き換えだったのだ。
そして時は降魔大戦から10年が経ち、太正二十九年……
○
新たに帝国華撃団隊長として就任した神山 誠十郎は同じく華撃団隊員であり、妹分でもある天宮 さくらの覚悟に魅せられ、かつての志と新たな覚悟を胸に灯した。
そして、新たな霊子戦闘機『無限』を駆り、華々しく活躍し、帝劇の一員として認められ、これから隊長として邁進していくことを宣言した。
しかし、帝国歌劇団にはまだ問題が山積みだった。
舞台は閑古鳥が毎回鳴く程の人気の無さ、そして演技力不足。
更に世界の華撃団が一同に集結して行われる世界華撃団大戦に優勝しなければ、帝国歌劇団が解散させられてしまう。
だが、世界華撃団大戦で勝ち抜ける程の実力はまだ帝国華撃団にはあるとは言えなかった。
「演劇の方は新たにアナスタシアさんが加わってくれたから、希望の光が見えたが実力の方は……」
新たに帝国華撃団隊長に就任した青年、神山 誠十郎は困ったように眉間に皺を寄せる。
「アナスタシアで構わないわ、キャプテン……私も実力があるとは言ったけど、世界と競うとなると少し自信がなくなるわね」
新たに隊員として加入した世界的トップスタァ、アナスタシア・パルマも少し自信なさげにしてしまう。
あの世界的トップスタァのアナスタシアが不安にしてしまうほど、各国の華撃団の実力は高い。
全員に少し暗い雰囲気が漂う。
「だ、だけど神山さんの無限の力があれば!」
隊員である天宮 さくらがアナスタシアに物申す。
しかし、それを同じく帝国華撃団に加入した誠十郎の同期、司馬 令仁が一言加える。
「各国の華撃団も高いレベルの技術を持ってる。無限を持って漸く、同じ土台になったようなもんだぜ」
「ぅ……」
少し落ち込んだ様子を見せるさくらを励まそうと誠十郎は声を張り上げる。
「大丈夫だ!!俺たちが力を合わせればどんな壁だって超えていける!!」
誠十郎の言葉で暗い雰囲気が消えたが、実力不足の不安は消えていない。
「その点に関してなのだけど、解決策はあるわ」
かつての帝国華撃団の一員として活躍し、現在は帝国歌劇団の支配人として活躍する神崎 すみれが話し出す。
「戦闘に関して師事できる人物に心当たりがあるの。神山くんにその人物へ勧誘をしてきて欲しいのですわ」
「ある人物……?」
さくらは首を傾げる。
かつての霊子甲冑、霊子戦闘機のベテランの乗り手は今現在の帝国にはいない。
旧・花組は壊滅してしまったからだ。
「ええ……かつて花組が解散し、守り手がいなくなった帝国をたった2人で守り抜いた伝説の人物ですわ」
○
神山はさくらと共に横浜の街を歩いていた。
「初めて来ましたけど、ここも銀座と同じで賑わっていますね!」
「そうだな。港街だから賑わっているんだろう」
神山はそう言いながら手元の資料を見る。
その表情は優れないものだった。
「お目当ての人物とは知り合いなんですか?」
「ああ……俺がまだ海軍に入りたての頃、俺の上官だった人だ。と言っても俺と1つしかとしは変わらないが、彼は13歳の頃から降魔と戦っていたからな」
「13歳で……」
「最後に見たのは2年前、まさか生きていたなんて」
「何があったんですか?」
「………」
神山は少し言いにくそうにして、ふと海浜公園にあるベンチが目に入った。
「少し座ろうか。長い話だからね」
「はい!」
2人はベンチに座り、神山は目の前に広がる海を見つめながら口を開く。
「帝国華撃団がなくなり、10年の間帝国を守っていたのはどこか知っているね?」
「はい。華撃団とはまた違う部隊、イェーガー部隊ですよね」
華撃団は降魔を倒し、歌劇で人々を癒す。
しかし、イェーガー部隊は降魔を倒すためだけの部隊なのだ。
その数は世界に点在していた華撃団に比べて、伯林に1つしかなかったが少数精鋭で実力も高かった。
華撃団が壊滅した際に、イェーガー部隊の隊員は世界に散らばり、各国を守っていた。
3年前までは……。
「3年前に全隊員が死亡した、と聞きました」
「そう、その3年前の戦いの場に一兵士として俺もいたんだ。あの戦いは酷いものだった。降魔の大群勢にたった2機で戦っていた。彼らは船に残っていた俺たちを逃がすために残って戦い続けた。そして、2人とも戦死したと聞いたんだ」
悲痛な表情を浮かべる神山の脳裏にはあの時の光景が鮮明に思い浮かぶ。
嵐が吹き荒れる海上で降魔の攻撃で沈没しかけている大軍艦の上で戦い続けていた2機が降魔に飲まれる瞬間を。
残って何ができたと言えば、何もできなかったかもしれないが置き去りにした罪悪感が消えたわけではない。
「神山さん……」
「……すまない。辛気臭い話をしてしまったね」
「いいえ。私達は仲間なんです。辛いことも分かち合いましょう」
「さくら……ありがとう」
優しい言葉を掛けてくれるさくらを神山は優しい目で見つめる。
見つめられたさくらは頬を赤く染め、慌てて視線を外した。
「そ、そろそろ行きましょう!目的の場所はまだ先なんですから!」
「ああ。そうだな」
神山とさくらは目的の場所を目指した。
○
横浜に広がる中華街の路地にある地下への入口。
そこを通ると地下闘技場が広がっていた。
その中央では5m程もあるフェンスに囲まれたリングがあり、それを囲むようにいる観客は沸き立っていた。
その中で観客に反して、静かに1人の年若いがフェンスの方に手を置き、俯いていた。
『サア!皆サマ!!オ待タセ致シマシタ!!本日ノ、メインイベントデス!!』
片言な日本語でアナウンスが広がり、観客もより盛り上がる。
男の向かいのフェンスの扉が広がり、そこから身長が2mを越す、筋肉の塊みたいな大男が現れる。
『モスクワノ怪物ト言ワレタ男、クラーノ・マキシモフガ!今回!コノ地下闘技場ノチャンピオンニ挑ミマス!!』
大男、マキシモフは興奮したように筋肉を膨らませ、観客湧き立たせる。
『ソレデハ試合!開始!』
ゴングが鳴り、マキシモフは男に迫り、巨木のような腕を振り上げ、男に振り下ろす。
その拳は真っ直ぐに男の頬を捉え、男は吹き飛ばされる。
頬に少し傷ができた男は立ち上がろうとするとマキシモフは追撃で蹴りを男の腹に入れる。
『オオット!?流石ノチャンピオンモモスクワノ怪物ニ為ススベガ無イカー!?』
アナウンスに観客の声が飛び交う。
「やっちまえー!モスクワの怪物!」
「今日こそチャンピオンを倒してくれよ!」
観客はマキシモフにチャンピオンを打ち負かして欲しいらしい。
されるがままのチャンピオンにさらに観客は沸き立つ。
『おい!どうした!?チャンピオンってのはこんなものなのか!?帝国の男も大したことないな!!』
マキシモフがロシア語で挑発し、トドメを刺そうと拳を男の脳天目掛けて振り下ろす。
しかし、その拳は男に受け止められ、拳を掴まれる。
「ウグッ!?」
突然の怪力で拳を握り潰されたマキシモフは痛みで顔を歪める。
男は観客席の上に設置されてある特別席を見る。
そこには恰幅のいい男が葉巻を吹かしながら、ニヤついており、男に向かって頷いた。
それを見た男は少しため息を吐き、マキシモフを見る。
『そろそろケリを付けるか』
『な……何?』
男は流暢なロシア語でマキシモフに話す。
男はマキシモフの鳩尾に深く拳を突き刺した。
「ごぉ……!?」
拳はマキシモフの腹にめり込み、嫌な音が鳴る。
そして続け様にアッパーを繰り出すとマキシモフは3m程、宙に浮かんだ。
その様子に観客は目を見開いた。
2mもある大男がそれより小さい男に吹き飛ばされるのは有り得ない光景だ。
リングに落ちたマキシモフは痛みに耐えながら、立ち上がる。
そしてマキシモフの目の前に男が飛び上がり、拳を顎目掛けて振り下ろした。
顎が砕ける音が鳴り、マキシモフはリングに倒れた。
『オオオォォォォッ!!!!』
観客は一瞬の逆転劇に歓声を上げた。
『今回ノ勝者ハ、ヤハリコノ男!!地下闘技場ノチャンピオン!!!
葛葉 仁!!!!』
男、葛葉 仁は浮かない表情のまま右拳を観客に示すように高らかに挙げた。
リングに一人でスポットライトに当たるその姿はどこか虚しいものだった。