ハードモードなリリなの転生モノ(旧代:リリなのテンプレ転生モノ)   作:振り米

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前回予約投稿の時間間違えて19:05分が9:05分になっててビックリ。


10話

 絵を描くのは好きだ。

 お世辞にも上手いとは言えないのだが、絵を描いている間は他の作業をしている時よりも一段と集中できている気がするのだ。そして、その感覚がどこか心地よくもある。

 

 だから、この作業は嫌いでは無い。

 

 のだが。

 

「俺1人に任せっぱなしってのはなぁ……」

 

 信頼されているのか、はたまた都合良く扱われているのか。真偽のほどは定かでは無い。どちらかはわからないが、1つ言えるのは厄介な仕事を信頼できる人物に押し付けたということだ。保健室の先生までもが俺1人での作業を喜んで受け入れたのだから。

 ……まあ、確かに一枚の画用紙に絵を描くために多くの人は必要ないと思うのもまた事実なのだが。

 

「こんな感じで、いいかな」

 

 さて、ペンを入れよう。と言っても大層なものではなく、数色分のマッキーペンがあるだけなのだが。

 そう思い縁取りのための黒のマッキーペンを手に取った時であった。

 

「魔力反応──、ってこれはジュエルシードか!」

 

 胸に何かが刺さったような、そんな独特な感覚。

 ここ数日の間で良く感じたものだ。こう何度も何度も経験すれば、魔力反応くらいは分かるようになるのか。

 

「そうだな、坊主。近えぞ、というか多分学校だ」

 

「な!?」

 

 確かに、近いとは感じていた。感じていたのだが、まさかこの学校であるとは思ってもみなかった。

 本来であれば、なのはの近くか、なのはが行く事の出来る範囲で起こるはずだ。

 であればこれは、アニメに収録されていなかった分のジュエルシードか。

 

 とりあえずは、冷静になるんだ。焦っていても良いことはないと二度の人生で嫌という程学んでいる

 

 ──何にせよ、なのはとユーノに連絡をしなくては。アニメに収録されていない分であったとしても、それは彼女達で封印できているはずだ。何ら問題はないだろう。

 

『ユーノ、聞こえるか。俺だ、大神だ』

 

 俺は念話を飛ばすとともに、図書室からも飛び出す。封印ができないとは言え、彼女達が来るまでの間の時間稼ぎや、出来れば敵の無力化など、やれる事はある。

 

『一縒か! 丁度良かった、今どこにいるの!?』

 

『どこって、学校だ。そんな事よりもマズイぞ、学校でジュエルシードが発動した』

 

『え!? そっちでも!?』

 

『そっちでもって、まさか』

 

『まさかのまさか、プールでジュエルシードの発動があったんだよ』

 

 またしても、アニメでは存在しない流れだ。こうも偶然が二度も続くだなんて。いや、ある種必然なのかもしれない。

 俺という不純物の参加による産物による必然、だ。

 もし、実際に学校とプールの2カ所で同時にジュエルシードが発動したら、いくらなのはとユーノでも被害を防ぎきれないだろう。故にこれはまたしても俺の責任となる。

 

 なら、俺に出来る事はこっちの魔物を無力化することくらいだ。

 

『とりあえず、一回切るぞ』

 

『了解、そっちに居てくれて助かったよ』

 

 確かに、俺がプールに行かずにここに残れた事は、今になって考えれば幸運だったのかもしれない。しかし、同時発動などという厄介事を起こした原因は、そもそも俺という存在自体にあるのだ。感謝をされる筋合いなどは決して無い。

 

 ──なんて、そんなマイナス思考は後回しだ。

 

 今は俺に出来る事をやらなくてはならない。格好の良い理由などはない。それが俺に唯一できる責任の取り方なのだから。

 

 念話を切り、全速力で走ると魔力反応があった場所である校舎裏に辿り着く。運のいいことに、木々が学校に沿うように立ち並んでいるため外からの視線を遮ってくれる。校舎から伸びる影に覆われているせいか、午後2時にしては少しだけ暗い。それにしても、発動した場所が校舎裏でよかった。グラウンドで起動していたならば目撃者がいてもおかしく無いのだから。

 

「あいつか」

 

 俺から数十メートル程離れた位置に、魔力の発生源である魔物を視認する。

 見た感じでは、何かを依り代に生まれたものでは無いようだ。アニメでもなのはの初戦の相手となったような敵、単なる思念体だ。

 

「今のお前なら造作もねえ相手だ。が、折角だ、特訓の成果を本番でテストしてみろ」

 

「わかった、と言っても油断する気は無いからな」

 

「良い心がけだ」

 

 ──だが、まず最初にやってみなければならない事がある。

 と言っても見様見真似の、ある種博打のようなものだ。と言っても失敗した時のリスクは少ないのだが。当たって砕けろというやつだ。

 

「行くぞ、シナツヒコ」

 

「おう、坊主」

 

「──起動」

 

  胸ポケットの中のシナツヒコを取り出し、魔力を込める。軽く上に放り投げると刀の鍔からは両側に向けて緑色の魔力が流れる。その片側に右手を伸ばし、強く握る。すると、その手の中には無骨でいて、なおかつ洗練されている柄が。そして、その反対側には刀身が姿を見せる。すると、その魔力に反応したのか、ジュエルシードの思念体はこちらへと体を向ける。

 

「坊主、折角だから技の確認でもしながら優雅に倒すぞ」

 

「ああ行くぞ、シナツヒコ」

 

 鍔のすぐ下のところに右手、拳1個ほど離した場所に左手を添える。

 野球のバッティングフォームのような格好、八相の構えを取る。

 

 敵もこちらの様子に気がついたのか、こちらが構えるとすぐに猛進を始める。

 

 では、早速一発目。

 特訓の成果を発揮させてもらおう。

 

「鎌鼬っ!」

 

 フォームは「旋風斬」と同じ袈裟懸け。八相の構えから斜め下へと鋭く刀を振り下ろす。

 しかし、敵との距離は離れているので、もちろん俺が放った剣戟は空を切る。

 ──そして、刀がなぞった軌跡から緑色の魔力刃が放たれる。

 三日月のような形をした魔力刃は、止まる事なく魔物へ向かい一直線に突き進む。

 そう、これこそが今回お披露目する1つ目の技「鎌鼬」。刀を振り抜く際に、魔力を剣戟に凝縮させ、高密度になったそれを魔力弾の要領で放つというわけだ。刀が主武装の俺にとってはありがたい遠距離攻撃が可能な技だ。

 そして突然現れたその技に、魔物は避けることもできず、なす術なく直撃する。

 轟音と砂埃が舞う。感触はあった、確実に当たってはいるだろう。

 だが、そこには痛手を負いながらも、耐え忍んだ魔物の姿があった。

 

 ──それでいい。

 

 この程度で倒されてしまっては困る。俺のゼロに等しい実戦経験は、こういった場面で培っていかなければならないのだ。

 だが、敵も流石に馬鹿の一つ覚えという訳にもいかない。先ほどの技を恐れてか、敵の動きは直線状では無く時折無意味にも見える動きを混ぜながらこちらとの距離を詰める。

 

 さて、もう一度特訓の成果を見せてやる。

 

 ジグザグに動くと、攻撃の射程圏内に入ったのか。一段と速く鋭い突進を仕掛けてくる。

 

 大丈夫だ。落ち着け。

 目を離さずにしっかりと見極めるんだ。

 

 八相の構えから一太刀の範囲内に奴が入ったのを確認すると、迷わずに袈裟懸けを繰り出す。素振りで固めたフォームは、初心者でありながらもそう悪くは無いのではと自画自賛したくなる。

 が、この手には攻撃が当たった感覚はない。見ると、魔物は突進の勢いそのまま体をひねり、すんでのところで回避をしていたのだ。そして俺の背後にある校舎を上手く利用し、その壁を蹴る。勢いそのままもう一度体当たりが繰り出される。

 もし俺が、ただの剣士であるならばこの攻撃は到底回避できまい。振り切った身体は隙だらけであるし、敵もそれを知った上で狙ってきているのだ。相当な手練れでないと回避は不能だ。

 だが、何度も言うが俺は真っ当な剣士ではない。

 

「魔法も使えるもんでね!」

 

 魔力で生成した風を、刀から思い切り噴出させる。その勢いを使い、自身の体を宙へ吹き飛ばす。俺の体が吹き飛んだのだからもちろん敵の攻撃は外れる訳であり、急ブレーキをかける事が出来ずに地面へと激突する。

 

 次の技を出すのに、ちょうど良い機会だ。

 

 空中にいる俺はもちろん身動きが取れない。飛行魔法などはまだ習っていないし、まず適性もあるかわからないから。

 だが、移動は出来る。

 要は先ほどの応用だ。

 

 敵とは逆の方向に刀を向けると、もう一度風を噴出させる。

 

 今は空中での移動ができなくとも、風の推進力を使えば、飛行魔法に勝るとも劣らない機動力を生み出せる。

 

 二度の高速移動に、敵はついてこれていないようだ。地面に激突したまま隙だらせの背後に高速接近する。

 刀を引く。

 やっとの事で俺が背後にいることに気がついたのか、こちらへと振り返る。が、もう遅い。敵との距離が詰められたのを感じると、弓矢のように刀を引く。限界になるまで目一杯の魔力と力と気合を込めて、全力の突きを繰り出す。

 振り向いた魔物の、両方の目と眉毛の間、まさに眉間を刀は真っ直ぐ貫く。

 十分なダメージはこれで入るだろう。が、これではただの突きだ。大事なのはこの勝負自体ではなく、俺の実戦での技の運用についてなのだ。

 

「陣風突きっ!!」

 

 言葉とともに、魔力を鋭い一陣の風へと変換する。眉間に突き刺さったままの刀からもう一度強い衝撃が放たれる。

 流石にこのオーバーキルは耐えられなかったのだろう。魔物は動きを停止する。

 

 陣風突き。

 それは、その名の通り突きの技。

 通常の突きを繰り出した後、刀を引くと同時に圧縮した鋭い魔力風を第2の太刀として繰り出す技だ。新撰組の沖田総司の伝説の技、上杉謙信が武田信玄を強襲した時の太刀筋、これらのように一瞬で3つの太刀を繰り出すことはできないし、さらに言えば一瞬で2つの太刀も当然のようにできない。

 そんな凡人を助けるための技がこの陣風突きだ。刀での突きと、魔力風での突きで、ほぼ同時に2つの突きを繰り出すこの技は、他の技よりも圧倒的な高火力を出す事ができる。

 

 ……ちなみに、シナツヒコが言うにはこの技の最終形はノータイムの突きを2発と、魔力の突きを2発、計4発の攻撃を同時に行うものであるらしい。現状では、そこまで出来ない。なんなら、できるビジョンすらわかないほどのレベルだ。

 

 何にしても、この勝負は俺の勝ちであり、実戦練習で見事に技も繰り出せた。

 

 ──なんて、格好良く言っているのだが。

 

「……緊張したぁ〜っ」

 

 非常に緊張した。そもそも二度目の実戦だ。格下だから技が試せれば良いとか余裕をぶっこいていたが、あれはただの強がりだ。いまにも手足が震え出しそうであるし、腰が抜けそうだ。

 本番で技を出せる確証もなかったし、なんとか気持ちだけはと強がって見せたが、それが功を奏したようだ。

 

「二度目の実戦で、よく頑張ったんじゃねーの?」

 

 そんな俺の様子など最初からお見通しであったのだろう。シナツヒコも珍しく優しい声をかけてくれる。

 

「あとはなのは達が来るまでこいつを見張ってればいいかな」

 

 突きを食らわせた魔物を見ると、体は原型を留めておらず、もはや魔力も敵意も感じられない程になっていた。

 

「それについてなんだが坊主」

 

「ん?」

 

「封印、やってみねーか?」

 

「ええっ!?」

 

 シナツヒコは軽く言ってのける。それが出来たら苦労などしないというのに、適当なことを言いやがる。

 

「やるだけならタダだろ? 失敗してもお前の魔力が減るだけ、成功したら一歩成長」

 

「まあ、確かにそれもそうだけど……」

 

 彼の言うことは、もちろん理解できる。この戦闘の前に発動した封時結界も、ダメ元で行い、成功したものだから。

 だが、だからこそ、そんな偶然が二度も続くのだろうか。二度も続いた偶然は最早必然と言えよう。

 

「どーせ根拠もなしに言ってるとでも思ってんだろ、坊主」

 

「ま、まさか」

 

 図星である。

 

「まあ、俺を信じろって。今はどうしてか一部機能に制限がかかってて、なんというか、まあロックみたいなのがかかってるから詳しくはわかんねーけど、どうやらそういうのが得意らしいんだ」

 

「ロック? 得意らしいって、どう言うことだ?」

 

「それが、俺もサッパリわかんねえんだ」

 

「……まったく、自分のことくらい覚えとけよシナツヒコ。というか、たかが封印程度でどうしたんだ?」

 

「たかが封印、されど封印だ。と言うか坊主、そんな生意気な言い草できるってことは、もちろん封印もできるよな?」

 

「まあいい、口車に乗ってやるよ」

 

 実際に、彼の言った通りだ。失敗してもリスクがないのなら、やらなきゃ損だ。それに、シナツヒコが言うのだから意味がないと言うことはないだろう。

 

「で、どうすればいいんだ」

 

「プログラム制御は俺がする、お前はそのプログラムに合わせて魔力を込めた決定打を決めればいい」

 

「簡単に言ってくれるな」

 

「たかが封印、だろ?」

 

「……まったく、よく喋るデバイスだな、お前は」

 

 だが、おかげで緊張も気負いもなくなった。シナツヒコといる時は、何も気負わなくて良いのが楽だ。なんて、本人には言えないけど。

 

 ──さて、やるぞ。

 

 シナツヒコから提示されたプログラムを読み込み、魔力を流し込む。

 天まで届くように、高く、刀を構える。

 

「封印っ!」

 

 掛け声をかける必要があるかどうかはわからない。言わば自己暗示のようなものだ。自分に言い聞かせて、強く念じる。

 それと同時に迷いの無いように、一陣の風のように、真っ直ぐに刀を下ろす。

 

「……やっぱりな」

 

 などと、シナツヒコが意味ありげなつぶやきをする。

 

 どうやら、封印は成功したみたいだ。


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