ハードモードなリリなの転生モノ(旧代:リリなのテンプレ転生モノ) 作:振り米
ぶっつけ本番で、いきなり封印を成功させてしまうあたりに自身の才能を感じてしまいたくもなるが、この少女を前にしては俺のような凡才に毛の生えた程度の一般人はひどく霞んでしまう。日中に灯る光は太陽の光に上書きされてしまうように。
「そっちも封印終わったんだね、良かったぁ〜」
「こっちの敵は対して強くなかったからな」
「私は、ちょっと手こずっちゃった」
顔を少しだけ崩しながら、いつも通りの人懐っこい笑顔をこちらに見せる。
「アリサちゃん達とプールに行ったらら、更衣室荒らしがジュエルシードを発動させてたみたいで……」
今度は頬を染めながら語気を弱めていく。そんな様子を見ておそらく、何か言いづらいことでもあるだろうと考えられる。
「それで、その、出て来たのが、水着を取ってくるやつでして、途中でアリサちゃんとすずかちゃんが巻き込まれそうになったりしちゃって」
……なんとなく把握はした。
つまり、俺もプールに行っておくべきだったという事だ。
○ ○ ○
今日も今日とて日課となった魔法の朝練をなのはと共に勤しむ。早起きは三文の徳と言うが、確かに朝の練習は非常に効果的だ。朝は頭の中がフレッシュであり、色々な情報の濁流に押し流されてしまう夜よりもマルチタスクや魔力の制御などがやり易く感じる。
隣では、なのはがユーノと共に技の確認や魔力の制御を行っている。ユーノとレイジングハートの指導を真面目な顔で受けていると思うと、時よりツインテールを可愛らしく揺らしながら楽しそうな笑みを浮かべる。
あの才能を持ってして、真面目に努力も出来て、なおかつそれを苦に思わない。むしろ、たのしんで練習をしているようにも思える。そんなやつが強くなるのは当然なのだろう。決して慢心することも無いだろうし、その向上心からひたすらに強くなり続ける。
……果たして俺が、彼女に、彼女たちに遅れずについて行くことが出来るのだろうか。
「おい、ボサッとすんなよ」
「……っ、おう」
かたや俺は基礎の練習。
足捌きや素振り、他にも様々な基礎的なモノの反復練習だ。
疑問を持つ人もいるかも知れない。精神世界でも基礎練習をやっていると言うのに、なぜ朝練でもするのか。
答えは簡単だ。精神世界での練習と、実際の練習では当たり前だが全く違うからだ。
体、武器の重さ。自身の体調、肉体的疲労、視界、音、匂い。踏みしめる足から感じる大地に立つ感覚、手から感じるシナツヒコの感触、指の先まで張り巡らせている魔力感覚。それら全てが精神世界でのそれとは全く異なる。
そして、それら全てをこの身で感じてこそ分かる。
彼女と俺の圧倒的な才能の差。
おそらく、なのはは気がついていないだろう。
それは、精神世界での練習を積んだから俺だからこそ分かる事なのかもしれない。いくら動きをイメージしても、いくら魔力をイメージてしも、一筋縄ではそれを再現する事は出来ない。何回も何回も素振りをして、マメを潰して、努力して、努力して。そこまでしてやっと理想に一歩踏み出せるレベルだ。それを実現するのには何年も何十年も、下手したら一生かけても再現出来ないかもしれない。
だと言うのに、高町なのは、それをこなしてしまう。
彼女が努力をしていない、と言うのではない。彼女はもちろんかなりの努力をしている。
なによりも凄いのは、その吸収力と、成長力だ。
真水のような吸収力で様々な技術を身につけては、筍の如く成長していく。
──化け物だ。
彼女について行ける自信なんて無い。
事実、今は差が小さくても、これから先は着実に、そして確実にその差は広がっていくだろう。
でも、それでも。
だからこそ俺は努力を止めるわけにはいかない。
追いつけないから追わない、なんて馬鹿なことを言う気はない。
追いつけなくても、せめて、限界まで努力して、目を凝らしてでも彼女の背中を見失う訳にはいかないのだ。
俺には能力がそれほど無くても、他のアドバンテージはある。それはやはり「情報」だ。そして、その情報アドバンテージは決して弱い物ではない。故に、俺はそれを最大限に生かさなければならない。
例えば──
「そういえば、なのは」
「──どうしたの? 大神くん」
200本目の素振りを終えた俺は、同じく何らかのトレーニングに一区切りついたであろう彼女に声をかける。
「体調とか、何か問題はない?」
「うん、全然問題ないよ!」
例えば、彼女の疲労。
確か、アニメではここ数日の連戦で慣れない魔法を使った彼女は疲労を感じているはずだ。
しかし、それに関しては俺に多少の負担が回っており、彼女の疲労が蓄積されるのを回避できていると言うことだ。
これは、紛れもなく情報アドバンテージからくる恩恵であろう。
「一縒くんも大丈夫?」
「ん、俺?」
「この前、学校で熱出してたでしょ」
「ああ、大丈夫だよ」
「……本当に?」
所謂、ジト目であろうか。
懐疑的な視線をこちらにぶつけてくる。
「あ、ああ、本当だって」
「でも、一縒くん、ちょっと私に似てると思うの。いつも、大丈夫って言って、平気って言って、周りを心配させないようにしてるように見える」
……確かに、彼女も俺と似たタイプであるかもしれない。
苦難困難を一人で抱えてしまうのだ。
でも、俺がそんな事はさせない。そんな事をして良いのは俺だけだ。それが俺の、自己満足としての贖罪なのだ。
「……実は、さ」
「うん」
いつの間にか目の前に来ているなのは。
俺は、少しだけ声のトーンを小さくして彼女の集中をこちらに向けさせる。
「実は」
呟くような小さい声で。
なのははそれを聴き逃すまいと顔を近づけてくる。その動きは計算通りとは言え、流石に恥ずかしいではないか。
赤面しそうになる顔を、なんとか押さえつけ能面のような無表情を心がける。
そして俺は、ゆっくりと右手を彼女の顔の前まで持ち上げて──
「ほーんとに大丈夫だって。全く、なのはは心配性だな」
ぱちん、と。
デコピンを一発お見舞いする。
「はうっ!」
「変な呻き声だな」
「へ、変って!? ……そんなことより、いきなり何するの!?」
「スキンシップ」
「だからってぇ〜」
涙目になりながら、訴えかけるような視線でこちらを見つめるなのは。多分、いや、絶対に彼女は怒ってなどいないだろう。俺もデコピンをそんなに強くやってはいないのだ。彼女もそれには気がついているだろう。
なんて、下らないやり取り。ただ、こんなやり取りが、好きなのだ。こんな事がずっとしたい。こんなことを、罪悪感なくできるようにするために。
だから、俺は努力を続ける。
責任を取るんだ。
俺はこの世界の不純物として、生じたズレを正すんだ。
才能とか、そんなことに言い訳してられないな。
「よし、やる気出た」
「うう〜、酷いよ一縒くん、デコピンしてやる気出すなんておかしいよ〜」
「はは、ごめん」
──ああ、どうしてこんなにも心地良いのだろう。楽しいのだろう。
本当は、こんな幸せを享受して良いわけがないのに。
こんな幸せを享受する権利なんて無いのに。
楽しいからこそ、故に心は酷く痛む。錆びた刀身が、ゆっくりとこの身を刺し貫くように。
○ ○ ○
さて、目下の問題は、次のジュエルシードである事は言うまでも無い。
だが、今回の最も重要な問題は、やはりフェイトについてだろう。なのはのライバルにして親友でもある彼女。そして、彼女とその母親を中心として起こる「PT事件」。
出来れば、可能な限りは、アニメ通りの展開で事を進めたい。なのはがジュエルシードを回収し、フェイトと出会い、時空管理局が現れて、彼らと協力しフェイトを救う。基本的にはこの展開に沿うようにしなければならない。
しかし、残念ながら、現状これと言った対策ができないのだ。
例えば、フェイトについて。
彼女もまた、原作より強くなっているのかどうかという問題が存在する。ただの敵なら、例えばプレシアなどは強くなっている可能性は十分に高い。
ただし、フェイトの場合は後に味方になるのだ。その時に原作よりも強すぎる状態だと、それこそおかしいのだ。であれば彼女は原作のままの強さなのかもしれない。
だとしたら、俺が首を突っ込んで良いことでは無い。彼女の問題は、なのはが解決するのだから。
結局のところ、俺は徹底的に彼女たちの補佐をするしかない。対ジュエルシード戦で、原作より強い敵を、俺も協力して倒す。そうやって物語を進めていこう。
そして、プレシア・テスタロッサ。原作でも条件付きSSランクの魔導師、いや大魔導師とまで形容されることのある彼女が、さらに強くなっている可能性がある。
──が、そこに関しては管理局に任せよう。
プレシアの目的はアルハザードに到達する事であり、一期のゴールはフェイトを救うことと、次元震を止める事にある。
プレシアが足りないジュエルシードで無理やりアルハザードに行こうとし、その時に起きた次元震を止める、それが出来れば問題はない。
……情報アドバンテージがあるというに、結局は後手後手になってしまうのか。
とはいえ後手に回ってしまうのも状況的には仕方ない事でもあるので、ここは割り切って一つ一つ出来ることをやるしかない。
「なのは」
「んー?」
朝練を終えた俺たちは、当たり前ではあるが学生としての本分を全うしている。つまりここは教室である。
「なのはの家って有名なケーキ屋さんなんだっけ」
などと知っている情報を白々しく聞いてみせる。
「うん、おかげさまで」
笑顔でそう答えると、今度は小首を傾げながら疑問を口にする。
「でも、急にどうしたの?」
「今度、母さんの誕生日でさ。折角だから、なのはの家のお店に頼んでみようかなって思って」
もちろんこれは嘘ではない。四月の末に母さんの誕生日があるのは本当だ。付け加えれば、俺がかなりの甘党であり、純粋に彼女の家の甘味をいただきたいというのも理由ではあるのだが。
もう一つの目的としては高町家の面々と交友を深めることだ。というのも、彼女の家族と仲良くしておいて、これから先の魔法関係のいざこざがあったとしても話を通しやすくなるわけであり、なおかつ、上手く事が進めばなのはの父である高町士郎さんから剣術を学ぶことができるかもしれないのだ。
「そうなんだ! もちろん大丈夫だと思うよ! 今度母さんにお話して──あ、そうだ」
「どうかしたか?」
「一縒くん、今日って午後は空いてる?」
「ああ、空いてるよ」
それもそうだろう。少なくともこのJS事件の間は常に修行か事件解決に時間を割くべきなのだから。遊んでいる暇などは無いし、有事の際に時間をさけるようにしておかないと。
「それならさ、うちに来ない?」
──いきなりお家デートだとっ!?
なんて。
相手は女子小学生で、お家に誘うのになんら他意はないだろう。
むしろ、これは良い機会なのではないだろうか。高町家の面々には顔を合わせておいて損はないだろうし、あわよくば彼らから剣術を教えてもらいたい。シナツヒコに満足していないとかではなく、リアルな剣術を直接習いたいのだ。朝の練習と同じように、精神世界でのトレーニングとはまた話が違う。
「行ってみたいな」
「じゃあ決まりだね!」
「おう」
ぐっ、となのはは目の前で小さくガッツポーズをしてみせる。
……くっ、なんか恥ずかしい。
○ ○ ○
「う、美味すぎる……」
「でしょ!」
場所は変わってなのはの家──ではなく、高町家が営む町の人気のお店「喫茶翠屋」。
「あらあら、嬉しいわねぇ」
「こんなに美味いの、今まで食べたことないくらいですよ」
前世から甘党であった俺は、多くの洋菓子を口にしてきた経緯を持っている。持っているのだが、それら全ての洋菓子よりも、目の前の高町桃子が作ったこのシュークリームの方が美味いと言い切れる程だ。
「そんなに褒めてもお菓子しか出さないわよ」
そう言いながら微笑む姿は、どうにも人妻には見えない。
何を隠そう、この美人さんは高町なのはの姉などでは無く、れっきとした母親なのだ。
しかし、間近で見ると本当に30代には見えない。
辺りを見渡すと、半分ほどの座席が埋まっていた。平日かつ時刻は4時ごろと言うことを考えると、かなりの客入りであろう。そんな中、わざわざ厨房から抜け出してこちらに顔を出したのは、娘が「男」友達を連れてきたからだろうか。
「なのはのお母さん、お願いしたい事があるんですけど」
「桃子で良いわよ」
「それじゃあ、桃子さん」
「なーに」
「四月の二十六日が、俺の母さんの誕生日なんです。それで、翠屋のケーキをぜひ注文させていただきたいんです」
それを聞くと、桃子さんは改めて満面の笑みを浮かべる。
その笑顔は、確かになのはに似ていた。
「もちろんよ! お母さんにちゃんと誕生日ケーキを用意してあげるのね! なんて良い子なの〜」
「ありがとうございます!」
喜びの表情とともにこちらをぎゅっと抱き締めてくる桃子さん。
む、胸が当たって、というか、で、デカイ。
──なんというか、まあ。
美人さんに抱きついてもらえるなんて、子供って素晴らしい!!
と言う感情は可能な限り隠しているつもりでいた。いたのだが、少し顔に出ていたのかもしれない。
なのはと目が合う。
……あれ、目のハイライト、消えてる?
能面よりも無表情を貫き、魔王さながらの威圧感を発する。
た、確かに自分の母親にデレデレする同級生など見たくは無い。とはいえそこまでの表情を普通するか?
さて、そんな俺たちの様子に気がついたのか。桃子さんは俺を解放する。
「で、一縒くんはなのはのボーイフレンドって事でいいの?」
……まったく、この人は可愛い娘をからかいたいだけなのでは無いか。もちろん、俺もからかわれているのだろうが。
「ち、ち、ち、違うよお母さん! 一縒くんは、決してそんなんじゃ──」
ああ、うん。否定されるとは思っていたし、分かってはいた。けれども、こうも正面からここまで言われてしまったら流石に傷つくでは無いか。
「そうですよ、なのはは大事な友達です」
「そ、そうだよぉ……」
そう言いながら複雑そうな表情をするなのは。
「……大事、は嬉しいけど」
蚊の鳴くような弱い声でそう呟く。
そんなこちらの様子を桃子さんはニヤニヤと見つめている。
あー、もう。ひどい。恥ずかしい。
──そんな時であった。
パリンっと、陶器の割れる音がして店内を反響する。この場にいるものは全てその音に警戒し、視線を向ける。俺とて同じだ。
だが、その光景は決して危ないものではなかった。俺以外にとっては、だが。
「な、のは。誰だ、そこの、男は」
整った顔立ちと、服の上から見てもわかる理想的な体つき。黒く澄んだ前髪は、どことなくなのはに似ている。
この人物は確か、なのはの兄。高町恭也さんだったっけか。
「あ、なのはのお兄さんですか。俺は大神一縒で──」
「俺は認めんぞ!!」
「何をですか!?!?」
「なのはにはまだ早い!!」
「いやだから何がですか!?!?」
「俺は認めんからな──っ」
そう言い残した恭也さんは、落とした皿に目を向けることもなく、どこかへと走り去ってしまった。
「にゃはは……」
絞り出したかのように乾いた笑みをこぼすなのは。
「まったく、恭ちゃんったら。なのはの事になるとてんで駄目なんだから」
やれやれ、と言った様子で肩を揺らす。
続いて店の奥から出てきたのは、なのはの姉である高町美由希さんだ。
「初めまして、なのはさんの友達の大神一縒です」
先ほどのような現象が、果たして起こるのかはわからないが、起こらないかもしれないそれを回避すべく、自己紹介の先制攻撃を行う。
「ご丁寧にどうも、一縒くんの話はなのはからよく聞いてるよ。私は高町美由希、よろしくね」
「よろしくお願いします。ところで、俺の話をよく聞くってどう言う事ですか?」
「そりゃあ、決まってるじゃない。例えば──」
「ストップ、ストップ! お姉ちゃんストップ!」
「ありゃ、どうしたのなのは」
「お姉ちゃんダメだから、喋ったらダメだからね!」
「わかってるよ、ただの冗談」
……一体俺は高町家でどのように話されているのだろうか。気にならないといえば嘘になる。
「なのはと仲良くしてやってね」
「はい、もちろんです」
美由紀さんはその返答に満足すると恭弥さんが走り去って行った方へと歩みを進める。ため息をわざとらしくついてはいたが、その表情は嬉しそうでもあった。
「それじゃあ私はキッチンに戻るから、ゆっくりしていってね、一縒くん」
「ありがとうございます」
しかしまあ、予想はしていたのだが。
「なのはの家族って、個性的だね」
「にゃはは……」
でも。
「いい家族、だね」
「うん、もちろん!」
皆一様に楽しそうであった。
それはもちろん、目の前の彼女を含めてだ。