ハードモードなリリなの転生モノ(旧代:リリなのテンプレ転生モノ)   作:振り米

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12話

「おお、君があの噂の大神一縒くんか」

 

 20代にも見える端正な顔立ち。ジャージを着ている翠屋JFCのコーチ兼オーナー。そして何より高町なのはの父親である高町士郎は嬉しそうにしながらこちらに声をかけに来た。

 

「たしかに大神一縒ですけど、噂の人って一体……」

 

「君の話は家族から聞いたよ。この前、うちの店に来てくれたんだってな、どうもありがとう」

 

「あ、ケーキ凄く美味しかったです」

 

「それはどうも」

 

 グラウンドの方に視線をやると、少年たちが縦横無尽に走り回っている。

 今日は、この士郎さんがオーナーをする翠屋JFCの試合の日である。なぜ俺がこの場にいるのか、というと──

 

「「おはようございます!」」

 

「うん、おはよう」

 

 この場にいるいつもの三人娘に誘われたからである。三人娘とは、言うまでも無いと思うのだが一応説明すると、左から順になのは、アリサ、すずかの事だ。

 もちろんただ誘われたから来たと言うわけでは無い。おそらく、今日はジュエルシードが発動する日。であれば、なのはと行動をした方がいいに決まっている。

 

「あれ、一縒じゃん」

 

「あ、純」

 

 一縒に声をかけたのは、彼の同級生であり友達でもある西浦純だ。休み時間には一緒に校庭でサッカーをする中であり、同学年の中ではずば抜けて上手かった。そういえば、彼は翠屋JFCに所属しているとか話をしていたっけか。

 

「どうしたの、こんなところで」

 

 なぜお前がこんなところに、怪訝な表情からはそう読み取れる。

 

「サッカー観戦」

 

「マジ?」

 

「大マジ」

 

「俺、スタメンだから応援してくれよな」

 

「もちろん」

 

 というか、彼はスタメンなのか。上級生が混ざる中で三年生にしてスタメンを掴み取るだなんて、やはり彼は相当上手いのだろう。

 

「なんだなんだ、純と一縒くんは友達なのか?」

 

 士郎さんはこちらの様子に気がつくと、快活な笑みを浮かべながら一縒と純の肩に手をおく。

 

「あ、コーチ。一縒は休み時間にサッカーをする友達です」

 

 ほう、と士郎さんは顎に手を当てながら返事をする。すると、鋭い視線をこちらの方に向け、

 

「一縒くんは、サッカー好きなのかい?」

 

「ええ、まあ人並みには」

 

「コーチ、こいつこんな事言ってますけど、普通に上手いですよ」

 

 士郎さんの視線は百獣の王のようにより一層鋭くなる。

 

「本当かい?」

 

「いや、そんなに上手く無いですって」

 

「嘘つけ」

 

 がばり、と士郎さんはこちらに振り向くと、力強くその両手を俺の両肩に乗せる。見上げると、その強い意志のこもっている目線が、一縒の目線とかちあう。

 

「一縒くん、ぜひ翠屋JFCの入らないかい?」

 

 やはり、そうくるだろうとは思っていた。お誘い頂けるのは非常にありがたく、光栄ではあるのだが──

 

「ごめんなさい、嬉しいんですけど、他にやることがありまして……」

 

「そうか、残念だ」

 

 残念だ、と口にしながらも表情はいたって柔和な笑みであり、大人としての器の大きさのようなものを感じさせられる。

 

「まあ、なんにせよ今日はぜひ試合を見ていってくれ」

 

「はい、士郎さん」

 

「それじゃあ、また後で」

 

 士郎さんは歩き出すと、背面をこちらに向けたままこれでもかというくらい自然にひらひらと手を振る。

 その後ろ姿は屈強な男そのものであり、男としてつい羨望の眼差しを向けてしまう。

 

「うちのお父さん、なんか変なこと言ったりしなかった?」

 

 先程まで小動物のようにそわそわした様子で、遠巻きにこちらを眺めていたなのはは、会話が終わったのを確認してから駆け足でこちらに接近する。

 

「変なことは何も──いや、そう言えば、なんか俺が高町家で噂になってるみたいな事は言ってたっけか」

 

「──っ、ち、違うからね! 別にそう言うのとかでは無くて、その──」

 

「え、もしかして悪口とか?」

 

「悪口なんて言わないよ! なんて言うか、その、何でもないよ!」

 

 沸騰直前のような真っ赤な顔になるなのは。まったく、これだから弄りがいがあると言うものだ。

 

「はい一縒、なのはをいじるの終わりにしないさい」

 

 そんな様子を見かねたアリサが、いつものように仲介に入る。

 

「了解です」

 

「もう、2人とも〜っ」

 

「まあまあみんな落ち着いて、そろそろ試合始まりそうだし、ベンチの方に移動しよう?」

 

「そうだな」

 

 ○ ○ ○

 

 試合観戦も終えると、お次にやって来るのはジュエルシードの時間だ。

 次の敵は、おそらく今までのように上手くは行かないだろう。ただ強くなっているというだけではあるのだが、それ故に侮ることはできない。犬っころですらあそこまで強くなっているのだから、今回の発動に関しては言わずもがなだ。

 

「どうしたの、真面目な顔して」

 

「いや、なんでも」

 

 フォークとお皿の触れる音が耳に反芻する。

 右隣のアリサは、考え事をしていた俺の横顔を不思議そうに見つめている。

 

「あんた最近、そういう顔多いわよ」

 

 いつもより数個分低くなっている声のトーンで不機嫌さを露わにさせているが、それ故にこちらの事を心配しているのだということがわかってしまう。

 

「悩み事とかあったら、あたし達に相談しなさいよね」

 

「ふん」とそっぽを向きながらも、照れたように頬は染めている。不器用ではあるのだが、暖かい。

 なのはもまた、俺と同じように一瞬だけ注意を別の方向に向けると、考え込むような素振りを一瞬だけ見せる。

 ──おそらく、ジュエルシードを見つけたのだろう。

 確か、アニメでは試合後に翠屋でケーキを食べている際に、先程のゲームに出ていたキャプテンがマネージャーの子もデートをしているシーンが映るのだ。そしてそのシーンで、サッカー少年はジュエルシードを取り出す。それをチラリとだけ、なのはは見ているのだが、気のせいであるとか勘違いであるとか、どちらにせよそのような答えを出してしまうのだ。

 そしてそれが、彼女を本気にさせる一つ目のキッカケになる。

 この後に起こるジュエルシードは、そこそこ大きい規模を誇る。ゆえに「自分のせいで」となのはは自分を責めるのだ。そして、俺はそれを止めてはならない。彼女の決意を邪魔してはならないからだ。

 もちろん罪悪感だって人並みにはある。俺は気がついているのに、見て見ぬ振りをするのだ。そして、わざとなのはに罪悪感を持たせるようにするのだ。わかっているのに、知っているのに、それでも俺はやらない。リスクのある最高手より、リスクのない最善手を選ぶのだ。

 ……それでもやはり、胸が蝕まれるように痛い。

 彼女達を救うために、彼女達を巻き込むというのは、どうにもおかしい気がしてならないから。

 それでも俺は、やるしか無いのだ。

 

「あ、もうこんな時間」

 

 アリサはすずかの発言につられるように時計に目をやる。

 

「そろそろ私たち行かなきゃ」

 

「習い事だっけ」

 

「……最近習い事がいっぱいあって、ちょっと大変なのよね」

 

 アリサもすずかも良いとこ育ちのお嬢様なのだ。そんな彼女たちは実際に多くの習い事を受けている。金持ちのお子さんは習い事が多いという話は、前世の俺にしてみれば都市伝説のようなものだった。まさか本当のことであると、二度目の人生になって初めて知ることになるとは思ってもみなかった。

 

「なのは達と遊ぶ時間も減っちゃうしさ。

 ──まあ、習い事も楽しいちゃ楽しいんだけどね!」

 

 金持ちのお子さんにも、彼らなりの面倒事もあるわけだ。一概に何が良いとは言えないものだ。

 

「無理しすぎないようにな」

 

「まったく、あんた達にそれを言われたくないわよ」

 

 ため息とともに見せるのは、少しだけ呆れたような表情。こちらの言葉を振り払うように、右の手をひらひらと振る。

 

「アリサちゃん、すずかちゃん、バイバイ!」

 

「じゃーね、なのはと一縒」

 

「またね、2人とも」

 

 なのはも手を振るが、こちらは「さようなら」の意味だ。

 

 さて、この後はジュエルシードの魔物との戦闘だ。俺にしてみれば、来るとわかっているので準備万端だ。だが、なのはの方はそういう訳にもいかない。戦闘が始まれば、先ほどの自身のジュエルシードを見逃してしまった自分を悔いるはずだ。もちろんその程度で集中が切れる人物では無いことくらい承知しているのだが、それ以上に今回の敵が強くなっているかもしれないのだ。

 俺がこの世界来てしまった事で起きてる唯一の利点である「なのはの負担を減らす」は現状では上手くいっている。おかげで、アニメの時よりは疲労が少ないはずだ。

 アニメ通りの流れであれば、この後になのはは家に帰って仮眠を取るはず。

 そこで俺には2つの選択肢がある。

 1つは、なのはともう少しだけ遊ぶという事だ。

 ジュエルシードの発動まで、まだ時間はあるのだが、2人で行動した時の方が迅速に対応する事が出来るだろう。

 2つは、このまま帰らせるという選択肢だ。

 この選択肢を選べば、多少とは言えなのはに休息を取ってもらえる。だが、ジュエルシードの発動時に、1つ目の選択肢ほど速く動く事は出来ない。

 

「一縒くん、この後どうする?」

 

 であれば俺は──

 

「この後は暇だし、今日は折角の息抜きなんだから遊ぼうよ」

 

 ──俺は1つ目の選択肢を選ぶ。

 というのも、なのはの疲労は殆ど無いに等しいため、2つ目の選択肢を選ぶ利点があまり無いのだ。消去法的な選択になってしまうが、可能な限り最善を選ぶのであれば仕方がない。

 

「うん、もちろん!」

 

 とは言え、何をすれば良いのやら。

 小学生が異性の女の子と2人きりで遊ぶ時は、一体何をすれば良いのか。そんな事覚えてはいない。

 仕方ない。こちらの出来るようにだけやってみるか。

 ジュエルシードは街中で発動するので、それならば街の方に出かけた方が迅速に対応できる。なら、街でデートと洒落込もう。

 

「うーん、それなら駅の方にでも行きますか」

 

 ○ ○ ○

 

 高町なのはにとって、大神一縒は憧れの人だ。

 きっかけとなったのは私がやられそうになった時、前に立ち、助けてくれたあの日から。ユーノくんを助けたいという一心で手伝うことを決めたのだが、それは軽い気持ちだった。

 だから、実際に命の危機が迫った時に、足がすくんで動けなくなってしまった。本当に怖かった。

 ──だから、突然草の陰から出て着た彼を見たときは幻なのではないかと思ったほどだ。私のようにバリアジャケットを纏うわけでも、魔法を使った守りを使うわけでも、物理的な防御を用意していたわけでもなかった。

 だというのに、生身の体で、魔物の前に立ちはだかり、文字通り身を呈して魔物の攻撃から私を守ってくれだのだ。

 もちろん、その時の私は驚きと狼狽に脳の大半が支配されていた。

 しかし、それでも感じたのだ。

 

 ──凄い。

 

 私に同じことが出来るであろうか。人を守れる力があるのならば、私はそれを躊躇なく行使できる自信はある。

 でも、何もない状態で、死ぬかもしれない状態で、あんなにも躊躇を見せずに命を捨てる覚悟ができるのだろうか。だからこそ行動に起こして見せた彼を尊敬と、少しの畏怖を持つのは当然であろう。

 

 だが、高町なのはが大神一縒に憧れを抱いたのはつい最近の話というわけではない。

 

 彼は、思う限りでは理想的な人間であったのだ。

 

 彼はいつでも完璧だった。

 勉強にしても、運動にしても。もちろんそれだけではない。クラスのみんなや先生にも好かれていて、自分1人でなんでもやってしまうし、だからと言って他人を蔑ろにするわけでもない。

 自分も彼のようになれてたら、なんてことを考えたりするのはそう少なくなかった。

 私も、友人や家族に愛されている自覚はもちろんある。

 しかし、複雑な家庭関係から小学校に上がる前の父親の事故をきっかけに少しだけ疎外感のようなものを感じたこともあった。それは血の繋がっていなかった家族に対して「良い子」になりきれなかったから。

 

 だから、自分が頑張れば、努力をすれば、そうやって誰かのためになって、誰かを助けられれば──

 

 そういう思いを胸に潜めていた高町なのはにとって、それを実際に、目の前で実行してみせた大神一縒は憧れを持つに足る人物であるのだ。

 

「……どうしたんだ、なのは。そんなにぼーっとして」

 

「んっ!? いや、なんでもないよ」

 

 少し前まで接点が少なかったその少年と、今こうして魔法のことも関係なしに出かけているのだ。

 

(なんか、少し緊張してる……?)

 

 胸に手をそっと当てると、理由はよくわからないのに心臓の脈が早まっているのが感じられる。落ち着いて、深呼吸。

 ちらり、と彼の横顔を盗み見ると、ふたたび心拍数が上昇する。

 

(あれ、いつもはこんな風にならないのに)

 

「あ、もしかしてたい焼き、そんな好きじゃなかった? 確認し忘れてた……ごめん……俺、この店好きだからついオススメしたくて」

 

「違うよ! たい焼き、普通に好きだし、ちょっと考え事してただけだから」

 

 落ち込んだ表情を見せる一縒に慌てて訂正をするなのは。

 

(しゅんとしてる一縒くん、初めて見たなぁ。……ちょっと可愛いかも)

 

 ショッピングセンターのベンチに腰をかけながら一縒のオススメだというたい焼きを食べていた。

 

「やっぱここのクロワッサンたい焼きは絶品だ……!」

 

 先程からコロコロと表情を変える一縒。なのははそんな彼の姿を物珍しげな表情で見つめる。学校にいるときの彼はいつも凛とした顔つきや表情で、笑うにしても何か考えているのか、全力の笑顔をあまり見ないし、表情が少ないという訳ではないのだが、ここまでコロコロ変えるのは珍しい。

 

(でも、それって私が一縒くんと学校であまり話してこなかったからかなぁ……)

 

 だとしたら、親友であるアリサちゃんは私の知らないような彼の表情をいっぱい知っているのだろうか。アリサちゃんと一縒は、去年の段階ではもう仲良くなっていたはずだ。誰か1人特別仲のいい人を作らなかった一縒が、アリサだけはその一歩を踏み入れさせたのだ。

 そう考えると、自分でも理解できない遣る瀬無さとアリサに対する羨望を感じてしまう。

 

「……一縒くんって、アリサちゃんと凄く仲良いよね」

 

「ん? そうかもな、あいつも中々無遠慮に踏み込んでくるタイプだからな──まあ、そんなところが好きというか、仲良くなった原因だとは思うんだけどね」

 

 再びの笑みでそう話す一縒。

 ズキリ、となのはの心が痛む。

 もやもやした感情が広がっていくように感じる。

 

(あれ、どうしてだろう)

 

 そんなことを考えていたなのはの目前に、たい焼きが差し出された。

 

「なのは、俺の買ったイチゴカスタード味の方も食べる? 美味しいよ」

 

「うん! ありがとう」

 

 差し出されたたい焼きを一口頬張る。

 ……美味しい。

 

「美味しいだろ、これ。期間限定なんだけど結構好きでさー」

 

(あれ)

 

 気がついた時には、なのはの心の中にかかっていた霧は晴れていた。

 美味しいたい焼きを食べたからだろうか、きっとそうだ。

 

(それ以外の理由……無いよね?)

 

 今度は自分の買ったふつうのクロワッサンたい焼きを食べる。

 とても美味しい、美味しいのだが。

 先程一縒からたい焼きをもらった時に感じた何かは感じられない。

 イチゴカスタード味の方が好きなのかもしれない。なのははそう結論づけた。

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