ハードモードなリリなの転生モノ(旧代:リリなのテンプレ転生モノ)   作:振り米

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13話

(さて、そろそろかな)

 

 少しだけ与えられた休み時間もそろそろ終わりだ。午前中に士郎さんがコーチを務める近所のサッカーチームを観戦した後、翠屋でなのはがジュエルシードらしきものを見たが気のせいだろうと終わらせる。

 この後、サッカーチームのキャプテンとそのマネージャーを媒体として巨大な樹木の魔物な姿を見せるのだ。

 そしてこれは、ユーノを手伝うためという理由から、この街の人を守る為に自発的にジュエルシードを封印しようと思うきっかけとなる。原作とは少しずつ乖離を始めているこの世界だが、節々でなぞれる部分が多いのならばそれに越した事は無いし、精神的な影響というものは非常に大きく、原作と乖離させるわけにはいかない。

 

「!? ……一縒くん、ユーノくん、この感じ……」

 

「ああ、ジュエルシードだ……!」

 

 予想通りのタイミングで発動するジュエルシード。まったく、こんな白々しい対応ばかりしている自分に腹がたつ。

 

「それにしても今回の敵、結構デカくね……?」

 

 事前の知識として今回のジュエルシードの暴走体である樹木のことは知っていたが、実際にその魔力を肌で感じてみると大きさを実感できる。俺の少ない経験の中でも、そのサイズには驚かされる。

 

「こんなに広いとどこにジュエルシードがあるか分からないよ……」

 

 心配そうにつぶやくユーノ。

 とはいえ、実際にはこの馬鹿でかい魔力と範囲を持つ相手に対して、今の俺の力ではどうすることもできない。アニメ通りになのはがジュエルシードの位置をサーチして、遠距離から砲撃魔法。

 そのやり方でしか敵を倒すことができない。さらに、なのはの代名詞とも言える砲撃魔法を習得し、初めて披露する回でもあるのだ。

 

「とりあえず屋上に行って発動場所と様子を確認しよう」

 

 そして、危惧すべき事態は今回もやはり敵の強さがどれほど上がっているかだ。

 敵が人であったり動物であったりすれば、単純に考えてその実力が強くなったり魔力量が上がっていたりと考えればいいのだが、今回はそうもいかない。

 一体どういう風に強くなっているのか。

 そこが問題になってくる。

 兎にも角にも、やってみなければ分からない。原作との違いは、俺という異物を持って補完する、それしかないのだから。

 

 あらかじめ上の階にいた俺たちは屋上へ向け急いで階段を駆け上る。

 それほど時間をかけることもなく登り切り屋上に出ると、目前にはわかりやすいほどにジュエルシードに操られている樹木が映り込む。

 

「敵はあいつなんだろうけど」

 

「やっぱり、広すぎてどこにジュエルシードがあるのかわからない……」

 

 その巨大さに驚くと、ユーノとともに少しだけ弱気になってしまう。

 

「まあ、とりあえずアイツをどうにかしなきゃなんだけど」

 

「うん、でもどうすれば……」

 

 俺もユーノも、その規模の大きさに頭を抱えてしまう。正直な話、俺たちだけではこの状況を打破することはできない。

 だが、彼女は違う。

 

「大丈夫、私に任せて!」

 

 俺とユーノの会話を聞いていたなのはが一歩前に踏み出す。

 

「レイジングハート、行ける?」

 

 そう問いかけるとレイジングハートは肯定を示すように桜色に輝いた。

 レイジングハートを構えると、多数の魔力弾を生成する。

 

「探して、災厄の根元を」

 

 そう言い、サーチャーである魔力弾を辺りに飛ばす。構えを解かずに集中する様子のなのは。

 

 ──さて今回は、そう言うことか。

 

「陣風突きッッ!」

 

 今度は俺はなのはの前に出ると、魔力を込めた強烈な突きを繰り出す。

 敵さんは、もうすでにこちらの位置を把握しているようだ。それは相手にとっても攻撃の射程圏内であることを示す。

 

 俺が先ほど切り裂いたのは、樹木の蔓。

 つまりだ。サーチ中、無防備になったなのはを狙い相手が攻撃を仕掛けてきたのだ。

 

「一縒くん、ありがとう!」

 

「なんてことないさ、なのはは集中してて!」

 

 一本の蔓が切られそれだけでは足りないと相手は気がついたのか、今度は数十本の蔓がこちらに向かって伸びてくる。

 俺たちを囲うように360°にムラなく並び、獲物を狩る肉食獣の爪のような鋭利な形となった蔓をこちらに向けて突き立てる。

 

「さーて、坊主はどうするよこの場面。現状俺がお前にただ教えただけの技をそのまま使おうとしたら、確実に突破されちまうぜ?」

 

 シナツヒコはそう俺に発破をかけてくる。

 

「まったく、お前は俺にそんなやわな修行をやってたわけじゃないだろ?」

 

「ほう、言うじゃねえか」

 

 10を聞いて10を学ぶのなら、それは悪くないことだろう。ただ、この世には1を聞いて10学ぶ奴がいるのもまた事実。残念ながら俺にはそんな真似は出来ない。

 ただ、3を聞いて5を学ぶことくらいなら。そのくらいなら俺だってやってみせる。

 ──さて、修行の成果を見せる時だ。

 

「うぉぉぉぉっらぁ!」

 

 俺はその場に立ちながら、刀身に全力の魔力を込めて無造作に様々な角度や形で素振りを始める。

 空中には、斬撃で切り裂かれた場所に魔力の軌跡が描かれる。

 

「鎌鼬ッ!」

 

 言葉とともに空中に待機させていた魔力刃を四方へと飛ばし、俺たちを囲っていた蔓を微塵に切り落とすように斬撃波は繰り出される。攻撃体制であった蔓を抵抗するまもなく無残に斬り伏せた。

 

「どうした、こんなもんか!」

 

 この攻撃方法では魔力の消費は結構多いのだが、一体多数で手数が上回る相手の攻撃を凌ぐには最適解であろう。なのはのように操作できる魔力弾とかが撃てるのならば、こんな苦労はしなくていいのだろうに。まったく、自分の不器用さには呆れるばかりだ。

 

「──見つけたよ! 一縒くん」

 

 俺が相手の攻撃を迎撃しているうちになのははジュエルシードの位置を見事に突き止めたようだ。

 

「でも、結構距離がある。あそこまでいかなければならいないし、このままじゃ埒があかない」

 

 しかし、ユーノの言う通りにその位置はここからは少し遠い場所にあった。しかし、なのはの顔には少しばかりの自信が浮かんでいた。

 

「大丈夫だよね、レイジングハート」

 

「Shooting mode」

 

 なのはの頼れる愛機は、返事の代わりにその姿形を変えて応える。

 ここからなのはの魔“砲”少女として悪を怯え上がらせる戦闘スタイルが確立されていくのか。そう考えると頼もしさと恐ろしさを覚える一方、少しだけ申し訳なさを感じた。

 

「周りの雑音は俺が処理するか、あとは任せた!」

 

「うん!」

 

 俺はなのはが砲撃を無事に、堂々とぶち込めるようにサポートをするだけだ。こちらに攻撃をしてくる蔓を切って切って切って斬り伏せるのみ。

 

「なのはには蔓一本も触れさせないぜ!!」

 

「な、なんか恥ずかしいねそのセリフ」

 

 確かに、娘が連れてきた彼氏に対して言う頑固お父さんやどこぞのイケメンハーレム主人公がヒロインを落とすときに言うようなセリフだ。反省せねばならない。戦闘中は自分を奮い立たせるためにアドレナリンが分泌されてしまうのだ。それにより、言葉や動きがオーバーになってしまう。

 

「──行くよ!!」

 

「まさか──砲撃魔法!?!?」

 

 なのはは姿を変えた愛機を構え、ユーノは驚きを露わにする。それもそうだろう。教えているはずもなく、難易度の高いとされる砲撃魔法をいきなり目の前でぶっ放そうとしているのだから。

 ──それでも、やはりなのはの代名詞といえば、この砲撃魔法だろう。

 

「ディバイン──」

 

 敵の攻撃を捌きながらちらりとなのはの横顔を覗き見る。

 

 ああ、かっこいいなぁ。

 

 強くて、気高くて、美しい。

 羨ましくて、ひどく遠く感じる。

 そんな姿を見るだけで、鳥肌は立つし心は酷く震える。本当にカッコイイったらありゃしない。

 そして、今一度自分自身の使命を再確認する。俺なんかがこんなセリフを言うのもおこがましいのだが、やはり俺はこの世界を、この少女を守らなければならないのだ。

 この可憐な、気高く咲く花のような彼女を汚してはいけない。彼女は綺麗に、真っ直ぐに、強く咲き続ける資格があり、誰もがそれを望んでいるのだ。

 

「バスターァァァッ!!」

 

 ゴウッ、と桜色の魔力の光は一つの束となって真っ直ぐにジュエルシードへと降り注ぐ。

 俺たちを狙っていた蔓も、自身の身の危険を感じたのか、その砲撃を遮るように守りに入るが、全てが無駄だ。圧倒的な魔力に飲み込まれ、一瞬のうちに消えてゆく。

 

 あっという間にジュエルシードとその魔物は魔力に包まれる。封印完了だ。

 

 まったく、なんという強さを持っているのだ、この少女は。俺が地道にシナツヒコとバカみたいな努力をしている間に、彼女との差は少しずつ開いていく。

 

 ……もっと、頑張らなきゃだな。

 

 ○ ○ ○

 

「私、ジュエルシードに気がついてたかもしれなかったの」

 

 いつのまにか日は落ち始め、綺麗な夕焼けに街は照らされている。橙色の炎を優しく燃えているみたいだ。

 

「気のせいだって思わないで、ちゃんと確認しておけば、被害は出なかったのに」

 

「……少なくとも、なのはのせいじゃないさ」

 

 なのはの独白と、固められる決意と覚悟。アニメ通りの展開だろう。

 今俺が言ったように今回の件でなのはは負い目を感じるのだが、正直俺には理解できない。彼女は人に褒められることをしたのだ。それでも自分を責めるほどの責任感、それは凄くもあるしカッコよくもあるが、歪にも感じられた。

 

「どこかに被害が出ても、誰かが悪いなんて、そんな事が存在しない時だっていっぱいある。ただ言えるのは、なのはは人に褒められる凄いことをしたんだよ」

 

「うん、ありがと」

 

 照れたように微笑むと、こちらに顔を向ける。

 

「だから、私は私にできることを続けるよ」

 

 いつものような力強い、そして温かい笑顔をなのはは俺に向ける。その笑顔はとても綺麗で、俺の心も溶かされるように安心してしまいそうになる、が。

 

 ──少し、おかしい。

 なのははこの件を通じて、「ユーノの手伝い」から「この街を私が守るために」へとシフトするはずだ。だというのに、なのはのこの表情、この発言。今このタイミングで決意をしたわけではないように思われる。なんなら、決意はすでに固まっていたというのか? 

 

「私にはユーノくんを手伝う力も、みんなを守る力もきっとある。だから、その力を使うよ!」

 

「……そうだね」

 

 なのはの決意はここで固まったわけではないが結果オーライか? どちらにせよ、なのはは自分が力を持つことを自覚していて、それを自分の意思で使おうとしているのだから。

 

「……ちょっと、言うの恥ずかしいんだけどさ、一縒くんのおかげなんだ」

 

「えっ?」

 

 突然のことに変な声を出してしまう。

 俺、なんかしたか? なのはの決意を決めるようなこと、何かした覚えは──

 

「神社で一縒くんがさ、私の前に出てきてくれた時、すごいなぁって思ったんだ」

 

「いや、まあ、あれはそんな大層なことじゃないよ」

 

 あの一件は、なのはの決意に影響を与えたというのか。

 だが、俺はあの時自分の意思で、かっこいい理由で動いたのではなく、自分の責任に耐えきれず、ただこの世界から逃げるためだけというダサい原因で動いた、それだけなのだから。

 決してなのはが考えるような理由ではない。

 

「私ね、誰かを守れる力があるのなら、それを使いたいの。でも、一縒くんはあの時、その力がなくても助けてくれた。だから、私もそんな風になりたいんだ」

 

 ゾクリ、と。背筋に気持ちの悪い、異物感のような何かを感じる。

 

「この力で誰かを救える、それなら、私自身を許せる気がするの」

 

 口から紡がれるその言葉は、純粋無垢なその表情は、美しく、綺麗で、それでいて、決定的に壊れている。

 だが彼女は綺麗すぎて、まるで俺みたいな普通の人間が間違っていて歪んでいるかのように見える。それほどまでに、彼女は壊れた真っ直ぐさを持っていた。

 

 そしてそれは、ある意味では今の俺の自己嫌悪にも似ていた。

 

 自分のせいだといつも己を責めてる俺は、この力で誰かを救うことで、自分を許そうとしているのだ。

 

 斜陽に照らされる彼女は、まるでSF映画に出てくる終末を迎えた世界に咲く一輪の花のように見えた。それは、壊れているからこそ、他の何者とも異なっていて、はかない美しさを秘めている。

 

 故に、俺は彼女に、今まで以上の畏怖と尊敬を持った。

 

 俺も、彼女のように、強い人間になりたい。

 

「だからね、私頑張るよ」

 

 こちらを振り向くと、いつものような──いや、いつも以上に全力全開の笑顔でそう口にする。

 

 綺麗な夕焼け空をバックに、春の夕暮れの陽射しを受け、美しく気高く咲く満開の花のような笑顔。

 

 なんだか、映画や漫画みたいなそのワンシーンが。とても綺麗な一枚の絵画のようなその絵が。不意を突かれた俺の瞳に焼きつく。

 

「一縒くん、顔真っ赤」

 

「ぅえ?」

 

 ばっ、と自分の顔を触る。

 ……熱い。

 あれ、どうした俺。なんでこんなにドキドキしてるんだ。いや、まさかな。そんなはずが無いよな。俺はロリコンなんかじゃ無いからな。

 

「早く帰るぞ」

 

「一縒くん、すごい、耳まで真っ赤だよ」

 

 咄嗟に俺は両手を耳に当てて隠す。

 おかしい。一体俺はどうしたんだと言うのだ。

 

「あーうるさいうるさい、とっとと帰るぞ!」

 

「あれ、なんか一縒くんがそんなに照れてるのってレア……?」

 

 レアってなんだレアって。生焼けの肉が俺は。別に照れることぐらい普通にあると言うのに。希少価値は高くないし、俺の照れなどステータスにもなりやしないと言うのだ。

 

「帰る!」

 

「あ、待って、もう一回だけ顔見せてよ〜」

 

「死んでも断るっ!」

 

 俺は、この日この瞬間に彼女に憧れた。

 

 ──そして、彼女のために生きると決めた。

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