ハードモードなリリなの転生モノ(旧代:リリなのテンプレ転生モノ)   作:振り米

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2話

 二度目の子供時代ではあるのだが、わかったことがある。子供の体は本当にはしゃいでも疲れない。

 大人になってから顧みると、どうしてああも電池が切れるまで動き続けることができたのか忘れてしまうものなのだが、実際にやってみることで実感できる。

 個人的な見解では精神的な重圧が減る事と、夜になればあっさり眠ってしまうことも関係があるのでは無いかと推測はしている。

 そしてもう1つ、これも恐らくであるのだが、俺の精神年齢が、肉体年齢に引っ張られているという事だ。意外にも同年代の子供たちを相手にする時でも、うまく溶け込むことができ、先述のような「馬鹿騒ぎしても疲れない」という子供の特権をも得ている。

 ……俺が子供っぽいだけと言われたらそれでおしまいなのだが。

 

「今日もゾウの公園な!」

 

 そう大きな声を出すのはクラスメイトの芦川君である。

 ちなみにゾウの公園とは、本物のゾウさんがいるだとか大層なものではなく、ただそこそこ大きいゾウの遊具が置いてあることから、いつの間にかゾウの公園と呼ばれるようになった。

 

「ボール持ってこいよ」

 

「もちろん! ダッシュで公園だかんな!」

 

「おう」

 

 ダッシュで来い、そう言い放った彼こそが真っ先に走り出して教室を後にする。

 彼らを相手にすると、アリサ達がいかに大人びているか分かる。もう少し年相応な行動があっても微笑ましいのだろうが。

 とはいえ、俺や他の大人達から見ればもちろん全員がなんら変わらぬ子供であり、彼女達にももちろんそういった子供らしい可愛さというものをしっかりと見受けられる。

 

 さて、行くか。約束を破るわけにもいかない。

 そう思った俺は、先ほど教室をかけでた彼ほどの全力疾走とは言えないものの、駆け足で教室を出る。

 まだ騒がしい廊下を走り抜ける。

 階段を一個飛ばしで降りていく。

 下駄箱で上履きを履き替える。

 ──懐かしいな。

 しみじみと感じてしまう。まさかもう一度こんな経験をするだなんて、思ってもみなかった。この、なにもかもが輝いて見える小学生時代を。

 校門を飛び出すと、ランドセルを置きに家へと駆ける。俺の場合、家と学校と公園のどれにも近いため、荷物を一度家に置いていけるのだ。余談だが、先ほど俺を誘った彼も家が近い。そのため彼はほとんどボール係と化している。

 

 閑静な住宅街を駆け抜ける。

 ランドセルを家に置き終え、お気に入りのブルゾンジャケットを取ると、駆け足で公園に向かう。昼間ということもあり、あたりから聞こえて来るのは鳥の声くらいだ。

 ちらりと横に目をやる。走り抜けながら横目に見る車達には、やはりこの地域の所得の高さを感じさせられる。というか、うちの学校、私立の小学校に通っている時点で明らかに裕福ではあるのだが。

 しかし、とりわけアリサと月村はずば抜けてる。アリサの家にはお邪魔した事があるのだが、言うまでもないと言った感じだ。

 などと、誰がどうみても子供が考えないような内容のことを考えているちょうどその時であった。

 

 ──ふと、輝くものが目に入る。

 

「なにもかもが輝いて見える小学生時代」といういつか使った比喩的な表現では無く、物理的な意味でだ。

 突然のそれに、体に緊張が走る。

 

 ──ジュエルシード。

 

 その単語が頭に浮かび上がる。

 それもそのはず、時期的に考えてもそろそろおかしくは無い。

 ジュエルシードとは、言うなればこの『魔法少女リリカルなのは』の一期における舞台装置であり、諸問題の根源でもあるものだ。

「望み」を叶える宝石、だったであろうか。

 しかし、その内包する魔力のあまりの大きさに、大抵の物や者は使いこなすことなどできず、さらに、たとえ願いが善であろうが悪であろうが、意図すらもねじ曲げて並べて等しく叶えてしまう。かなりピーキーな代物だ。

 そしてこの物語は、ある事故によりこの海鳴市に散らばってしまったジュエルシードを回収するところから始まる。

 この魔法が存在しない世界においては、ジュエルシードなどというオーバーパワーな代物は、余りにも過ぎたものだ。事実作中でも願いを曲解させて被害を与えている。

 ジュエルシードに遭遇する、そんな事態を想定していなかった自身の考えの浅さに後悔を隠せない。確かにこうも偶然に出会って仕舞えば対処法もないものであるし、遭遇率の低さを考えれば重要度は主要人物との接触について考慮する方が明らかに効率的な手であるから。

 しかし、出会ってしまったのも事実であり、今俺にできることは冷静になって解決する、ということぐらいだ。

 

 ──なんて考えは杞憂に終わった。

 それもあっさり、実に馬鹿らしく。

 

「ってなんだこれは」

 

 それがジュエルシードではないことを見分けるには、わざわざ目を凝らす必要すら無かった。

 落ちているものはなんらかの金属であり、どう見てもジュエルシードでは無い。

 

 恥ずかしい。

 

 あんなにもシリアスな雰囲気を醸し出しておいて、アホみたいな勘違いで終わっただなんて。

 

 ……今はその事は忘れよう。

 

 現在の立ち位置からその金属が何であるかはわからない。誰かの落し物だろうか。なんとなく興味を持ってしまった。俺はその謎の金属に向かって足を動かす。

 

「すかし、ぼり?」

 

 身を屈めてそれ見る。

 そこにあったのは小判形の金属。丁寧な透し彫りがなされている。

 おそらく安全であることを確信した俺はそれを手に取る。どこか見覚えのあるそれに数秒思考を巡らせる、1つの結論にたどり着く。

 

「刀の、鍔?」

 

 そう、刀の鍔。

 この日本における刀の装飾の一部分。武士の時代から端を発して、全盛期には実用性と芸術性を兼ね備える事になった、あの刀の鍔。

 別段詳しいわけではないのだが、こいつの形状から不思議なくらいにぴったりと思いついた。

 誰かの落し物であろうか。しかし、刀の鍔を落し物にする人物が現代日本にいたら非常に面白い。そもそも刀の鍔など落とすものでもなければ、持ち歩くものでもない。刀狩令よろしく銃砲刀剣類所持等取締法が存在するこのご時世、なかなかお目にかからないはずなのに、その上、刀の鍔だけをピンポイントで落とすなど、ナンセンスな事だ。

 

 それを拾い上げて胸ポケットにしまう。

 

 今度機会があったら交番に持って行ってやるか。

 わざわざ刀の鍔だけを落とすという間抜けもののために交番には行きたくないが、たまたま前を通りでもしたら預けてやろう。

 そんなどうでもいい覚悟も共に、胸ポケットにしまい込む。

 

 とはいえ、魚の小骨が喉に仕えた時のような違和感を感じる。

 何故俺はこんなよくわからないものをジュエルシードと見間違えたのだろうか。チラリとみても全く似ていない。それなのに俺は見間違えた。

 子供は疲れない、などと言っていたが、自分は疲れているのだろうか。なんてことを考える。

 

 それよりも急がなければ。公園でおそらくいつもより登場が遅い俺を、彼らが焦ったがっていることだ。

 

 ○ ○ ○

 

 ──誰か、僕の声を聞いて

 

 ──力を貸して

 

 ──魔法の……力を

 

 ○ ○ ○

 

 翌日の朝は複雑に絡み合う感情から始まった。

 諸悪の根源は今朝自分が見た夢の中にある。果たしてこれを夢と言って良いのかは知らないが。

 黒と赤、それらの色彩はこちらに警鐘を鳴らすようにして広がってゆく。その光景に嫌でも心は警戒をしてしまう。

 視界に映る赤は空の色なのか。

 

 まだ年端もいかぬ少年(現在の自分と同じくらいの年齢)が対峙するにはあまりにも不釣り合いな獰猛さと、身の毛のよだつ恐怖をまとった生命体が戦闘を行っている。

 しかし少年は一歩も引かない。詠唱とともに現れた魔法陣、一直線に突撃を行う魔物。

 軍配はどちらに上がったというわけでは無い。魔物もダメージを負ったのは確かなのだが、蓄積されたダメージなのか、疲労なのか、少年は倒れ込んでしまう。

 最後に、こちらに語りかける声。おそらく少年のもの。

 ──そんな夢。

 

 そんな夢が俺に与えたモノ。

 

 一つは、こんな夢ではあるのだが、自身に魔力の素質があるという事実がわかってしまったこと。

 人間として、自分に特別な能力が隠されていたことを知って、嬉しく無いわけがない。反面、その能力は開花させなければ使えないのみならず、そもそも一般の人として生活する上では全くもって不要であるという点を考慮すると、魔法の素質などクソほど役に立たないものだと思う。さらに、それ以上に危惧すべき点は、物語に関わってしまう可能性のタネがまた一つ増えてしまったというわけだ。

 

 さらにさらに、もう一つは、非常に個人的な理由ではあるのだが。

 ……罪悪感がある、ということだ。

 俺はこの出来事を知っていたのに、これからの出来事を知っているのに、手を出すつもりはない。それは遠巻きに考えれば、“よくなるべき未来”を放棄しているのであり、「終わりよければすべてよし」と言いながら、観客席に踏ん反り返ることである。

 もちろん、俺に何かができるとは思っているわけでもなければ、驕っているわけでも、自身を過大評価しているわけでもない。

 ──しかし、俺の中にある人並みの正義感が責めてくるのだ。糾弾してくるのだ。

 

「お前はそんなんでいいのかよ」と。

 

 ……いいのだ。

 俺のせいで被害が広がるようなことがあれば、それこそ最悪なルートだ。

 

「責任を負うのが怖いんだろう」と。

 

 ……その通りだ。

 だが、何が悪い。誰だってセカイ一つが丸々かかっている責任なんて負いたくはない。ましてや、俺なんてただ人生が2回目であるだけの一般人だ。お断りだ、そんな重圧。

 

 しかしまた、そうやって正当化する自分に嫌悪感を覚える。

 そうして、自己嫌悪の堂々巡りだ。

 

 だが、自意識過剰な思考は、非常に呆気なく、そして馬鹿らしく終わりを迎える。

 

「一縒! 起きてるの! 学校でしょ!」

 

 下の階から聞こえてくる母の声。

 

 ……俺にだってやらければならないことがあるんだ。この両親にも恩返しが、罪滅ぼしができるように、これもやるべきことの一つだろう。故に、前よりより良い人生を送るために、俺には魔法なんかより優先すべきことがあるんだ。

 エゴイストの何が悪い。

 きっと誰だってそうなのだから。

 

「もう起きてるから今行くよ!」

 

 吹っ切れたような大きな声でそう言う。

 

 ──さて、物語は始まっている。

 

 もちろん、俺と言う観客は無視して、だ。

 

 ○ ○ ○

 

「今日の昼休み?」

 

「そう、今日の昼休み」

 

 堂々とした口ぶりと立ち振る舞いでこちらに一方的に告げるアリサ。

 

「一縒も一緒に私達とお昼を食べるのよ」

 

 どうやら昼飯のお誘いらしい。

 いつも仲良し3人組で食べている彼女達であるのだが、先日の話が原因なのだろう。アリサは俺にお誘いをかけてくれたのだ。

 ──それにしても今日であるとは。運命のいたずらが働いているようにしか思えない。

 先ほどの授業の終わりで問われたものは「自分たちの将来」について。

 何が言いたいのかというと、この日は物語が始まる当日なのだ。そして、これから始まる屋上でのランチタイムはもうアニメでも存在するシーンとなってしまう。それに混ざることはつまり、作品に介入してしまうことになる。

 であれば当然断るはずであるのだが。先日のあの会話だ。

 アリサに対して、高町達と一緒に遊ぶとの約束をしてしまったのだ。別にそこまでならばいいのだが、その指定に、いきなりこの日が選ばれてしまったのだ。

 故に断る訳にもいかない。

 今朝気持ちを一新し、新たな覚悟を決めてきたと言うのに、運命とはこちらの事情を理解するつもりがないのか。

 

 状況を天秤にかけよう。

 まずは選択肢として、参加するか参加しないかの二択しか存在しないところからのスタートだ。単純明快でわかりやすい。

 まずは参加しなかった場合。

 おもっくそ怪しまれる。

 おそらく事前に彼女達にも俺が昼ご飯に参加する旨を伝えているだろう。なのに断ればその間に亀裂が生じるということは当然であり、尚且つここから物語が始まるのに、彼女達3人の関係と、高町なのはの中に、俺と言う原作では登場しないはずの要素が根深く残ってしまう可能性がある。

 であれば、参加してみたらどうか。

 こちらの選択肢には考えられる点がマイナス方向とプラス方向にそれぞれ存在する。

 マイナス方向については言わずもがな、これまでとは違い、原作のワンシーンに介入することになるのだそれが与える影響は計り知れず、不確定要素がでかいと言える。

 プラス方向については、あのシーンは明らかに重要度としては他のシーンに劣ると言う点だ。あのシーンに俺がいても、その後の高町が魔法と出会う事実は変えようがない。そして、もっとも影響の少なそうなシーンで、俺という存在がこの世界に与える影響を見ることができる。これによってこちらの行動の指針を変えることができるようになるのだ。

 故にというべきか、すでに答えは決まっている。

 

「もちろん。昨日約束したばっかだしね」

 

 その言葉を聞くと、こちらにもわかるくらいに嬉しそうな顔をする。

 ……そもそも、こんな顔をされるとなると、断れるわけが無いではないか。

 

「それじゃあまた後でね」

 

 それじゃあ、と返答をすると、彼女は自分の席に戻っていく。そして、それと同時に休み時間の終了を告げるチャイムが鳴り響く。

 

 さて、吉と出るか凶と出るか。

 その答えは解りはしない。ただ、いずれにせよ答えが出るのはそう遠くはないはずだ。

 

 ○ ○ ○

 

「将来か〜」

 

 綺麗に整った弁当箱からたこさんウインナーを取り出す。それを口に放り込むとウインナー特有のパキッという気持ちの良い音が響く。

 

「アリサちゃんとすずかちゃんはもう結構決まってるんだよね」

 

 そう話を振るのはこの物語の主人公である高町なのは。

 現在、俺を含めた4人は昼休みの時間に屋上で弁当を食べている。俺が過ごした6、3、3の12年間では、屋上で昼飯などした事はなく、漫画やアニメの中でしか見れなかったそれを行えたことに、こっそりと筆舌に尽くしがたい喜びを感じている。

 ──というかここはそのアニメの世界であるのか。

 

「うちは、お父さんもお母さんも会社経営だし、いっぱい勉強をしてちゃんと跡を継がなきゃ」

 

 そう語るアリサの横顔はどこか嬉しげな表情にも見える。

 ……まあ、「親の跡を継ぐ」という趣旨の発言くらいは小学生がしてもおかしくは無い。

 

「くらいだけど」と言い、チラリと視線を月村にやる。

 

「私は機械系が好きだら……」

 

 そういった月村は少しだけ溜めを作り、口の中にご飯を放り込む。

 

「工学系で専門職がいいな、って思ってるけど」

 

 ダウト。もうこれは小学生では無い。

 確かに子供の夢で「ロボットを作りたい」だの「機械を作りたい」だの、具体的かつ抽象的な将来の夢はよく聞くが、『「機械系」が好きだから「工学系」で「専門職」がいいな』、なんて普通の小学生は言わない。

 

「大神くんは、何か将来の夢あるの?」

 

 のんきに心の中で彼女たちにツッコミを入れていると、当然ではあるが自分の番が回ってくる。

 将来の夢、か。

 前世では普通にサラリーマンをやっていた。と言っても入社一年目で死んだのだが。

 とはいえ2回目のこの人生、折角なら他のことをやってみたい。

 

「宇宙飛行士」

 

「「「宇宙飛行士?」」」

 

 3人とも声を揃えてそう言う。

 そんなに驚くことであろうか。小学生の将来の夢なんて、やれスポーツ選手だの、やれYouTuberだの、そして俺が言った宇宙飛行士など、突拍子のないものばかりだ。

 確かにここが高校で、俺たちが高校生であるならば、驚かれたり笑われたり鼻で笑われたりもするかもしれないが、ここは小学校だ。こうも驚かれるとは思わなかった。

 

「まあ、あんたなら努力すれば行けそうな気がするけどね」

 

「でも大神くんは理系より文系の方が得意なんだよね?」

 

「こいつ文系っていうかオールラウンダーじゃない」

 

「それもそうか」

 

「ええ……」

 

 勝手に話が進んで行く。なんと言うか、彼女らは俺を買いかぶりな気がする。ちょっとした冗談のつもりで言ったのだが……。

 

 いや、彼女たちにしてみれば、将来の夢だなんて、実現可能なものだろう。この歳にしてバイリンガルのオールラウンダーなアリサを見れば、俺と違って実際に宇宙飛行士にだって簡単になれてしまいそうだ。

 

「嘘だよ、本当は小説家」

 

「「「小説家?」」」

 

 3人とも声を揃えて……というかこれデジャブ。

 

「というのも嘘で、本当は会社経営者」

 

「会社経営者なら私と同じね」

 

 ずい、と身を乗り出して話しかけてくるのはアリサ。

 俺のその発言にどこか嬉しそうな表情を浮かべている。

 

「聞きたい事があるならなんでも聞いていいわよ」

 

 得意げな顔、所謂ドヤ顔でこちらに語りかけてくる。

 

「じゃあアリサの会社乗っ取りたいんだけど、とうすれば──」

 

「あんたバカじゃ無いの!」

 

「あ、そうだ」

 

「まったく、今度は何よ……」

 

「アリサと結婚すれば文句無く会社経営者になれるわけだ」

 

 こちらとしては、ちょっとしたからかいのつもりであった。これに対して、きっとアリサはいつも通りにカミナリを落とすであろうし、それで無くても冗談を鼻で笑うかくらいであろう。少なくとも俺はそのどちらかであろうと考えていた。

 いたのだが──

 

「そ、そ、そ、そ、それも、そうね」

 

 見ているこちらまでもが恥ずかしくなってしまうほど、林檎飴のように顔を赤く染め上げるアリサ。

 ……いや、こんな反応されると流石にこっちも恥ずかしくなるだろ。でも、たしかに、アリサと結婚なんて出来ればまさに逆玉の輿であり、なんと言うかまあ、美人な奥さんと、会社の利権と、大量のお金が手に入るのだ。

 ……随分と魅力的では無いか。

 

 いけないいけない。俺は物語の登場人物には付かず離れずの距離を取らなければならないのだ。どんなに魅力的だとしても、流されてはならない。

 

「なーんて、んなわけ無いだろ」

 

「わた、私は別に──え?」

 

「いや、だから。例え結婚したとしてもそんな都合よく会社の経営を一任される訳がないんじゃ無いのかなって」

 

「は、はは、それもそうね」

 

 よし、なんとかうまく誤魔化せたみたいだな。

 

「あー、あと投資家」

 

 俺はそれとなく雑に話を本筋に戻してみせる。

 

「投資家?」

 

 その発言を聞いて苦笑する月村さん。

 よし、なんとか誤魔化せた。

 

「その、投資家さんって何かな?」

 

 その発言を聞いて首をかしげる高町さん。

 

 とはいえ、投資家はガチで有りだろう。

 なぜなら俺は転生したとは言っても時間軸的には俺の時代より前なのだ。アップル社があればiPhone関連前後で株は上がるし、アリババ等の中国企業だって元の世界と同じならアホみたいな速度で成長してくれる。何よりもIoT関連の企業や物流系の企業がこっから先業績を伸ばすというのは明白であり、どこに入れればいいか、もちろん多少吟味する必要性はあるのだが、かなり有利に進められる。

 まあ、小学生には投資できないんだけどね! 

 そして何より、元手となる金も持ってないしね!!

 

「……まあ、ある程度先が読めて、のめり込みすぎると危ない宝くじみたいなもんだよ」

 

「あんたは普通に働いた方が良さそうなのに」

 

 弁当箱の中の唐揚げを頬張りながら、呆れた声でアリサは言う。

 

「そっかぁ……、3人ともすごいよね」

 

 少しだけ寂しそうに高町なのはは口にする。そう言えば先ほどの会話でも、どこか置いてけぼりでも食らったかの様子であった。

 

「でも、なのはは喫茶翠屋の二代目じゃ無いの?」

 

 アリサが優しい声音でそう問いかける。けれども依然としてなのはの表情は晴れない。

 

「うん……、それも将来のビジョンの一つではあるんだけど」

 

 俯き加減のまま、消え入ってしまいそうな声でこんなことを言う。

 

「やりたい事は何かあるような気もするんだけど、まだそれが何なのかハッキリしないんだ。私、特技も取り柄も特に無いし」

 

 自虐的に語る高町。

 が、そんなのを友人達が許すはずも無く。

 

「馬鹿ちん! 自分からそういうこと言うんじゃ無いの!」

 

「そうだよ、なのはちゃんにしかできないこともきっとあるよ」

 

 アリサと月村が立ち上がりながら語気を強めてなのはに言葉を投げかける。言うべき時は躊躇せずに言える、そんな素晴らしい友情関係に、少し羨望の眼差しを向けてしまう。

 おっと、この2人が発言したのなら次は俺に発言権が回るのではないか。何かいいことを言わなくては。

 

「大体、高町はそんなことまだ気にする必要無いって。小3だろ? ここにいるアリサとか月村が異常なだけだって。高町みたいなのが普通なの。恥じる必要はないって」

 

 無責任な発言だなぁ、なんて他人事の様に考える。

 彼女の将来は、今日決まると言うのに。本当に俺な無責任だ。

 

「──ちょっと、あんた」

 

「ん、どうした」

 

 その発言を聞いて、アリサは視線を180°回し、俺と対峙する。

 

「今、私のこと異常って言った?」

 

 あ、やばい。頭にデフォルメされた怒りマークが浮かんで見える気がする。

 

「あ、いや、違うんだ。なんと言うか、お前ら、大人びてるよなって。褒め言葉だよ褒め言葉」

 

 適当な言葉を漁って取り繕おうと試みるも、それらどの言葉もアリサに対しては効果はないようだ。

 

「大体あんた、この私より成績いいじゃ無いの! それでよく自分が異常でないみたいな口ぶり出来るわよね!」

 

 ビシッと、こちらに指をまっすぐ突き立てる。

 ぐうの音も出ない正論ではあるのだが、俺は二週目の人生だから俺TUEEEEが出来るわけであり、一週目は超努力型の平均よりは上程度の一般人だったのだ。

 確実に天才の類ではない。

 そう考えると目の前の3人は全員が全員、天才である。

 アリサや月村は言わずもがな、高町に関しては理系科目はめちゃくちゃ出来るわけだし、さらに言えば魔法の才能がずば抜けている。

 それに比べたら、むしろ俺の方が才能も取り柄も、何もないのかもしれない。

 

「まあ見てろって、10年後にはわかるさ! 勝ち組のお前らと、そうはなれない俺との間に格差が広がってるだろうよ」

 

 わはは、と高笑い。

 ばっ、と手を広げ、大げさに振舞ってみせる。

 

「その発言ポジティブなのかネガティブなのか、どっちなのよ!」

 

 指をさしたまま華麗なツッコミを見せてくれる。流石はアリサ。

 その後も馬鹿みたいなやり取りを俺とアリサで繰り返しては、月村や高町が止めに入ったり、乗ってみたりと、面白おかしく続けてゆく。

 

 ちらり、と横目で高町が笑っているのが目に入る。

 ……まあ、俺が干渉しないぶん、罪滅ぼしとして、少しは心的負担を取り除けたらいいな。

 なんてことを考える。

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