ハードモードなリリなの転生モノ(旧代:リリなのテンプレ転生モノ) 作:振り米
「あんた、塾とか行ってないの?」
学校からの帰り道。アリサ達3人娘は塾に向かう道の途中であり、俺は自宅へ向かう道の途中である。どうして一緒に歩いているのか。答えは簡単で、彼女達の塾へと向かう道と俺が自宅へと向かう道が同じだからだ。
「うん、特には」
俺は塾には通っていない。というより通う必要がない。知っての通り二週目の人生であり、正直勉強で遅れを取るつもりは無い。高校の勉強も、一応国公立を志していた身であったため、大抵は一度やっていることだ。一度覚えたことを思い出すという行為は、ゼロの知識を埋めていくことよりも何十倍も楽なのである。さらに言えば、小中学校の勉強というものは、流石に高等学校で習うものからすると何段か劣るわけであり、むしろ二週目の人生で勉強に苦戦するようじゃあ恥ずかしくてやっていけない。
「大神くん、本当に凄いよね。塾にも行ってないのにいつも1位だし」
こちらに顔を向けると優しい微笑みを浮かべながらそう口にする月村。彼女の凄発言は全く嫌味に聞こえず、素直に嬉しい気持ちにさせられる。
と言っても俺は人生のチーター(動物でなくチートをする者の意)であり、素直にその言葉を受け止めるにはどうも胸につっかかるものがある。
「そんなこと言うけど、運動とかになると月村に全然及ばないよ。今日のドッジボールも一瞬で当てられたし」
俺は運動が好きな方だ。前世でも野球をやっていた時期もあり、運動神経も悪く無い方だと自負しているのだが、当たり前なのだがプロのスポーツ選手になるほどでは無い。これに関しては2度目の人生だからと言ってどうにかなるわけでもなく、目の前の驚異的な身体能力を持った月村には手も足も出ない。
「あはは、でも小学校の低学年までは女子の方が力は強いって言うよね」
男として女性に運動能力で負けたことに対して単純に落ち込んでいると、それに気がついたのかどうかはわからないが、慰めの言葉をかけてくれる。
「うー、すずかちゃんは運動できるからいいけど私なんて何にも大神くんにかなわないよぉ……」
がくりと肩を落とし、こちらにもわかるくらいに落ち込んで見せる高町なのは。
彼女は、理数系はもちろんかなり優秀なのだが、残念ながら二週目の人生である俺に敵うはずもなく、文系科目に関してはお察しであり、運動神経に関しては、もはや言うまでもないレベルとなっているのだ。
だが、俺は知っている。彼女が並外れた魔法の持ち主であることを。
おそらく俺なんかよりももっと希少で、誰かの役に立つ素晴らしい能力なのだ。
「馬鹿ちん、そうやっていつも自虐する」
ネガティブな高町の発言に対して、アリサは腹を立てたのかなのはの方に向かうとその両手で高町の頬をグリグリと引っ張る。
「だ、だって〜。私なんの取り柄もないし」
それでもなお自虐を続ける高町。そうしてしまうと尚更アリサはその手を止めるはずもなく、グリグリ攻撃を続行する。
「高町にはきっと、高町にしか出来ない何かがあると思うよ」
アリサと高町がじゃれあう光景を見て、ついそんな言葉を発してしまう。
俺にしてみれば根拠があるわけなのだが、周りから見れば根拠もなくどうにも無責任な発言に思われるかもしれない。
咄嗟にそんなことを考える。
「うん、私もそう思うよ。きっとなのはちゃんにしか出来ないことがあるはずだよ」
しかし、月村もその言葉に同意する。
「そうよ、私達のお墨付きなんだからね!」
さらに、アリサも俺たちに続く。
──彼女、高町なのはには、きっと何か感じさせるものを持っているのだろう。雰囲気、だとか。確かに、非科学的なことかもしれないが。それでも彼女は多くの人を惹きつけるのは事実だ。
「おっと、それじゃあ俺はそろそろ家だからこの辺で」
他愛ない話をしていると気がつけば自宅の前に。楽しい時間は早く過ぎるとよく言うが、俺にとってこの時間は楽しい時間であったと言うわけだ。確かに、俺は彼女たちと一緒にいる時間が楽しいのかもしれない。精神年齢は体に引っ張られているものの、やはり他の同級生たちよりも大人びている彼女たちと過ごしている時間の方が好きなようだ。
「じゃあね、次のテストは私が勝つから覚えておきなさいよ一縒」
ビシッと指をまっすぐに立ててこちらに向ける。
「はは、負けないよ、俺も。それじゃあ」
「じゃあね、大神くん」
「バイバイ」
歩き去っていく彼女たちの後ろ姿を眺める。こうして見ると、彼女たちは確かに大人びているかもしれないが、普通の小学生だと実感できる。
──さて、家に入るか。
ガチャリとドアを開けると、向こう側に立っていたのは、笑顔で、と言うよりもニヤニヤとした顔で出迎えるお母さん。
「一縒、モテモテね。しかも全員可愛い子だったじゃない」
「……からかわないでって。前にも話してたじゃないか」
「あら、そうだっけか」
わざとらしくおどけて見せる母さん。もう、このやり取りも何度目であろうか。別に彼女たちと帰っているのはウマが合うからと言う理由であり、正直俺は彼女たちとは全く釣り合っていないように感じる。俺は、周りの人から見たら天才かもしれないが、実はただのチーターであり、彼女たちに関しては本物の、純度100%の天才なのだ。どうして俺が及ぶといえよう。
「まったく、じゃあ俺は部屋で宿題やってくるから、邪魔しないでよね」
「りょーかい」
俺は階段を登ると自分の部屋へと入る。ランドセルをかけて明日の準備へと取り掛かる。ちなみに言うと宿題の話は嘘だ。実際に宿題があるのは事実だが、授業中の内職で終わらせてある。
ゴロンとベッドに仰向けに寝転がる。
──さて、話は変わるのだが『魔法少女リリカルなのは』は今日をもって始まりを迎える。
高町なのはが魔法と出会い、彼女を主人公とした物語。
その始まりが今日、この夜に始まるのだ。
ゴクリと息を飲む。俺に直接の関係があるわけでも無いのに妙な緊張感が体を襲う。
……今晩は簡単に寝付けそうにない。
その後、夕ご飯を食い、風呂から出た俺はベッドに腰をかけてその瞬間をじっと待っていた。
○ ○ ○
──などと思っていたのだが、そんなことは杞憂に終わった。ここ数日は杞憂であってばかりだ。
まあ、何にせよ。
物語の始まりは、意外にもあっさりと過ぎ去っていたのだ。
緊張し、身構えながら迎えた昨夜であったはずなのだが、いつの間にか深い眠りに落ちていたらしい。
陽光が顔にさし、眩しいと言う感覚ばかりを持ちながら目を覚ます。腰をかけていたはずのベッドに、いつの間にか寝転がっていた。
確かに昨晩、例の声は聞こえた。
ユーノ・スクライアが、魔法を使える誰か、今回の場合は偶然にも魔力を有していた、高町なのはに助けを求める声を。
──いや、俺から言わせてみると「必然」か。
その後は特に何かあるわけでもなく、小学生のこの身にはどうも睡魔というものにはかなわなかったらしい、深い眠りに落ちてしまった。
しかしどうにも未だ実感がわかない。先日のお昼の物語への微妙な参入がなんら影響を与えなかったことに関してはホッとしているのだが、こうも実感がないとまるで他国の戦争を呑気にニュースで眺めているみたいな気持ちだ。
そんなことは置いておいてだ。こうして見事に『魔法少女リリカルなのは』は始まった。確かに実感というものは少ないのだが、寧ろそれはプラスであり、俺にとって最高の滑り出しを迎えられたといっても過言ではないだろう。実感がないと言うことは、俺との関わりが薄いと言う事であるのだから。
ここから先、高町なのはは管理局世界の原則としてもそうであるし、本人自身の巻き込みたくないという強い意志のもと、魔法の存在を隠そうとするわけだ。
つまりスタートさえ上手くいって仕舞えば、少なくともA'sに入るまでは心配はいらないだろう。そして、そのA'sさえ乗り越えれば、前にも話したのだが、StrikerSでは世界を移すことになるので巻き込まれる可能性はほぼゼロになる。
とはいえまずは目の前の物事からなんとかしなければならない。
学校ではとりあえず普通に過ごす。普通にだ。そうしていればきっと巻き込まれまい。
階段を下りて一階に行くと、母親が目玉焼きを焼いている姿が目に入る。自分はいつも同じ時間に起きるため、この姿を見るのは半ば日課のようなものだ。とはいえ、昨日の朝は例の夢のせいで寝坊してしまったのだが。
テレビをつけて、チャンネルをニュース番組のものに合わせると、ある事件が真っ先に飛び込んでくる。
「──昨晩、海鳴市内の動物病院で、トラックの追突事件が──」
ニュースに映るのは、高町なのはとご一行がおそらく昨日、ユーノ・スクライアを預けたであろう動物病院。もちろん昨晩そこで起きたのは訳のわからない事故などではなく、魔法を使った戦闘。ユーノ・スクライアがジュエルシードの思念体である魔物に襲われて、高町なのはがそれを助けた場所だ。さて、これで昨晩の俺に入ってきた念話だけでもなく、こうして事実確認ができた。これでひとまずは安心できる。
「あら、そこの動物病院うちの近所じゃない。物騒ねぇ……」
目玉焼きを焼き終えて、お皿に移す。その際にテレビが目に入ったのか、母さんはそんなことを呟く。
「一縒も、気をつけてね。事故とかになると一縒に過失が無くても巻き込まれることもあるんだから」
これは事故ではないのだが、なんて事はもちろん言わない。とはいえ、この「事故」には巻き込まれないようにしなければならない。
「うん、気をつけるさ」
口を動かしながらも、テキパキと朝の準備をする母親を見て流石だなと思う。キッチンの引き出しから3人分の箸を取り出し、その上の棚から食器を取り出す。大したことではないが、箸やお皿を運ぶことくらいはお手伝いはする。
「はい、それじゃあ朝ご飯ね」
お皿に乗った目玉焼きとトースト、そしてトマト。
前世の朝は「パン」派ではなく「ごはん」派であったのだが、この生活に慣れて見ると朝のパンもありだと思う。
何よりもコーヒーが進む。
父さんはまだ起きてこない。俺が普段から早起きなのと、昨晩は帰りが遅かったことが関係しているのだろう。時間に余裕はまだあるのだろうし、ゆっくりと寝かせておくべきだ。
「それじゃあ、いただきます」
○ ○ ○
「おはよう!」
がらり、と教室の扉を開けると、こちらに挨拶をしてくれるクラスメイトの姿が。
「おはよう」
笑顔でそう返す。
こうして思うのだが、人間は歳をとるごとに素直に挨拶をする人が少なくなるような気がする。小学生では、もちろん人にもよるのだが、先ほどの彼のようにあいさつをしてくれる子の方が多い。
そして、もちろん彼女たちも例に漏れずその類であり──
「おはよう」
「あ、一縒じゃない。おはよう」
「おはよう、大神くん」
このように気持ちの良い挨拶を交わしてくれる。
しかし、今日の彼女たちは何処か心配そうな面持ちで会話をしていた。
……なんてことを言ったが、俺はその表情の理由を知っている。
そう、昨日、彼女たちが保護した動物を預けた動物病院で起こった事故についてだ。今朝のニュースでも見たりして、彼女たちの耳に入ったのだろう。
しかし俺が「その事情を知っている」ことを彼女たちは知らない。故にここは昨日の事実確認も含めて、彼女達に事情を聞くのが自然であろう。
「どうしたの? そんな神妙な顔つきで」
その発言を聞いてずいと身を前にのりだすアリサ。
「一縒は今朝のニュース見た?」
うん、と頷いてみせる。それを確認すると彼女は言葉を続ける。
「昨日あんたが帰った後に、弱ってたフェレットを拾って動物病院で預けたんだけど、その預けた場所が、今朝ニュースでやってた場所なのよ……」
「そうなんだ……大丈夫なのかね」
悲痛そうな面持ちを作り出す、が、内心では喜びの気持ちが大きい。
決して俺が他人の不幸を喜ぶような最低底辺クズ野郎なわけでは無い。そもそも、俺は今回の事件での死傷者は0人なのを知ってるし、そのフェレットも無事であるのを知っている。
そして、これで事実の7割は確認できたのだ。
流れとしてはしっかりと俺の知っている『魔法少女リリカルなのは』に準拠している。
高町なのはがフェレットの声を聞き、彼女達が病院にフェレットを預ける、そうして物語は始まる。おそらくちゃんとその流れに乗っていたのだろう。
とはいえ、俺は10割では無く7割と表現した。何故か。それは残りの3割を確認すればすぐにわかる。
「おはよう、アリサちゃん、すずかちゃん、大神くん」
──そう、彼女、高町なのはに関してだ。
彼女達がフェレットを病院に預けたところまではいいが、その後に、本当に高町は魔法少女になったのか、という肝心な疑問が残されている。
彼女の挨拶に各々が返事をした後に、アリサがすぐに口を開く。
「なのは、昨日の病院で事故があったの知ってる?」
「ふぇっ?」
はてなマークを頭の上に掲げている高町に対して、月村は補足説明を加える。
「昨日行った病院で、車か何かの事故があったらしくて、壁が壊れちゃったんだって……」
それに続けてもう一度アリサも口を開く。
「あのフェレットが無事かどうか心配で……」
言い終わると、本当に不安そうな、沈痛な面持ちをする2人。
そんな光景に少しだけ困惑したような表情を見せて、高町は口を開く。
「……あー、えっとね、その件は、その……、逃げ出してたあのフェレットとたまたま外で歩いてたら出会って、うちで保護することになったの」
……どこかそわそわした態度であるなのは。アリサとすずかはフェレットが無事で良かったと思う気持ちが強かったのか、違和感を感じる余裕はないみたいだ
「そっか、無事になのはの家にいるんだ」
「無事で何よりだね」
そうして高町の返事を聞くと、ホッとしたのか、胸を撫で下ろす2人。
「たまたま逃げ出したあの子と道でばったり会うなんて」
「「ねーっ」」
アリサと月村、2人顔を見合わせて喜びの表情を浮かべる。
「あ、あはは……」
対照的に引きつった笑みを浮かべる高町。
──これを見て確信した。
彼女はちゃんとフェレットを保護しているし、魔法少女にもなってもいる。
まずフェレットを保護していなかったら、嘘をつく必要もないわけであるし、素直に喜べばいい中で中途半端な笑顔で迎え入れるのはやはり隠し事、魔法少女になった事を示している。
「あ、それとあの子、うちで預かれることになったよ」
さらに朗報の追加攻撃。
これを聞いたアリサと月村はより一層の喜びを見せる。
「そうなんだ」
と、月村。
さらに何かを思いついたのだろう。勢いのままに前のめりになりながら高町に質問をぶつける。
「名前つけてあげなきゃ、もう決めてる?」
「うん、ユーノ君って名前」
その発言に対して、そこはあらかじめ想定していたのか、極めて冷静に返す高町。
「ユーノ君?」
「うん、ユーノ君」
「へ〜」
「いいんじゃない」
アリサと月村はその名前が気に入ったのだろうか。特に異論もなさそうに相槌を打つ。
俺も適当に相槌を打つ。
「──あんたはどうなのよ」
「え、俺?」
「なんか、ぼーっとしてたじゃない」
どう、って、ユーノという名前についての感想を求められているのだろうか。
「いいんじゃない? 強そうだし」
突然の質問に対してつい冷静さの欠いた適当な発言をしてしまう。
それにしてもなんだ、強そうって。自分で言ったセリフではあるのだが、咄嗟に出たのはなんと間抜けなセリフだ。
もちろんそのような適当な発言をアリサが聞きすごすことなどあるわけがなく。
「なーにーよー、その適当な返事。あんた当事者じゃないからって適当に考えて」
「いや、待て待て、別に適当に言ったつもりはないって」
嘘である。
本当は適当に言った。
「まあまあ、アリサちゃんも落ち着いて、ね? 大神君も今度うちのユーノ君見に来ない?」
2人の間に入って来たのは高町。別に大したことのない口論であるのに、こうまでしてわざわざ止めに入るのは、嘘をついてしまったやるせなさでもあるのだろう。
「そうね、あんたもユーノ君見たら絶対に可愛いって思うわよ」
「そこまでいうなら楽しみにしとくよ」
……まあ、俺はその姿を知っている。さらに言えばそれが男の子であることも知ってるのだが、それは言わないでおこう。