ハードモードなリリなの転生モノ(旧代:リリなのテンプレ転生モノ) 作:振り米
太刀の振り方など知らない。
ただ、この手に現れたそれを一歩踏み込んで思い切り上に振り抜くのみ。
風切り音を上げた刀身はそれでいて風よりも速く、まして音すらも追い抜いて上方へと振り抜かれる。
一陣の風となったそれは魔物の爪と激しくぶつかる。しかし、それも一瞬のことであった。手に感じたのは絹を手で撫でたような、或いは、清流を手で掬ったような、宛転たる感覚。
斬りあげる時に、無駄な力など要らなかった。そんな事をしなくても、その魔物の爪は、手は、腕は、見事なまでに両断されていたのだから。
腕を落とされた魔物は「狩り」の相手からの突然の反撃に全くもって対応することをできずにいた。それでもヒットアンドアウェイの要領で、目の前の魔物は大きく後退する。辺りには奴の体液が飛び散っていた。血か何かだろう。
「大神、くん?」
背後からは少女の声が。
その声音だけでは彼女の心情をわかり得るはずが無いのは確かである。が、彼女の声からは喜びという部分は少なく感じられる。どちらかというと、助かった安堵ではなく、同級生の急変による困惑の色の方が強い気がする。
「大神くん、どうして……」
「話は後でいいか、高町。今はあいつをどうにかしないと」
刀を体の前に出して、剣先を斜め上に向ける。足は肩幅程度に開き、手と手はしっかりとくっつけて強く握りしめる。
とまあ、見よう見まねで構えを取る。
「おうおう、かっこいいこと言ってるけど、坊主の構え方、初心者感丸出しだぜ」
急に現れた第三者の声。だが俺はこの声を知っている。この声の主は先ほど俺に語りかけてきた何者か。いや、何「物」か。
この、日本刀の形をしたデバイスだ。
少し前に落ちていたものを拾い、ジュエルシードと勘違いをしたもの。俺の胸ポケットに入れっぱなしにしてあった刀の鍔。理由も因果もわからない。
分からないが、1つ言えるのは、それがデバイスであったという事実。
「お前は、あの時拾った──」
「んなこと今はどうでもいいだろ?」
「──まあ、そうだな。どうすればいい」
今は恥もプライドもゴミ箱に叩き込んででもこの状況を打破しなければならない。それが俺の責任だから。
「まず足を──って避けろ!」
その言葉に上を見上げると、さて何度目か。今一度あの魔物が爪を振り下ろそうとしているでは無いか。
先ほど奴を切れたのは偶々だ。何故なら俺は剣術など知らぬし、当たり前だが剣など振ったことすらない。先ほどは本当に無我夢中で、ただ体の動くままに剣を振るっただけなのだ。
だから、今回の奴の攻撃への対処法は全くもって浮かばない。
上から爪を振り下ろされたらどうすればいいんだ。
剣で押さえる? いや、日本刀などは横で押さえれば刃こぼれするだろうし最悪折れる可能性もある。
タイミングを合わせて刀を振り抜く? いや、切れたとしてもその威力までは消し切れないかもしれない。
ならば、避ける? いや、今の俺の後ろには高町なのはがいる。ここで避けたら彼女に直撃だ。
なら、どうすれば。
「プロテクションっ!」
後ろから叫ぶような大きな声が聞こえると、獣の攻撃は目の前で食い止められる。鋭利な爪を深くつきたて、全力で破ろうとしているのが分かるのだが、その攻撃はプロテクションに止められていた。
混乱して、何もできなかった俺。おそらくこのままでは何も出来ずに直撃でもしていただろう。
だが、俺は生きている。後ろから聞こえてきた少女の声によって生かされたのだ。
情け無い。覚悟はしたのに、身体は思うように動いてはくれない。
「大神くんっ、逃げて」
再び後ろの少女から聞こえてきたのは、信じられない言葉だった。
──そんな事をしたら、君は死ぬかもしれないんだぞ。どうしてそんな事が言えるのだ。
今一度覚悟を決めろ。
俺には責任があるんだ。やらなければならない責任が。
「し、死んでも嫌だ」
震える声を絞り出して言葉を口から紡ぎ出す。
「俺が君を助ける、なんて自意識過剰なことは言わない。だけど、それでも、君を助けなければならない。だから、あいつが何をしても君の前から退かない。死んでもだ」
今度こそ、しっかりとした言葉を口にする。
強く刀を握りしめる。不安や焦り、他にも様々な悪い感情はここで握りつぶす。
「おい、デバイス」
「ああ? 何だ。俺には
「シナツヒコ、どうすればいい。この場面」
──おそらく、このプロテクションも長くは持たない。先ほどから苦悶の表情を浮かべている高町を見ればそれは明らかだ。であれば、このプロテクションが崩壊する前にどうにかしなければならない。
数秒、沈黙が起こる。
聞こえてなかったのか、再び声を上げようとしたちょうどその時、このデバイス、シナツヒコは言葉を発する。
「そこな嬢ちゃんのデバイスよぉ」
「Do you want me?」
「このプロテクション、持って後何秒だ」
「Maybe.20 seconds」
「よし、十分だ。嬢ちゃん、後そんだけ耐えてくれ」
「は、はい!」
沈黙を破ると、今度は饒舌に高町とそのデバイス、レイジングハートから状況を聞き出す。
「坊主、次はお前だ」
「おう」
「今からお前に剣術を教える暇はねえ。いいか、下手に剣術の真似っこをするくらいなら、お前が振りやすいと思う形をとれ」
「それってどう言う意味──」
「いいから!」
俺の発言は途中で遮られる。しかし、時間がないのも事実だ。
振りやすい形、何でもいい、どんな形でもいい。と、言ったら俺にはあの形しかない。
敵に対して俺は左の半身だけを見せる。刀は左手を下、右手を上にしてくっつける。刀身は肩の上に少し傾けるように構える。そうして右足に重心を乗せる。
所謂、バッティングフォーム。
前世では小中高と野球をやっていたため、振りやすいといえばこの形しかないだろう。
一か八かだ。これでやってやる。
覚悟を決めろ。責任があるのだから。
「15 seconds」
「おい! 坊主! 中途半端に剣の構えをするんじゃねえっつたろうが!」
「は? 剣の構え? 何処がだよ。バッティングフォームだよこれは」
「どう見たってそれ、八相の構えじゃねーか!」
「八相の構えって何だよ!」
見当違いなシナツヒコの言葉に俺は語気を荒げてそう返事をする。すると再びちょっとの沈黙を作ってから口(デバイスには無いのだが)を開く。
「お前さん、それ知らねえでやってたのか。……よし、気が変わった。ちょっと口出しさせてくれ」
「いきなり何なんだよ」
「まず体の重心は片足に寄せず真ん中に!」
いきなりの彼の態度に焦りと動揺と不満はあるものの、今俺にある一筋の希望の糸はここにしか垂れてないので、それに縋るしか無い。
右足に乗せてた重心を、体の中心に、自然体になるように持っていく。
「お次に手! 両手の間は開けるもんだ!」
そういえば、剣道とかって両手を広げていたかもしれない。
「んで刀は真上に向けてから、右脇を締めろ!」
言葉だけで言われてみると難しい質問だが、なんとか言われた通りにその形を作って見せる。
「それで袈裟懸けだ!」
「け、袈裟懸けか」
袈裟懸け、時代劇とかで聞いたことと、そしてちょっとだけなら見たことがある。
「まさかおめえ袈裟懸け知らねえとかはねえよな?」
「な、なんとなくなら知ってる。右上から左下に切るやつだろ」
「おーけー、それで十分だ」
「5 seconds」
残された時間は5秒。
心を落ち着かせろ。このデバイスを信じて、剣を振り抜き、袈裟懸けをするだけだ。
「坊主、切るときは頭に浮かんだ技名を言え」
「4」
「……えっ?」
頭に浮かんだ技名を言う。
ここでいきなり無理難題をぶち込むなよ。何だよ、頭に浮かぶって。そんな経験ないから分かるはずがない。
「3」
「頭に浮かぶって何!? 技名は!?」
「2」
「言ったろ、頭に浮かぶって。まあ、頑張れ」
なんて投げやりな解答だ。こちとら命がかかっているといのに、本当にこいつにかけて良いのだろうか。
……どうせそれしか無いのだ。結局のところは。
「1」
「あああ、もう、どうにでもなれええええええ!!」
「0」
──パリンっ、と言うガラスが割れた時のような鋭い破裂音が響く。
俺はそれに合わせてバッティングフォームのような構えから袈裟懸けを不恰好に繰り出す。
技名って何だよ。浮かんでこねえよ。
刀身は自分でも驚くくらいの速度を出しながら、魔物の凶暴な爪に再びぶつかろうとして──
ああ、頭に浮かぶって、こう言うことか。
言葉を紡ぐ。
「
ぎゅうっ、と胸の奥が締め付けられるような感覚がすると、刀身は深緑の色の魔力に染まる。この胸の締まるような感覚は、おそらく、体内の魔力器官が急な発動に驚いてでもいるのだろう。
刀と爪が触れると、先程に切ることができた時とは違う感覚がそこにはあった。先程は、柔らかく切るような感覚。
今回は、魔力の、そして風の爆発。
腕は強くその反発に押される。しかし、負けじと刀を振り抜く。
何が起きているのかはわからない。わからないが──
刀は振り抜かれていた。
轟音と、旋風とともに。
気がついたら敵は離れた位置に倒れている。
その左腕は、先程の刀傷が。
そして、今切り裂いた右腕は、完全なまでに消し飛んでいた。
──これが魔法。
自分でも驚きを隠せないでいる。才能も何も無いと思っていた俺がやったことなのか。妙に現実感の無い事象なのだが、震えるこの手が、倒れているあの魔物が、少しだけ痛むこの胸が、これが現実であることを知らしめる。
倒した、のか?
「坊主、まだ終わってねえぞ。だが、こっからはまだお前には出来ない。嬢ちゃん、封印を頼む!」
そうか、封印。まだそれが残されていた。詳しくは分からないが今の俺には出来ないらしい。確かに、やれと言われてもできる気がしない。
「高町、あとは頼んだ!」
「──わかった、行くよ、レイジングハートッ!」
しかし、驚いた。
自身が先程魔法を使えたからこそ、一段とその事実に驚いた。
「──リリカルマジカル」
彼女を取り巻く桃色の奔流。
「ジュエルシードXVI」
その魔力量の圧倒的な多さに。
「封印っ!」
彼女から発せられた魔力の波は、あっという間に魔物を包み込む。封印の合図と共に、強く、そして優しく、桃色の魔力光は解き放たれる。ここにいる俺の肌にもひしひしと伝わる。
ゆっくりと光が霧散していくと、そこには1匹の犬と、そして諸悪の根源であるジュエルシードがあった。
──あんな物なのか。実に呆気がない。命をかけて戦った相手が、そこにいる1匹の犬だったなんて。非常に滑稽な光景だ。
封印が終わると、ジュエルシードは高町の愛機であるレイジングハートに収納される。
これで、本当に終わったのか。
「おう、坊主。初戦にしては良くやった。まあ及第点だ」
ここ数分で起きた怒涛の連続に、呆然としてしまう。それを察してか、シナツヒコは労いの言葉をかけてくれる。
「お疲れさん、取り敢えずお前さんのデビュー戦は終了だ」
終わった、のか。
ああ、未だ実感が湧かない
ここに辿り着くまでの9年間、この世界の物語には介入しないと決めていた筈であるのに、そんな数年間の覚悟はものの1日にして、いや、ものの数分にして破られてしまう。
ここまで建ててきた人生プランも設計図も、何もかもあっものでは無い。しかし、そんな呑気なことは言えない。俺に言う権利はない。
俺にあるのは、ただ一つ、責任のみだ。この世界の歯車をずらしてしまった責任を取らなければならないのだ。
「大神、くん」
今日、何度か聞いた高町の呼びかける声に、再び遠のきかけてた意識が呼び戻される。
振り返り彼女を見ると、そこにあったのは暗く沈んだ表情のみ。なんとなく察しはつく。大方、巻き込んでしまったことに対する罪悪感であろう。しかし、本来は、俺がこの世界にいなければそんな感情自体が生まれなかったはずだ。つまり、これもまた俺の責任なのである。
「大神くん、どうしてここに……」
至極当然の疑問であろう。非日常的な魔法少女としての世界は、もちろん同級生を含んでなどいない。であるというのに、戦闘中に現れたのは俺という想定外のモノ。疑問を持つ理由はあれども、持たぬ道理など無い。
さて、ここから問題となってくることは、どう誤魔化すかだ。
俺は転生者で、実は2回目の人生で、この世界はアニメの中の世界で、俺は流れを知っているんだ。なんて言えるはずもない。
そもそもこんな発言、信じてもらえるはずがない。虚言妄言、もしくはギャグとでも取られるのがオチだ。
さらに、この発言をしてしまえば、俺自体の信用度も下がる。なぜなら、一度は俺がユーノを無視してしまったという事が分かってしまうのだから。もちろん、事情を説明すれば分かってくれるかもしれないが、それにはリスクが大きすぎる。さらに言えばそれに対するリターンがほぼゼロだ。高町が「大神一縒は転生者である」と知ったところでプラスに傾く要素は何らあり得ない。
つまるところ、適当かつ程よい言い訳を見つけるのが最優先事項であるということだ。
まあ、何にせよ、こちらも少し混乱しているので、時間が欲しい。
「と、とりあえず」
俺はゆっくりと、倒れている女性に指をさす。先程のジュエルシードの暴走の元となった犬の飼い主らしき人物だ。
「その人、ベンチの上にでも運んでからにしない?」
○ ○ ○
「つまり」
人差し指を立てて、こちらの事情を理解した高町が確認のために口を開く。
立てた指の方向にもう太陽はなく、時刻は正確にはわからないが、町は何事もなかったかのようにいつも通りの紅色に染まっている。
場所は変わらず神社の境内。倒れていた女性が目を覚ますまでは一応介抱的な事をして、目が覚めた彼女から感謝の言葉をいただいて、その背を見送った後だ。
「たまたま拾った刀の鍔みたいなものが、たまたまデバイスで、たまたま訪れた神社で、たまたま私が戦ってるのを見て、たまたま魔法の素質があって、たまたま魔法を発動できたって事?」
はい、ご覧の通り。
まともな言い訳ができませんでした。
全てを運命のいたずらのせいにして、非現実的な出来事を無理にまとめたというわけだ。
「……ははは、信じられないよね」
流石に、信じてもらえないだろう。こんな、巫山戯た話。
もちろん、この世界は偶然に満ち満ちている。錬金術による科学の発展なんてまさにいい例だ。しかし、流石に今俺が話した内容は、都合のいい、ご都合主義的な流れでしかない。そこに意図が介入していないと言われても、簡単には信じられない。
「──信じるよ」
「……え」
「私、信じるよ」
ハニカミながらそういう彼女。
「というか、私もだいたい似たような感じで魔法少女になったわけだし、信じないわけにはいかないと言いますか……」
「──ありがとう」
やはり、彼女は並の人なんかではない。命をかけた戦いに、つい先程まで身を投じていたというのに、こうも冷静でいられるだなんて。
こちとら、魔法少女のことやジュエルシードのことを知っているというのに、今にも頭がパンクしそうだ。
「そんな、むしろ助けてもらったんだし、お礼を言うのは私の方だよ」
こちらを向くと、両手を胸の前に持っていきぱたぱたと振る。
……違うんだ。そもそも、敵があんなに強かったのは俺のせいなんだ。俺という不純物が入ったせいで、この世界が言わばハードモードになってしまったのは俺のせいなのだ。お礼を言われるような人間では無いのだ。
だが、そんな事を言い出せるはずもない。だから、俺にできることは1つ。
この責任を取ることだ。
「高町、俺も手伝うよ。ジュエルシード回収」
「「えっ!?」」
と、ユーノまでもが高町と一緒に、こちらの予想以上の驚きを見せる。そんなに俺が薄情そうなやつに見えるのか。
「で、でも、巻き込むわけにはいかないし」
と、高町。
「これ以上巻き込むわけにはいかないよ」
と、ユーノ。
もちろん、俺が手伝う理由は、先程から述べているように、責任があるからだ。
だが、なんて事は言えず、あらかじめ考えておいた理由を口にする。
「戦える人は2人いた方が、絶対にいいだろ。それに、こんな光景を見て、実際に高町に何かあったら、俺は嫌だ」
その言葉に、2人は口をつぐむ。
本人たちも気がついているのだろう。今みたいな敵の強さのままでは、最悪の事態が訪れる可能性もあることを。俺が仲間になれば、リスクも負担も少なくなるわけであるし、ユーノの目標であるジュエルシード回収もより効率的になる。
「それに、ダメだと言われても絶対に手を貸すからな」
「……わかった、君が手伝ってくれたら、確かになのはの負担も減らせる。だから、手伝って欲しい」
ユーノは苦虫を噛み潰したような表情をする。
彼にも葛藤があるのだろう。
俺の手助けを借りれば、その分新しい人を巻き込んでしまうことになる。しかし、そうでなければ、負担は高町に集中するわけになるし、ここから先、原作よりも強くなっている敵に勝てる見込みもない。
「俺なんかが戦力になるかはわからないけど、やらせてくれ」
「……巻き込んでしまって、ごめん。そして、手伝うと言ってくれてありがとう」
彼にも、やはり、精神的な負担をかけてしまっている。
現状だけ見ると、大抵のことは俺の参加によって悪化しているようだ。
……胃が痛い。
だから、何とかしなくては。
俺は、何とか出来るかもしれない力を辛うじて手に入れたのだから。
『困っている人がいて、助けられる力が自分にあるなら、その時は迷っちゃいけない』
未来に言うであろう、高町の言葉。
今度こそは、この通りにしなければ。
俺は迷ってなどはいけない。
……それが俺の責任であるから。