ハードモードなリリなの転生モノ(旧代:リリなのテンプレ転生モノ) 作:振り米
夜の帳が下りる。風呂を上がった俺の子供として残された仕事は、ただ眠ることだけである。
俺はそっと自室のベッドに腰をかける。
「さて、起きてるかシナツヒコ」
机の上に置いている、俺のデバイス。志那都比古剣、もといシナツヒコに声をかける。
まさか、放課後に拾った刀の鍔がデバイスであったとは。つくづく自分の悪運の強さには笑いがこぼれてしまう。
あの時に、ジュエルシードと一瞬見間違えたのは、こいつがデバイスであったために魔力を秘めていたからであろう。魔力を判断するほどの経験がない俺は、なんとなく魔力だけを感知して、そしておそらく勘違いをした、そんなところだと推測される。
「……なんだ、坊主」
今日は色々なことがあった。
その中で俺は1つの決意をした。
いや、決意なんて格好の良いものではない。ただ責任を取らなければいけないだけだ。それに責任を取るといっても、それこそまた格好の良いものではない。所詮は、自分のせいであることが怖いだけだ。俺のせいで多くの人の命が失われたとしたら、そんな責任は取れない。だから俺は、その責任を取らないためにも、世界を変えてしまった責任を取らなければならない。
そして、そのためには力が必要だ。
そして、彼は言った。
力は提示してくれると。
「強く、なりたいんだ」
「そうかい、で?」
「指導してくれ。俺が頼れるのはお前しかいない」
俺が現状で戦闘指導を請えるのは、このデバイスしかいないのだ。魔法のことを誰かに相談することなどできないし、俺が強くなりたいからと言って、戦闘に関してはてんで素人な俺がどう強くなれと言うのだ。
正直、昨日の勝利はたまたまだ。2回とも運良くあの魔物の不意をつく事が出来ただけであり、決して俺自身の実力ではない。完全に運だ。
俺は、早急に強くなるためにも、迷う暇も止まる暇もありはしないのだ。
「はぁ」
「駄目……か?」
「アホか。俺はお前のデバイス、お前はマスター。んな弱々しくしてんじゃねーよ。技術指導なら幾らでも、それこそお前が根をあげるまで鍛えてやるよ。それに、お前を強くすると約束もしたしな」
……ずっと上から目線であったから気づかなかったが、そうか、主従関係では俺の方が上になるのか。
まあ、なんにせよ、彼は俺をマスターとして認めてくれた。そして、約束通り強くしてくれるのもあった。
「──ありがとう」
「おう、それじゃあ好きなときにでも言ってくれ。俺様の精神空間ならいついかなる時でもトレーニング可能だからな。凄いだろ」
なんと利便性の高い。
これなら暇な授業時間はすべてこれに当てられるのではないか。そうすれば、1日に訓練時間は10時間はとれる。なんとなく受験勉強を思い出す。
「それじゃあ、今すぐ」
「は!?」
「え?」
「今ってマジ?」
「今ってマジ」
はあ、と溜息をつくシナツヒコ。
「お前は、今日初めて魔力を使った。それは決して簡単なことじゃねえ。かなり消耗しているはずだ。いいから今日はゆっくり休め」
「──それでも、それでも俺は強くならなくちゃ」
「うるせぇ」
こちらの言葉を遮るように、被せ気味に喋るシナツヒコ。
「どうしてだ、お前は俺を強くしてくれるんじゃないのか」
強くなりたい、ただそれだけなのに。なぜ止めるのだ。俺はこいつのマスターであり、そこは付き合ってもらわなければ困る。俺には、呑気でいる余裕など無い。
「アホ」
「なっ」
「一回落ち着いて、黙って聞け」
「なんだよ」
……確かに、こちらは冷静さを欠いていたかもしれない。しかし、それほどまでに強くなりたいんだということに気がついてもらいたい。
「休まない奴は成長なんてしない」
「……と言いますと」
「いいか、最高のパフォーマンスには最高の休憩が必要だ。筋トレだって毎日やっても意味がないだろ。お前は使いたてホヤホヤのリンカーコアを使ってハードワークをするよりも、しっかり休んで計画的なトレーニングが必要なんだ」
「でも、練習は質も前提の上で、量も大事に決まってるだろ」
「どうせお前の事だ。授業時間にでもやろうとしてんだろ。だから、休憩の後はお前が根をあげるほどの訓練を用意してやる」
深呼吸をする。冷静になって考えれば、彼のいうことは、正しい。実際に無理なハードワークは決して効率的ではない。
「信じて、いいんだな」
どちらにせよ、俺が強くなるためにはシナツヒコを頼る以外に手は無いのだ。戦闘に関しては、明らかに彼の方が先輩。
ここは、彼を信じよう。
「たりめーだろ。むしろお前が俺をもっと信じろよ」
体がふっと軽くなる。どうやら、今日一日の溜まりに溜まった緊張の糸が解けたみたいだ。
今日は流石に、体だけでなく、心も疲れている。
確かに、俺は焦りすぎていたかもしれない。焦ればいいというものではない事ぐらいはわかる。まさに急がば回れという奴だろう。
「大事なのは効率だ。俺はお前を短期間で効率的に強くしてやるからよ」
「……わかった」
「まあとりあえず、今日は寝ろ。適度な睡眠はパワーアップに絶対必要だからな」
俺はその言葉が耳に入るのとほぼ同時に、ベッドに倒れこむ。
色々、考えなければならないことがある。
でも、今日は少し疲れた。
瞼が非常に重い。
寝転がってから寝るまでの時間の新記録が更新できそうだ。
……もちろん、旧記録など知らないのだが。
○ ○ ○
シナツヒコと俺の精神を接続した精神世界。
それが特訓の場所である。
いつもの暇な授業時間を使い、稽古をつけてもらう事にしたのだ。ちなみに、接続中は外から俺を見ると、船を漕いでいるように見えるらしい。
俺の普段の優等生ぶりを考えれば、先生に当てられさえしなければ特に問題はないだろう。
そして、俺は自身の足りない部分を補うために、授業時間を返上してでもそれを埋める必要がある。
さて、俺に足りないもの。俺が、埋めなければいけないもの。
そう、それは──
ありすぎて困る。
力が足りない、技術が足りない、魔力が足りない、経験が足りない、覚悟も足りない、実力も足りない、本当に何もかもが足りない。
──故に、それを即急にかつ効率的に埋めていかなければならない。
おそらく原作よりも、ハードモードとなってしまったこの世界で生き抜くために。
いや、ただ生き抜くためではない。俺が狂わせてしまった歯車を可能な限り修正するために。そのために必要なものは幾らでも必要だ。
小学校での一つの授業時間は45分。それを、午前中の昼飯前までに4回で計3時間。
3時間のトレーニングなんて正直短いと感じる。前世の時の休日の部活動など、朝から晩までやっていたものだし、それに比べれば今回のトレーニングなんて楽勝だ。
──そう思っていた時期も俺にもありました。
「し、しぬ」
4時間目の終わりのチャイムが鳴ると、特訓も一時休憩に入る。シナツヒコに用意してもらった精神空間から退出すると、意識はこちら側に戻ってくる。
意識を戻して最初に発した言葉がそれだった。
それもそのはず、精神空間での体感時間は、なんとお得の約2倍。つまり、俺は6時間ぶっ続けで鍛錬を積んでいたことになる。それだけでも十分に辛いのだが、さらにこれは肉体的な疲労を伴わない代わりに、精神的な疲労が半端じゃない。精神空間でのトレーニングとは、やっていることは超リアルな、感覚のあるイメージトレーニングであり、集中力を極限まで研ぎ澄まし、さらにシナツヒコとの同調までしなければならないという、かなりの重労働なのだ。
だが、そこまでは、別にいい。
いや、良くはないのだが、なんとかなる。
問題はその先だ。
「坊主、午後は午前中の復習だ。時間は午前かけた分の半分で終わらせてやるから安心しな。ちなみに量は2倍にしてやる。喜べ」
念話で話しかけてくるシナツヒコ。
そう、問題はこのシナツヒコによる、今までの人生で、やった事がないくらいの猛特訓。今回は基礎を固めるだけなのだが、気が遠くなる量の素振りや指導。そしていくらキツくなってもノンストップでぶっ続けさせる鬼指導。イメージトレーニングだけのはずなのだが、今でも身体中に重りでもつけられているかと錯覚するほどの気だるさを感じる。
こいつ、ドSだ。
「一縒、一緒にご飯食べ──ってどうしたの!?」
机に突っ伏していると、横から聞きなれた声が聞こえる。
「ああ、ちょっと疲れて」
「ちょっとって顔じゃないわよ!」
声の主はアリサだ。昼飯のお誘いのようだ。
「どうしたの、アリサちゃん」
横からひょいと顔を覗かせる高町。ツインテールもひょいと動く。
「って、大神くん、死にそうな顔してる!?」
高町も俺の顔を見るやいなや、大袈裟なまでの反応を見せる。
『大神くん、もしかして、昨日の戦いで──』
そして、そのすぐ後に念話を飛ばしてきた。彼女は非常に心配そうにしており、責任を感じているように見える。
『いや、それは関係ない。今朝、賞味期限切れのプリン食べたから、多分それかも』
彼女が責任を感じる必要などない。
故に俺は嘘をつく。
例えばここで真実を告げたとしたら、やはり彼女はそれでも責任を感じるだろう。彼がトレーニングをして疲れ切ったのは私のせいだ、と。
それは避けなければならない。彼女には余計な気苦労をかけるわけにはいかないのだから。
『そっか、なら良かった。いや、良くはないか。にゃはは……』
にゃはは。
改めて聞くと変な笑い方だ。そんなに多用しているわけでもないが、使うところを見るとどうも気になってしまう。
「よしっ、それじゃあご飯食べに行こうか!」
疲れた体に鞭を打ち、自身を強く鼓舞して立ちあがる。
「あら、元気出せるじゃない。それじゃあ行きましょう」
○ ○ ○
「ねえ、大神くん」
「ん、何?」
さて、何日ぶりかの屋上。
ここ数日、いや、主に昨日の午後と今日の午前中に過ごした時間が余りにも濃い時間であったため、どうもちょっとした懐かしさを感じてしまっている。
「友達なんだからさ、名前で呼ばない?」
百点満点の笑顔で高町はそう俺に声をかける。
高町は、親しい人は大抵名前呼びをする。友達などは大抵そうだ。
しかし、俺はそうでは無かった。理由はすでに述べたことのあるように、彼女と仲良くならないためだ。だが、今はそうである必要はない。むしろ、積極的にコミュニケーション取る必要がある。
と言うわけで答えは当然決まっていた。
「確かに……そう言えばそうだったな、なのは」
断じて恥ずかしくなどない。相手は小学生なのだ。恥ずかしさなどどこにもない。本当だ。嘘じゃない。
「えへへ、一縒くん」
白い歯を見せる彼女の笑顔は、まるで今ちょうど俺たちを照らす太陽のようで、どこまでも明るくて、どこまでも輝いていた。
少しばかりの恥ずかしさを、ようやく自覚する。
「じゃあ、私もそうしよっかな。よろしくね、一縒くん」
今度は月村さん、いや、すずかがそう言う。
これも断る理由などない。むしろ断りでもしたら、明らかに俺がすずかに対して何らかの特別な感情であると思われるだろうし。
「ああ、すずか」
ここだけ見ると、男1人で美少女たちを侍らすハーレムに見えるな。
嬉しい、わははは。
なんて。
……嬉しくないわけではないが、小学生女子にモテたところでという部分もあるのだが。
現在の自分は、遺伝子がうまくいったのか割とイケメンで運動能力も高い。故に、大人びた感じに惹かれる小学生女子にモテるのだ。
だが、残念ながら、いや、当然ながら、現状は誰かと付き合う気は毛頭もない。当たり前だろう。
理由は簡単だ。
──俺はロリコンでは無いから。
いくら精神が肉体に引っ張られるとはいえ、流石にそれは抵抗がある。
と、冗談はさておき。
本当に作中のキャラと何かをする気は無い。
これこそ簡単だ。
未来を変えてしまうからだ。
介入した時点で手遅れなのではと思うかもしれないが、悪手は打たないことに越したことはない。
故に、このハーレムは、ハーレムであってハーレムでない。
さらに言えば、大人っぽい彼女達とは言え小学3年生。仲の良い友達という認識が関の山。別段俺のことが好きだという素振りを見たこともない。
……ただ、将来的に彼女達は全員漏れなく美女になると考えると、勿体ない気もしてしまう。ただまあ、俺程度では釣り合わないだろうが。
とは言え、可愛い小学生達と、のほほんと昼食を取るのは悪い気持ちはしない。
午後の地獄の特訓に向けては、良い羽休めになる。
さて、次のジュエルシードについてだ。
アニメ内で次に起こることは街での戦闘。
確か、サッカー少年が拾ってしまったジュエルシードをたまたま発動させてしまう、といった感じだ。
しかし、その前にも戦闘があった。その部分はアニメで収録されていないのだが、1,2戦程度存在していたはずだ。
それがいつ起こるのか、今日か明日かはたまた明後日か、全くわからない。故に準備は早くしなければならない。早く強くならなければならない。
原作の知識が無いだけでこうも受け身になってしまうのは良くない。良くないが、それ以上にどうしようもないというのがまた事実である。準備だけは万全にしておかなければ。
そして、次なる問題点。
この魔法少女リリカルなのはの一期に於ける、もう1人の主人公とも呼べる存在。
そう、フェイト・テスタロッサ。
彼女についてだ。
彼女に関しては、強くなっているかどうか判断することが出来ない。それは、原作においては彼女は味方に加わるメンバーであり、それ故に原作より強くなっていない可能性がある。
ので、とりあえず一戦目はなのはに任せてみるしかないだろう。
もし、そこでフェイトが想像以上に強かったら。
それならば、俺もなんとかしなければならない。
何としてでもフェイトは、味方にしなければならない。だが、正直な話をすれば、フェイト関連はなのはに任せるしか無いのかもしれない。