ハードモードなリリなの転生モノ(旧代:リリなのテンプレ転生モノ) 作:振り米
平日の公園であるというのに、あたりには人気がない。それもそうだろう、現在の時刻は朝にしても早すぎる、早朝というべき時間なのだから。
俺は、なのはとともに魔法の朝練を開始した。もちろん、シナツヒコとの精神練習もセーブしながらではあるがこっそり続けている。
「そう集中して、心の中にイメージを描いて」
「うーん……」
ユーノの言葉をトリガーに、なのはの足元には桃色の魔法陣が展開される。
「そのイメージをレイジングハートに渡して」
「うん、お願い」
「Standby ready」
……それにしても、なのはは良くあんな抽象的な指導で実践できるな。
俺なんてシナツヒコによる超理論的な特訓でも魔力の操作はまだ出来ていない。才能の違いというやつだろうか。
『やっぱ俺って才能ないのかな』
なのはの姿に劣等感のようなものを抱きながら、嘆くようにシナツヒコに念話で問いかける。
『残念ながらおめーは天才だよ』
『え?』
しかし、返ってきたのは予想外の返答であった。
『当たり前だろ。魔法と出会って数日でお前は実戦レベルまでは辿り着いてるんだ。それを天才と呼ばずしてなんと呼ぶ』
言われてみればそうなのかもしれない。偶々とはいえ、拾ったこいつを実戦で発動して見せて、それに加えて言われるがままにではあるのだが旋風斬などという技まで打ってみせたのだ。悲観的になってばかりなのだが、才能がない人など世の中には腐るほどいる訳であって、俺がそんな態度ばかりとっていては寧ろ失礼なのかもしれない。
『だけどよ、お前は残念ながら天才の中では格下、例えば、あのなのはちゃんは超天才だが、それと比較したらお前は凡才。総じて言えば、お前は秀才ってとこだ。お前の実力はそんくらいってわけ、良かったな恵まれててよ』
『……その言われ方だと喜べばいいのか悲しめばいいのか分からないんだが』
『当たり前だろ、喜んでいい。お前レベルの才能でも全体の5%より少ないんだから』
……だとしたら、なのはやフェイト達は一体どのくらいの割合しか存在しないのであろうか。
自分が才能を持てているということはよくわかったのだが、それ故に彼女たちの背中が遠く見えてしまう。
「イメージに魔力を込めて、呪文と共に杖の先から一気に発動!」
「えーと……捕獲魔法、発動!」
俺のそんな考えをよそに、彼女は魔法の練習を続ける。杖の先を前に向けると、込められた魔力が1つの塊となって放出される。
「やった! 成功!?」
桃色の魔弾が杖から繰り出される。手応えを感じたのか、少しだけ気を緩ませる。しかし。
「いや、してない!」
それを見て、ユーノは気を引き締めたまま、その魔法が失敗した旨を叫んでまでして伝える。
「……え?」
わざわざ叫んだ理由は、こういう事だろう。
俺は、一歩を踏み出して腕を振るいながらデバイスを起動する。
「天狗風!」
振り抜きながらデバイスの起動と技の発動を同時に行う。緑色の魔力を纏った横一文字の斬撃は、桃色の魔弾を消失させる。
「大丈夫…………そう、だな」
「び、びっくりしたぁ。ありがとう一縒くん」
──なのはが放った捕獲魔法は、杖から放たれると指向性を失い、暴走したように使用者であるなのはへと向かってきた。その魔弾を、俺は昨日習得したばかりの技で、なのはに当たるすんでのところで斬り伏せてみせたという事だ。
ちなみに今俺が放ったのは「天狗風」という技だ。
天狗風とは、突然に吹く強い風のこと。それを模したこの技は抜刀術のようなもので、デバイスの発動と共に魔力を纏った刀を横一文字に切り出す技だ。
まあ、先程言った通りに抜刀術とでも捉えてくれれば問題は無い。
「魔法、上手くいかないなぁ。一縒くんすごいよね、いきなりそんな技を使えるなんて」
少しだけ落ち込んだようにそう口にするなのは。
「いや、ちょっと違うな」
「違う?」
「うん。俺の技はさ、魔力の扱いとかは気にしないで、なんとなくシナツヒコに魔力を回しながら型だけは綺麗に刀を振ると、こいつが勝手に発動してくれるって感じなんだ」
「ええと……つまり?」
「なのはの技と俺の技じゃあ難易度が違うってわけ」
これは慰みなどでは決してなく、ただの事実だ。俺はなのはみたいに魔力弾を操縦するなんて事はすぐには出来ない。出来たとしても彼女の魔法よりも見劣るものとなるだろう。さらに俺が魔弾を習得しようとしたら、なのはの数十倍の練習時間がかかるのだ。
「そう、なのかな?」
「うん、俺が今のなのはの技を覚えようとしたら一月はかかるね。つか、物によっては覚えられないと思うし」
「そうだよ、たった数日でここまで出来るようには、普通はなれないよ」
ユーノも勿論のことながら驚いた表情でそう語る。ユーノも決して凡才などとは言うことの出来ないほどには補助系魔法を中心としたエキスパートなのだ。しかしそれもやはり、彼の努力の裏付けがあってこその話だろう。その彼から見てもなのはの才能は目を見張るものがあるという事だ。
ピピピ、と。
ユーノの発言が終わると同時に、なのはがベンチの上に置いていた携帯電話のアラームが鳴り響く。
「あ、もう朝ごはんの時間だ」
「俺も、そろそろ帰らなきゃな」
「じゃあ今朝はここまでってことで」
彼女はこの朝練の口実は、ユーノの散歩だと親に説明したそうだ。俺はスタミナをつけるためのランニングだと両親に説明している。トレーニングではあるのであながち間違えでは無いだろう。
「ありがとう、レイジングハート。また後でね」
「Good by」
「一縒くんもありがとうね」
「いや、礼を言うのはこっちの方だよ。誘ってくれてありがとう、なのは」
謙遜する気は無かったのだが、彼女の様子につい笑顔になってしまい、さらに自分にしては珍しく心からの素直な言葉が出てしまう。
そんな素直で取り繕っていない様子の俺に、物珍しさと照れ臭さを感じているのか、彼女は少しだけ頬を染めながらはにかむ。
「なんか、今の一縒くんの笑った顔、いつもよりもちゃんと笑ってる気がする」
「どういうことだよ、それ」
「うーん、よく分からないかも」
確かに、そうかもしれない。
優等生として演じきった小学生をやっているときは、本当に笑いたい時でもどこかしら気にして真っ直ぐ笑えていなかったのかもしれない。
「まあ、とりあえず帰ろうぜ」
「うん、そうだね……あ」
俺は言葉と共に足を動かし始め、なのはもそれに遅れないようにと足を動かそうとしたところでその動きを止めた。
「どうかしたか?」
その様子に俺も足を止めて、後ろを振り返る。
「そう言えば、今日みんなでプール行く事になってたんだけど、一縒くんも一緒にどうかなって」
プール、か。アニメではそんなシーンは無かった気がする。
であればそれは、アニメには映されていないが実際にはあった無関係のシーンか、もしくは、アニメに映されていないもう1つのジュエルシードについてかだろう。
前者でも後者でも、ついて行くメリットはあってもデメリットは無い、のだが。
「ごめん、今日は放課後に保健委員会があって……」
残念ながら今日は保健委員会の校内ポスターを作らなければならないという職務が待っているのだ。
「そっか、ならしょうがないね」
「うん、またいつか誘って欲しい」
俺がそう言い終えると、なのはも俺も自然と再び歩みを進める。互いの自宅もそれほど遠いわけでも無いので、2人一緒の帰路につく。
そういえば、俺はなのはとあまり話したことがなかった。というのも以前は少しだけだが彼女を避けていたからだ。だからと言うべきかは分からないが、自然と言葉が出てくる。聞きたいこと、聞いて欲しいこと、他愛ないこと。いろんな話をしながら歩く。彼女と話しているときは、世界の重圧やその責任感なども、どうしてからか多少和らぐのだ。
どうもこの時間は、俺にとって幸福すぎる。
なんて、クサいことまで考えてしまう。
どちらにせよ、この時間は心地好くて、それでいて心苦しくも感じられる時間であったのだ。
○ ○ ○
「ねえ、一縒」
「何?」
「あ、あんたって泳ぐのは得意?」
2時間目の授業が終わり、休み時間となった教室はどこか解放感に満ちている。俺とて例外ではなく、精神世界でのシナツヒコによるハードなトレーニングに小休止を入れられたと考えると、やはりこの休み時間というものは大変ありがたく感じられる。
とはいえ、数日前のように特訓のしすぎで疲れてぶっ倒れるというのも良くないので、以前と比べれば余力は残っている。
そんな中、目の前にいる人物アリサ・バニングスは頬を恥ずかしさに少し染めながらこちらに話しかけてくる。
「なんで?」
「その、私、あんまり……」
「あんまり?」
「お、泳げないのよ!」
「え、マジ?」
一段と顔を赤くしてそう言うアリサ。
……それにしても意外であった。俺の中でのアリサ・バニングスという人物は、なんでも出来る完璧超人というイメージであったのだ。そんな彼女が、こうして弱点を持っていただなんて、予想だにしていなかった。
「で、アリサが泳げないのと俺が泳げるかどうかに、どんな関係が?」
「今日、なのは達とプールに行くんだけど、その、一縒が泳げるのなら教えてほしいなって……」
ああ、そういう事か。そういえば、なのはも今朝にそんな話をしていたな。
なんにせよ、残念ながら俺は行くことが出来ない。なのはにも説明した通りに、委員会の仕事が存在するのだ。
しかし、何故アリサは俺に泳ぎ方を習おうとしたのだろうか。
生前では、小学生の頃にスイミングスクールに通っていたため、一通りの泳ぎ方は習得している。なので、泳げない人に教えることくらいは実際に出来るとは思う。が、アリサの友達には、おそらく俺よりも上手く泳ぐことのできる人物がいる。
そう、月村すずかだ。
彼女の身体能力は人並みはずれており、水泳もおそらくはその例に漏れないだろう。であれば、アリサは彼女に教えを請うべきであって、何故俺に頼んだのかが全くもってわからない。
「泳げるっちゃ泳げるんだけど……」
「本当!?」
「すまん、今日は行けない」
「え、どうして?」
「なのはにも誘われたんだけど、今日は委員会があるから」
「……そう」
行けないとだけ言ったときは、まだまだこちらが折れるまで誘うという意思が見えたのだが、流石に委員会があると聞いたときには諦めがついたのか、萎れながらも頷いてみせる。
「でも、どうして俺に泳ぎ方を教えてくれって頼んだんだ? すずかの方が多分泳げると思うけど」
「そ、それは…………その……」
「その?」
「あんたの事……」
「俺の事……?」
「ええと……あっ、そうそう、あんたの事を誘うためのいい口実だと思って」
「ああ、そういう事か」
なんだ、そういう理由であったのか。
……危ない危ない。つい勘違いしてしまうところであった。
「って、そういえばあんた今!」
「今度は何?」
話は一段落、と思ったのだが、アリサはこちらに人差し指を突きつけると、再び大きな声を出して新しい話題を切り出す。
「あんた今、なのはにも誘われたって言ったわよね!?」
「……言ったけど、それがどうかした?」
「あんた達ってそんなに仲良かったっけ?」
こちらからしてみれば今更と言った感じなのだが、実際はその疑問ももっともであるかもしれない。
というのも、魔法関連で俺となのはは急接近したわけであり、アリサからすれば、理由も無く突然仲良くなったように見えたのかもしれない。
魔法の事は伏せながら、良い言い訳を、か。
まあ、なんとか出来そうだ。
「いや、この前アリサに、俺がなのはを避けてるように見えるって指摘されたでしょ?」
「したわね」
「だから、仲良くしてみようと思ったわけ」
「そ、それだけ?」
「それだけ」
うーん、と唸ると不服そうな表情を見せて首をかしげるアリサ。
それも仕方の無いことだ。以前の様子から、アリサは俺がそう簡単に心を開くとは思っていなかったのだろうが、なのはならおかしくは無いとでも思っているのだろう。
「……一縒が、そんな急に、いや、でもなのはならありえなくも……」
独り言のようにそう呟くアリサ。
どうやら俺の考えで正しいようだ。
「まあ、何にしても今日は行けないけど、またいつか誘ってくれ」
この会話のまとめのようなことを口にすると、これ以上悩んでも無駄だと悟ったのか、アリサは考えることをやめて、笑顔でこちらを向く。
「もちろん! あんたこそ今度はちゃんと予定空けときなさいよ!」
……今回の件に関しては、当日に誘われたから予定とブッキングしたのであって、俺に非はない気がするのだが。
まあ、いいだろう。
「ああ、努力するよ」