「ぜひまた来て下さいね」
「ええ、うちの娘も大好きなんで、ご贔屓にさせて頂きます」
「ありがとうございます」
ぺこりと一礼をした目の前の女性は店の外へ出る。ドアについている木製のベルが小気味の良い暖かい音を立てる。
この洋菓子店には、幻想郷に存在する人妖問わず、多種多様な客が来店する。
その中でもとりわけ、今のような普通の人間のお客さんが多い。理由としてはいたって簡単で、人里に(と言っても端っこの方であるが)店を構えていいるからだ。
しかし、人間とは言っても、その中でも特殊な部類に含まれる人たちも来ることには来るのだ。
たとえば、昨日訪れた博麗霊夢であるとか──
「よお、来てやったぜ」
目の前にいる、白黒の魔法使い、霧雨魔理沙であるとか。
・
死ぬまで借りる、が彼女のモットーであると知った時の俺の驚き用は、表現の仕様が無い。昔から、洋菓子が大好きなだけの、普通の女の子だとずっと思っていたからだ。
うちの商品を盗む、いや、死ぬまで借りられたことは無いし、そんなそぶりすら見たことがなかったから。
「あいつに目をつけられて、あんたも大変ね」
これは博麗霊夢の言葉である。意味としては、この洋菓子店が、無銭飲食の被害に遭っていると勘違いをして放った言葉だ。
お前(博麗霊夢)が1番の無銭飲食常習犯だ、という野暮なツッコミは無しにして、某吸血城のお嬢さん家の図書館などは死ぬまで借りる被害に良く遭っているらしい。
その他、色々な彼女の天真爛漫さ加減を様々な人妖から聞いた結果辿り着いた結論としては。
「こ、これ、美味しそうだな」
彼女はうちの店に来ると借りてきた猫のようになるということだ。
「まあ、なんてことないただのシュークリームさ」
「そ、そうか、ははは……」
兎も角して、なぜ彼女がこの店に来るとそうなってしまうのかは未だ判明していない。
知っているような節のある人に聞いても答えは返してくれない。
少なくとも、彼女が幼い頃にこの店に来ていた時はこんな感じではなかった。いったいいつ頃からこうなってしまったのだろうか。
「あ、そうだ」
ギクシャクした笑いから、何かを思い出したかのように唐突に手持ちのバスケットの中を漁る。
「これ、このキノコ。洋菓子に使えるかなあって思って」
……キノコ? 洋菓子に?
勿論あるかもしれない。そんな菓子も。でも、少なくとも俺はそんな考えにたどり着いたことはなかった。
「あー、すまない。俺、キノコを使うレシピの洋菓子レパートリーに無いんだ」
「そ、そうか」
ずーん、と。こんな擬音が似合うぐらいに、こちらでもわかるくらいな落ち込みを見せる。
「はは、そうだよな、キノコなんて、よく考えなくても洋菓子に使えねーよな……」
「あー、でも、今日の夕飯なにも考えてなかったし、きのこのシチューでも作ろうかなー、そう考えたら、そのキノコ、すごいありがたいなー」
あまりの落ち込みようについ居たたまれなくなってしまいフォローを入れる。とは言っても嘘では無い。事実、夕飯のおかずになるのはありがたい。
「ゆ、夕飯なら使える、か……」
しかしまたもや落ち込みを見せる。そういえば魔理沙は俺が自分で夕飯をあまり作らないのを知っていた。我が家の夕飯は大抵どこかのお裾分けやお誘いがあり、基本的には自宅で作ったりはしないのだ。
「って思ったけどやっぱり洋菓子に使ってみよう。キノコをつかった斬新な良いアイディアが浮かんできそうだ」
「……!」
目の前の少女は顔を綻ばせるが、それも一瞬だけのことであり、すぐに平静を装う。
「そうかそうか、それなら良かった、それじゃあな」
しかし隠しきれていないニヤけた顔を隠すようにすぐにこの店から出て行ってしまう。
「……何しに来たんだ」
洋菓子店に来たはずなのに、ぎこちなくキノコだけを俺に渡してそのまま帰っていく。果たして彼女はなにをしに来たのだろうか。
……本当にキノコを渡すためだけに来たのだろうか。
「いや、まさかね」
そんなことは流石にないだろう。多分。
・
きのこ事件(命名は俺)から1日、本日は、この店の定休日である火曜日だ。
この日は割と昔馴染みな方である旧友、森近霖之助に少しだけ用事があったのだ。
香霖堂までの移動手段としてはバイクを使っている。さらに言えば、この幻想郷内の地つながりの場所は大抵この愛車で移動する。ちなみに、バイクと言ってもただのスクーターであるのだが。
別に俺が空を飛べないという訳ではない。わざわざ移動手段にスクーターを使っているかと言えば、楽しいからだ。正直空を飛ぶのは飽きた。急いでる、近道をしたい、楽をしたい、こんな気持ちを持ったとき程度にしか空は飛ばない。外の世界の基準で考えれば「自動車を持ってはいるが、趣味がサイクリング」といった感じだろうか。
しかし、残念ながらこちらの世界では、殆どの人にこの気持ちは理解されない。
ちなみに、このスクーターには7つの隠された能力がある。これはスクーターの修理を河童に頼んだ時にいつの間にかつけられたものだ。いつかは披露しようと思う。
しかし、コンクリート舗装が為されていない幻想郷内の道では中々容易には進んでくれない。無論それも楽しみの1つではあるのだが。
こんなでこぼこ道を進めるのも彼女の魔改造のおかげだ。
そうこうしているうちに霖之助の住処兼職場である香霖堂に到達する。店の前に無造作にスクーターを置き、無造作に扉を開ける。
「やあ」
「ああ、いらっしゃい」
声の方へ視線を向ける。その視線の先には屈んだ格好で掃除機を入念に磨いている霖之助が居た。
「どうしたんだ、そんなに掃除機を掃除して」
「いや、なんとなく埃がついて居たからね」
しかしそれにしても、掃除機を入念に掃除するだなんて面白おかしい光景である。
「君、いま"掃除"機を"掃除"するヘンな奴だ、みたいな失礼な事考えただろ」
「図星だ」
彼はその言葉に微笑を見せると、おもむろに腰をあげ口を開く。
「まあ呼んだのはこちらなんだ、大目に見てやろう」
眼鏡を指で軽く押し上げると、お勝手の方へ足を動かす。
「お茶でも入れてくる。適当に商品でも眺めておいてくれ」
「ガラクタ眺めてるだけじゃあお前ほど楽しめないけどな」
それもそうか、呟くようにそう言い放つと奥へと姿を消す。
とは言っても、手持ち無沙汰な状態であり仕方も無く商品の方へ目を向ける。
「なんだこれ」
外から来た俺であるが、それも少し前のことになり、近年幻想入りを果たす道具たちもそろそろ知らないものがちらほらと混ざり始めて来た。
「画面しかない」
黒くて薄くて、四角い何か。説明すればこんな感じか。使い方など分からないが、適当に触ってみる。すると。
「ついた」
長方形の画面には何やら映像だか文字だかが浮かび上がる。それにしても、なんて綺麗な画質なんだ。俺が知ってるテレビの何十分の一程度のサイズしかないのに、何倍もの綺麗さだ。
どうやら、俺が思っている以上に人類の進歩は速いものらしい。殊に、ここ最近においては尚更。
遠くへ行きかけた思考を現実へと引き戻し、もう一度画面に目をやる。そこには現在の時刻と──
「アイス、クリーム、か、これは」
画面の中では数人の女性がスイーツを、囲んで写真を撮っている。女性の顔はなんらかの加工により動物の鼻やら耳やらがついているが、問題はそこではなく、アイスクリームの保存状態と、加工状態だ。
もちろん俺が外にいた時代にも冷蔵庫はあったが、アイスクリームを保存するのにはいささか温度が足りなかった。
今の外ではここまで保存状態を保てるようになっているとは。
しかし──、そうか。
そもそも俺の能力を使えばアイスクリームも保存状態をそのままに保てるでは無いか。今まで気がつかなかったのがかなり悔やまれる。
ああ、創作意欲が湧いてくる。アイスクリームを使えば、レパートリーをさらに増やせる。今度紫にでも外の世界のアイスクリーム関係の本でも買ってきてもらおう。
──お菓子といえば、手土産にある物を持って来ていた。スクーターの収納部分に仕舞いっぱなしであった。今の間に取りに行ってしまおう。
今回持ってきたのは苺のショートケーキ。ちなみに日本人が思い浮かべる、まさに俺が今日持ってきたようなスポンジとクリームが層になっているようなケーキをショートケーキと言うのは、実は日本だけらしい。なぜそのようになったかは諸説あるらしいが、海外に行った時にショートケーキと言っても伝わらないか、別のものが出てくるそうだ。まあ、幻想郷にいる俺にとって、そんな情報を得ても海外に行けないのだから関係は無いのだが。
それを取り出し、店内に戻ろうと足を動かす。すると、先ほどまで俺と霖之助しか居なかった筈の店内から、なにやら声が聞こえてくる。鈍臭い俺と言えど流石に横を通られて気がつかなかったはずが無く、おそらく裏口から入っていったのだろう。そう考えると、霖之助と親交のある人物なのだろうか。ドア付近に行くと微かに漏れる声も少しだけだが聞き取れる程度のものになる。
「──これ飲むぞ」
「いや、それは──」
この声は、魔理沙だろうか。であれば店内に入るのに躊躇は要らないだろう。抑も、こちとら呼ばれてきたものであり、はなから躊躇する必要もないのかもしれないが。
「いいだろ別に」
「はあ、どうなっても知らないからね」
扉を開けるとそのようなやり取りが聞こえてきた。
どのような状況なのかはわからないが取り敢えず奥に行こうではないか。
「ん、魔理──」
「君が今飲んだそのお茶は彼のために入れたものなんだけれどね」
ぶーっ、と。古典的であり、様式美のようにお茶を思い切り吹き出す魔理沙。
「な、な、な、なんで地久がここに!」
見るからに混乱した様子を見せる魔理沙。
「霖之助と遊びに来ただけだよ」
「なんで地久が居るって教えてくれなかったんだよ、香霖」
俺から目を背けると、行き場のない感情を霖之助へと向ける。
「言おうとしたのを君が遮ったんじゃないか」
「ぐっ、それは……」
先ほどの自分の行動を顧みたのだろうか、言葉に詰まりバツが悪そうな表情を浮かべる。
「……帰る」
俯いた彼女は、こちらに顔を合わせことなく踵を返す。
……このまま引き止めないのもきまりが悪い。
「ああ、待てって魔理沙。ケーキ、一緒に食ってかない」
「……でも2人のだし」
「その点なら大丈夫だ」
俺は手にあるそれのふたを開ける。
「今日はたまたまホールケーキなんだよ」
・
先ほどの場面、実は引き止めないという選択肢の方が正解だったのかもしれない。どこか居心地の悪そうな魔理沙が黙々とケーキを口に運ぶ姿があるだけだ。ちなみに言うと霖之助は我関せずとフォークを動かしている。
魔理沙との間に、壁ができ始めてしまったのはいつ頃からだろうか。
もちろん、この前のようにキノコを持ってきてくれたりと、恐らくはこちらに悪感情は抱いて無いのだろとは察しがつくのだが、それにしてとどうも彼女がよそよそしい態度をとるのだ。これを機会に、理由を尋ねて見たくもあるのだが、そんな内容、一体どう問えば良いのだと言うのだ。
ちらりと魔理沙の方へ視線をやると、偶々目が合う。刹那、さっと目をそらす。過剰なまでの反応に少し傷つく。
少ししてからもう一度彼女はこちらに軽く目線をやり、口を開く。
「その、おいしい……」
不器用なお礼ではあるのだが、そう言ってもらえるのは嬉しいものだ。そのために菓子づくりをしているのだから。
「うん、ありがとう」
満面の笑みを向けるのだが、彼女はまたさっと目を別の方向へやってしまう。
……やはり、わからない。嫌われてはいないとは思うのだが、行動の節々がよくわからない。
「はぁ……」
そんな様子の俺たちを見て、先ほどまで我関せずとケーキを頬張っていたはずの霖之助が大きなため息をつく。
「どうしたんだ、霖之助」
「どうしても無いさ」
そう言うと魔理沙の耳元で何か内緒話をする。
はて、一体なにを話しているのだろう。
すると、魔理沙の顔がみるみると赤くなっていく。
「ばっ、別に好きじゃ無いって」
霖之助が投げかけた何らかの言葉にかなり大きな声で慌てた様子の反応を見せる。
「まあ、僕から言えることは、そのままじゃダメってことだよ」
「そのままってなんだよ!」
「もうちょっと、素直になりなよって話さ」
こちらの伺い知らぬところで物語が進んでいく。
「もういい! 帰る!」
強く机を叩き、立ち上がるとあっという間に何処かへ去ってしまう。
「霖之助、一体何を言ったんだ。あんなに怒って……」
「迷える子羊に救いの手を差し伸べてあげたのさ」
「それならどうしてあんなに怒ってたんだい」
「それについては彼女が悪いと断言できるよ」
そう言った霖之助はそっと席を立つ。
「片付けは僕がしておくから、行ってきな」
「行ってきな、って」
「魔理沙のこと、追いかけてやってくれ」
「だいたい怒らせたのはお前じゃないか」
「元凶は君にあるんだよ」
元凶は俺にある、ねぇ。
……ったく。
魔理沙は、変わったのだろう。
当然だろう。
人は簡単に変わるものなのだから。
子供達なんて特に、たった一年で、全くの別人になれる可能性を秘めている。
それを引き起こしたのが、何年も積み重ねられた関係というものであれば、その人物を変え得るのには十分であったのだろう。
「何時迄も、子供扱いはやめてあげてくれ」
──魔理沙だってもう子供では無いんだ。
どうやら、いつまでも近所の可愛い女の子では無いのだ。
「……今度1日うちの洋菓子店でアルバイトしてもらうぞ」
「残念、インドア派なもので」
くだらないやり取りは後だ。彼女が出た場所から同じように外に出るが、もう飛んで帰った後なのか、やはりと言うべきかそこにはなにも無い。
──だが、だいたい目星はつく。
地を蹴り中に浮く。久しぶりの空路だ。
……スクーターは放置でいいや。
・
「はぁ……」
弱々しい溜め息を一つ。
彼の前ではいつも素直になれない。心の中の何かがいつも自分を急かし、焦らせてくる。
そうして再び自己嫌悪。
……きっと、幻滅しただろう。我が儘で、自分勝手な行動に。
きっと、幻滅するだろう。いつもの自分の行動を知れば。
出来もしない演技で自分を良く見せようとしても、そんなことは上手くいくはずもなく、結局は失敗ばかり。
素直になれない。なりたくも無い。本当の自分を見せたく無い。否定されるのが怖い。
だから不器用に、それでいて仕方なく仮面を被る。
正面を見る。
切り立った崖の上にあるこの場所からは、人里がよく見える。
水彩画のような空と山、ミニチュア模型のような人里。でかいスケールに映るちっぽけな人と妖怪。こうしていると、自分は所詮ちっぽけな存在なんだと実感できる。それは目前に映る全ても同じであり、そんな光景がココロの陰を吹き飛ばしてくれる。
たがらこの場所が好きなのだ。
それに、この場所は。私が一方的に覚えているだけなのかもしれないがらあの人の──
「やっぱりここか」
──ふと後ろから聞こえてきたのは、聞き慣れた声。
今、一番聞きたくて、一番聞きたくなかった声。
その声音は優しく、低い音で、胸の奥に入り込む。
「な、なんで地久がここに!?」
「なんでって、別になんとなくさ」
ここ、この場所。
それは自分の好きな場所。暇な時、楽しい時、落ち込んだ時、ひとっ飛びしてはやって来る場所。
──もちろん他の人には内緒の場所だ。
一人を除いては。
そう、目の前の彼だ。
なぜなら、そもそもこの場所は自分がほんの小さい時に、彼に連れてきてもらった場所なのだから。
しかし、彼がここを、私のお気に入りの場所だと覚えていてくれていたのか。
「魔理沙が、この場所を好きな事くらいは知ってるさ」
どきりと胸が声をあげる。
図星であるから。どうして彼がそれを知っているのかわからないから。突然現れた彼に、高まる胸の鼓動がまだ抑えきれていないから。
複雑な感情が、胸中に渦を為す。
「な、なんで知ってんのさ」
「知ってるも何も、ここ教えやったの俺だろ」
「でも、わたしとここに来たの、覚えてたのか」
その言葉に、キョトンした表情を見せる。ゆっくりと足を動かし、わたしの横で腰を下ろす。
「当たり前だろ」
その言葉に胸はよく分からない、それでいて暖かい感情に埋め尽くされる。そんな行き場のない感情を振り払うように勢い良く横を振り向く。
「ほんとに──わぷっ」
とん、と。鼻の前に人差し指を優しく置かれる。
「俺が魔理沙を嫌いになると思うか」
「えっ……」
唐突に切り出される話題に、動揺を隠し切ることができない。
「もっと、素直になって欲しい。俺は、ありのままの魔理沙の方が好きだ」
顔が熱い。真っ赤になっていくのを感じる。
隠せていたと思っていたこちらの気持ちなど、お見通しのようだ。
「──ウチに来る時だけ、借りて来た猫みたいにならないでくれよ」
恥ずかしい。すでに赤くなっていた顔も、これ以上ないと思っていたのに、今にも増して熱を帯びる。
「……知ってて言ってるのかよ」
「ん?」
「わたしの気持ち、知ってて言ってるのかよって」
つんけんした態度で当たってしまう。
これだからいつまで経っても子供扱いされてしまうのだというのに。
「……ごめんな」
知っていた。
彼の中ではわたしの存在が恋愛対象なんかでは無いことを。
だから私は複雑な感情にならざるを得ない。彼のことが好きだ、しかし彼は私を恋愛対象としては見ていない。それでも彼は私に変わらず接してこようとしている。私は彼との関係が変わるのが嫌だ。嫌われるのが嫌だ。だから今まではなんとかその気持ちは閉まっておいていたのに、バレていたと知って、恥ずかしさと悲しさが胸の内を占めてしまっている。
しかし、それでは「私」が廃る。
複雑な気持ちがなんだ。そんなもの一度ぶち壊して、今から筋立てしてしまえばいいのだ。
「地久、好きだ」
──あっさりと出た。今まではずっとこの一言が言えなかったのかと考えるとどうもバカらしく感じてしまう。
「ごめんな」
「知ってた」
辛い。もちろん辛い。
知っていた、と言うのは本当だ。しかし、それでも、その現実を突きつけられるのは辛い。
──しかし、これで、この一言で、今までの複雑な気持ちは全てぶち壊せた。
「でも、諦めない」
その言葉に、地久は驚いた顔を見せる。普段はあまり動揺を見せない彼のそんな一面を見れたことに対して、ちょっと嬉しさを感じる。
涙は流さない。
実はちょっと出そうになったけど、ぐっと堪えた。
そんなやわな「私」では無い。
勢いよく立ち上がる。足を開き、胸を張り、出来るだけ堂々とした態度で彼と向き合う。
腕をゆっくりとあげると、指をビシリとかれに突き立てる。
「だから、覚えとけよ。今振ったこと後悔させてやるからな!」
それを見た彼は、私の見た中では、今までで一番の、顔を崩した柔和な笑みを浮かべる。
「よく言う」
「そーやって、上から目線で余裕ぶっコケるのは今のうちだけだからな!」
・
苺のショートケーキといえば、この国のド定番の王道ケーキだろう。
故に、ひたむき真っ直ぐで、その店が本当に美味しい店かどうかがわかる。それでいて個性も出るのだ。
ひたむき真っ直ぐ、だけれでも感情豊かな彼女は、例えるならショートケーキであろう。
だが、そんな彼女だって、変わろうとするのだ。一歩踏み出そうとしたのだ。
さて、新しいケーキ作りに取り掛かろう。
……彼女の持ってきたキノコでも使って。
改めて読むとこの回微妙だな