白夜叉「魔王として、命と誇りの限り闘おうではないか」
耀「グリフォン………嘘、本物!?」
耀「これは友達になった証」
白夜叉「………いや、そんな馬鹿な。“正体不明”だと………?いいや、ありえん、全知である“ラプラスの紙片”がエラーを起こすはずなど」
白夜叉と別れた一行は大樹の案内のもと大樹の所属するコミュニティへと向かっていた。
大樹曰く、士もよく知る“コミュニティ”ということに黒ウサギは落ち着いてなどいられなかった。
黒ウサギ「本当に、士さんは“ノーネーム”に入っていただけるんですよね?」
士「何度も同じことを聞くな。お前達のところにはちゃんと入ってやるからそう身構えるな」
黒ウサギ「黒ウサギは心配でならないのですヨ」
耀「黒ウサギ、ウザい」
飛鳥「同感ね。本人が否定しているのだから信じなさいよ」
十六夜「とりあえず着いてみないことには何とも言えねえよ。まあ心配すんな。こいつがいなくとも俺様がいる」
黒ウサギ「うう………」
黒ウサギはしょんぼりとうさ耳も項垂れていたが誰1人として気になど留めていなかった。
それよりも耀は士に聞きたいことがあった。
耀「そういえば士。何で私のこれを知ってたの?」
耀は首から下げた“生命の目録”を掲げながら士へと聞いた。
耀は父から貰ったギフトを士が詳しく解説していたことに疑問を抱いていた。
誰も知らないはずのギフトであるのに、士の考察は解説と称しても差し支えの無い程完璧なものであったからだ。
士「別に。ただ見たら分かった、それだけだ」
耀「そっか。士、凄いね」
士「そう褒めるな。それにお前もちゃんとグリフォンと絆を結べたんだ。お前も充分に凄いやつだよ」
耀「………ありがと」
士は耀の頭を少しポンポンと撫でるように叩いた。
その行動に耀は士から少し顔を逸らした。
動物の友達はいても、人間の友達がいなかった耀にとって、素直に褒められたことは何よりも嬉しかったのだ。
頬が少し赤くなったのは褒められて嬉しいから。そう自分に無意識に言い聞かせているとも知らずに。
大樹「さてと、そろそろ見えるかな。あれが僕らの“コミュニティ”さ」
大樹が指差した先にあったのは、士もよく知る場所だった。
箱庭の世界にも適応した姿をしているが、よく知っている看板には“光写真館”の文字があった。
大樹は写真館の前で立ち止まり、改めて挨拶をした。
大樹「コミュニティ“光写真館”の海東大樹だ。ようこそ、僕達のコミュニティへ」
*
中に入ると様々な写真が飾られていた。
士はよく見る光景であるが、箱庭の住人である黒ウサギは興味津々で写真を眺めていた。
様々な時代、様々な人々を写したそれは箱庭にはないまた違った良さが伝わってきた。
大樹に促されるまま奥に案内してもらうと、そこには4人の人物がいた。
肩まで伸ばした髪にぱっちりとした大きな瞳を持つ女性。
真ん中で髪を分けており、士よりも歳が若く見える容姿の青年。
白髪の髪に帽子をかぶっており、眼鏡をかけた初老の男性。
士とどことなく雰囲気が似ている少女から女性へと変わる途中の容姿の女性。
夏海「あ、大樹さんおかえりなさい…………って士君!?ということはやっぱり士君もこの世界に来ていたんですね」
士「それはこっちのセリフだ。夏みかんにユウスケがここにいるのは分かるが、何で小夜までいるんだ?」
ユウスケ「士を驚かそうと思って呼んでいたんだよ。そしたら士、帰ってきた途端にまた行っちゃったからそのまま待っていてもらおうと思っていたんだよ」
栄次郎「そうしたらまたこの絵が変わってね。で、いつものようにこの世界に来たんだよ」
大樹「で、僕は彼らを見つけたから仲間に入って、情報収集も兼ねて街を散策していたら、士を見つけたってわけさ」
小夜「もう待ちくたびれたよ。久しぶり、お兄ちゃん」
士「ああ。しかし、お前らもこの世界に来るとはな。さて、こっちも紹介するか。こいつが俺をここに呼んだ張本人である黒ウサギだ。詳しいことはこいつから聞いてくれ。あとは任せた」
黒ウサギ「急に話を振らないでいただけます!?」
黒ウサギは戸惑いつつも自己紹介と十六夜達の紹介も行った。
夏海達も自己紹介を行い、お互いの話を始めた。
まず黒ウサギがここまで来た経緯について説明をしたが、問題児達とは違い、黒ウサギの説明を真剣に聞く夏海達に黒ウサギは嬉しすぎて感動を覚えていた。
黒ウサギ「これです。まさしくこれですヨ!これが本来のあり方なんですよ!それに比べて問題児の皆様ときたら………」
夏海「心中お察しします」
ユウスケ「士、話は真剣に聞かなきゃ駄目だろ?」
士「大体わかるから必要ない」
夏海「士君」
その声に士は嫌な予感がした。
いつものアレをするときの声音である。
今ここでアレをされてはいい恥さらしだ。
だからこそ、夏海に静止の言葉をかけた。
士「………まあ待て夏みかん。今はやめろ」
夏海「問答無用!黒ウサギさんに迷惑をかけた罰です!光家秘伝、笑いのツボ!」
夏海がそう言って士の首辺りを押すと、途端に士が笑い始めた。その光景に“ノーネーム”の面々は面をくらわされる。
士「あはははははは、はははははは!おい、夏海。またはははははは!はははははは!はははははは!」
耀「士、キモい」
飛鳥「凄い効力ね。笑いのツボって案外物理的なのね」
十六夜「どうやってんのか興味あんな。俺にもやってくれ」
夏海「え?良いんですか?」
十六夜「おう。天下の十六夜様を笑わせてみせろ。笑わせれたら何でも言うことを1回だけ聞いてやる」
夏海「なら失礼して。光家秘伝、笑いのツボ!」
夏海がまた笑いのツボを押すと、十六夜は少し衝撃を受けてから笑い始めた。
“正体不明”を持つ男でも、笑いのツボはきくようだ。
十六夜「はははははは!すげえ、はははははは!本当に笑いが止まらねえ!はははははは!」
飛鳥「後で私にも教えていただけるかしら?十六夜君にも有効みたいだし」
耀「私にも教えてほしい」
夏海「わかりました。後でお教えしますね」
小夜「夏海ちゃん、私にも教えてね」
ユウスケ「とりあえず話を進めない?」
黒ウサギ「そうでございますね」
笑い続けてる2人を余所に、栄次郎のいれた紅茶を飲みつつ箱庭の世界についての話や士が“ノーネーム”に所属するという話などをした。
黒ウサギとしては、ここが1番の鬼門だった。
どういう経緯で箱庭に来たのか黒ウサギはまだわかっていないが、それでも彼らが士の仲間であることは確かであるようだ。
だからこそ、士が彼らのもとに戻るという選択肢があり、彼らも士を自身のコミュニティに入れたいというのは至極当たり前のことであった。
夏海「なるほど。お話はわかりました」
ユウスケ「士がそう言ったんだったらそれでいいんじゃない?」
黒ウサギ「······よろしいのですか?」
すんなりと了承する2人に呆気に取られる黒ウサギ。思わず自慢の大きな目を3回ほどパチクリと瞬きをした。
それほどまでに衝撃的であったのだ。
ユウスケ「士はあんなんだから勘違いされやすいけど、でも困ってる人を見掛けたら手を差し伸ばさないと気が済まないんだよ。あんた達の所が困ってるっていうなら士は手を差し伸べるし、俺達はそんな士を応援してる。士が疲れた時に帰ってくるべき場所を守るっていうのが、俺達の役割だし、ね」
士を信じ、士もまた彼らを信じている。
そんな彼らだからこそ、今もこうやって繋がりが切れずに居続けていられるのだろう。
そんなかけがえのない仲間である彼らのあり方に、自分のコミュニティのことで精一杯だった黒ウサギは負い目を感じてしまっていた。
また、彼らから士を半ば強引に奪い取ったようなものなのに、黒ウサギを責めようとしない彼らに在りし日の自分達を重ねていた。
人数も容姿も何もかも違うのに、その心のあり方は自信が望んでいたそれそのものだったのだから。
ちょうど士も笑いがおさまり戻ってきた。
士「そういうわけだ。しばらくはこいつらの所にいることにした」
夏海「そうですか、まあ今回は士君だけ行くわけでも無いみたいですし、いつでも戻ってきてくださいね」
士「ああ」
ユウスケ「というか俺達がその士の所属する“ノーネーム”?の仲間になればいいんじゃないのか?」
黒ウサギ「………と、言いますと?」
ユウスケ「ん?別に俺達はこの世界に来たばかりだし、正直わからないことだらけだからさ、色々と教えてもらいたいんだよね。それに、聞けばあんた達の所って子供達ばっかりって言うんだったら俺達もいた方が色々と手伝えると思うからさ」
ユウスケの提案に黒ウサギは唖然としていた。
先程、彼らの大切な仲間を奪うと言った黒ウサギに仲間になろうと持ちかけたのだ。
普通ではあり得ない話である。
仲間を奪われたのなら報復することはあっても協力するなどそんな選択肢は論外であった。
飛鳥「あら、それは嬉しい提案だわ。私達は情報の提供、そちらは人力の提供。まさしくwin-winの関係というやつね」
黒ウサギ「ほ、本当によろしいのですか!?その申し出は確かにありがたいのですが、先程私は士さんを、簡単に言えば奪うと言ったのですヨ?」
ユウスケ「別にそんなこと気にしないって。あんた達が士を使って世界を滅ぼすとか言うならあれだけど、仲間を取り戻すために力を借りるっていうことだし」
飛鳥「お人好しという言葉を体現したような人間ね」
ユウスケ「よく言われるよ」
黒ウサギ「ほ、本当に、よろしいのでございますね?」
夏海「はい、こちらこそよろしくお願いします」
あまりのことに、黒ウサギは思わず飛び跳ねながら喜んだ。
召喚した4人だけでも喜ばしいことであったのに、士の仲間である彼らも仲間となってくれることに嬉しさなどの諸々の感情が溢れてしまったのだ。
気負っていたプレッシャーから解放され、黒ウサギは本当のウサギのように飛び跳ねまわった。
飛鳥「じゃあこのコミュニティは私達の傘下に入るってことで良いのよね?」
黒ウサギ「あ」
仲間になるとは言ったが、どんな理由であれ、名と旗を持ったコミュニティが“ノーネーム”の傘下に入るなど考えられない。
それは得難い屈辱であり、自らも“名無し”と名乗ることとなるのだから、通常では誰もが断ることだ。
栄次郎「この店があって、皆んなが無事であれば私はそれでいいですよ」
小夜「私もお兄ちゃんがいればそれでいい」
夏海「士君の能力でこのお店ごと持って行けばいいんじゃないですか?」
大樹「いや。それよりも傘下であることは周りにはバレないようにして、この店は写真館兼カフェとして行った方が収入源ともなるしいいんじゃないかな?」
ユウスケ「確かにそれ良いと思う!」
飛鳥「なら夏海さんと小夜さんと栄次郎さんはここでお店を運営してもらって、男手は私達のところでしっかりと働いてもらいましょう」
十六夜「とりあえずはそういう方針で行くか。まあまだ白夜叉の言ってた“ノーネーム”の現状を見てないからな。見てから詳しく決めて行こうぜ」
黒ウサギが考えごとをしている間に話はサクサクと進み、とりあえずは栄次郎以外の全員で“ノーネーム”に行こうという話となった。
黒ウサギは状況の理解が追いつかず、彼らの人としての器の大きさにただただ感心するしかできなかった。
十六夜「それじゃあようやく俺達の拠点に向かうとするか!」
*
“光写真館”を出た後、一行は“ノーネーム”の居住区画の門前まで歩いた。
門には旗が掲げてあった名残のようなものが見え、黒ウサギが少し忠告をし、門を開けた。
門の向こうからは乾ききった風が吹き抜け、砂塵から顔を庇うようにしながら門の向こうを見た。
そこにあったのは、視界一面に広がる廃墟であった。
町並みに刻まれた傷跡を見た飛鳥、耀、夏海、ユウスケ、小夜は息を呑み、十六夜、士、大樹はそれぞれ状況把握を始めた。
十六夜「…………おい、黒ウサギ。魔王のギフトゲームがあったのは───今から
黒ウサギ「僅か3年前でございます」
士「
大樹「確かに、魔王を名乗ることだけはあるようだね」
あまりにも悲惨な光景。
誰も思わないだろう。
ここにかつて人が存在していたなど。
それが、たったの3年前だということを。
ただただ悲惨なこの光景は、それだけで魔王という存在の強大さを表していた。
箱庭における天災。
人々の日常を、平和を、明日を奪い去るその所業はまさしく“魔王”である。
十六夜「………断言するぜ。どんな力がぶつかっても、こんな壊れ方はあり得ない。この木造の崩れ方なんて、膨大な時間をかけて自然崩壊したようにしか思えない」
飛鳥達も改めて周りを見渡す。
ベランダのテーブルにティーセットがそのまま出されていること。
整備されなくなった人家であるのに獣が寄ってこないという異常さ。
戦いの跡すら見えない光景は、まさしく蹂躙されたのであろう。
一方的な、反抗すら許さないそれは、人の心を絶望させるには充分であった。
黒ウサギ「………魔王は力を持つ人間が現れると遊び心でゲームを挑み、2度と逆らえないように屈服させます。そして、彼らとの戦いはそれほどまでに未知であったということを示しております。彼らが土地を取り上げなかったのは力の誇示と、おそらく一種の見せしめでしょう。僅かに残った仲間達も心を折られ………コミュニティから、箱庭から去っていきました」
その瞳には、あまりにも1人で背負うには重すぎるほどの悲哀の感情を映し出していた。
笑い合い、いつもと同じように平和であると信じ、明日も訪れると信じていたあの日々は、突如奪われてしまった。
前を向くことすら許されなかった。
前を向きたくても、顔が、身体が、心が拒んだ。
それ程までに絶望してしまった。
だからこそ今は、感情を殺し、その街並みを進む。
新しい、
2度と、このような悲劇を繰り返さないためにも。
十六夜「魔王───か。ハッ、いいぜいいぜいいなオイ。想像以上に面白そうじゃねえか………!」
皆様読んでいただきありがとうございます。
UA1000を達成いたしました、ありがとうございます。
前回はオリジナルのギフトゲームを作らせていただきました。
あまり深いことは考えておらず、霧を使ったギフトゲームであり、仲間との信頼、己自身の肯定が出来るかが攻略の鍵となっていました。
また白夜が発生するのは北半球の北欧などの地域はかなり気温が低く、霧が発生するにも条件的には適切かな?と本当に深く考えずに白夜叉が持っていることにしました。
ご指摘や感想がございましたら書いていただけると作者は嬉しいです。
感想を書いていただいた方、ありがとうございます。
次回はとうとうガルド戦を考えております。
次回も楽しみにして待っていただければ幸いです。
追記・修正を4/21 11:30に行いました。