妖精に魅入られた男   作:鈴木颯手

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003・入試

「(いやー、それにしてもたくさん人がいるなー、これ全員受験者か。頑張らないとな)」

 

フリードリヒは内心呟きながら案内を見る。彼は初の王都という事もあり若干の緊張と楽しみを胸にしていた。

 

「……おい」

「(えっと、会場は……)」

「……貴様、そこをどけ!」

「(んー?何処だ?)」

「聞いているのか!?」

「(……あ、ここか)」

「この無礼者が!」

 

フリードリヒはいきなり肩を掴まれ無理やり後ろを向かわされた。突然の事に驚くフリードリヒだったが肩を掴んだ男は更に怒鳴る。

 

「貴様!先ほどから無視しやがって……!俺はカート・フォン・リッツバーグだぞ!」

「……はぁ」

 

突然の事にフリードリヒは生返事しか出来ない。フリードリヒもロンダキアの学院に通っていたが皆フリードリヒの事を知っていたため気さくに話しかける人はいてもこのような態度を取る人物は初めてであった。

 

「何だその返事は!俺はリッツバーグ家の嫡男だぞ!」

「……はぁ」

「き、貴様ぁっ!」

「(え?なんなのこいつ?王都ってこういう奴しかいないの?)」

 

そう思い周囲をちらりと確認すると何人かの受験生は顔を青くしてこちらを見ていた。他はただ驚いてるのみであったが。

 

「……そこまでだ」

 

すると、カートの後ろから声が聞こえてきた。周りもざわつきその者に道を譲る。

 

「学院において権威を振りかざし他人を害する事は優秀な魔法使いの芽を刈り取る行為であり、これを破った者は厳罰に処する。学院の校則ではなく王家の定めた方であったはずだ」

「……!あ、貴方は……!」

「……(確か王家の……)」

「それともまさか、先程の発言は王家に対する翻意か?」

 

突然現れた男の言葉にカートは先ほどまでの勢いを無くし頭を下げている。

 

「い、いえ!決してそんな事は……」

「ではなぜ私の従兄弟にその様な言葉をかける?」

「い、従兄弟!?まさか……!」

 

カートは驚いたようにフリードリヒを見る。そこでフリードリヒはまだ自分の挨拶をしていなかったことに気付き改めて挨拶をした。

 

「お初にお目にかかります。アウグスト殿下。私はフリードリヒ・フォン・ゼスキア。ゼスキア公爵家嫡男にございます」

「ゼス、キア公爵、家……!」

 

カートは完全に先ほどまでの勢いをなくしその場に崩れ落ちた。ゼスキア公爵家は現国王の弟が建てた分家であり世界中の技術の最先端を行く家である。彼の領地の周辺に限れば王家よりも影響力を持っている程だ。

 

「カート、だったか?まぁ、こちらも案内板の前にずっと立っていたわけだし両者悪いところがあったという事でここは不問にするという事で、ね?」

 

フリードリヒはカートに笑顔で言う。その言葉にカートは壊れたようにコクコクと何度も頷くことしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

カートは直ぐに復活するとその場を離れたがフリードリヒは改めてアウグストに挨拶をする。

 

「先ほども名乗りましたがフリードリヒです」

「アウグスト・フォン・アールスハイドだ。そちらも堅苦しい挨拶はしなくていいぞ。家は違えど従兄弟に代わりはないからな」

「そう言ってもらえると嬉しいよ」

 

そう言って二人は握手をする。

 

「もう少し話したいところだが試験が始まってしまうからな。続きはまた今度だな」

「そうするか。ではお互いの健闘を祈って」

「……ああ」

 

そう言うと二人は学院へと入っていった。

試験は筆記と実技の二つありフリードリヒは筆記の試験を確かな手応えを感じ実技に挑んだ。

 

「では一人ずつ自分の得意な魔法を見せてもらいます!目標は設置してあるあの的!破壊できれば良し!出来なくても練度が基準に達していれば良し!では一人目!」

「はい!」

 

試験監督の言葉を聞き早速最初の一人目が前に出た。

 

「全てを焼き尽くす炎よ!この手に集いて敵を撃て!ファイヤーボール!」

 

一人目の人から放たれた火球は真っすぐに進み的を破壊するまではいかなかったがそれなりの威力を出していた。その様子に思わずフリードリヒは感心する。初手からそれなりの実力者の魔法を見ることが出来たのだから。

ふと、フリードリヒは隣の青年を見る。青年はかなり驚いており焦っているようにも見えた。

 

「(想像以上の高レベルだったとか?)」

 

ふとそう思うもそれにしては違和感があり思わず考察してしまう。

 

「次の人、前へ!」

「ん?俺の番か」

 

そんな事を考えている内にフリードリヒの番となった。彼は適度な緊張感を持ちながら前に出ると右手に炎の球体を生み出す。

 

「!?今無詠唱で……!」

 

他の受験生が驚く中フリードリヒは火球を前面に打ち出す。一人目の人より早く到着し的にぶつかり破壊した。

 

「す、すげぇ!的を破壊した……!」

「それどころか無詠唱だと……!」

「これが実力者……!」

「静かに!まだ一人残っています!」

 

驚く三人の受験生に試験監督が注意をしている中フリードリヒは不満げであった。

 

「(やっぱり魔法は攻撃よりも後方支援の方が向いてるな)」

 

そうしていると最後の一人の番となる。フリードリヒ他皆が見守る中その青年はフリードリヒと同じように無詠唱で生み出した。

 

「へぇ」

 

フリードリヒは思わずと言った具合に声が漏れる。想定以上の実力者であった事に驚いたのだ。そして魔法が放たれ的に当たると、

 

大爆発が起きた。

 

「……は?」

 


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