【完結】Sorge il sole   作:あきまさ

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第十三話 協奏から狂騒へ

 ダイは目の前の光景を信じられずにいた。バーンにとってそんなつもりはないとはいえ、共に闘うことになるとは考えもしなかった。

 天帝は驚愕も恐怖も抱いていないのか、来客ににっこりと笑いかける。これ見よがしに空の太陽へと左手を掲げ、口を開く。

「太陽が綺麗だね」

 バーンならばユーモアか毒舌を交えて切り返してもおかしくない台詞だが、返事はない。彼は眉をわずかに動かしただけだ。

 空気が冷えたことに気づいたのか、天帝は軽く視線を彷徨わせる。相手が好みそうな話題を振ってみたら盛大に滑った者の反応だ。

「……じっくり語り合いたいけれど、そうもいかないか」

 彼は落胆したように溜息を吐いてから剣を持ち上げた。

 両手で構え、突進する。

 一閃はバーンの頸ではなく、首飾りの鎖を斬り裂くに留まった。速く鋭い攻撃だったが、バーンはわずかな動きで躱してのけた。

 床に落ちた首飾りを拾い上げたバーンは、鎖の切断面を眺めた。軽く握ったものの、興味を失ったように放り投げる。装飾品は甲高い音を立てて床に落ち、部屋の隅へ転がった。

「オリハルコンとまではいかぬが、この首飾りはかなりの強度の金属で作られている。切り口からすると、その刃は高熱を発しているようだ」

「正解。普通の人間や魔族なら斬られた所から発火して死ぬだろうけど、竜の騎士や大魔王には通じにくいみたいだね」

 バーンがメラゾーマを放つと天帝は月の鞘を掲げた。灼熱の鳥と夜空を思わせる鞘の激突。それを合図に天帝は疾走し、大魔王に斬りかかる。

 ほぼ同時の動きだが、待ち受けていたのは三つの行動を可能とする技。

 大魔王の天地魔闘の構えだ。

 掌で剣を弾き、手刀で体を切り裂き、カイザーフェニックスが食らいつく。

 思わず後退した天帝の眼に何かが閃いたが、すぐに消えた。

 天帝の表情にダイは不吉な予感を覚えた。

 大魔王は強いが、天帝はまだ力を隠している。

 危険を告げる本能に従ってダイは立ち上がり、剣を構える。

「三種の行動をほぼ同時にこなす、か。ならば私も似たような技をお見せしよう」

 右手に剣。左手に鞘。そして額に太陽の形の紋章が出現し、金色の輝きを放つ。

「光陰矢の如し」

 短く呟くや否や瞬時に天帝が接近し、光速の斬撃が放たれる。大魔王がそれを受け止め、月の鞘が唸りをあげて叩きつけられるのをダイが防いだ。

 衝撃に二人が圧された。天地魔闘を使用した直後であるため三段行動はできないが、それでも二対一だ。

 両手は塞がっているため呪文を唱えることはできないはずだが、天帝は笑った。額の紋章から光の矢を思わせる光線が放たれ、二人を焼く。

「月の鞘は普段は防御に使うが、攻撃に使えばこんなこともできるんだ」

 天帝が鞘をふるったため二人は地を蹴って逃れる。鞘から不可視の力が奔り、直撃した壁に大穴があいた。

 『光陰矢の如し』の光は太陽の剣、陰は月の鞘、矢は紋章による攻撃を指すのだろう。

 太陽の剣だけでも脅威なのに、月の鞘まで使われては太刀打ちできない。三種の行動を同時に行うのはバーンも同じだが、バーンはあくまで一人。天帝の方は三種族の神々が合わさった存在であるため、直後に硬直して動けなくなることはない。奥義というより一つの型にすぎない。

 

 

 よろめきつつダイがなおも剣を構えると、それを大魔王が制した。

「手出しは無用。神々への復讐は余が行う」

「でもあいつ、強いんだ。おれも戦わないと」

 ダイの言葉を聞き、天帝が額に手を当てた。子供の自由な発想についていけず困惑する大人のような仕草だ。

「あのねえ……バーンに何をされたか覚えていないのかい?」

「おまえを倒さないと計画は止まらないんだろ? 地上を守るためなら、おれは――」

 倒せる可能性がありながら無視して、個々で戦って敗北しては元も子もない。自分一人の意地で地上を危険に晒すわけにはいかない。

 そう主張するダイを、バーンまで理解できないと言いたげな目で見ている。

「何故そこまでして地上の者達のために戦おうとする」

「バーン。おまえには誰かの都合で奪われたくないものはないのか? 心から望んだものはないのか!?」

 一瞬、バーンの眼に感情の光が揺らめいた。拳を握り、前に進み出る。

「……ならば好きにするがよい。協力し合うのは真っ平だが、攻撃したければ止めはせぬ」

 再び二人の攻撃が開始されたが、やはり天帝は強い。竜の神と魔族の神の力が合わさっている連続攻撃の威力たるや凄まじい。

 バーンは一度距離を取った。その手が優雅に動き、一つの構えを取る。片手は天に、片手は地に向ける。全身にみなぎる魔力。

 大魔王最強の奥義、天地魔闘。

 それに挑むのは、『光陰矢の如し』。

「天!」

「光!」

 最強の手刀と太陽の剣がぶつかり合う。

「地!」

「陰!」

 あらゆる攻撃をはじき返す掌と月の鞘が激突する。

「魔闘!」

「矢の如し!」

 炎の鳥と紋章から放たれた閃光の衝突が爆発的な光を生み出した。

 勝負は互角と思われたが、バーンは奥義を繰り出した直後に隙ができる。ほんのわずかな間だが、天帝にとって十分すぎる時間だった。

 太陽の剣が大魔王の胸の中央を貫き通した。刃が肉を焼くにおいが辺りにたちこめる。

「焼き加減はお好みで調節してあげよう。こんがりか黒こげしかないけどね」

 すでに刀身の半ばまで刺していながら、天帝は剣を回転させて傷口を抉りつつ深く刃を差し込んでいく。心臓が三つある大魔王といえども、急所をまともに貫かれてはただでは済まない。

 バーンの口から血塊が吐き出された。止めようとするかのように刃を掴むが、その手も焼かれる。

 天帝がさらなる攻撃に移ろうとした瞬間、本能が警告を発した。彼は剣を抜こうとしたが、大魔王がしっかりと掴んでいるため果たせない。月の鞘で防御の体制をとるのも一瞬遅れる。

 それは十分すぎる隙だった。

 ダイが剣を逆手にもち、アバンストラッシュを放った。高速で飛んだそれは月の鞘の結界とぶつかり合って儚く散るかと思われたが、ダイは同時に天帝に接近し、上から振り下ろす一撃を加えていた。

 アバンストラッシュX。

 大魔王との決戦に備えて生み出され、ハドラーとの死闘で初めて披露され、大魔王の腕を斬り落とした技だ。

 体勢が整っていない時に打ち込まれた渾身の一撃は結界をも打ち破り、天帝の体を深く切り裂いた。

「大魔王が、まさか捨て石に……?」

 天帝はダイを紋章の力で吹き飛ばしたものの、足元がおぼつかない。

 困惑に塗れた天帝の顔がわずかに引きつった。大魔王の顔に笑みをみとめたためだ。

「捨て石だと? 余は大魔王バーンなり!」

 傷口から煙を立ち昇らせながらバーンは高らかに宣言した。紅蓮の鳥に包まれた右腕がまっすぐ突き出され、隙だらけの天帝の胸を貫いた。

 傷を炎で焼かれ崩れ落ちた天帝を、大魔王は傲然と見下す。

「会心の一撃を人任せにすると思うか」

 バーンは乱暴に剣を引き抜き、投げ捨てた。大量の血が辺りに飛び散り盛大に床を汚すが、まったく気に留めない。

 

 

 勝敗は決したように思われたが、天帝の口から低い声が漏れた。

 ゆらりと亡者の如く立ち上がる間も唇は動き続け、不吉な調べを奏でてゆく。

 二人の攻撃を防御に徹して耐えつつ、唱え終えた彼は微笑んだ。

「遥か昔、私達は世界を分け、竜や魔族を昏い底へ追いやった。今度はそれの反対呪文を唱えた。……どうなると思う?」

 世界が、変わる。

「天使襲撃の際、魔界に種を蒔いていた。矢印のついた丸い球体があっただろう? あれが稼働し、全てを塗り替える」

 天帝の表情が明るいものへと切り替わる。

「さあ、世界破滅計画の始まりだ」

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