一年草の忘念記   作:604技術開発隊

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0:忘念の子守唄

青年は立ち尽くしていた

片足を引き摺り、片手に薬品の入った試験管を持ち、青年は二人の若い夫婦を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

青年はその学の相違によって村で除け者にされた天才だった。

そんな人間の話は伝記にもある、青年は気にせず自分の知りたいことを追求した。

あるとき青年に転機が訪れた。

村の少女が青年自身に話しかけたのだ。

青年は最初は渋々と相手をしていたものの、楽しそうに聞いてくれる少女に心を開いた。

少女と青年は恋に落ちた。

青年も少女も幸せだった。

しかしその幸せも長くは続かなかった。

少女が少しずつ記憶を無くしていったのだ。

不治の病、恋人、そんなキーワードも青年のいつか読んだ小説の中にあったエピソードだった。

だがそんな小説とは少し違っていたことがある。

青年は天才だった。

小説の恋人を喪う主人公とは違う。

少女を治せる。

青年は少女を治すべく脇目も振らずに研究に明け暮れた。

小説とは違うのだ。

小説とは…………

たまに思い浮かぶのは少女との楽しい思い出ばかり……木陰で自分の夢を大きく語る自分にそれを笑顔で嬉しそうに聞く少女。

小説とは違うのだ。

小説とは………

自分の夢は…………彼女の側で研究を続けていくこと。

少女は嬉しそうに返事をしてくれた。

小説とは違ったのだ。

小説とは…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

青年はいつか読んだ本のなかにあった

“現実は小説より奇なり”

とか何だかの言葉を思い浮かべた。

青年は現実を目の当たりにしてしまった。

小説よりもキツく小説よりも泣けない現実だった。

 

自分の見ているものはなんだ?

村の教会の鐘が鳴る

 

満面の笑みを浮かべる彼女と誰だか知らない男………

 

 

 

 

 

 

 

何てことはない……………彼女は自分に関する記憶も何もかも全てなくしてあの二枚目と結婚しただけだ。

自分は思っていた以上に時間を掛けすぎてしまったらしい。

青年はそう思いつつ片手に握られた試験管を眺めた。

これ………どうしようか。

青年は思っていたよりも冷静だった。

青年の中では最早他人なぞどうでもよかった。

何、簡単な話だ。

また以前のように一人で研究をすればいい。

そう思い青年は立ち上がろうとした……………が

倒れてしまった。

見ると足がおかしな方向に折れ曲がっていた。

青年はまたも苦笑した。

迂闊………どうやら思った以上に体にガタがきているらしい。

青年は思いつつここまでのことを冷静に振り返る。

食事もしなかったし研究室に籠りきり。

日光は薬品を変化させてしまうから遮光カーテンをしたまま。

それになにより一睡もしなかった。

どうやら自分は化物の仲間入りをしていたらしい。

青年はそう思いつつようやく眠りについた。

長い………長い………今まで寝ていなかった分を取り返すべく……

長く長く………薬品の入った試験管を唯一相手していた犬に預けて。

 

私の願い……………

 

もう……誰にも会いたくない………




私のIS別作品は予想外のアクシデントによりプロットの練り直ししてます。
それまではこの作品に付き合っていただけると嬉しいです。
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