昇り始めた太陽が荒廃した砂地を照り付ける中、スレイン法国と竜王国の間にある広大な荒れ地のとある場所には臨時で建てられたテントが点在していた。大きさは大小さまざまであり、その小さなテントから少しずつ顔を出しているのはスレイン法国の正規軍兵。灰色の制服の胸部分には鉄の軽鎧を付けており、その頭には傷の付いた鉄のヘルムをかぶっている。
そんな彼らは徐々に中心にある大きなテントに集まっていた。臨時であるために周辺のテントや馬車の配置はそれほど整っていない。兵士たちは食料品から高級なポーションまで積まれた馬車数台に気を遣いながら、早足に集合場所へと足を進める。
広々とした蒸し暑いテントの中には短い金髪に生真面目そうな顔立ちをしている若い兵士が既に待機していた。彼の名前はイーヴォン・リット・ルーイン。几帳面な性格である彼は集合時刻より少し早めにこの場に到着し、隊長であるカールを待っていた。
もっとも、カールはその役職上、多くの仕事を受け持っているため、ギリギリまで仕事をこなしてから集合時刻丁度に来ることが多い。そのため、5分前程度ならまだしも、ルーインのように十数分前に来ることに意味は殆ど無いだろう。
時間が経つにつれ、テントに入ってくる面々の数も増えていく。
百人を超えた辺りからテント内には熱気が溜まり、暑そうに手をパタパタ動かしている者もちらほら見受けられるようになった。ただし、そんな彼らの表情はルーインと同様に真剣なものだ。それは今日より始まる任務の内容が関係している。
お互いに指示を出すことも無く、全員が慣れたようにその場で整列していくと少し遅れて茶色髪の年配者が鉄の兜を片手に持って現れた。
軍の隊長であるカール・エィム・バラックだ。
彼は皆の前に立ち、見渡すように目を動かす。
「よし、集まったな。ではこれより出発の準備を行う。今日の目的地はいよいよ竜王国だ。予定では昼過ぎには到着することとなる。……皆、分っているとは思うが」
カールは一呼吸置くと普段以上に真剣な顔で言葉を続けた。
「竜王国は今、ビーストマンの脅威に晒されている。その被害は甚大で我々が出向かなければならないほどだ。奴らは強い。そこらのスケルトンとはわけが違うほどにな。一応現場には本国の別部隊の方もいるから絶対に無理だけはしないように。あくまで我々の任務は物資を届け、部隊の方が対応できなかった敵を抑え込むことだ。分かったな?」
「「はい!」」
部下の身を案じるカールの発言に集う兵士たちは力強く返事をする。
彼らがこれから向かう先は恐ろしい亜人の巣窟であり、命の保証など多少なりとも存在しない。心の弱い者、いや並大抵の者はそのような場所に向かうとなれば恐怖で足が竦み、この場から逃げ出してしまいたくなるだろう。しかし既に覚悟を決めている兵士たちの中に臆している者はいない。
「よろしい。現場ではローテーションを組みながら常に動き続けることになる。臨機応変といっても厳しい戦いになるのはほぼ確実だろう。しかし……3、いや4日もすれば本国からも強力な部隊が到着するそうだ。よって、今回の戦いはそれまで守り切ることこそが真の目的であり、それは我々の最も得意とするものだ。皆、必ずやり遂げよう。竜王国、いや、人類のために!」
「「おぉぉ!!」」
少々熱っぽく語られたそれによって、テント内の熱が急上昇する。
小さな頃から人を守ることの大切さを教えられ、それに信念を置いてきた彼らからすれば今回の任務は自分の存在意義そのものである。そんな任務を前にして興奮を隠すことのできる者はルーインやカールを含めいなかった。
勿論、彼らも死ぬかもしれないことに不安や恐怖を感じていない訳ではないのだが。
士気の高揚を感じながらもルーインはそっと胸ポケットに手を動かす。ポケットからスレイン法国の紋章の入ったペンダントを取り出した彼は、心をこめるように両の掌でそれを握った。
手のひらに僅かに熱が籠る。そのペンダントには小さな十字架が付いており、六大神を信仰している法国の人間は神に祈るためにこれを所持していることは珍しくない。
彼もまた、ひと時も忘れたことのない神への信仰を確かめたのだろうか。
あるいは──
♦♦♦♦
「隊員たちよ! 構えよ!」
竜王国の東に位置する荒野に男の声が響き渡る。
地形の段差が激しく、左右に数mの断崖が続いているその場所に集っている者の数は五百人にも及ぶ。これでも集まっているのは全てビーストマンに最低限の対抗ができる者たちだ。
そしてその中でもひと際目立っているのは全身を白のローブで覆った集団、陽光聖典。
本隊ではない彼らの数は二十数名ほどと少ないが、交代しながら最も長くこの場所で戦い続け、その得意の魔法で戦線を維持している。
陽光聖典班長の声を聞き、隊員たちはすぐに戦闘態勢に入る。また、この場に集まる多くの竜王国兵士や白金、ミスリル、オリハルコンのプレートを胸に付けた冒険者たちも武器を構え直した。
彼らの視線のすぐ先、百mほどの地点にある荒れ果てた黄土色の地面の上には人型の体に獰猛な肉食獣の頭を持つビーストマンの群れが犇めいていた。その数は軽く三百を超える。
「しかし凄まじい量だ……。なぜこんなにいる」
竜王国オリハルコン級冒険者であるガレット・インマーシュは重厚な大剣を両手で握りながら、その手に汗を滲ませた。
同じく竜王国の高名な冒険者たちや兵士たちもここ数日戦い続けているものの、敵の数は一向に減ることなく、少しずつ竜王国へと近づいていた。
この圧倒的な数は二十日ほど前、ビーストマンの群れの撃退に失敗し、村を占領されてしまったことが大きく関係している。
占領後は竜王国が手をこまねいていたこともあり、村を拠点にビーストマンは近隣から大量に集まっていたのだ。
今より一週間前に到着した陽光聖典はその絶望的状況を何とかするために、村の中から少しずつ拓けた荒野へとビーストマンを誘導していったのだが、その溢れんばかりの敵の前では増援を呼ぶ他なかった。
「冒険者。弱音を吐いている暇はないぞ。もう敵は近いのだからな」
班長がばっと前へ片手を伸ばす。
「隊員各位! 天使を召喚せよっ!」
白ローブの男たちが
天使召喚の魔法により中空には
白色の体躯に陽炎を纏う姿はこの世界ではあまり見ることのできない高位の存在のものであり、それを間近で見た竜王国兵士や低位の冒険者は感嘆の声を上げる。
「まさか、これほどの部隊が法国にいたとはな。しかし天使だけだと盾役としては少し心許ないか」
「……ふん、だったらお前たちがそのでかい剣で奴らを抑えればいいだろう」
法国には冒険者という職業は存在しない。そのため人類のために働く法国部隊の人間からすればモンスターから人を守っているという点では同じである冒険者もよく分からない野蛮人といった印象だ。
陽光聖典班長という上位の立場である彼もそれは変わらないようで、ガレットに対し多少蔑むように言葉を吐いた。元々相性も悪いのだろう。しかしそれを受けたガレットは眉を顰めるようなことはせず、気さくに笑った。
「そうだな。俺もうかうかしている場合じゃないか。アンジェシカ、後ろを頼む!」
「はいはい」
ガレットが前へゆっくりと駆け出すと冒険者仲間であり、同じくオリハルコン級冒険者の赤髪の女性も黒色のワンドを背中から取り外して走って行った。
それを合図にしたかのように戦いが始まった。
長方形の谷のような形になっているこの場所の両側の壁を伝うように兵士たちが前線を押し上げていく。
陽光聖典はその場に留まったまま、空中に佇む天使を前へ突撃させた。
30秒も経つ頃にはゆっくりと歩いてきていたビーストマンの表情も憎悪に塗れたものへと変わり、前の方を歩いていた個体は全速力で突撃を始める。元々それほど距離が離れていなかったため、無数の足音と共にすぐに両者がぶつかり合う。
最初に大きな金属音が響き渡った。それは強烈な爪撃を剣や盾で受け止めたものから、避けきれなかった鎧から発せられる悲鳴まで様々だ。
「武技、斬刃!!」
ビーストマンの初撃を体を逸らすような形で避けていたガレットはその勢いを利用し、体を一回転させてからそれを放った。
攻撃を振りぬいていたビーストマンはガードすることもできないまま重剣の一撃を直に浴び、肩を両断された。
「ぐがぁぁぁ!」
出血する肩を抑えながらビーストマンはその場でめいいっぱい腕を振り回す。しかし、そんなレベルの低い攻撃を受けるガレットではない。彼は両腕に力を入れると、暴れ狂うビーストマンの頭に剣を命中させる。
致命の一撃を受け、制御を失った獣の体はずしんと地面に横たわる。まずは一体。しかし油断は命取りである。すぐに仲間の悲鳴を聞いたビーストマン3体がガレットへと爪を突き出し走ってきていた。
「ぬぉ」
気を取られていたガレットはそれに気づくとその場から飛び退こうと足に力を入れた。しかし──
ガレットの後方から横をすり抜けるように火球が飛ぶ。その数は三つ。それらは飛びかかろうとしていたビーストマンの顔にそのまま命中し、高熱の火花を撒き散らしながら爆発した。
「しっかりしなさい。ほんと、危なっかしいんだから……」
ガレットが後ろをちらりと振り向くと、小さく溜め息を吐きながらアンジェシカが口を開いていた。
第三位階の魔法を素早い感覚で三発発射するというのは極めて難しい芸当である。ただ、それだけにその威力も絶大であり、手痛い反撃を受けたビーストマン数体は焼け爛れた顔を抑えながらそのまま後退していった。
それを見ていた兵士たちもその勢いに乗り、喊声を発しながら前線を上げていく。陽光聖典の後方からのフォローのおかげもあり、序盤の滑り出しは快調だと言えた。少し後方で戦場を眺めていた班長も、順調に前へ進んでいく軍団の後ろを歩く。しかし、その時だった。
「ぐぅぅぅぅ」
ドン。横から落下音が響いた。その回数は唖然とする間に急激に増えていく。それは小さな地響きだ。
「なんだと!」
班長は首を振り、音のする左右を確認した。
谷の上部の台地には鬱蒼とした木々が茂っているのだが、どうやらそこにビーストマンの集団が潜んでいたようだ。その数は左右にそれぞれ20匹ほど。頭の悪いビーストマンが作戦を立てていたとは考えにくいものの、最悪な形で彼らは囲まれてしまった。ビーストマンは前屈みとなった体を起こすとその口から怒りに包まれた荒い息を吐く。
「た、隊員たちよ! て、天使を戻せ! 早く!」
その言葉を聞き、慌てて隊員も動き出した。前線を抑え続けていた
陽光聖典は
しかし天使を退くことの影響は甚大であり、陽光聖典含め、兵士や冒険者の面々もその表情に苦いものを張り付ける。
一度下がるべきか? そのようなことを考えながら、前と後ろを交互に見ていた前衛の者たちからもすぐに小さな悲鳴が上がった。
「武装したビーストマン……だと!?」
ガレットが驚きの声を出した。彼らの目の前に突如姿を現したのは岩のようなヘルムを被り、両腕に鉄のガントレットのようなものを嵌めたビーストマン。中心の方に待機していたのかその体躯は他の個体より少し大きく、それが上位者であることが伺える。
この場にいる全員が息を飲む。……このままだと全滅するんじゃないか? 全滅。頭を掠めるその言葉により、一転して戦場は恐怖に支配されつつあった。軍団の動きが目に見えて悪くなり、それを視認したビーストマンたちは彼らを取り囲むように移動を始める。
「か、神よ……」
最も降りてきたビーストマンに近かった陽光聖典隊員の一人がそう呟いた。距離を詰めてくるビーストマンを見ては全員数歩後退する。祈りは届かないのか、そう思われた時だ。薄っすらとオレンジ色に変化し始めたその戦場には、もう一つ、戦況を変えるであろう者達たちが駆けつけていた。
「……応援?」
視界に黒点が移った班長はそちらをじっと見る。誰も目を向けていなかった後方からは灰色の制服の上に鉄の軽鎧を身に着けた二百人ほどの兵士の軍団がすぐそこまで迫ってきていた──
♦♦♦♦
スレイン法国の空は既に暗くなっていた。木製の馬車は、すっかり草の絡まってしまった車輪の動きを止める。巨大な門の前、駐輪場の傍まで走り切ったためだ。ふぅ、と御者は息を吐くと慣れた動きで後ろを振り向く。
「着きましたよ」
中から返事は無く、人が出てくる様子も皆無だ。しかし誰も乗っていないわけではない。御者は先ほどより大きな息を吐き、馬から伸びる紐を手放しては地面に足を下ろす。実際のところ終電で叩き起こされる人がそれなりにいるように、この世界でも馬車で目的地に着いても起きない人というのは一定数存在している。そのため、彼も別にそのことに対してそれほどうんざりしているわけではない。
「あの、お客さん?」
御者が馬車にかかる白色のシーツを後ろから捲ると、中にはすーすーと寝息を立てている銀髪の女性が座っていた。恐ろしいほどに整った顔立ちにスリムな体型。輝く白い肌は男であればガン見してしまうものだ。御者も例外ではなかったようで起こしに来たにも関わらず、ランプによって薄っすらと照らされたその女性に数秒見惚れていた。
視線を感じたためか船を漕いでいた女性、ツクヨミは頭をそっと持ち上げると眠たい目を擦り横を見た。そうしてすぐにその頭を元に戻したかと思うと、再び御者の方を向いた彼女は驚いたように立ち上がり、車内の天井に頭をぶつけ回転した。
「あぁ、す、すいません。寝てました。すぐに出ますので……」
「あ、あぁ。いやそんなに慌てなくても大丈夫ですよ」
ツクヨミは頭を抱えながら持ち上げられているシーツの下を潜り、彼に三回ほど頭を下げた。御者が笑いながら自身の後ろ頭を摩る。お礼を言い終えた彼女はよれた服を手で直すと、そのまま十数メートル先にある門の方向へと向かった。
「帰ってきたんだ」
ツクヨミは出発から27日、帰りの道では急ぎの馬車を利用しつつ、ホームであるスレイン法国にようやく戻ってきていた。
彼女は暗くなってしまった巨大な門を見上げる。
実はツクヨミも法国の外に出た経験はほとんどなく、この門を見るのも転移初日を含め二回目であった。ツクヨミは懐かしいものを見るようにそれを眺め終えた後、両端に松明の下げられた石畳の方面へ足を進めた。
門の右下には同僚である兵士の男が白い紙を捲りながら暇そうに椅子に座っている。
彼は足音に気づき、頭を持ち上げるとすぐに驚きの表情で口を開いた。
「ツ、ツクヨミさん!? あ、そうか。今帰って来たんですね!」
少しずつ嬉しそうな声へ変わっていった同僚を見て、ツクヨミはにこやかに微笑む。
「ただいま戻りました。アンバートさん」
「名前、覚えてくれてたんですね。泣きそうです。あ、入国の手続きでしたね。何か申告の必要なものはありますか?」
「えー……いえ、特にはないと思います」
「分かりました」
アンバートは白い紙にチェックを入れた。検問終了だ。それでいいのかとツクヨミも苦笑いを浮かべる中、アンバートは思い出したようにペンでリストを小さく叩いた。
「あ、そうでした。ツクヨミさん、お仕事の話なんですが、もうしばらくお休みになるかもしれません」
「えっと、理由はどのようなもので?」
ツクヨミは疑問の表情を顔に張り付ける。元々三十日の休暇はツクヨミの仕事を軍内で調整するための期間だった。そのため、考えられる理由としてはまだその目途が立っていないとか、問題が生じているといった具合だろう。
王国の御礼により懐事情としては特に問題のないツクヨミであったが、その理由というのはやはり気になるもののようだ。
真面目な顔に変えたアンバートは椅子から身を乗り出し、人の有無を確かめるように左右に頭を動かした。
人がいないことを確認すると、彼は小声で続ける。
「実は、竜王国にうちの軍の結構な人が行っちゃってるんです。秘密裏に。何やら相当ヤバい状態のようで、上の方の人たちも行ってるみたいですね……。私とか巡回の仕事を持ってる方はそれなりに残されてますけど」
「え、それって……えぇ? 詳しくお願いします」
あまりに予想外の方向からの言葉にツクヨミは驚きを隠すこともできず、身を乗り出した。
「ツクヨミさん、声が大きいです。……ほら、竜王国はビーストマン被害が大きかったじゃないですか。それが今、溢れんばかりに増えてるらしくてうちにまで応援要請がかかった訳です。もう出発からは5日くらいになりますね」
アンバートは目を瞑り溜め息を吐く。
「あれから連絡も無いので私も心配ではあります……。現地には強い人たちもいるみたいなので大丈夫だとは思いますが、スケルトンよりは厳しい相手と聞きますし、正直不安で仕方ありませんよ。私もこんなところに座ってないで皆のところに……」
「って、あれ? ツクヨミさん?」
アンバートが目を開くとその場に既にツクヨミはいなかった。そこにはただ、冷たい夜風が吹くのみだ。
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ツクヨミは胸の上を掴み、冷え切った地面を踏みしめ、既に飛び出していた。
体力的にはこの程度で疲れることは無い。しかし嫌な想像が頭を過ぎる度に、ツクヨミの心は巨大な何かに握られているかのように苦しくなった。
『ビーストマンが溢れんばかりに増えてるらしくてうちもヤバい状況なんですよ』
ビーストマンはユグドラシルにも存在していたモンスターでそのレベルは10程度。上位種であればそれなりに強くなるが、素では大したことは無い。しかし、それはユグドラシルの基準で考えた場合だ。
この世界の人間のレベルはとても低い。
それは兵士であっても同様で、軍の隊長であるカールでさえレベルにすれば10を少し超える程度だ。
そんな無茶な状況で大群と戦っているなら……大勢亡くなっている可能性も考えられるだろう。
いや、心の中では分かっている。そうなっている可能性の方が高いことは。
「早く行かないと」
杞憂かもしれない、面倒事になるかもしれない。そんなことは彼らの身の危険と比べればどうでも良かった。
ツクヨミはポケットに残っていた木の札を一瞬も躊躇うことなくへし折った。身に着けていた衣服が外れ、純白の聖衣が姿を見せる。
一見、足の方が長いスカート状になったそれは走るのには適していなさそうだが、
一度走り始めたツクヨミの体は夜風の中をまるで一筋の雷のように抜けていく。
「
加えて身体能力向上系の魔法を詠唱していく。Lv100戦士職の身体能力と数多くのバフがかかったその移動速度はもはや常人が目で追うことのできないものだった。
ツクヨミはそれから耳に手を当てるように腕を動かすも、そっとその手を下ろした。
(きっと、覚悟を決める時が来たんだろうな)
ツクヨミは何事も無かった時のために灰色のローブを取り出し、高速移動の間に羽織る。
取り越し苦労であったなら、それはそれで良いだろう。寧ろそうであって欲しいと思った。
今度私にも王国について教えてくださいね
この世界に来てから初めて出来た友人の顔が脳裏に浮かぶ。そして次に、受け入れてくれた多くの人達と過ごした光景が浮かんだ。
世界の大きさからすればちっぽけなものかもしれない。それでもツクヨミにとっては、それは何物にも代えられない宝石箱だった。