Moon Light   作:イカーナ

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19.竜王の国(2)

 神聖不可侵の部屋の大扉が音も立てずに開かれる。

 揃って部屋に入ったのは十一名の者たち。法国のトップである最高神官長と、六つの宗派の最高責任者である各色の神官長。司法・立法・行政を司る三機関長に、魔法開発を行っている研究機関長だ。

 本来はこれにもう一名、軍事機関の最高責任者である大元帥が加わるのだが、今日は何故か現れていない。

 

 彼らは部屋に入場するなり、用意していた掃除用具を手に清掃を開始する。これは静謐な蒼の空間をより清めるためであり、神官長会議を行う前に必ず行われている。

 

 人口1000万を超える国の頂点に立つ者達は、一切手を抜くことなく部屋の埃の一片までも取り除いていく。二、三十分経つ頃には元々綺麗だった部屋は更なる輝きを得て、彼らを祝福していた。

 そうして日課の掃除をやり遂げた十一名は、部屋の奥に鎮座する六体の像へ深々と頭を下げる。疲れを感じていても、信徒としてこれを怠るような真似をすることはない。

 

「今日もまた、人間たる我々に生があることを神に感謝致します」

「感謝致します」

 

 一列に並んだ全員が唱和し終えるとようやく会議の準備が開始する。清掃用具は端に集められるように置かれ、清潔(クリーン)の魔法で身体を清めた者が順番に巨大な円卓へと腰をかけていく。その机の上には既に必要資料などが並べられている──

 

「ん、まだ来ないか」

 

 最高神官長であるオルカー・ジェラ・ロヌスは白みがかった眉を落とすと、ピタリと閉じた扉の方を一瞥する。そうして、はぁ……とため息交じりの低い声を上げた。神官長会議はスレイン法国における最高会議であるので、遅刻など当然許されない。午前であるとはいえ、眠い目を擦ってでも出席する必要があるのだ。

 

「大元帥か。何か緊急の案件でもあったのではないか?」

 

「確かにあり得る話ではありますね。今の軍は忙しい立場にありますので」

 

「いや部屋で倒れているという線もありますぞ。老齢ですからな」

 

 土の神官長や水の神官長も同様に、未だ現れない老人について言及する。中には冗談交じりに心配する声もあったが、どの道会議を遅らせる訳にはいかないので、切り替えるようにオルカーが号令を出す。

 

「まぁ良い。ひとまず、この十一名で本日の会議を開始するとしよう」

 

 席に着いた他の十名も首肯する。

 

「では最初の議題は、今問題となっている竜王国のビーストマン侵攻に関して」

 

 この件は前回、前々回と続き取り上げられている。法国の軍のみならず、特殊部隊の陽光聖典さえ投入されることになったこれは、重要度として極めて高い。

 

「ここ数日のことだが、攻勢は激しさを増しているようで、軍の兵士はおろか現地に留まっていた陽光とも連絡が取れていない状況となっている」

 

「まさかやられたのか?」

 

「それは分からない。ただ状況は良くないと考えられる。既に送り出した陽光聖典本隊が到着するまであと三日を要することも考えると……竜王国内まで火が及ぶこともあり得るだろう」

 

 オルカーは重く口を閉じる。もしかするとスレイン法国の貴重な戦力を失っているかもしれないことと、人類国家への小さくない打撃の懸念。その組み合わせは悪夢だ。しかし既に出来る限りの手は打っていたことを考えると、今回はどうにもならなかったと言わざるを得ない。漆黒聖典という奥の手もあるにはあったが。

 

「まぁ本隊であればビーストマンの撃退も余裕でこなせると思いますが、彼らを急がせることは出来ないんですかね?」

 

 研究機関長の問いに、オルカーでない、光を宗派とする神官長が答える。

 

「無理をすれば、あと二日と少しといったところでしょう。とはいえ竜王国はカッツェ平野と国境の湖の間を通らないと行けませんから、中々大変ですね」

 

「なるほど。……となると確かに被害は馬鹿になりませんね。これは今後の支援も視野に入れるべきでは?」

 

 苦い顔で全員が資料へと目を落とす。自国のことだけでも忙しいことを考えると、現実逃避したいというのが正直な気持ちだろう。しかし竜王国は東から迫りくる亜人共を食い止めるためには必要な国家なので、切り捨てることはできない。

 オルカーは話をまとめるように一度頷く。

 

「そうだな。必要に応じて今後話し合いになることは頭に入れておこう」

 

「しかし、まさかこれほどとは何度も驚かされる。巫女姫の大魔法による監査も並行して始めるべきかもな」

 

「確かに。大元帥から状況確認を取ってからにはしたいが、準備はしておいていいだろう。……よし、他に何かある者はいるか?」

 

 一同顔を合わせるが、口を開く者はいない。

 

「無いか。まぁ、この議題は後回しでも良かったかもしれないな。あやつが後で入ってくるようなら、もう一度話し合いの機会を設けよう。という訳で、次の議題へ進む。皆資料を捲ってくれ」

 

「……森妖精(エルフ)の件か」

 

 それはかつて協力関係にあった、法国の南西に位置する森妖精(エルフ)の国に関する内容。 ──いや、今も表向きは協力関係にはあるのだが、それも最近捻じれつつあるのだった。

 

「そう、最近また森妖精(エルフ)の王が人間の国から民を連れ出している」

 

「全く……あの人間もどきは。何やら言い分もあるようだが、あれは拉致といっても過──」

 

 

 バタン。

 

 

 森妖精(エルフ)国に関する議題が始まろうという時、それを遮るように閉じていた大扉が勢いよく開かれる。

 オルカーと、資料に目を通していた残りの十名も何事かとそちらへ目を向けた。前述した通り、ここは神殿の最奥。入って来られる人間は限られる。それを踏まえると、現れたのは予想通りの人物だった。

 

「はぁはぁ……」

 

「大元帥、遅れて来たのも悪いがもう少し静かに入りたまえ」

 

 闇の神官長が隣から呆れたように言う。タイミングが良いのか、悪いのか扉の先には白い髭を生やした老人、大元帥が立っていた。ただ、どうやら様子がおかしい。興奮したように体を震わせ、目をぎらつかせている。

 そんなただならぬ様子に、若干気を損ねていたオルカーも心配して声をかける。

 

「どうした? 何かあったか?」

 

 老人は心を落ち着けるよう、清潔な聖衣の袖を右手で摩ると震える口を動かした。

 

「ぁぁ……。つい先ほど軍の諜報部で、現地にいる法国軍部の伝言(メッセージ)を受けての。それから竜王国とも諸々確認してたんじゃが、とんでもないことが判明した」

 

「何だ? 勿体ぶらずに早く言え」

 

 

 

 

 

「神じゃ──」

 

 

 

 ……

 

 

 

 …

 

 

「は?」

 

 

 

「もしかすると神が降臨為されたやもしれん!」

 

 

 

 瞬間、複数の椅子が転がる音が部屋内に響く。オルカーも椅子から立ち上がり、唖然と目を見開いていた。口も自ずと半開きになっている。

 

 皆言われたことが理解できないといった様子だった。

 

 神の降臨──。

 

 そんなことが本当にあり得るのか。

 現実のことなのか。

 聞き間違えではないのか。

 

 そのような数多の思考が、瞬く間に室内を駆け巡る。

 

 オルカーも喉の奥から声にならない何かを発すると、大元帥の方へとそのままよろよろと歩いて行った。微かな疑念を抱きつつも、無限に湧き上がる歓喜の感情は到底抑えきれない。

 

「ぁ、ええ!? そ、それは本当か? 神が……降臨為されたというのはっ!」

 

「大元帥よ! ど、どういうことだ!?」

 

「詳しく聞かせてくれ!!」

 

 椅子から転げ落ちていた神官長や、三機関長も法国において最も重要な話を聞くべく近付いていく。森妖精(エルフ)の国の問題など最早脳みそから転げ落ちてしまったという様子だ。

 

「待て! 皆一旦落ち着こう、大元帥も席に着くのだ!」

 

 その方が話もしやすいだろうと、動揺しつつも風の神官長が舵を切る。

 それから数分後、ようやく静まりを取り戻した議場で話の整理が始まった──

 

 

 

 

 

 ♦♦♦♦

 

 

 

 

 

「……そうか。ビーストマンは、倒されたのだな」

 

 竜王国王城、その内部にある書類の積まれた会議室にて女王であるドラクシス・オーリウクルスはほっと息をつきながら、椅子へと腰掛ける。同時に特徴的な黒色の髪が揺らめいた。

 ドラクシスの目の前に立つのは、先ほど会議室に入ってきた王城騎士長だ。彼は慌てた様子で現れると、目下の緊急事態であった竜王国へのビーストマン侵攻が、突如現れた一人の存在の手によってひとまず幕を下ろしたことを報告してきた。

 

 それは深夜から気を張り詰めていたドラクシスの精神を弛緩させるには十分な内容であり、長机を見渡せば、宰相含む竜王国の要人たちも皆、安堵の胸をなでおろしていた。

 

「は! 生き残った兵士は天使によって治癒され、現在切り上げの最中。多くの冒険者も無事のようです」

 

「なるほど。これは大きな借りを作ることになってしまった」

 

 手を叩いて喜んでもいいような状況であるにも関わらず、ここにいる全員がくたびれた表情をしているのは単に疲弊し尽くしているからではない。それは今回の件を解決した人物の背景が関係している。

 

「しかしスレイン法国が神と呼ぶ存在、か。とんでもないのが現れたものだ……」

 

 ドラクシスは開け放たれたままの扉をちらりと見た後、目を軽く瞑りながら独言する。

 神と呼ばれる彼らはある年数の周期を持ってこの世界へ現れることがある。その影響はいつの時代でも絶大なものであり、それらに関する文献は多数残され後世へと伝えられていく。

 

 六大神や八欲王などもその例で、今や知らぬものがいないほどに有名だ。

 

 だが、一般に齎される神の情報と竜王国女王であるドラクシスが持つ情報ではその量も質も天と地の差である。それは言うなれば表と裏。神……すなわち『ぷれいやー』の裏側を知るドラクシスからすれば、今回の件は新しく生まれた頭痛の種だと言えた。

 

(窮地を救って貰ったことには感謝しかないが、ぷれいやーは竜王の怨敵。竜王国女王としてどう立ち回るべきか……)

 

 竜王はプレイヤーのことを『竜帝の汚物』と呼ぶほどに忌み嫌っている。

 ドラクシス自身は直接に被害を受けた訳でもないのでそれほどまでに嫌悪してはいないが、やはり幼少のころからそう教えられてきただけあってあまり良い印象を持っているとは言い難い。

 まぁ実際は多種多様な彼らに強い警戒心を抱いているというのが適切であり、竜王が物を言ってこないなら人類の味方であるプレイヤーと敢えて距離を置くようなことはしないだろう。

 

 再度机に置かれたペンを握り、書類を瞥見する。

 

「国内の被害が無いのなら、法国への御礼もまぁ痛い出費だが可能だろう。ただ……そのツクヨミという人物を国内に引き留めることは可能だろうか」

 

「スレイン法国が後ろに付いていることを考えれば厳しい、というより不味いでしょうね。ただ、戦力としても影響力としても、引き込めればこれほどの人材がいないことは確かです。協力関係を仰ぐか、第二の拠点としてもらうのはいかがでしょうか」

 

 一人ぴんとした背筋で隣に座る宰相がすかさず答える。それを受けたドラクシスはペンを持ったまま机の上で両手の指を合わせ、今後の方策を練る。

 

 竜王国の戦力事情は度々話題になるが、その実態はかなり渋いものだ。それは定期的な亜人被害にすり減らされ、国が貧しくなり、発展していかないという負のスパイラルによるところが大きい。

 しかも数十年前に誕生した冒険者組合により、近隣の国家からは有望な冒険者が沢山生まれていったのだが、竜王国からは未だアダマンタイトは生まれておらず、その下のオリハルコンでさえ、僅か二組しか現れていない。

 

(その内の二人さえ失いかけたというのは、笑えない話だ)

 

 そのため、このようにしてはいるが今回の一件は不況に喘ぐ竜王国に与えらえた一本の蜘蛛の糸だった。誤って千切ってしまうようなことがあれば、そのまま奈落に落ちる可能性だって十分ある。

 ビーストマンによる被害もこれで終わった訳ではないのだから。

 

 ドラクシスは気持ちを一層引き締めるように息を吸って吐いた。

 

「そういえば騎士長、ツクヨミ殿は今どちらにいる?」

 

「はい! 確か今は、都市東にある由緒ある宿……七色亭に滞在しています。門衛によると、今回の件の報告も兼ねて謁見を希望しているようでして」

 

 …………

 

 ……

 

 ……

 

「それを先に言わんかっ!!!」

 

 

 

 

 

 ♦♦♦♦

 

 

 

 

 

 まだ日が天頂に昇りきらぬ頃。

 

 寂れた店内の端に位置するテーブルに、イビルアイは腰掛けていた。

 

 左隣は空席。目の前には見慣れた白銀の鎧が、背後から靡く巨大なマントによって隠されるよう覆われている。その頭部には同じく竜の頭のような形をした白銀の兜を被っており、目の奥からは青白い光を微かに漏らしている。

 

 店内には他にも胸に銅や鉄のプレートを下げた数人の冒険者と思わしき人間と店主らしき男性が居るが、警戒しているのかこちらに近づいて来ようという気配はない。

 

 イビルアイが時間を潰すようにテーブルを覆う何重にもかけられた魔法の数々のチェックをしていると、前に座る同行者、白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)の二つ名を持つ(ドラゴン)であるツアーがおもむろに話し始めた。

 

「ここに留まっていたのは正解……だったんだろうね。二度手間にならずに済んだのは君たちのお陰だよ」

 

「まぁ、どちらかというとリグリットの意見だがな。私も気が無かった訳ではないが」

 

 世界の揺り返しが起こったのか調査するべく、大陸中央から移動してきた三人。そんなイビルアイ達が今滞在している地点は竜王国内の西に位置する都市だった。

 

 一応ここに着いたのはもう昨日のことであり、暫しの休憩を挟んでから足早にエランテルまで移動する予定ではあったのだが、こうして今も留まっているのはビーストマンの攻撃が近年稀に見るくらいに激しかったためだ。

 

 別に身動きが取れなかった訳ではない。ビーストマンなど三人からすれば雑魚も同然で、足元のアリといったレベルである。しかし、それでも都市の端で様子を窺っていたのは国内に住む住人にまで被害が出る恐れがあったためだった。

 ツアーとしては一刻も早く移動したかったようだが、蹂躙を見過ごすのは流石に気が引けたしリグリットも寝心地が悪くなると動かなかった。

 

「ただ結局私たちの出番は無かったようだけどね。おかえり」

 

「何を話してたんじゃ?」

 

 コトンと木製のコップがテーブルへ置かれ、質の良い黒のローブを着た老婆、リグリットが結われた白い髪を揺らしながら隣に座ってくる。

 

「要るか? イビルアイ」

 

 コップに注がれた果実水を見つめているとリグリットから声がかかった。

 

「いや、いらん」

 

「冗談じゃよ」

 

 かかかと悪戯に笑う老婆に水晶の短剣(クリスタルダガー)を叩き込みたくなる衝動を抑えて、話を戻す。

 

「それでツアー。先ほど言っていたことだが、あれは本当なのか?」

 

 聞き返すのはここに集まる前にツアーから告げられた衝撃の内容。揺り返しが本当に起こったことなのか──という今回の調査の言わば答えに当たるものだ。

 

「うん。ビーストマンを吹き飛ばした魔力は本体の方でも一応感知できるくらい強力なものだった……。ほぼ間違いなくプレイヤーの、恐らくは第八位階以上の魔法だよ」

 

「八位階以上……か」

 

 イビルアイは何度聞いても慣れないその単語に息を飲む。リグリットも同様に真剣、というより険しい表情をしていた。

 本来魔法というのは第三位階で熟練というレベルであり、第五位階のものが使えれば英雄の領域だ。それ以上になってくるとそれこそ大儀式や魔神といった存在でなければ発動は不可能。人間の限界を超えている。

 そんな相手と対峙するようなことがあれば、いかにこの世界で飛び抜けた強さを持つイビルアイやリグリットであっても手に負えないと言わざるを得ない。

 

「しかし今回の件がプレイヤー絡みとすると、そやつはどちらかというと善人寄りなんじゃないかの? 先の魔法は竜王国を守るために発動させたと考えるのが自然だと思うんじゃが」

 

 イビルアイもこれには半分同感だった。若干愚直すぎるような気もするが。

 しかしツアーはそうは思っていないようで、少し考える素振りを見せながら言葉を返した。

 

「……どうだろうね。確かプレイヤーを君たちが初めて目撃したのは王国だったと思うんだけど、それを考慮するとプレイヤーは竜王国の人間でない可能性もある。それこそ何か目的があって行動したのかもしれない」

 

「確かにな」

 

 考えても答えの出ない問題を前に沈黙が流れる。そうして数秒の後、リグリットがやや強引に本題へと移った。

 

「んん、それでこれからどうするかね。ツアーお主はそのまま接触しに行くのか?」

 

「いや……姿くらいは確認しに行きたいけど、一旦評議国に報告へ戻ろうかなと思うよ。世界盟約にも関わってくるだろうからね」

 

「ほぅ。意外じゃな。てっきりハンマーで殴り込みに行くのかと思っておったが」

 

 ツアーは鎧で戦闘する際に宙に浮く槍、刀、ハンマー、大剣を振り回すのが特徴的であるため、そのことを言っているのだろう。

 冗談めかしく話すリグリットに対してツアーがいつものように笑い返すのだろうとイビルアイは思っていたが、白銀の鎧はその空っぽの兜を僅かに前へ傾け、瞳の奥の灯を明滅させただけだった。

 

「……どうした?」

 

「ん、いや実はね。一つだけ動き辛い理由があるんだ。話すか少し迷ってたんだけど君たちにも一応話しておいた方がいいかもしれない」

 

 イビルアイ、そしておそらくリグリットも心当たりのない内容を、ツアーは一拍置いてから語り始めた。

 

「知っての通り、竜王国は100年以上前に七彩の竜王(ブライトネス・ドラゴンロード)が作った国なんだ。つまり一応ここは彼の領域(テリトリー)ということでもある。だから、音沙汰がないとはいえ色々荒らし過ぎるのは考えものでね」

 

「話は分かるが──そもそも生きてるのか? そいつは。領域(テリトリー)だの言う割には一切話を聞いたことがないが」

 

 同種族間、それこそ竜王(ドラゴンロード)の間でも様々なしがらみがあるのは理解できる。しかし、これだけ自分の国が疲弊しているにも関わらず、姿さえも見せないのは果たしてあり得るのだろうか? 

 

「彼は古いドラゴンだから、もしかしたら寿命が来ているのかもしれないね」

 

 古い竜というのはつまり八欲王との戦争以前に生きた個体のことを指す。ツアーはそんな昔のことを思い出すようにして続けた。

 

「ただ私の知る限りの彼は、なんていうか執念深い竜って感じが拭えない。誰も近寄らないからいつの間にか変態竜なんて呼ばれていたけどね」

 

「人間との間に子供を作った、じゃったか」

 

「うん。そうして国を立ち上げた後は知っての通りだよ。初代の女王が亡くなった時も山頂に居たんじゃなかったかな」

 

 ツアーは含みのあるように話し終える。

 確かにそれだけ聞かされるとその一連の流れに何か思惑を感じてしまうと、イビルアイは思った。考えすぎかもしれないが、国家全体が蜘蛛の巣であるような、そんな一面性を。

 

 何とも言えないもやもやした気持ちをイビルアイが抱いていると、話を戻すようにツアーは咳払いする。

 

「コホン、少し話が逸れてしまったね。そういう訳で私は色々確認した後に戻る予定だけど、君たちはどうするんだい? もちろん評議国に来てもいいんだけど」

 

「私は……そうだな。もう少しここから様子を見たいと思っている」

 

「わしも一先ずは嬢ちゃんと行動しようかの。老いぼれが評議国に行っても世話になるだけじゃろうしな」

 

「そうか。それなら暫しの間お別れになるね」

 

 イビルアイは席を立とうとしているツアーへ、去り際の口を開く。ひとつだけ気になっていたことがあったからだ。

 

「待てツアー、最後に一つだけ聞きたいことがある。世界盟約の件だが、お前は今回のプレイヤーが世界にとっての猛毒になりうると考えているのか?」

 

 数瞬の考える素振りの後、それは答えられた。

 

「まぁそう……だね。ないとは言い切れないと思う。プレイヤーの強すぎる力は世界にとって危険だから」

 

「それは──」

 

 イビルアイは口籠る。別に今回現れたとされるプレイヤーを信じるような気持ちは今一切持っていないし、これから八欲王のように世界の敵となる可能性も十分あり得る。ツアーの危惧も正しいと言えば正しい。

 ただ、プレイヤーを一括りにして否定的態度を取る彼らのことを見ていると、どうしても昔のことを思い出してしまった。

 

 

 ──リーダーも、リーダーも世界にとっては猛毒だったのだろうか。

 

 

 その言葉は胸の奥で突っかかって、声に出てくることはなかった。

 

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