Moon Light   作:イカーナ

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複雑すぎる世界情勢。

お気に入り1000ありがとうございます!好きを書いたものだったので、沢山の方に読んで頂けて本当に有難いです。


23.光と影

 ホバンス。

 それは大陸西に位置するローブル聖王国の首都。

 

 数々の城壁、要塞都市などを超えた先にあるその都市は亜人の攻撃を日々凌いでいる聖王国内では比較的に安全であり、人口はもちろんのこと出入りする人間の数も他の都市に比べて著しく多い。

 

 当然、そんなホバンスには重要施設も多数ある。

 

 国のトップである聖王の住まう聖王国城。共に国を支える神殿勢力、その本拠地と言える神殿の数々。

 それらは全て政治の中心的場所であり、実質的にホバンスは南北に分かれる聖王国の意志を統合するような働きを担っている。

 

 

「あー、はい。分かりました。──ではそちらの方も引き続き宜しくお願いします」

 

 綺麗に磨かれた黄褐色のタイル床の上を歩く女性は疲れた表情で一息つくと、伝言(メッセージ)の魔法を解除するよう耳に当てていた手をそっと下ろす。

 

 銀のカチューシャを着けた腰まで届く長い茶髪。そこから覗く顔つきはまだ若く一般のそれと比べるとかなり整っている部類だと言えるが、睡眠不足であるのか目元には薄っすらと隈が出来ていた。

 

 そんな彼女の名前はキャリスタ・カストディオ。各国に広がる神殿勢力所属の最高司祭であり、聖王国を側面から支える神官団の長である。

 

 そういった背景を持つカストディオには日々、数多くの連絡が送られてくる。いや──その知恵を借りようとする国内の者からの相談や国外の神殿から共有される報告を含めれば……多いなどといったレベルではない。

 

 しかしながら今、カストディオはこれまでの忙しさなど大したことは無かったのだと悟りを開いたような思いでホバンス内にある聖王国城へと足を運んでいた。

 

(神の降臨……ね。早く真偽が判明すればいいんだけど)

 

 一昨日、一定の独立機関である神殿からカストディオへ連絡が入った。

 竜王国から聖王国まで、王国を経由して伝えれられたその内容は『人類の味方である神がその御姿を現されたかもしれない』という耳を疑ってしまうようなものだ。

 

 本来発覚からそれほど時間が経っていない段階でこの距離での連絡のやり取りが起こることはまずない。遠いということは緊急性も低く、伝言(メッセージ)の魔法に頼ることになるので情報としての価値が限りなく低いためだ。

 

 にも関わらず、竜王国内の神殿から連絡が寄こされたのは今回の一件が異例の事態であるということに他ならない。そのため、現在は早急な事実確認と神殿間の連携による各国への情報伝達が求められている。

 

 まぁ当然と言えば当然だが最高司祭であるカストディオもその役割の多くを担っているのだ。

 

 こつこつと靴から固い音を鳴らし、目的地まで歩いていると脳内に直接語りかけられるような感覚が来る。

 

『カストディオ、まだ掛かりそうなのか?』

 

 聞きなれた渋い声、おそらく参謀長のものであるそれを受け、カストディオは伝言(メッセージ)越しに溜め息を堪える。

 

「今向かっているところですよ。あと3分もかかりませんが少し急ぎますね」

 

『助かる』

 

 ぷつりと魔法が切れる。ちなみに内容から声色まで鮮明に聞き取れるのは二名の距離が近いからであり、これが数十km以上となると莫大なノイズが混じることによって非常に聞き苦しい伝言(メッセージ)となる。

 

「よし……」

 

 カストディオは気を引き締め直した後、足早に磨かれた階段を上る。度々すれ違う神官や騎士に会釈されながら、目的の部屋の前まで移動していく。

 出入りが激しいからか扉の開け放たれた会議室。話し声の漏れているその場所へと入室する──

 

「失礼します」

 

「カストディオか、忙しいところすまないな。いや挨拶は不要だ。それより何か進展はあったか?」

 

 腰の位置まである長机。その前に立っているのは薄い金髪の上に冠を戴く男性、現聖王であるリエンダル・べサーレスだ。豪華な純白のガウンを身に纏う彼は長い付き合いであるとはいえ一応聖王国の頂点に立つ存在である。

 

 そのため形式上でも礼節を欠くような真似はしない。

 

「いえ、残念ながらこれといった進展はありません。一応、証言自体は集まってきているのですが……結局のところそれも遠い地からの伝言(メッセージ)に依存してしまいますね。やはりこれ以上は何らかの接触が必要かもしれません」

 

「なるほどな。まぁとりあえずはその証言内容から聞かせて貰おう」

 

 カストディオは頷いた後、手に抱えていた書類を地図の広げられた机の上へ配っていく。隣に立つ熟練といった雰囲気を醸す参謀長もそれを手伝うように手際よく紙を回していった。

 

「これは……凄いな」

 

「有り得るのでしょうか。こんなことが」

 

 聖騎士団長、兵士長など机を囲むようにして立つ聖王国の精鋭たちも口々に驚きの声を漏らす。

 

 書いてあるのは神の降臨を始めとしたその特徴や偉業。もちろん国家間において明確な不利が生じてしまうような内容までは記載されていない。

 

「確かにこれが本当なら神と言われるのも納得できる。聖王国としては何としても協力を仰ぎたい存在だ」

 

「しかしスレイン法国との間にはアベリオン丘陵がありますからの。確認だけでもかなりの時間を要しますぞ」

 

「うむ。しかも王国への経路には確か、何だったか。亜人が発生しているという話だったが」

 

 リエンダルが兵士長の方へ視線を向ける。

 

「はい。現在、他国への唯一の経路である北の海沿いの道にはスラーシュという亜人が出没しています。目新しい種であること、アベリオンの山岳に挟まれた場所であることを考えると通行は危険かと思われます」

 

 何とも不幸な話であるが、元々聖王国は亜人の動向に左右されやすい国であるためそれ自体は特に珍しいことでもない。

 しかし問題はそのタイミングである。

 

「私もそう思います。しかし、だからといってこのまま退くのを待っているのは少し悠長であるかもしれません。このまま周辺諸国に置いて行かれる可能性も考えれば、いずれ対処しなければならないその亜人を退治しておいた方が良いのではないでしょうか」

 

「なるほど。そうだな……。友好関係にある人魚(マーマン)の助けを借り、海路を利用してみるというのも一つの選択肢ではあるが」

 

 聖王は頭を悩ませるように唸る。海軍率いる船の移動は陸地のそれと同様にリスクも高く、湾を渡ったことはあれど未だ真水の海へ出航したことはない。それを考慮すると海路の使用は些か冒険的であると言わざるを得ない。

 

(空輸でもできれば……というのは無い物ねだりね)

 

 カストディオは進言を心中に飲み込む。

 恐らく聖王も別の手段の難しさを踏まえたうえで、聖王国の外敵に打って出る能力の低さを懸念しているのだろう。

 

 少しの沈黙の後、リエンダルは話し始める。

 

「カストディオの言う通り、大事な経路をこのままにしておく訳にはいくまい。かといって焦りは禁物だ。仕方がないが冒険者組合とも協力しながら亜人を退治、そして王国を介して神に関する情報を集めていこうと思う。──意見のある者はいるか?」

 

 異論はないようで皆一様に口を閉ざしている。

 

「では、そういった方向で話を進めていく。まずは具体的な方策から話し合うとしよう──」

 

 

 

 

 

 

 ♦♦♦♦

 

 

 

 

 

 

 左右の壁には青の炎が灯っている。

 

 とても狭い薄汚れた通路。深淵を思わせる暗き地中の底へと続く階段を一人の男が降りていく。

 

 男は頭頂から足元までその全身を墨色のローブで覆っており、その手には一匹の大蛇を思わせるような青漆(せいしつ)の杖を握っている。

 

 そして特に異彩を放つのはその顔。そこには祭祀を思わせる、宗教色の強いくすんだ灰色の仮面を被っていた。

 

 男は空間に鈍い靴音を響かせながら、延々と続くその通路を下って行く。螺旋のように緩いカーブを描くその階段も、奥へ進むにつれて少しずつその幅を大きくしていった。

 

 男は階段を降り切ると、鉄格子を構えた廊下──その茶色の地面を踏みしめ歩く。その足取りはとても慣れたものであり、男の落ち着いた様子は彼が此処を訪れた回数が一度や二度程度でないことを推察させた。

 

「これは……副盟主様!!」

 

「副盟主様だっ!」

 

 窪んだ巨大な空間の入り口。その近辺に立っていた青のフード付きローブを纏った怪しげな男たち──いや見れば女性らしき人影もある、が歩いてきた副盟主と呼ばれる男に平伏していった。

 

 若い者から老人までその年代も多様だ。ただ一つ同じなのは気が狂ったようなその表情。目は見開き、口は半開き。中には荒い息さえ吐いている者もいる。

 

 その様子はまさに狂信者と言えよう。

 

 恐怖心などではない純粋な憧憬の念を抱いている彼らへと男は向き直り、髑髏の指輪を嵌めた青白いその手を軽く持ち上げる。

 

「よい。スルシャーナ(しん)の子らよ。我らズーラーノーンは家族同然の存在。上も下もない」

 

 乾燥した低い声で男はそう言うと、神殿のような建造物……闇視(ダーク・ヴィジョン)を使わなければ到底先を見通すことのできないような暗闇の先へとその足を進めていった。

 

 

 ──ズーラーノーン。

 

 

 それは二十五年ほど前に誕生した、死を隣人とする魔法詠唱者(マジックキャスター)からなる邪悪な秘密結社のことである。

 

 その組織構造は強大にして偉大な力を持つ盟主を頭に抱き、その下に十二高弟と呼ばれる幹部、そして高弟に忠誠を誓った弟子を置くというもの。また、下部組織には邪教の信者も含まれるという。

 

 そんな彼らの目的はただ一つ。死に寄り添い、それを克服することである。

 故にズーラーノーンに所属する者は死の超越者であるアンデッドに強い憧れを抱いており、理想に近づくためならばどんな残虐行為でも喜んで行うという早迷惑な性質を持っている。

 

 それは副盟主と呼ばれる男──リヒター・イフ・ソルネウスも例外ではない。

 

 

 …………

 

 ……

 

 

「集まったか」

 

 それから程なくして会合が開かれた。

 

 その場に集まったのはズーラーノーン十二高弟。十二名のうち九名が出席する薄暗い円形の会議場は石造の壁へ立て掛けられた蠟燭型マジックアイテムの青い光によって照らされており、その怪しげな雰囲気を嫌というほど演出している。

 

 そんな部屋の中心には円卓があり、全体的に暗い衣装を着た彼らはそれを囲むように氷のように冷えた肘掛付きの椅子へと腰を下ろしている。

 

 初めに声を上げたのは入り口から最も遠い──上座に坐する男。実質的にズーラーノーンを組織する副盟主ことリヒターであった。

 

「さて、集まったのはこれで全員。二名は行方不明。一名は知っての通りだ。今回はその件に関する報告になる」

 

「あの馬鹿者。重要な役目を果たさず捕まりおって」

 

「そう言うな……。彼奴の任務は大役であるが故にその難度も高かったのだ」

 

 皺くちゃ顔の老婆が仲間の一人について言及すると、それにつられるように全員の視線が空白の席へと移動する。

 その席は幹部の中でも王国を腐敗させるべく貴族を中心に薬をばらまいていた老人のものだ。

 

「嘆かわしいことだが我らが同胞は今も牢の中にいる。王都にいた信者の手も借りたが……結果は芳しくない」

 

 リヒターは溜め息混じりに首を振る。寧ろその失敗によって現在の王城はその警戒レベルを高めているのだ。

 

「しかし助けないという訳にはいかんだろう? あの者は強力な死霊術師(ネクロマンサー)。処刑されるのは避けねば」

 

「そうは言えど危険ではないか? 牢周りの防御は固いというではないか」

 

 仲間意識の強い幹部、それほど腕に自信があるわけでない幹部が分かれるように意見をぶつけ合う。

 

 実際の所ズーラーノーンの個々の戦闘力は安定していないのが現状であり、リヒターのように英雄の領域を踏む者もいれば、第三位階魔法に届かない高弟も少なからずいる。

 

「まぁ落ち着け。既に逃げ延びた貴族への手引きは済ませてある。まだ時間的猶予はあると言えよう」

 

「うーむ。ただ、時間があったとしても助け出す方策が無くてはな」

 

「忘れたのか? もうじき二月だろう……?」

 

 リヒターの言葉に他の者が目を丸くする。理解したという風に中年の魔法詠唱者(マジックキャスター)らしき男も杖を腰前で撫でながら答える。

 

「なるほど。あれに合わせるのか」

 

「そうか。そうすれば我々幹部が総力を出す必要もなく、比較的安全に救出できるな」

 

 皆が納得したように頷く。どうやら方針は決定したらしい。

 

「提案するつもりだったのだが、どうやら異論はなさそうだな。ではそういうことで宜しく頼む。まずやるべきはエ・ランテル墓地への移動だ」

 

「日数にはかなり余裕がありそうだが。まぁ慎重に人員を整えて王都へ向かえばよいか」

 

「その間に姿を御隠しになられた盟主様を見つけらればこの上ないじゃろ」

 

「……そうだな。その流れで間違いはない」

 

 リヒターは上座の後ろの汚れた鏡、かつては通信用であったそれを横目に捉えると立ち上がる。

 十二高弟も腰を上げ、部屋を出ようとしていた時だった。

 

「あぁ……あともう一つだけ伝えることがある。危うく忘れるところだった──」

 

 負の感情の混ざったその声色に、一瞬だけ空気が冷え込む。

 

「勇敢な信徒の証言によれば、彼奴を貶めたのは背ほどある白い髪の女らしい。そのため、もしその人物を見つけたら私に報告せよ。必ず」

 

「りょ、了解した」

 

 強者の怒気を前に萎縮する幹部の面々。しかしそんな彼らを傍目に老婆は心底楽しそうに尋ねた。

 

 

 もし見つけたらどうするのかと。

 

 

「……我らの同胞、そして大義を奪おうとしたのだ。そのような愚か者には救いなき絶望と苦痛をくれてやろう」

 

 副盟主はそう言い残しその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 ♦♦♦♦

 

 

 

 

 

 

「ツクヨミ様、無事神殿前へと到着いたしました」

 

「今降ります」

 

 黒を基調とした高級感漂う馬車の室内。大きなソファの上に座るツクヨミは扉越しに声を掛けてきた漆黒聖典の隊長へと返事をすると、馬車を降りるために腰を持ち上げる。

 

 普通、馬車旅は長い時間体勢が固定されてしまうため、体の不調……特に腰痛などが起きやすい。

 

 しかしツクヨミが乗車していたのは一般のそれとは違う、紛れもない最高級の馬車。快適な車輪(コンフォータブル・ホイールズ)によって揺れは殆どなく、室内は明るく広々としており、八本馬(スレイプニール)輓獣(ばんじゅう)であるため移動も早い。

 

 そのため、竜王国から法国という長距離の移動を終えたツクヨミは、その本来の大変さに反して今一切の疲れを感じてはいなかった。

 

 それは一日半という、長旅慣れしていればそれほど苦ではない時間での到着ができたことやその間も適度な停車がなされていたことが大きいだろう。

 

(本当に、何から何まで申し訳ないな……)

 

 ツクヨミは長い髪を後ろに流してから扉を開け、足元の石畳へと降り立つ。

 

 窓の景色からも分かっていた通り、外は既に暗くなっているようだった。しかしツクヨミは外の予想外の状況に驚く。それはその場に集っていた人の多さだ。

 

「お寛ぎのところ御用立てしてしまい、大変に申し訳ございません」

 

「い、いえ大丈夫ですよ……」

 

 深々と首を垂れる漆黒聖典の隊長の後ろには、一緒に戻ってきた漆黒聖典以外の隊員含む計八名の者が並んでいる。

 

 いや、それだけではない。

 

 そこには青や緑、茶色や赤など様々な色の制服を着た別の聖典らしき存在まで道の左右に分かれるよう整列していた。一様に片膝を付き、頭を下げている彼らの人数はパッと見ただけでも軽く100はいる。

 

(た、確かに法国内に入ってから馬車越しに頭下げてる住民の人とかいたけども。しかしなんというか凄いね……)

 

 月と端々の永続光(コンティニュアル・ライト)に照らされた状態で固まっているツクヨミに、隊長の隣に立つ神官長の一人が声を掛けてくる。

 

 純白の衣装を身に纏う優しい表情をした中老の男性だった。

 

「ツクヨミ様、心よりお待ちしておりました。法国の代表として深く御礼申し上げます。また神のご来訪をこのような慎ましい人数でお迎えする我々をどうかお許しください」

 

「え? め、滅相もございません!こちらこそ何から何までありがとうございます」

 

 ツクヨミの正面で感極まったように涙を流している神官長たち。彼らはそれを拭いつつ、その後パレードの準備をしていることなどを伝えてきていたが、ツクヨミは終始ぽかんとするほかなかった。

 

 ……

 

「では、神殿へ案内させて頂きます」

 

 六名の神官長と大元帥、他五名が神都の中でも立ち入りの制限される場所である巨大な石柱聳える大神殿前の敷地内を、ゆっくりと案内するように歩き始める。

 

 ツクヨミの後ろには漆黒聖典の八名が警護にあたるように移動する。中でも第三席次である漆黒の衣を着た初老の男性は手元にある宝玉を操作しながら辺りを入念に索敵していた。第四席次である金髪の少女もまた、きょろきょろと心配そうに首を動かしている。

 

 彼らが警戒心を強くしているのは、恐らく帰国途中に馬車へ何らかの探知魔法が引っ掛かったからだろう。

 

(まぁ、位置的にも多分王国か帝国だろうと思うけど)

 

 ツクヨミは左手に嵌めた指輪に目を向ける。人差し指に嵌まるのは探知阻害の指輪。汎用性が高く、多数のプレイヤーが着用するその指輪だけで中位までの探知はある程度カバーできる……が。

 

 PK対策のためツクヨミは探知対策に2スロットを割いている。細かいことは省くが、規定回数使い切りの指輪で攻勢防壁のように広範囲探知を確定で阻害し、カウンターで逆探知する。つまり相手人数と位置を割り出すのだ。

 まぁ、実際のユグドラシルでは逃げる時に付け替えていたものであったが。

 

 そのため杜撰な探知に対するツクヨミの警戒は薄い。いや、むしろ今はそれどころではないのだ。

 

「この階段を上った先に存在するのが中央大神殿。かつて六大神が集まられたという、最も古くからある神殿でございます」

 

「なるほど」

 

 ツクヨミは改めて目の前の長い階段に視線を向ける。幅の広い石造りのそれは複数の暖かな灯りに照らされており、神都の中央に位置する緩やかな台地の上へと続いている。

 

「周りには六大神殿もございますが……と、申し訳ございません。飛行(フライ)の魔法を使わせた方がよろしかったでしょうか?」

 

 石段に足を掛けたツクヨミを見るなり最高神官長は漆黒聖典にちらりと目を向けた。

 

「いえこのままで大丈夫ですよ」

 

「さようでございますか。神の寛大さに感謝致します」

 

 いちいち大袈裟に頭を下げる神官長達に少しずつ精神を削られつつも、ツクヨミは階段を上っていく。周りに家屋がないことも景色を壮観とさせる要因であり、横に目を向けると石柱は言わずもがな所々によく分からない建築物が点在する。

 

 ツクヨミは話題を振ることも兼ねて、天井が吹き抜けになった神殿のような建物を指差す。

 

「あちらはどういった建物なのでしょうか?」

 

「あれはティナゥ・アル・リアネス。水の大神殿内にある聖域の一つでございます。巫女姫による大儀式が行われるのも聖域内でしてその際にのみ立ち寄りが許されています。……宜しければ巫女姫も神の御前にお連れしましょうか?」

 

「それには及びません。夜も遅いですからね」

 

 巫女姫というからには女性であると考えられるし、流石に寝ているところを叩き起こすのは可哀想だろう。そういった思いからツクヨミはその申し出をやんわりと断る。

 

 それからも興味深く外の景色に目を向けつつ階段を上がっていると、その段差も少しずつ終わりが見えてきていた。

 

 当然ながらツクヨミの身体能力からすればこの程度の上り下りは余裕も良い所だが、神官長のような歳を召した人には中々きついんじゃないだろうか。そのような考えを心中に抱きつつも先に進む。

 

 そうして一分も経たぬうちに斜面は平地へと変わる。すぐに──目の前には大神殿が姿を現した。

 

 今まで見てきた古典的な神殿とは異なり、宮殿に近い実用性を感じるその建物は全体的に蒼を感じさせる。

 動きを止めた神官長らがそっとこちらに振り返ると、中心に立つ最高神官長が皺のある口を開いた。

 

「大神殿へ到着致しました。最上階には空いた部屋も多くありますので、ツクヨミ様にはどうかそちらをお使いいただければと思います」

 

「ありがとうございます」

 

「いえいえ、ツクヨミ様に感謝されるようなことは一つとしてしておりません。我々が無理を言ってお招きしたのですから。……さぁさ、こちらへ」

 

 連れられるようにツクヨミはその壮大な建物へと足を進めていった。

 

 ──

 

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