Moon Light   作:イカーナ

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大変遅くなってしまいました。今年の初投稿となります。


27.深き森の強者

 遠くに浮かぶ地平線からは、いつしかまどろんだ夜闇を溶かすように──青色を帯びた陽の光が差し込んできていた。それからすぐに、空の彼方より鳥の唄う声も聞こえてくる。

 

 スレイン法国のみならず周辺国家も巻き込み、人々を慌ただしさに包み込んだ神の顕現した日の夜もどうやら明けの時が来たようだった。

 

 大陸は淡い光で満ち始めている。周辺の国々に並び立つ主要な街の多くは、昨夜の時点から既に人工的な灯りがぽつりぽつりと浮かんでいたが、今はそれもかき消されようとしていた。

 

 

 そこに新たな朝の到来を疑う者はいない。

 

 

 

 ♦♦♦♦

 

 

 

 エイヴァーシャー大森林。スレイン法国の南方に広がる広大なその森も、日の出前の朧げな光を受けながら早朝の時を迎えようとしていた。

 

 高い樹木に囲まれた森の中は薄明かりが入るだけでまだ暗い。その内部に広がる音も風で舞い散る木の葉の掠れる音であったり、目を覚ました鳥の囀りなど静かなものが多く、多くの生物がまだ活動を開始していないのが窺える。

 

 そんな静かな森の中だからこそ、動く生物(もの)というのは目立つものだ。

 大森林の辺境地、中心部にある森妖精(エルフ)の王都圏から多少離れた場所でその者達は動いていた。

 

 映る影は二つ。一つは屈強な体つきの男のものだ。男の顔には少々の皺があり、中年であることが分かるがその眼光は鋭い。また背中には鉄製の銛のようなものと麻袋を担いでおり、右手には刃が三日月形となった斧を握っている。

 

 そして隣に並ぶようにして歩くのはその者よりずっと若い、青年の男。その青年は後ろに矢筒と籠を背負っており、左手には木製の弓を持っている。どちらも同様に狩人然とした風貌であった。

 そんな彼らは見て分かるように人型の生物で、人間に酷似している。……が、厳密には人間ではない。

 

 森妖精(エルフ)──。横に長く伸びた耳に、優れた聴覚。人間より長寿だとされる彼らは此処、エイヴァーシャー大森林に国を持つ人間種の一つである。

 

 ぼさぼさとした金髪頭の二人もまた、例に漏れずこの場所で生活を営む森妖精(エルフ)の一員であり、早朝という時間に関わらず森の奥へと足を運んでいた。

 

 

「はあ、しかしこんな早くから出て来なくても……。昼からじゃ駄目だったの?」

 

 

 初めに口を開いたのは眠そうに獣道を歩く青年だった。その口調は砕けたもので、空いた右手で首を触りながらの言葉であったが、そんな青年の様子に男は眉を顰める訳でもなく対応する。

 

「あぁ。昼からはやることも多いからな。こうして動ける時に動いておくのが大事なんだ」

 

 男は当然といった表情でそう言うと、青年から視線を外し、ふぅと白い息を吐いた後、上空の樹木の隙間から差し込む光に目を移しながら言葉を続ける。

 

「お前も知っているだろう? 今は村の貯蓄もあまりない。厳しい時期だ。朝ならモンスターも少ないし、動きも鈍い。森の収穫を行うには絶好の時間だぞ? それにお前も」

 

「はいはい……。村の一員として──だろ? 分かってるよ」

 

 男の言葉に観念したように、青年は肩を竦めながら返答する。

 

 村。先も話したように、エイヴァーシャー大森林の内部には森妖精(エルフ)の王国が存在する。その規模は人類国家と同様に大きく、森林内を枝分かれするように次々と勢力を伸ばしている。

 そんな中でも森妖精(エルフ)の王国の端の端──。この場所のような辺鄙な場所では森妖精(エルフ)が集落を形成し、村となってお互いの生活を支えあっている。

 

 そのため、冬という厳しい時期に食料等の物資が不足することはそこに住まう者、皆にとっての死活問題であり、もしそうなれば村の誰かがこの凍える道を行き来しなければならなくなる。

 元々そうならないための村ではあるのだが、今現在彼らがこうした状況にあるのは何も貯蓄を怠っていたからではない。

 

 その原因は大きく二つ。いずれも外的要因で、突き詰めると一つの問題点に帰結する。

 

 

「……頑張って集めても大体上に持っていかれるし、俺たちはほんとやってられないよね」

 

 真剣な表情で視線を落とす青年に、男は何度か口を開閉させていた。頭に浮かぶ言葉を飲み込んでいるように。

 

「仕方ない。中央では人口の増加も相当なものだと聞くし、あっちはあっちで大変なんだろう」

 

「大変、ねぇ。それもあの王が馬鹿みたいなことしてるせいだと思うけどな……。物資も、人も取っていってさ。ほんと滅茶苦茶だよ」

 

 青年は苦い顔で何かを思い出しながら愚痴を溢す。その発言はある種この"森妖精(エルフ)の王国"においてタブーとされるものだった。

 王への悪口、もし王宮に聞かれでもすれば一発で首が飛ぶであろうそれを聞き、隣を歩く男は否定こそしないもののすぐに後ろを振り返って辺りを確認する。

 

 幸い深い森の中ということもあって人影は見当たらなかったのか、男は安堵の表情と共に『んん』と小さく咳払いをする。

 

「あまり外でそういう事を言うな……。まぁ、確かにここ最近の状況が以前にも増して悪いのは事実だが。人間とのやり取りもめっきり減ったしな」

 

 エルフ王が強力な軍隊を作ることに注力しているのは、この辺りでは有名な話であった。しかしそのことで外交──特に法国との関係が疎かにされているという問題については、やはり知らぬ者が多い。

 

 村人程度の存在であれば猶更のことだ。

 

 閉鎖的。数百年の時を生きるという彼らでも感覚的な部分だけでは判断に厳しい部分がある。そのため"弱い森妖精(エルフ)"はただ……新たな風の吹かぬ暗闇の中を手探りで行くしかない。

 

「だから──」

 

 男が言葉を紡ごうとした時。

 

 雑念を吹き飛ばすように、道の右奥からパキパキと木の枝が折れる音が響いていた。その音の意味するところは一つであり、男は慌ててその足を止め、武器を握りしめる。

 

 

「っ、構えろ!」

 

 

 先ほどまでの会話の雰囲気とは一転し、緊張した空気と共に素早く戦闘態勢に入る二人。

 暗い木陰。獣道の奥からぬるりと出てきたのは体長1.5mにもなる四足獣であった。

 

 淡黄褐色の毛皮に鋭い爪。そして特徴的な巨大な牙。犬のような見た目でありながら、虎のようにも思わせるその姿は……

 

「サーベル・ウルフの子供か。かなり痩せている個体、恐らく餌を求めて彷徨っていたのだろう。運は悪いが、何にせよ同族じゃなくて良かった」

 

「……()るよね?」

 

「あぁ」

 

 迷うことなく彼らは動き出す。そうしなければ死ぬと知っているからだ。

 

 男は手斧を前に構えながら距離を取るようにゆっくりと後退する。そして青年も下がりながら右手を(えびら)へ伸ばし、中から矢を取り出しながら、左の木の隙間に足を掛ける。

 

 狭い森の道。鬱蒼としているこの森の中では如何に森妖精(エルフ)と言えど、飢えた獣から逃げ回るのは困難であり、不用意に突っ込めば一瞬で首を刈り取られる。そのため、彼らの動きは慎重かつ、敵を確実に仕留めるための動きだった。

 

 サーベル・ウルフもまた牙の隙間から涎を垂らしながら爪を地面に突き立てて進む。睨み合い、そして──

 

 

『ッ!!』

 

 

 一瞬。難度10近い魔獣は男を標的に定め、一瞬にして距離を詰める。その動きは俊敏という他ない。

 

 男は慣れた身のこなしでそんなサーベル・ウルフの体当たりを辛うじて避けると、すぐさま突き立てられる爪による攻撃を手斧で弾く。それから後方に転がりながら、獣の足に斧による殴打を食らわせる。

 

 命懸けの一撃は重いものであるが、やはりその動きは冒険者などと比べれば拙いものである。しかし連携という面においては彼らもそれに劣らない。

 

 

「今だ!」

 

 

 苦悶の表情を浮かべるサーベル・ウルフが右足を振り上げようとする前に男が掛け声を上げる。

 

 するとすぐに側面から弓矢が放たれる。風を切る音と共にそれは獣の胴を貫き、そして次に放たれた矢はあっさりと頭を射抜いていた。森妖精(エルフ)には弓の名手が多いとされるが、隣に立つ青年の正確さは目を見張るものがあった。

 

 急所を射抜かれたサーベル・ウルフはそのまま、重力に屈したようにドスンと地面に身体を叩きつける。ピクリとも動かなくなったそれを見て、張り詰めていた息も漏れ出したようだ。

 

 

「ふぅ……。何とかなるものだね。って、その手……大丈夫?」

 

 見れば男の下の地面に血が滴り落ちている。

 

「あぁ、このくらいなら問題ないさ」

 

 青年の心配する声を受けた男は、斧を持った右手から流れる血を左手で抑えながら答えた。ポーションといった高い物は無いので、千切った布を器用に巻き付けているようだ。

 

「流石に嵩張るから帰りに回収しよう。何にせよ良い収穫になったな」

 

「手伝うよ」

 

 危険と隣り合わせ。助けとなるものは少ない。しかしそれが彼らの日常だ。二人は手早くサーベル・ウルフの体を道の脇に引きずり動かすと、そのままの足で歩き始める。厳密に言うと一人は冴えない表情で数瞬の間固まっていた。それを見て男は諭すように笑う。

 

「俺たちは目の前のことを全力でやるだけだ。さぁ、止まってないで行くぞ?」

 

 そう言うと、青年もまた森妖精(エルフ)の王都──三日月湖近辺にあるその場所とは逆の方向へとその足を進めていった。

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

(はあ……全く何事だ)

 

 もはや不機嫌さを隠すつもりもなく、歩き慣れた自身の居城内を闊歩する。

 

 右手には高級なワイングラスと注がれた琥珀色の葡萄酒。それに口を付けて飲むが、やはり寝起きということもあっていつもより不味い。

 口を拭い、後ろを歩く女にグラスを付き返すと、女は慌て顔でそれを受け取り、赤を基調とする荘厳な部屋を後にしていった。

 

「ふぅ」

 

 そのまま城の最上階、その奥──元々寝室が近い位置にあるのでそれほどの移動距離を必要としないその場へと歩を進める。黄金の刺繍が施された皺ひとつない絨毯を踏みしめた先の壇上にあるのは玉座。

 

 自身に最も相応しい椅子。

 それを一瞥してから、気まぐれにその真横に備え付けられている磨き上げられた巨大な窓の前に移動する。

 

 そこからは森妖精(エルフ)の王国、その輝かしき王都の姿が一望できる。専用のバルコニーほどではないが、最上階から映る景色は美しいものだった。

 

 しかし──

 

 

「つまらん」

 

 

 彼は蔑むような眼で下界を見下ろしていた。

 蠢くのは力を持たぬ弱者の群れ。それはあまりに理想には程遠い。

 

 そう、彼は強すぎたのだ。その強さのあまり、いつしか逆らう者が居なくなるほどに。

 

(……)

 

 他の者とは違う白く伸びる長い髪の上には豪華な髪飾りを、その両の瞳には別々の色彩を放つオッドアイ──森妖精(エルフ)の王の証を持ち、その全身を白き鎧で覆う──。

 

 そんな彼こそが森妖精(エルフ)の王。権力のみならず超常的な血の力を持つ彼はまごうことなきこの国の絶対者であり、この国に存在するあらゆる物が彼の所有物だ。しかしそんなものは彼を満足させるに至らない。

 

 

 彼──エルフ王の抱く夢、それは──

 

 

(私の子が……軍隊が世界を席巻する。私の血であれば可能であるはずだ。それなのに、何故これほどまでにゴミばかりなのか)

 

 世界征服の野望。それは未だ叶っていない。生まれてくる強者は皆無であり、その兆しは未だ見えていなかった。……その原因は──答えは既に出ている。

 

 父親が自分なのだから問題は母親、つまり身籠る方にあるのだ。

 

 一時森妖精(エルフ)の女では駄目なのかと人間にも手を出したことがあったが結果は同じだった。あまりに彼らは弱すぎて、生まれてくる子は森妖精(エルフ)であれ半森妖精(ハーフ・エルフ)であれ、自身の強さの半分にも満たぬ者ばかりであった。

 

 エルフ王は窓を叩き割りたくなる。下を歩く弱者にも、そんな者しか生まぬ後ろの女共にも腹が立ってくる。しかし窓を壊すことはしない。窓を壊せば修理も大変だし、部屋が散らかることになる。

 彼は優しい王なのだ。そんな無駄なことに彼らの時間を割かせはしない。

 

「さて、報告だったな。……早く話せ」

 

 エルフ王は大事な報告があるとの話を起床の後に知らされていた。緊迫した様子であったので早く出てきたものだが、どうせ大したことではないだろうと今も考えている。

 

 そのためエルフ王は窓辺から離れることなく、跪く弱者に目を向ける。

 

 老人の森妖精(エルフ)が後ろに数人。その前には三名の女エルフが並んでいる。左から髪色が金、黄緑、桃となっており、顔もそこそこ整っているが大して特別な能力も持たぬ者たちだ。

 

 強張った視線が合うと、真ん中の女が座礼をしてから報告を開始する。

 

「は、はい。スレイン法国の件なのですが、調査により先日パレードを執り行っていたことが判明致しました」

 

「ほう。そうか。……最近の不審な動きとやらはそれが原因だったか」

 

 法国。それはエルフ王が最も警戒する国である。法国は強者とまではいかないが、それなりの精鋭を多数抱えているらしく、軍事力もかなりの水準を誇っている。規模に関しても横の繋がりに関しても底の知れない──世界征服するにあたってかなり面倒となりそうな存在だった。

 

 そんな国の話が出てきたことにより心の中での重要度ランクが一つ上がる。

 

「それで?」

 

 情報としてそれが全てということはないだろう。そう思いエルフ王は続きを話すことを促す。すると隣の女が頭を下げ、真剣な表情の中語り始めた。

 

「そのパレードなのですが、どうやら"神"の降臨を祝うためのものだというのです」

 

 

 ピクリと、エルフ王の眉が上がる。

 

 

「神……だと?」

 

「は、はい。その者は恐ろしいほどの強さを持っており、竜王国に侵攻するビーストマンの大群を一撃で屠ったなどという話もあります」

 

「くだらん」

 

 女のばかげた話を聞き、エルフ王は自身の右手を丸めながら嗤う。

 確かにビーストマンなど千体来ようとエルフ王であれば楽に倒しきれるだろう。しかし、一撃で滅ぼすとなると話は別だ。神とやらが範囲攻撃魔法を使うことも考えられるが、少なくともそんな魔法は古代の書物にも載ってはいない。

 

「法国も気が狂ったか。まぁ、しかし神か。強いのは強いのかもしれんな。見た者の話はないのか?」

 

 エルフ王は自身と同様の強者の匂いを嗅ぎ、興奮気味に女に問いかける。

 

(もし女であれば──)

 

 そう。女であれば自身の子を孕むことができる。神と呼ばれるほどの強者と、自分との子供だ。今までの失敗作と比べればかなり期待できるだろう。

 尤もそうである可能性が低いのも明白だ。女はそもそも戦闘力の低い者が多い。軍隊の殆どが男で構成されることもそうだし、六大神や八欲王の言い伝えにも女神の話というのは少ない。そのため、エルフ王も期待半分で聞いている部分はある。

 

「……おい」

 

「は、はいっ」

 

 中々言葉を返さず、互いに目配せする女に苛つきの声を出す。何を考えているのか。そうエルフ王が不審に思っていると、目の前の女から信じられぬ言葉が飛び出したのだ。

 

 

「正確な情報は、ありませんが……聞くには女神であると」

 

「なんだとっ!」

 

 エルフ王は咄嗟に足を踏み出す。その際、女エルフ共がびくついたのは言うまでもない。エルフ王はそんなこと気にもせず、更に女エルフに近付く。

 

「本当に女なのか?」

 

 念入りに聞きただすが女エルフ共の言葉は変わらない。先の内容を反芻しながら、ぎこちなく頷く女エルフをただ見下ろす。エルフ王はここに来て初めて笑った。

 

「ははっ」

 

 思いがけない幸運。空から降ってきた女の存在にエルフ王は自分でも驚くほどの高揚感を覚える。長年の夢が叶うかもしれないという状況に、いつしかエルフ王は強く拳を握っていた。

 

「それは素晴らしい! ならば……そうだな。私自ら法国に向かうというのも悪くなさそうだ」

 

 それが手っ取り早い。圧倒的力を行使すれば拉致も可能だろう。そして国に持ち帰れば、我が子を産ませられる。

 

 エルフ王はそんな未来を妄想しながら外套を翻し、玉座の間を離れんと足を動かす。しかしそんな思考を跳ね除けるように言葉が発される。

 

「お、王よ! それは危険です!」

 

 叫んだのは女の後ろに侍っていた老エルフだった。冷や水を浴びせられたような気分となったエルフ王はこの官職の老人を斬り伏せようかと一考するが、血で汚れるのも嫌であり、また理由を聞くのも大事だろうと冷静な頭で歩を止める。

 

「何故だ? 法国とは現在も友好関係にあり、別に密入国する訳でもない。それに仮に敵対されようとも、奴らなど私にとって取るに足らんのだぞ」

 

「はい。確かに、我らが王は最強の存在であらせられます……。しかし法国内となると人の数は多いでしょう。それに敵対関係になくとも、今後の行為、それに及ぶ可能性を考えますと……エルフ王国にとって危険な判断になるのではないかと愚考致します」

 

 王のするであろうことを理解し、遠回しに批判する者達。その多くが王が敗北し、自分達森妖精(エルフ)が弱い立場に追いやられることを恐れているのだ。強者に守り続けてもらおうという何とも不愉快な者共である。

 

「私からもお願い申し上げます。神はその実力も未知数であり、法国に対しては今まで通り穏便に、慎重に対応して頂ければと……」

 

「はぁ」

 

 あまりの失望に口からため息が漏れ出る。

 もはや怒りさえも通り越し、エルフ王は呆れていた。

 

「分かった」

 

 一瞬喜色の面が浮かぶ。

 

「左様でございますか──」

 

 

 

 

 

 

「それなら、お前たちが神をここに連れて来るがいい」

 

 

 ……

 

 ……

 

 当然だとエルフ王は言い放つ。強者の女が現れたというのに黙って指を咥えているなど有り得ない。

 

 確かに神が同程度の実力者であれば──彼らの言う通り王と言えど危険はあるかもしれない。単身で向かい、それを捕え、法国の面々を退けてこの場まで戻ってくるのは至難の業だ。

 

 ではそれが危険だとするならどうすればいいか。……簡単だ。この者達が神を連れて来ればいい。(こちら側)であれば神の女などどうとでもなるのだから。

 

(弱者の有効活用か。これを機に覚醒でもしてくれればいいのだがな)

 

 エルフ王は(しもべ)が王国の役に立つことを願いながら、今後の策について思いを巡らせる。

 それは何と寛大で慈悲深い想いであろうか。……しかしそれに対して先程から眼前の森妖精(エルフ)達は信じられないと言わんばかりに口を開け、目を丸くするのみだ。

 理解力の低いこの者達には王の考えの少しも伝わってはいないようだ。

 

 

 エルフ王は冷酷に手を振り上げ、再び厳命する。

 

 

「二度言わせるな。神の女を連れてこい。これは王の命令だ」

 

 開いた手から魔力を迸らせる。凄まじい力が女の横を通り過ぎ、突風として旗を揺らす。このまま魔法を発動させれば彼らの命は容易く奪われるだろう。

 それは何もこの場だけ……ということではない。そして彼らもそれを良く理解しているようだった。

 

 エルフ王はようやく必死さを表情に浮かべた彼らを蔑むような瞳で眺めた後、上げた手を払うように腰の方へ戻す。

 

 

 静寂と化した玉座の間。そこを彼が後にするのは、それからすぐのことだった。

 

 

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