Moon Light   作:イカーナ

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33.アベリオン丘陵(1)

 

「んー。何か様子がおかしいですね……。軍の人達は大丈夫でしょうか?」

 

 アンデッドの群れが発見されて間もなくの頃、召喚した古の鷲獅子王(エンシェント・グリフォン・ロード)で空を飛び進んでいたツクヨミはようやく現れてきた砦柵(さいさく)や丈夫そうなテントを流し見しながら、その先にある一際大きな砦の方を指差し、同行者へとその口を開いていた。

 

 下にはここに来るにあたって辿ってきた草の刈り取られた黄土色の地面が今も続いており、横に伸びる小拠点を行き来する荷車も見受けられる。一見すると平時の軍の光景だ。しかしツクヨミがそれに違和感を感じたのは、砦の兵士たちに加え白い衣服に身を包む神官までもが一方向──門を通って国境外へと出て行っていたからだ。

 

 ここに来るまでに少しずつ高度を下げているので、更に西の方面にあるというアベリオン丘陵の様子まで完全に把握できるわけではない。ただ……武器防具を装備して集団が動くとなると恐らく敵襲からの掃討戦が予想されるので、ツクヨミも目の前の程度がどのくらいなのかを軍に最も詳しい存在に尋ねているという訳だ。

 

 大元帥は顎に手を当てると、遠くを見るように目を細めてから、ツクヨミに頭を下げてきた。

 

「申し訳ございません。私も目が悪い方ではないと思うのですが、ここからだと細かな様子が見えず少々判断が難しくあります。ただ、確かに神が仰られる通り軍の者達に平時らしからぬ動きは見られますので、近くの者を掴まえて話を聞きましょうか?」

 

 大元帥の提案はツクヨミからしても尤もだと思う内容であった。雑に動くよりは現地の人間に話を聞いてから動く方が遥かに間違いは少ないだろう。

 

(ここは国境ってこともあって普段からこんな感じなのかもしれないしな)

 

 ツクヨミは首に手を添えながらこれからの行動を思案する。

 スレイン法国にとって重要な防衛拠点である此処は、先も言ったがパレードに参加できなかった者がいたくらい忙しないと聞いている。それもあってツクヨミも敢えて準備に手間を取らせないよう、事前に連絡することなく現地まで足を運んだのだ。そのため、着いて早々戦っていても不思議という程ではないし、変な登場の仕方をしない方が今後の対応や予定も進めやすい。

 

 見れば、大元帥も口ではそうは言いつつも表情が緊迫しているとは言い難い。ある意味軍人としてこういう状況には慣れているのだろう。しかし──

 

「……」

 

 ツクヨミは一旦静止して主の次の指示を待っているであろう古の鷲獅子王(エンシェント・グリフォン・ロード)の背の上から、今も向いている門の方に意識を集中する。

 女性の神官──ふと目が行ったその存在がどことなく焦ったような動きで門を出て行く──。まるで竜王国での彼らを想起させるように。近くの、物資を投げ捨てて門を走り抜ける兵士も必死さを顔に張り付けていた。

 

(何を迷っているんだか……。この道を選んだのも、ある意味"そうする"為だったはず)

 

 この世界で命が失われるスピードは想像より遥かに速い。それは日常的なモノで、世界からしてみれば不変で些細な内容だろう。しかし、同じ人として──此処でただ突っ立ている訳にはいかない。

 ツクヨミは白髪の老人に向き直る。もはや決意は固まっていた。

 

「すみません大元帥様。やはり緊急のように見えるので、私だけで少し向こうの様子を見てきます。鷲獅子(グリフォン)……は指示が難しいかもなので、一旦一緒に降ろさせて頂きますね」

 

「しょ、少々お待ちを。神が向かわれるのであれば、私めもこのまま空の上をご一緒致します!」

 

「いえ、それには及びません。大元帥様を危険に晒したくはありませんし……それに、大元帥様には砦の方に事情を聴いたり、こちらの状況をお伝え頂ければと思っております。宜しいでしょうか?」

 

 ツクヨミは少しばかり強引に大元帥に提案する。それは立場上狡い行いかもしれない。しかし、ツクヨミが横から介入するとなると国境近辺で変なパニックを誘発することも考えられるので、大元帥に別所で行動を起こしてもらうのは安全面以外にも大きな利点があった。それに悠長にしている時間もあまりないのだ。

 

 大元帥は数瞬の迷いを瞳に見せるが、それでも答えを出すのにさほど時間は掛からなかった様子だ。こちらに向かって力強く頷く。

 

 

「神がそう仰られるのであればっ」

 

「……ありがとうございます」

 

 

 お互いの意思が定まると、ツクヨミはすかさず騎乗獣へ指示を飛ばした。それによって上空で大きく向きを変えた二人は直近のテント──今は無人であるので爆風で吹き飛ばされる者もいない──に降り立つと、鷹揚に言葉を交わしつつ一度別れることとなった。

 古の鷲獅子王(エンシェント・グリフォン・ロード)を大元帥に着いて行かせるかは迷うところだったが、法国の軍門も近く、万一暴れられても困るのでこの場で待機を命じる。

 

 予定が色々狂ってしまったが、いよいよ現地での行動開始である。

 

 

飛行(フライ)

 

 

 ツクヨミは細い息を吐いてから再度その魔法を掛け直すと、地面を蹴って素早く上空に昇る。白いローブが突然の風と共にはためく。

 ちなみに鷲獅子(グリフォン)を連れて向こう側に行かなかったのは小回りが利きにくく二度手間になる可能性があったことと、もし介入の必要性が無いほどの状況であった場合にそっと……そう、そっと戻ってくるためである。

 

 

 距離にして数百メートルほどであろうか。殆ど時間を掛けずに砦の上を突っ切り、国境沿いの櫓の真上付近まで来るとその戦場の全貌が明らかとなった。

 

 

骨の竜(スケリトル・ドラゴン)。……アンデッド?」

 

 

 丘陵というだけあってなだらかな地形だが、草が踏み鳴らされたのか所々地面の荒れたそこには軍の兵士数百に後ろで支援魔法を唱える神官数名。そして少数の骸骨の魔法使い(スケルトン・メイジ)と一対の骨の竜(スケリトル・ドラゴン)が立ちはだかっていた。

 

(召喚……ではなさそうか)

 

 警戒するように見渡してもそれ以外の存在がいるような気配はない。そも召喚主が悪意あるプレイヤー等であれば、わざわざあの程度の魔物を出すとは考えにくい。その裏を掻いたとまで言うなら、もうどうしようもないだろうが。

 

 しかし、まぁ骨の竜(スケリトル・ドラゴン)はレベルにして20と少し。それが二体同時に発生したと考えればそれは正しく不幸であり、現地の人間にとって情けも救いもない状況であろう。

 

 ツクヨミは腰に下がる剣──コンフラクトゥスを抜き放つと、上空から骨の竜(スケリトル・ドラゴン)の位置まで急速に移動した。

 

 人々を脅かす強大な敵。それを排除するために。

 

 

 

 ────

 

 

 

 僅かに黄色みを帯びる太陽が地面を照り付ける。当然ながらその太陽の日を浴びるツクヨミの神器(ゴッズ)装備も光り輝くように空を切っていた。月明りとはまた違う光は光輪の善神(アフラマズダー)の後光と混ざり合う。

 

 時期も相まって暑さは感じない。しかし、いざ見知らぬ法国の人間の前に立つとなると高まる緊張感もかなりのものだった。

 神としてどう振る舞い、目の前の対処をすべきか。本当はそんな大層な存在でもないツクヨミにこの場での正解など分からないが……今更そんなことは言っていられないので、せめてなるべく皆を驚かせない方向で救援を考える。急がないといけないのに神として重大な事故(インシデント)は起こせない。そんな無茶ぶりが胃に重く圧し掛かる。

 

 

「しかし、どうやって降りようかな……」

 

 

 おおよそ骨の竜(スケリトル・ドラゴン)の斜め上まで来たツクヨミ。高度は少し下げてはいるものの位置は未だ10mほどの上空であり、下で混戦が行われているために足の踏み場に困っていた。

 

(強引に前に降りる? いや、怪我させる可能性がある以上、いっそ横方向から倒してもいいかもしれない)

 

 幸い、彼らは向かい合うように陣地を取っている。横ならば容易に降りられるだろう。ただ、下ではアンデッドが猛攻の姿勢に移ろうとしており、既に戦場も一触即発という雰囲気を醸していた。そのため、着いたばかりとは言え悩んでいる暇も無かった。

 

(考えるより行動か)

 

 ツクヨミはぐっと剣を握ると、急いで側面に回るべく飛行(フライ)で宙に浮く体を急発進する。機転としては悪くなかっただろう。

 

 しかし、そんな時だった。

 

 

「「し、指揮官殿っ!!」」

 

 

 下方から、男たちの叫び声が響いた。ここからでも容易に聞こえるほどの声量で発せられたそれの発生源にツクヨミが慌てて目を向け直すと、その近くには骨の竜(スケリトル・ドラゴン)の眼に剣を突き立てる軍帽を被った男の姿があった。

 

(あれは)

 

 ツクヨミはあまり良くない状況に眉を顰める。

 というのも骨の竜(スケリトル・ドラゴン)はああ見えてちゃんと骸骨(スケルトン)系に分類されるため、弱点に見える眼球などでも刺突には大きな耐性を持っている。そのため痛覚も無く、複眼であるあれには殆どあの攻撃は通じていないだろう。

 それどころか、手痛いカウンターを受ける可能性が高い。

 

 にも関わらずツクヨミが迎撃に向かわないのは男が骨の竜(スケリトル・ドラゴン)に持ち上げられ、空中で振り回され始めたからだ。

 

「っ。んん……先に彼を助けるか」

 

 後手にはなるが、巻き添えで殴ってしまうよりはその方が随分とましである。ツクヨミは手元の剣を一度収めるとその後はどうすればいいか、等と頭を回しながら急旋回。そのまま降下する。

 

 

 そうしていると間もなく男が宙に放り出される。

 

 ツクヨミは空中で手を伸ばし──若い茶髪髪の男に近付いて行った。

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 

「…………え?」

 

 そんな素っ頓狂な声をつい先ほど軍帽を落とした男──コスタート・クフル・ツィアートは漏らしていた。

 

(何が起こった?)

 

 頭に浮かんだのはそれだ。

 荒地踏みしだく戦場。つい先程骨の竜(スケリトル・ドラゴン)に吹き飛ばされたコスタートは、何故か上を向く部下の兵士達を見下ろしつつ、高高度からの着地に備え受け身の体勢を取っていたのだが、体を地面に打ち付けるよりずっと早く空中で()()()()()()

 

 その衝撃とは軍服を勢いよく掴まれたものだ。一瞬だけ見えた閃光の如き白き存在は、コスタートに近付くなりその背を片手で掴むと、大の男の体を苦にもしないように回転させながら空中で抱えたのだった。それはきっと見事なものだっただろう。しかし、当の本人であるコスタートからすればそれは予想だにしない出来事であり、咄嗟に目を瞑ってしまったので、そこでどんな出来事が繰り広げられたのかは分からなかった。

 

 そのため、今見ているのが未だ中空に抱えられたコスタートの最初に見る、"変容した戦場"の光景だった。

 

 

(だ、誰だ? この(ひと)……)

 

 

 静止していた状態から右を向くと、そこには自身を両手に抱える女性が佇んでいた。

 

 髪の毛はこの辺りでは珍しく白い。瞳は紫。控えめに言って滅茶苦茶美人だ。しかし、そんなことがどうでも良くなるくらいの情報がそこにはあった。

 

 清楚──いや高貴ささえ感じさせる白のローブ。肌の面積が少ないながらも、薄地で非常にスマートなそれが、女性の身を包むように下に流れている。そして頭には黄金の頭飾りがこれまた五月蠅さを感じさせない絶妙な程度で飾られており、その背面には神々しき光輪が浮かんでいた。

 

 それにここまで近くであれば、女性の手に嵌まる巧緻極まる指輪の数々さえ目に入る。

 

(……)

 

 コスタートも最初は召喚された天使様か何かに助けられたのだと思っていた。ここには神官だって駆け付けたし──まぁ、これほど神々しい高位の天使を召喚できるほどの優れた術者などいないだろうが──それが合理的な判断からの結論だと疑いはしなかった。

 

 しかし今はどうか。あまりに情報が……そう、部下から聞いた神の容姿の情報に合致しすぎている目の前の存在。それを眺めていると、どうしてもあり得ないはずの想像が頭に浮かんでしまう──

 

 コスタートは恐る恐る口を開こうとし、そして――

 

 

「大丈夫ですか?」

 

 

 声を掛けられた。鳥の囀りのように美しい若い女性の声だった。

 

 心配するようにこちらに目を向ける姿は正しく女神だ。しかしコスタートが感じていたのは憧憬を通り越してもはや畏怖の念であった。もしこれが現実で、本当にこの方がそうなのだとすれば、自分はどう動くのが最善なのか。

 

 情けないが口はピクリともせず、辛うじてコスタートは頭を縦に振る。不敬かもしれないがそれが精一杯だった。

 女性はそんなコスタートに少し複雑な表情で笑いかけた後、下方を向いた。

 

「突然の介入で申し訳ございません。しかし、あまり時間もないので一旦降りますよ」

 

 力強い声に引きずられるようにコスタートも下を向く。気付かなかったが、地面に並ぶ兵士達もこちらを見上げながら、その手に握っていただろう剣を呆然と落としていた。まぁ客観的にこんな光景を見ていたとしたらそれも至極当然のことだろう。

 

 

 彼らは──いや自分たちは今──こんなに近くで偉大なる神の姿を目撃しているかもしれないのだから。いや、それを言い出せば()()()の者もいたりするかもしれない。

 

 

 ぞっとするような想像を振り払っていると、魔法による降下の速度は思ったより早かったようで、女性と抱えられっぱなしのコスタートはすぐに地に着地することとなった。

 地面の禿げたその周りは当たり前だが兵士達が二人を避けるように後退したために人がいない。

 コスタートもすぐに女性から離れるよう、その両手から降りる。自分と同じように困惑する仲間を見たからか少しだけ落ち着きを取り戻していた。

 

(ふぅ……私よ落ち着け。彼女がまだ神と決まった訳でもない。そう、神がこんな所に来るはずがないんだし、別人の可能性も……)

 

 コスタートは煩い心臓を抑えつつ、地面に落ちた帽子を屈んでから拾い上げた後に、素早く向き直る。幸い女性は既にアンデッドの方を真剣な表情で見上げながら立っていたので、顔を向けたまま対話するようなことはなかった。

 

(御名前を聞いてみる……? いやそれより)

 

 ひとまずは骨の竜(スケリトル・ドラゴン)の対処が先だろう。

 

(だが、武器がない)

 

 コスタートはその事実に眉を顰めた。感覚的に腰に伸ばした手、そこに己の武器はない。研ぎ澄まされた銀の剣は未だドラゴンの瞳に刺さったままなのだ。これでは戦いようがない。

 

 コスタートは歯切れ悪く、目の前の神々しすぎる光輪に向けて声をかける。

 

「その……すみません。助けていただき、私もすぐに対処を再開したいのですが、いかんせん武器が無く。奴は強敵なので一度撤退を提案します」

 

 この場の指揮官としてコスタートは女性に提言する。一旦は守るべき対象として考慮した結果だった。

 しかし──

 

「分かりました。そういうことであれば皆様は安全のため少し下がって頂けますか? 後は私の方で何とかします」

 

「お、お待ちを! それだと貴方――様が危険かもしれません!骨の竜(スケリトル・ドラゴン)は戦場でも稀に見る強力なアンデッドなのです。それを一人で複数、他も含めて相手取るなど」

 

 『あり得ない』と、一切危険を顧みない女性にコスタートは慌てて声を返す。

 

 情報の足りない今、急時として当然の忠告だっただろう。

 ただ……それは不敬で愚かな問いであったのだと、コスタートはすぐに分からせられることとなる。

 

「私はツクヨミ。法国の神である者です。この程度の相手であれば何の問題もありません」

 

 女性はそう答えながら、精巧でありながら装飾の一切無い剣を抜く。そして──

 

 

 眼前に骨の竜(スケリトル・ドラゴン)の腕が振り下ろされた。

 

 

(っ!!!)

 

 一種の混乱状態の中、コスタートはその身を守らねばと反射的に手を伸ばしていた。しかしすぐに鈍器で強化ガラスでも殴ったような音が辺りに響く。

 その強靭であるはずの攻撃が、女性に一切通用することなく瞬く間に無効化されたのだ。

 

 コスタートは目をぱちくりとさせながらもようやく現状を理解してきた。

 

(? まさか本当に……? 本当に我らが神なのか?)

 

 目の前では既に目にも留まらぬ斬撃を受けたらしい骨の竜(スケリトル・ドラゴン)の一体が細切れになっていた。はっきり言って夢だと思いたいが、頬に触れる灰が煩わしさを感じさせるように、これが現実であることを教えてくる。

 

 

 何にせよ状況はもはや大きく変わっていた。

 

 

(このまま突っ立ったままはヤバい)

 

 

 数瞬固まっていたコスタートは先程の女性──いや、神の厳命を思い出すと、指揮官として震える口を動かす。この遅れは法国の民として大きな失態である。

 

「皆! 下がれっ! 神だ……。神であられるツクヨミ様がご降臨された! 戦いの御邪魔をしないよう一度下がるぞ。剣は後にしろ!」

「は……。はっ!!」

 

 コスタートは率先して周りを下がらせる。勿論、神の身の心配が無い訳ではないので自分は最後だ。

 だが悲しきかな。誰もがそんな時素早く動ける訳ではなかった。

 

「おい、そこの! 早く退け。今もアンデッドの攻撃は来ているんだぞ!」

 

「あ……」

 

 退き遅れた兵士の一人。鉄製の剣を地面から拾い上げていた若い金髪の男がアンデッドの方に身構えていた。

 そう、敵は骨の竜(スケリトル・ドラゴン)だけではない。その後方には未だ骸骨の魔法使い(スケルトン・メイジ)が点々と生き残っている。その一体がこちらに魔法の光弾を放ってきていたのだ。

 

 

 ──第一位階魔法、魔法の矢(マジック・アロー)の攻撃である。

 

 

(まずい。致命傷に程遠いとはいえ、これは流石に間に合わない……)

 

 

 諦め気味に目を細めたその時──目の前におわす神、ツクヨミが横向きに呪文のようなものを唱え始めたのが見えた。

 

 

特殊技能(スキル):回転する神聖の盾(トワリング・セイント・プロテクター)

 

「は?」

 

 するとすぐにツクヨミが伸ばした左腕の先に向かって高速回転する光の盾のようなものが飛んでいった。

 兵士を対象に発動したらしいそれは、飛んで来た魔法の矢(マジック・アロー)を意にも介さず受け止め弾く。まるで神世と現世を阻む壁のようであった。

 

 もう一度、骸骨の魔法使い(スケルトン・メイジ)が魔法を発動しようとする。今度はツクヨミに向かってだ。しかし、何故かそちらに突風が吹くと、その周辺にいた全ての骸骨の頭部は滅茶苦茶にはじけ飛んでいた。訳が分からない。

 

「すみません。あまり時間を掛けても厄介なので、もう一気に倒しちゃいますね」

 

「っ!? そ、それはどういう……」

 

 突然神に振り向かれ、どぎまぎするコスタート。言っていることもよく理解できず、不敬にも聞き返してしまう。ぺたりと尻餅をついていた横の兵士も意味不明という面持ちだった。

 

 そう、この時コスタート達は──神と呼ばれる存在の本当の力をほんの少しも理解していなかったのだ。

 

 

 

 

「──三重の刃(トリプレッド・ブレイド)

 

 

 

 

 

 神がそれを発すると、()()()()()。いや、通り抜けたといってもいいかもしれない。

 

 目にも見えないその鋭すぎる三つの衝撃は空気を切り裂くような音を鳴らすと、瞬く間に骨の竜(スケリトル・ドラゴン)含む近くにいた全てのアンデッド達の体を断絶し、骨すら残さず纏めて灰にしていた。

 

 そうして辺りは戦闘の痕跡も感じさせないほどの静寂に包まれる。本当にそれは呆気ない出来事だった。

 

(これ、夢。じゃないんだよな……)

 

 コスタートはもう一度それを確かめるべく頬っぺたをつねるが、痛みはある。理解し難いがこれは現実のようだ。コスタートはもう一度草が踏み荒らされた大地を見やった。そこにあるのは変わらず汚らしい自分たちの戦場だ。

 

(こんなところに神が来るわけがない。当たり前だ。……でも、神は──)

 

 事実助けに来てくれた。

 

 それを理解した時、コスタートの内に畏敬、優越、幸福、様々な感情が巻き起こった。しかし、今はそんなものどうでも良くなるくらいの光景が目の前に広がっていた。

 

 コスタートは前を向き、それを脳裏に焼き付ける。

 

 そこにあったのは、太陽に照らされた神が光輪を携えて戦場で振り向く姿。将来これは間違いなく吟遊詩人が語り、絵画になるだろう。そう確信するほどに美しく、高貴な情景であった。

 

 

「神よ。ただ、ひたすらに感謝致します」

 

「……」

 

 

 だから──コスタート含め、見守っていた全ての兵士たちがツクヨミに土下座の姿勢を取ったのは、ある意味自然な流れだったと言えよう。

 

 後ろから、急ぐような足音も近づいて来ていた。

 




おまけ的にスキルの情報を載せておきます。

……

回転する神聖の盾(トワリング・セイント・プロテクター)
→神聖剣士(ホーリーフェンサー)のスキル。文字通り魔法の盾を飛ばす。飛び魔法に強いが、射程はそれほど長くなく、大きな動きに対応しないので攻めに使い辛い。それと剣士は左手が空くので極めようとするとプレイングの要求値が高い。


三重の刃(トリプレッド・ブレイド)
→剣士全般の上位スキル。威力が高く、割と主力的な技。連発は出来ない。
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