Moon Light   作:イカーナ

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いつも誤字報告ありがとうございます。今回は何とか一か月以内に投稿できましたorz

前回のあらすじ:周辺国家は一旦平和になったので、開幕デケムをボコして、法国→トブの大森林へ


49.トブへの再訪(1)

 

 上位転移(グレーター・テレポーテーション)。それは第七位階に位置する魔法であり、名前の通り転移魔法としては転移(テレポーテーション)の上位の魔法にあたる。

 その効果としては、長距離・より多くの複数ターゲットでの転移を可能とし、転移失敗も無いというもの。まさに"高性能"としか言えない内容だ。

 

 そんな現地世界からすれば涎さえ出てしまうだろう魔法を今回発動させることができたのは、ツクヨミが神都の宿屋にてそれが込められた巻物(スクロール)をフールーダ経由で使わせたからである。

 

 室内で巻物(スクロール)が炎に燃えるように掻き消えると、景色も一瞬で切り替わっていた。

 

 

「……着いた、ようですかね」

 

「はい。見たところそのようですな」

 

 

 想定外が起きていないことを確認する。

 ただし、あくまでここは現実世界。ゲームと全く同じとはいかなかった部分もあり──

 

 発動に際してカギとなったのは意外にも記憶だった。

 

 というのも、魔力系魔法・精神系魔法・信仰系魔法の三つの系統を修める帝国の大魔術師たるフールーダ曰く『転移魔法の発動には転移先のイメージを頭の中に持っておく』必要があるらしく、例えば転移先を全くイメージできない──つまり術者の記憶にない場所などには転移することができないらしい。まぁ一応屋外での例外というのもあるにはあるらしいのだが、基本的にはそういった制約があるとのことで──今回はある程度場所も選びたかったこともあり──フールーダには事前に遠隔視のできるアイテムも併用して動いてもらった。

 

 結果としては今、ツクヨミ達の前にはトブの大森林・南の入り口らしき大穴と、その前に立った廃れた看板、加えて足元から別方向に延々と伸びる黄土色の整頓された道が広がっていた。

 

「ここまで綺麗に飛べるものなのですね……。神官の長としても勉強になります」

 

「うわ! 森だっ!! ツクちゃん早く行こ、早く行こ!!」

 

「それで神よ。他にはぁどんな魔法を使えばよいでしょうか、ぐふふへ。魔法の深淵とは斯くも素晴らしいぃ」

 

「皆さん、ちょっと落ち着いてください」

 

 浮足立つ周りを諭しながら、ツクヨミは一時的に転移門の鏡(ミラー・オブ・ゲート)の大鏡をアイテムボックスにしまうと、羽織っていた灰色のローブも一緒に脱ぎ、周りを警戒しながら少しずつ足を進めていく。皆衣装を整える。

 

 

 

 改めてツクヨミ、水の神官長、番外席次、それに加えフールーダと帝国の者が二名──

 それらの者達がトブの森の中に足を踏み入れる。そこには吹き抜けるような涼しい風と、舞い散る深緑色の木の葉だけが漂っていた。

 

 

 時期にすればもう春の中頃か……春の終わり頃といったところである。

 前に一度だけ来たときは厳しい冬の時期であったこともあって、それに比べれば今は随分と生命力の溢れた森に見えた。

 

「北西にちょっと進めば、恐らく王国の小都市であるリエンタルに着くことでしょう。ただ、今回私が向かっているのは北東。距離はそれほど無いはずですが、そこに小さなコテージが立っているはずです」

 

「なるほど。つまりツクヨミ様が今回会いに来られたという御友人も、そちらにおられるということでしょうか」

 

「恐らくはそうだと思います。前に一度だけ会話した時はそこを拠点にしていると言っていたので」

 

「おぉー。何だか隠れ家みたいで土塵を思い出すね」

 

「番外席次よ、あまり他国の方もいる場でそういった発言は控えてもらえますか」

 

「はーい」

 

 一行は語らいながら進んでいく。完全にピクニック気分でしかない雰囲気だが、一応神器級(ゴッズ)装備を着込んだツクヨミはすぐに腰から剣を取り出せるように構えており、フールーダの横にくっ付いている魔法使いの高弟達も先ほどは取り出していなかった杖を警戒するように握りしめている。まぁそれが普通なのである。

 

 トブの大森林。

 

 それは未だに多くが未開の土地であり、数多くのモンスターが生息しているという。

 また、モンスターとひとえに言っても平原に出るような雑多で小型なそれとは訳が違う。言うなればここで敵となるのは農村に住まう成人の男性が背伸びしても敵わない猛獣──それを一回りも二回りも大きくしたような存在であり、装備を揃えた冒険者さえ手を焼くようなものばかりなのである。

 

 だが、それもあくまで"一般的な話"であるのはまた事実。

 

「あ、ワンちゃんだ」

 

「ほぅ、悪霊犬(バーゲスト)。珍しいですな」

 

 アリシアが発見したのは中型の獣だった。とはいえ只の獣ではない。二本の角を持ち、体に幻影のごとき鎖を巻き付ける魔獣である。

 大きさから察するに悪霊犬の長(バーゲスト・リーダー)ではない個体だが……それがなんとこちらを視認し、今まさに獰猛な唸り声をあげていた。

 ただし、襲い掛かってくる気配は微塵も感じられない──

 

 

 ……

 

 

 それでも人間の匂いに誘われたのだろう彼は草むらからこちらをじっと睨んでいたので、ツクヨミも何事かとそちらを見返す。すると彼は途端に毛を逆立たせ、『ぐ、ぐ、がぁ』と謎の喚き声を上げたのちに一目散森の奥へとに逃げて行った。

 

 

 まぁ、結論を言うと道中はそんなもんであった。

 

 

(さて……。元々距離は無かったしそろそろかな)

 

 

 30分ほど歩いた頃には前回歩いた時と同じような景色を見つけられていたので、一行もそれに沿って動くのみとなっていた。

 鬱蒼とした森の中に差す日の光は中々に神秘的な様相を醸し出しており、後ろでは完全に気の緩んだアリシアとフールーダが意外にも楽しそうに会話していた。

 

 

(思えばこういうのも少し懐かしいなぁ)

 

 

 ツクヨミは先頭で細かな草木を避けつつ、樹木に挟まれた広い道を進みながら笑みを浮かべる。

 

 改めて今回のこの遠出。これは完全にツクヨミの意思によるもので、大きな理由というか……国のための大義が特にある訳でもない。言ってみればただの短い休暇のようなものである。

 

(勿論、情勢的には油断ならない時期なんだろうけど)

 

 ただ間違いなく前回の宮廷舞踏会を経て人類はまとまり始めており──思ったより早く──ツクヨミの求めた平和な世には近づきつつある。ならばこういった日にこそ その功労者達には息を抜いてほしいと思うし、本来の目的であるハムスケにも会って、ついでとばかりに礼を言いたいところだ。

 

 そんなことを心の中で思っているとタイミングよく目的地が見え始めた。

 

「ん、もう着いたみたいですね」

 

「おぉ! あれが」

 

 ツクヨミは立ち止まり、木々の隙間から覗く遠方のグリーンシークレットハウスを目視する。水の神官長も近づいてきて、神官帽を整えながら興味ありげに遠くを見つめていた。場所に関して問題は無さそうだ。

 ただ、それでも一つだけ気になったことがある。それは森の中であるにも関わらず、その先の景色が随分と()()()見えたことだろう。

 

(んー?)

 

 ツクヨミが頭にハテナを浮かべたその時だ。

 

 

「止まっていただきやしょうか」

 

 

 こちらの気配を察知してやってきたのは小さな亜人。

 

 木陰から生えてきたゴブリンのリーダーと思わしき彼に、正面から呼び止められた。

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

「えっと」

 

 ツクヨミは困惑したように白い髪を揺らしながら、わたわたと左右を見たのち、目の前にやってきた背の低い屈強なゴブリンを見やる。知性は高そうだがレベルは低い。というより、実はその見た目には少し見覚えがあった。何故ならそれは……

 

(人違いじゃなければ──リエンタルでの迷子捜索だったか。その時に角笛で消滅しなかったゴブリンさん、で合ってるかな)

 

 それは真冬にここを訪れた際、北西にある王国の小都市"リエンタル"でイングレという男性の為に四苦八苦した時の話。ここ、トブの大森林に再訪するにあたって思い出せる懐かしい記憶である。

 ツクヨミがそんな昔のような昔じゃないような存在を前に真偽を確かめようとしていると、周りで困惑している面々より先に目の前のゴブリンが豆鉄砲でも食らったような顔で、ある意味──決定的な一言を呟いた。

 

 

 

 

「ま──まさか。姫……様?」

 

 

 

 

「ちょっと待って……」

 

 恐らくこれは彼らにとっても感動の再会だった訳だ。ただ、その呼び方は長らくこの地を離れていたツクヨミからしてもちょっと想定外だった。

 

(そういえばハムスケさんが前に私のことをそう呼んでたっけ……)

 

 であれば、それが彼らに"うつった"と考えるのが自然だろう。元々一緒に連れていけなかった彼らの引き取りをハムスケに依頼していたのだから。

 ツクヨミは改めて間違いがないように聞き直す。念のためというやつだ。

 

 

「失礼ですが私が半年ほど前に召喚させていただいたゴブリンさんですよね?」

 

「そうです、そうです! まさにその時の者です。──姫様、もう一度会える時を……ハムスケウォリアーの姉御と一緒に心よりお待ちしておりました!」

 

「姉御」

 

 

 色々と変わっている関係性に頭が痛くなりそうだったが、そんなことは今はどうでもいい。

 ツクヨミは快く道を開けてくれているゴブリンリーダーの横に立ち、開けた木々の先を見回してから、一番変わり果てているその景色の経緯を問うた。

 

「ここにある()の建物に関してはあの後──えーと、迷子を見つけて、私が帰って──それから皆様で作られた感じでしょうか」

 

「はい。姫様が遺されたあの家を中心に、周りの木々を切り倒し、その資材を使って住む場所を拡大させました」

 

「な、なるほど」

 

 ツクヨミは再度視界中央へと意識を戻す。そこには木々を切り取った円形の広い空間と、グリーンシークレットハウスを含む大中様々な──粗さが残る家々が建っていた。

 

 流石に門や凝った柵までは用意されていない。ただし、それでも牧舎のようなものや備蓄庫のようなもの、荒い壁などが散見されるので、贔屓目抜きにしてもかなり辺境の村っぽい仕上がりとなっていた。

 

 ツクヨミはそんな光景にただ驚くしかなかったが、そんな前事情はよく知らない一行はその間に少し近づいてきて、『田舎の村だねー』等と好き放題言っていた。

 

「姫様、そちらはご友人の方々ですかね? 正直やばい感じがびしびしと伝わってくるのですが……」

 

「そうですね。来る少し前に伝言(メッセージ)でちょろっと会話はしていたのですが、私が今お世話になっている方々です。今回私がこちらに突然押し掛けちゃったので、流れで御一緒いただきまして」

 

「そういうことでしたか。まぁ姫様のご友人であればもちろん大歓迎です」

 

 ゴブリンリーダーは物分かり良くそう言うと先を案内してくれたので、ツクヨミ達もそれに付いていった。

 そして当然と言わんばかりに他のゴブリン達もせっせと家々から現れる。どの者達も小柄でありながら屈強な体つきをしており、ツクヨミが前にゴブリンを見た時よりも随分と礼儀正しい様相だった。……いや、ただ単にビビっているだけかもしれないが。

 

 

「ときに神官長様。思えば少し歩きましたが御体は大丈夫でしたか? ……あと彼らの件ですが、見てもらってる通り大体あんな感じですし、私が前に召喚した者達ですので人に危害を加えることはないかと存じます」

 

 

「……素晴らしい」

 

 

「え?」

 

「流石はツクヨミ様、彼らを召喚され、既にここまで"事"を運ばれているとは……」

 

 元々神官長はスレイン法国の人間であり、人類至上主義者でもある。そのため、事前にある程度は話してはいるもののここに来たら改めてフォローが必要だろうと思い声をかけたのだが、どうやら心配無用だったらしい。

 ちなみにフールーダは未だに背後にべったりとくっ付いていており、アリシアは戦鎌(ウォーサイズ)を背負ったまま建物の方へと走っていっている。

 

(果たして私に御しきれるのか)

 

 そんな不安を今更感じつつあったツクヨミだが、そこで──地響きと共に奥から走ってくる影があった。

 

 

 

「姫ぇぇぇ!! お久しぶりでござるぅぅぅぅぅううう」

 

 

 

「ハ、ハムスケさん!」

 

 南の森の主たるハムスケウォリアー殿が現れたのである。

 

「相変わらず元気そうで良かったです。今回は突然の訪問ですみません」

 

「何を言っているでござるか! それがしこそツクヨミ殿が元気にやってそうで安心したでござるよっ」

 

 ふんす、と鼻息を鳴らしつつ、巨大な白い毛を靡かせるハムスケ。その可愛らしい見た目とは裏腹に巨体の威圧感は凄まじく、神官長もフールーダの高弟たちも、その姿を見るや感嘆の声と共に一歩後ずさりしていた。

 

「最近はそれがしも活動を再開し、ここらの縄張りを拡大してるでござるよ。前に姫が預けてくれた彼らも本当によくしてくれているでござるなぁ」

 

「それは本当に良かったです」

 

「そういえば、あれはもう見たでござるか?」

 

「あれ……?」

 

「ゴブリン達が頑張って姫の像を作っていたでござる」

 

 それを聞いてツクヨミが頭を抱えたのは言うまでもないだろう。水の神官長はというと、それを聞いた途端感心したような顔で頷き始める。

 

「まだですね。まぁそれを見るのは後にしておきましょう。……ときに皆様はお時間とかは問題なかった感じですかね」

 

「姫」

 

 そこでハムスケの顔が真剣なものへと変わり、ゴブリンリーダーがいそいそと鍋のようなものを持ってくる。

 ツクヨミも何事かと息を飲む。

 

「姫。……開幕言うかどうか悩んでいたでござるが、それがし──お腹が減ったでござる。一旦お昼にするでござるよっ!!」

 

 その場には『カンカンカン』と鍋を叩く音だけが鳴り響いていた。

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 午後2時頃。

 

 森に太陽の光が降り注ぐ中、その一区画では飯の時間が始まっていた。

 確かにお腹の減る時間帯であった。

 

「こう言っちゃあ何なのですが俺……いえ私──具材の調理の腕前には中々ぁ自信があるのです」

 

「へぇー、結構ちゃんとした調理器具に見えるけど、森でこんなの調達できるんだ?」

 

「まさか。これは姫様の拠点に遺されていた神器です。本もありました」

 

「……グリーンシークレットハウスめっちゃ便利だな」

 

 アリシアとゴブリンリーダーが椅子の周りで喋っているのを見て、横からツクヨミが突っ込んでいた。

 

 場所は入り口から変わって、少し右奥に進んだ区画。

 

 そこには木のテーブルと丸太を削って作られた丈夫な椅子が並んでおり、食堂のような形で食事をとることができるようになっていた。曰く、ゴブリン達が普段自分達で捕まえた獲物の肉を調理したり、それを切り分けて食べる時に使用しているとのこと。

 そんな場所に今座っているのはツクヨミとアリシア。その対面に水の神官長、フールーダはその隣で先ほど貸した巻物(スクロール)に頬ずりしており、その弟子二名は真面目な顔で師の体たらくに頭を下げていた。

 そして最後にハムスケは横で丸まっており、ゴブリン達が歩き回りながら食事の準備をしているところだ。

 

「とはいえ来て早々すみません。色々と準備させてしまって」

 

「お気になさらずです。ちょっと手間取ってますが、我々の日頃からの感謝の気持ちというのもありますからね」

 

 へへっと笑いながら、そう言って頭を下げるゴブリンリーダー。ただし、やはり材料などがそれほど潤沢にある訳でもないようだ。

 ツクヨミも一応彼らの元主人。困っていると分かれば手を差し伸べるのは当然の責務だ。──故に、立ち去ろうとするゴブリンを暫し引き留める。

 

「あの、少しだけお待ちを。……余ってるのでこれも食材として使ってください」

 

「ひ、姫様。これは?」

 

「昔手に入れた材料です。内訳は古の霜の竜(フロスト・エインシャント・ドラゴン)の霜降り肉とか、七界草とかそこら辺ですね」

 

 鍋いっぱいにそれらを投げ入れてから適当に説明していると、当然亜人の彼から待ったの声が掛かる。

 

「え? ちょちょちょちょ!? なんか聞く限りめっちゃ貴重な品じゃないですか!?」

 

「いえそんな。私は料理スキルがないので上手く調理できませんし、ここにいる皆様にも美味しい物を食べてもらいたいので遠慮せず使ってください。無限の水差し(ピッチャー・オブ・エンドレス・ウォーター)も渡しときますね。それから……その間にと言ってはあれですが、ちょっとこちらでも何か出来ないか準備しておきます」

 

「? ひ、姫様がそういうなら、分かりました。……一応包丁やら何やらはあの家のがありますから、それ使いますね」

 

 怒涛の勢いで主にそこまで言われれば流石に分かったという他なかったのだろう。ゴブリンリーダーが鍋を抱え急ぎ去っていく。残ったゴブリンについても、裾を捲り去っていったので、ツクヨミもふぅと息を吐いてから立ち上がる。

 

「そういえば皆様」

 

「ん、なぁに?」

 

「……唐突なんですがBBQ(バーベキュー)って知ってます?」

 

「ば、ばーべきゅー? ですか。神よ」

 

「ええ。私もそれほど詳しくはないのですが、屋外に置いた鉄板で食べ物を直接焼いて食べるらしいです」

 

 無論、過去ネットで得た知識である。とはいえツクヨミは──この過去の人類の発明をこの大自然で活用できないかとこの場に座った瞬間から画策していた。

 

「ちゃんとした料理はゴブリンさんに作ってもらっているので、茸程度でも軽く焼けないかなと。どうですかね、ハムスケさん」

 

「それがしは美味しく食べられれば何でもいいでござるよ!」

 

 とんでもない暴食魔である。

 とはいえ御許しが出たのでツクヨミはアイテムボックスから意気揚々と薪、装飾がクソ多い謎の台座、大きな鉄板、着火式火炎瓶を取り出すと机の横に設置してユグドラシルの具材を並べた。

 

 そうして慣れない感じで火を着火し、串に刺した茸を回し、間もなくして最高級の食材から芳しい匂いが立ち込め始め、それからおおよそ10分が経った頃。

 ゴブリン達もまた意気揚々と様々な料理を抱えて戻ってきたので、それらを机に並べて皆で食事を開始した。

 

 ちなみに味はというと、ツクヨミからすればあり得ないほど美味(おい)しかった。

 例えばだが、焼かれたぶ厚い肉を噛めば、ちゃんとした陶器の食器に気持ちの良いくらいの量の肉汁が滴り落ちたし、茹でられた野菜を噛めば、深みのある独特の芳香が口いっぱいに広がった。また、鍋も良い感じに煮えていて、銀製のスプーンで事前に分けていたのだが、これもまた混ざり合った食材の味が良い感じに調和し、ハーモニーというやつで脳をぶん殴ってきていた。

 

(神官長様は……)

 

 もはや馬鹿舌と化しているツクヨミは、そういえばと行儀よく視線を移す。

 

 そう。神官長レベルになると──質素あれという教義はあれど──舌も肥えきっているのではないか。そういった懸念が密かにあったのだ。

 だが、どうやらそれは杞憂であり、なんと彼は食べながら涙さえ流していた。

 

 

(なんで?)

 

 

 そんなこんなで楽しく過ごすこと数十分。もはや警戒心など吹き飛んでいる一行。

 まぁそれも当然という雰囲気さえあったのだが、なんとそれを邪魔するものがあった。

 

 ――森の中に、"枝を踏み折る足音"がこだましたのである。

 

 

「っ。皆様、人が来ます」

 

 

 唐突な人間の出現に警戒心が高まる。当然初めに気が付いたのはツクヨミであり、状況が状況だけに、ツクヨミはかなりの速度感でその場を立ち上がった。……だが、思ったよりあっさりと顔を出したそれは質素な服装をした村人と冒険者で――

 

 これが思いもよらぬ来客となった。

 

「あ、亜人……? そ、それに……人?」

 

 煙が立っていたからか、はたまた楽しそうな声が聞こえたか。

 偶然にもここに通りかかったという彼らは近場の開拓村を点々としている村人とその護衛であり、今日も森に食べられる木の実と薬草を取りに出てきていたという。元々ここは王国の農村からめちゃくちゃ遠い位置という訳ではなく、森の浅瀬に村の開拓者が出ていることは不思議なことではなかったようだ。無論トブの大森林に人が入ること自体が珍しいと言えばそうなのだが。

……

 

 暫く会話していると彼らも王国に暮らす善良な人々であることが分かったので、かくかくしかじかツクヨミも事情を説明し、その際に鉄の冒険者プレートを身に着けた男の腹が鳴ったりで、結果として食事を一緒に取る運びとなった。

 

 

 そうして食事が終わるまでの一時、今は森を探索しつつ東の方に向かっているというトーマス・カルネを名乗るその現地の村人とツクヨミと、ハムスケ。

 

 

 法国・帝国といった様々な国の人間が一つのテーブルで談笑していた。

 

 




平和路線の本作ですが、それでも驚くほど平和な今話でした(久しぶり)

思ったより長くなった(n回目)で分割しちゃったので、次話は今週か来週あたりには投下する予定です。もうすぐ映画もあるので、話もそれまでにある程度進めたいと考えております。
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