もう年末だなぁとしみじみ思いながら投下いたします。
「陛下、御前失礼いたします」
「よい、報告せよ」
「はっ!」
聖王国首都、ホバンス。陽が落ち、人々が寝静まり始める頃になっても、その王城からは
部屋に報告に入ってきたのは擦れた軍部の正装を着こなした──恐らく聖王であるリエンダルに拝謁するにあたって整えたのだろう──この国の参謀である中年の男だ。
参謀はリエンダルが一刻も惜しいという雰囲気を醸していることを察すると、すぐにその皺の刻まれた口を開く。それは現在の聖王国の現況を示すものだった。
「ズーラーノーンはアンデッドを召喚しつつ、聖王国の要塞線を破壊。それにより北部に構えていた兵と冒険者は撤退を余儀なくされました。また、続くようにズーラーノーンの構成員と思わしき者も北部から侵入してきており、高弟と共に西進を続けております」
「ふむ。聞いていた通りかなり思わしくない状況だ。それに……相手の個々の戦力も相当だったと聞いたが」
「はい。しかし、その前にまだあります。実は今回の首魁──つまりズーラーノーンの盟主と思わしきアンデッドが単独で迫ってきておりまして、既にカリンシャの城門の前では現場が激しい混乱状態に陥っております」
「なんだと……?」
異様に思い切りのいい──単独での迅速な侵攻。リエンダルも堪らず、机の上に伏した手を強く握りしめる。
「もうカリンシャとは有り得ないほど早いな」
丘陵に構えた長い要塞線。そこから城塞都市であるカリンシャまで、小都市ロイツさえ挟んだその距離を踏破するなら、早馬で見積もっても普通は3日くらいかかるものである。そうした常識的背景を考えると、事態が彼らの想定よりずっと早く進んでおり、ここでもあまり悠長にしていられないことを物語っている。
それに──
「単独……」
それこそがあまりに異常かつ不気味な響きで、リエンダル含めこの場の全員を得も言われぬ緊張感に叩き落した要因であった。
そう──言ってしまえば今回のテロ染みた攻撃に関しても──ズーラーノーンの盟主、そして幹部格である十二高弟全員が参加しているとはいえど、元々一国を相手取る頭数としてはあまりに少なすぎるというのが事実としてあった。
にも関わらず首魁一人で先攻となると、もはや『あり得ない』以外の言葉が出てくる方がおかしいレベルだ。
(分からない。が、奴らがただの無鉄砲集団でないとするなら転移の魔法、飛行の魔法……いや、あるいはもっと別の何かでもあるのか)
リエンダルは軍略会議を行う時のように周りの面々──今は対面にカストディオと九色の老婆、同じく九色に属する兵士長が座っている──に目配せしたのち、参謀に問いかける。
「まぁいい。それで重要なのは次だ。……参謀よ。抑え込めそうなのか?」
「そうですね……。相手の実力がまだ未知数なので正確なことは言えませんが、数と土地の利により抑え込むこと自体は可能だと推測しています。しかし、明確な危険もございます」
「というと?」
「はい。実は攻め込んできた盟主に関しては現地からの報告がございます。それによれば……『かの者は悍ましい馬の化け物を召喚、近づく者に悍ましい精神異常を撒き散らしている』との話です。無論、カリンシャには我らが聖騎士団も配備してはおりますが、はっきり言ってそんな化け物を相手に戦力を散らして立ち回らざるを得ないのは、相当に難しい状況だと言えます」
「なるほど。いや、すまない。先の戦いと言い相手の持つ個の戦力を少々見誤っていたようだ」
これにはリエンダルのみならず、聡明な頭脳を持つこの国の神官団団長、キャリスタ・カストディオも頭を抱える様子であった。だが、今は一刻も争う事態。
人々の命運を預かる上層部として……早急に事態の対処のための決断を下さねばならない。
「とりあえず状況は把握した。まずは無駄な犠牲を出さないためにも、街にいる無辜の民を逃がせ。それから若い兵についても聖騎士や後援の神官団が来るまでは人々の救護と上位者の後援……いなければ時間稼ぎを優先させよ。また、有志である王国の冒険者については、自身の命と祖国を最優先するようにともな。──私も後に出る」
「承知いたしました」
リエンダルが慣れたように指示を飛ばすと、参謀は恭しく頭を下げたのち部屋を退出していく。
「カストディオ、お前も着いてきてもらう。神官団もだ」
綺麗に磨き上げられた腰掛けからさっと立ち上がり、扉へ向かう。
「承知いたしました。実は既に大聖殿も動かしてあります」
「陛下。俺はどうしますか?」
その時、カストディオに追従するように金髪頭の巨体漢が席から立ち上がった。それを見て、聖王は一度だけ頷く。
「兵士長か。お前はこれから我々より先にカリンシャの方へ走り、前線を支援・指揮せよ。それと、可能であればロイツの方も任せたい」
「ロイツですか?」
「あぁ。ズーラーノーンの幹部の方は盟主の後を遅れてきているようなので、纏めてそちらにいるようなのだ」
「了解しました」
「さて」
皆の準備が出来たことを視認し、リエンダルはふぅと口を開く。そして冷たい夜風へと身を投じるように、その部屋から城外に向かって歩みを進めた。
「では我々も行くぞ。全ては聖王国の、明日の光の為に──」
♦♦♦♦
空が白み始める頃のロイツ。カリンシャから東北東に、それなりの距離をあけて存在する小都市のことだ。
まず、ロイツの人口は二万人に満たないほどである。それは聖王国の首都であるホバンスや、軍事の栄えた都市──カリンシャに比べると控えめな数であり、普段はどちらかというと鳥達の声によって黎明の刻を迎えるような、長閑な土地という印象を持つ。
そんな一見すると平和な都市。だが、その反面というべきか此処は東に聳えるアベリオン丘陵には最も近く、聖王国として長年警戒されてきた居住区域の一つでもあった。そして……だからこそだろう。
その都市の入り口には規模に違わぬ立派な門が建設されており、東には強固な要塞線も建設中。更には兵士の数とて訓練中の新兵や傭兵を含めれば総人口の5%──つまり1000人弱──今の聖王国全体の比率でみても、それはかなり多い数であった。
そう、そういった背景もあってかロイツは平和だった。ここ100年の内に、一度も大規模な被害を受けたことがないほどに──
「敵襲! ……敵襲だっ!!」
だが、不幸なことに今回それが仇となった。
ズーラーノーンの襲撃である。
亜人のものではないそれは彼らにとっても"特異"としか言いようがなく、東の国境たる最前線でその攻撃を受けた兵士や冒険者は当然、疲弊した四肢を引き摺りながらロイツへと一目散に駆け込んだ。しかし同様に凄まじい勢いで攻め込んできたズーラーノーン十二高弟と不死の軍団……そしてその城門さえも軽々と飛び越えようとする不死の竜を前に、経験不足の都市の駐屯兵程度では為す術もない。
朝。死者を隣人とする狂気の集団は門に向かって
「ゆけ!
「ォォゥォォ……」
無秩序なる破壊者。
街往く人々はきっと、突如として道の中央に現れた彼らのことをそう思っただろう。
全長3mを持つ怪物から放たれる突進は強力無比であり、それを受けた民家は瞬く間に原形を破壊され、岩の瓦礫を周囲に撒き散らした。
元々、国から警戒命令と避難勧告が出ていたこともあり、無防備に外を出歩いていた人間こそ少なかった。けれど、聖王国のそういった体制がまだ完全に確立していなかったこともあって安全地帯へ避難できていなかった住人というのも少なくはなく、道端には瓦礫に圧し潰され、倒れ伏した重傷の住人が。路地の隙間には、広間方向へ逃がれようとしたところを後ろから攻撃され、血濡れとなった男性など、ここロイツには現在進行形で悪夢のような光景が広がりつつあった。
「何故私達の街を……」
「ぐっ、に、逃げろ!」
街中を蛇行しながら、あらゆる人々の営みを破壊し進み続けるズーラーノーン。その動きは取り留めもなく、市民を守る側である兵士も振り回される一方である。
それに当然のことだが、敵は
「わしらから逃げられるとでも? 崇高な計画の為の犠牲、せめて喜びながら死ぬべきじゃろうて」
ズーラーノーン十二高弟、それがなんと計4名。内訳は枯れ木の杖を持った老人と、青黒いローブを頭まで被った男二名──そこら中に精確な
これだけでも厄介極まりない上、更にズーラーノーンは侵攻するにつれ、辺りに舞い散る死の気を集めつつ、自分達の僕であるアンデッドの軍勢を魔法によって増やしていた。
最も強力なものでいえば
当然そうなれば、国の軍隊でも対処が容易でないのはあらゆる人々にとって自明のことであった。また、それこそが"彼らの狙い"でもあったのだろう。
「聖騎士団はまだなのか」
「我らが聖騎士団なら今カリンシャを奴らの魔の手から守っているはずだ。こちらにはまだ来られないだろう……」
「そんな……。しかし、それだとこいつらを止められないぞ」
「せ、折角白金級の方も来てくださったのに……くそ! この鬱陶しいアンデッド共がっ! う、ぐぁああ!!!」
今も必死に前線で声を張り上げていたのはこの国の兵士……およびこの地に退避してきた低位の冒険者たちだった。
彼らは
だが。
「グゥゥォ……」
「も、もう無理だ。こんなの烏合の衆でしかない! 俺たちは離脱させてもらうっ!」
そうしていると一つの冒険者チームが背を向け、集団に肩をぶつけながら逃げ始めた。
「お前達っ!」
だが、一体どうして彼らを責めることができようか。
確かに冒険者の言う通り──この場に集う者達の統制は皆無──時間が経つにつれ有利は不利へと傾いていっている。覚悟を持っていない人間にとってそれは絶望でしかなく、普段なら絶対に相手しないような格上と戦い続けるのはまさしく自殺行為だ。逃げるのも無理はない。
しかし、ズーラーノーンにとってそれはきっと大層愉快なものに映ったのだろう。
十二高弟達は逃げ惑う冒険者を口々に嘲り、あろうことか道端の遺体──聖王国の兵士のものだ──を踏みつけ、一歩進んだ。
「はははっ。この国の──いや、下賤な人間共の力など大したことはないな。そう、わしらズーラーノーンこそが、これからの世界を支配するのだ」
「全くその通り……おっとあれはなんだぁ?」
口元を大きく吊り上げながら、ローブ姿の男が街路の一角を指さす。そこにはまだ幼い男女二名が家の隅で涙を浮かべ立ち竦んでいた。そんな哀れな存在を前に、ズーラーノーン十二高弟の一人は容赦なく近づいていく。
「親は逃げたか。はっ! 来世では偉大な
「や、やめろっ」
男が魔法を発動すべく、中空に手を伸ばす。それを阻止すべく冒険者陣が動こうとするが、溢れる下級アンデッドと巨大な敵の一体がそうさせない。
少女の手を握りしめ、動き出す少年。だが男は弄ぶように──不必要に時間を掛け、得意の魔法を放つ。
「
「……! ぅぐぅぅぅうぅ」
少年の足に魔法が突き刺さり、その後少女が咽び泣く。しかしながら魔法の達人たる彼らを止めることが出来る者など──居ない。
「おっと。私としたことが外してしまった。次は当たると良いな」
「はは。お前さんも腕が鈍ったようだな」
戦場にも関わらず余裕をかますズーラーノーン。そうしてローブの男は更に近づいていき──
「終わりだ、ガキ共」
無慈悲にも確実に命を刈り取る魔法を選択する。それは
男の手が緑色に光る。
そして無慈悲に魔法が発動しようとし──
…………
……
「下等なビーストマン」
「……!?」
天より謎の声がした。
ズーラーノーン十二高弟達は予想外の方向からの声に失われかけていた警戒心をひどく高め、空を向く。だが、今の今まで余裕をかまし、たっぷりと時間を掛けていたのだ。
「下等なビーストマンよりも倫理観の劣った屑共に、皆の者!! 神の裁きを、与えよっ!!」
そう呟かれた次の瞬間だった。
「
「
「
数多の魔法による攻撃。神聖属性の光線や途轍もない威力の魔法が天より降り注いだ。
「ぬ、う、うぐあぁぁあああああ!!?」
それを直に浴びたズーラーノーン十二高弟の一人が身体をあらぬ方向に打ち曲げながら、吹き飛ぶ。そうしてその身体は街路に建つ店の壁に強く打ち付けられ、血を噴き出しながらひしゃまげた。防御魔法も間に合わなかったのか、それは誰の目から見ても分かるほどの即死であった。
「な、ば、馬鹿な!? それにお、お前たちは……」
アンデッドによる防護を固めていたとはいえ、恐らく肩から左腕までを今の攻撃で負傷したのだろう。枯れ木の杖を握りしめた老人は歯を食いしばりながら、それを問う。
空からいきなり降って下りてきた数十人の怪しげなローブ姿の人間を目前にしながら。
「我らは神の使徒。聖王国を蝕む害虫を、根こそぎ駆除しにきた者だ」
道の真ん中に立つ金髪男、マルセルはそう言った。
────
(ふぅ、間に合った……とは言い難いが、まだ終わってはいないか)
マルセルは道の真ん中に華麗に着地し、白のローブに付いた砂埃を払いながら目の前の敵に集中する。
街路にいる薄気味悪い老人、怯えるローブ男、怒りの表情を張り付けた老婆……ズーラーノーン十二高弟達である。
続いてマルセルがその前にかたかたと骨の音を立てながら歩み出てきた
「ははは! そうか、
「……だったらどうする?」
「ふん。別にどうもせん、が、"わしも"かつてはあの国に居た者。くだらない教理に縛られた身では真の救いなど得られぬと、そう悟ったものだったが──」
べらべらと得意げに喋る老人を前に、マルセルは構わず部下たちに攻撃命令を下そうと腕を中空まで振り上げる。が、老人は右手に持つ杖と左手の宝珠を突き出し、アンデッドの動きを一時制止させた。どうやらまだ話は終わっていないらしい。
「まぁ、待て。話はまだだ。そう、お前達、あの女の元に──きっと今は仕えているのだろう?」
「女?」
「白い髪の女だ。あの──化け物のな。あれをここに連れてこい、というのが我らが盟主様のもう一つの御指示。だからな。お主らがそれを聞くというのであれば、命くらいは助けてやろう」
「聞くと思うか? 大体貴様──」
目の前の外道はそうこう話しながらも息を整えようと杖を握り直し、あろうことか薬草の粉を口に含み始める。
マルセルはとうとう我慢ならなくなり、腕を振り上げる。その動きにもう躊躇はない。──いや、一秒でも早く奴の息の根を止めることを決心する。
「神にとっての不敬。万死に値するっ!!」
瞬間、陽光聖典から大量の魔法が再度発動する。それはもう一つの太陽がここに出現したかと思う程の物量だ。
そして、それは敵からしても予想外の規模──ズーラーノーン十二高弟達は再度その目を見開いた。だが、やはりそれだけで削り切れるほど軟な相手でもないようだ。
「
ズーラーノーンがそう叫ぶと、側面に控えていたアンデッドの集団がマルセル含め、後方の聖王国軍の命を刈り取るべく決死の攻撃を開始する。
この際恐ろしいのがアンデッドの性質だ。彼らは亜人たるビーストマンなどと違って個の戦力は小さいものの、恐怖を感じず、痛みを感じない。つまりどれだけ攻撃しても怯むことがない。
(だが……それがどうした)
ならばとマルセルは魔法を発動する。
「この街を守る兵士、冒険者諸君に告ぐ! 私の魔法に続くがいい!
それは陽光聖典班長たるマルセルが行使できる最高の位階、第三位階魔法の三重化。天才的魔法のセンスによるものだ。
「全てを燃やし尽くせっ!
「ゥゥゥゥォォ……!」
「ォォォ……」
それは第一位階の魔法など非にもならないほどの圧倒的火力。二発の強烈な火の弾が敵のアンデッド十数体へと向かい、炸裂。
これにより
とはいえだ。今の今まで蹂躙されてきた兵士達。そして冒険者──
それが偶然とはいえ、陽光聖典による"
「す、凄い魔法だ……! お、おい、私達もあの人らに続くぞ!」
「お、おぉぉぉおぉおおおお!!!!!」
「崇高たるアンデッドの素晴らしさを理解せぬ屑共が……」
しかし相手もまた天才中の天才──。
枯れ木の杖を持った老人もやられてばかりではないようだ。彼はすぐに右手の杖をその場に構え、マルセルに向かって魔法を発動してくる。
「
「
「甘いわ!
対してマルセルも対抗する魔法を唱え、応戦する。悔しいが魔法勝負は一進一退、寧ろ相手に軍配が上がるほどだったのは肌感で分かった。マルセルの腕に負のエネルギーによる強烈な痛みが迸る。しかも、更に厄介だったのは目の前の巨竜。
目の前に立ちふさがり、今なおその巨椀を振り上げようとする
(くそ、
「総員、天使を召喚せよ」
「はっ!」
それに
(この状況で可能か? いや、問題はない。全ては神の御加護……その下にある)
マルセルは天空に視線を一瞬やると、ふぅと息を整える。ここに来るにあたって本来であればもう少し時間を掛け、物資を運んでくるつもりだった。だが、事態が一刻を争うということもあり、マルセル達、陽光聖典第二班は光の神官長の指示のもと、
そのため、あまり時間は掛けられない。
一斉に攻撃し、立て直しの暇を与えることなく終わらせる必要がある。
「構えよ」
マルセルが一喝すると、
「行け、天使よ!!」
「天使様ぁあ!」
「俺らもまだまだ戦うぞー!」
更に作戦は功を奏す。いつの間にか後ろでアンデッドと戦っていた冒険者からも天使召喚による声援が上がり、自ずと士気が上がっていたのだ。
「ふん。この空気も、あの時を思い出し……存外悪くは、ない」
天使が突撃し、
「ぐ、ぎゃぁぁぁあああ!!?」
「皆の者、すまない! 随分と待たせたが、聖騎士キャドバリーも参った!」
なんとアンデッドが手薄となった後ろからは──陽光聖典の攻撃を待っていたと言わんばかりに──高位の聖騎士が二人やってきていた。これは実は聖王たるリエンダルが手配させた者達。何にせよ、背中を聖なる剣で刺し突かれた老婆は悶えながら絶命する。
そして、この一撃はあまりに致命的だった。ズーラーノーンはもはや完全に形勢を挫かれ、マルセル達に囲まれたのである。そんな中、まだ諦めていない老人だけが怒り狂ったように叫び出す。
「ふざけるな。このわしら、ズーラーノーン十二高弟たるわしらが……アンデッドの軍団を持つこのわしが負けるものか!
「面倒な。
「は、はい」
「
極めつけには聖騎士が全体魔法を発動し、人々に恐怖への耐性を付与した。もはや戦況は決した──
~~~~
「う、うぅぅう」
半刻。そう――あれからたったそれだけの時間で、街に巣食っていたあの巨万のアンデッドの脅威はもう跡形もなく消し飛ばされていた。残ったのは大量に宙に舞った骨の灰と、数体の
まだ首魁が生き残っていると言えど、此処ロイツでの激戦は、何とも呆気ない最後で幕を閉じようとしていた。
「終わったか。では、こいつを捕らえて……終わりだ」
陽光聖典班長、マルセルがそう呟く。その右腕は少々痙攣しており、こうはしているものの、相手の高弟同様かなりの体力と魔力を消耗した末の決着である。聖騎士もまたアンデッドの攻撃を幾度と防いだ盾を構えつつ、後ろから警戒した面持ちで近づいていった。
「わしが……負けるなど」
あり得ない。そう老人が息絶え絶えで呟いた、まさにその時。
……ぽつり。
「雨?」
空からは雨が降り始める。もっとも、突然のということもあり、それほど強い雨ではなかった。けれど、骨粉の舞うその戦場を滴り落ちるそれはまるで、人ひとり残らない陰鬱な戦場──もしくは巨大な墓場を想起させた。
途端に――全員の背中に冷や汗が走る。
「なんだ、この空気は」
「さ、寒い……」
気のせいだろうか。いや、きっと気のせい等ではない。
(なんだ。一体、
時間が経つにつれ強くなる悪寒。誰でも感じ取れるほどの悍ましく……膨大な死の気。
陽光聖典含めその場にいた聖騎士、兵士、冒険者、ズーラーノーン……その誰もが隣に伸びる街路、その先のT字路に向かってその視線をよこした。
そしてその先から現れたものを見て、一様に目を見開いたのだった。
「馬鹿な。なぜ奴がここにいるんだ。あれは、カリンシャにいるはずだろう」
その声は一体どちらの声だっただろうか。街路には儀式の紋様を描いた血濡れのスカーフを巻いた骨の怪物──