Moon Light   作:イカーナ

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59.竜王国の動乱

 

「撤退ー!!! 撤退だーっ!!!」

 

 スレイン法国にて各国への対応が取られている頃、一方では法国に()()()()()()()である竜王国というのも、此度の戦争における正念場というのを迎えていた。

 

 場所は竜王国王城。

 

 外周は500mを遥かに超え。張り巡らされた外壁の内側に聳え立つ伝統的な古城は、三角錐のように裾広がりの構造をしており、基本的には正面にある巨大な城門からのみ、敷地内に入ることができる。

 故にそこに立ち入ることの出来る者は国内の政務者および騎士などに限られ、一般人はおろか、国の兵士でさえも正式な手続きなしに入城することはできない。

 ましてや女王に謁見するとなれば、さらに人数を絞った立ち入りが求められる──まさに、国内屈指の厳粛な場である。

 

 しかし──

 こと、今日という日に限っては、その城内というのは酷く騒がしい様相を呈していた。

 

 鳴り響くは数十名にも及ぶ兵士達の叫び声と、先頭を駆ける騎士達がかき鳴らす鎧が擦れる金属音。仮に竜王国内にビーストマンが侵入してきたとしても、この荘厳な城内でここまで騒ぎ立てる無礼者などまず居ないだろう。

 

 それが何故こうなっているか。

 

 確かな疑問であるそれにもし答えるのなら、彼らはきっとこう返すだろう。

 

『もっと畏ろしい存在がこの国にやってきたからだ』

 

 と。

 

 ──

 

 ──

 

 

「はぁ……はぁ。ほんとなんなのよっ、あれは……」

 

 城内で絶望とも言えるような展開が起こってから、はや十五分といったところだろうか。

 命からがら、という様子で多くの人間が城から飛び出してくる。

 

 基本的には先ほどの通り、一人一人の戦力としてはそれほど高くない竜王国の兵士達が、最初に入り口に戻ってくるような形で王都城門、敷地内の石床を踏む形で姿を現す。

 

 そしてその後ろを着いてくる形で──無論余裕など一切ない必死な形相でだが──出てきたのが自分。

 

 この国の兵士でも、騎士でも、政務者でもない。

 "冒険者"という、本来であれば国の諍いに関わることの許されない役職。さらに言えば、竜王国内では"最高位の冒険者"という立ち位置にあるアンジェシカは、己の誇りでもあるオリハルコンで精製された胸元の冒険者プレートを震える左手で握りしめながら、後方を確認したのちに片膝を付く。

 

 

 率直な感想は『助かった』……だろうか。

 

 

 ただし、そんな感情もすぐに撤回する。

 辺りを見回して真っ先に目に入ったのは、ここが国内──それも都市の中であるにもかかわらず、深手を負ってしまった兵士の姿や、ひしゃげた紋章入りの大盾を地面に置き、頭を抱えている竜王国の騎士たちだった。

 

 元々、アンジェシカがここに呼ばれることになった理由は、単純にその魔法詠唱者(マジックキャスター)としての実力を期待されたためだ。だからこそ、その力を発揮できずに敗走してきたという事実は、アンジェシカにとって大きな責任を感じさせた。

 

 

「おい! 無事だったかアンジェシカ」

 

 

 

 アンジェシカが堪らず息を吐き、特徴的な赤髪を地面へ向けて垂らしていると、人波を掻き分けるようにして奥の方から声が掛かった。

 そこにいたは短い茶髪をした大男。二色颯(にしょくそう)唯一の仲間であるガレット・インマーシュだ。

 

「無事……ね。いや、否定するつもりはないのだけれど、この惨状を加味して発言するなら、どう表現するのが適切なのかしら……」

 

「──いやぁ、ほんとにね。そこのお嬢さんのいう通り、無事とはとても言えない状況だよねぇ」

 

 その時だ。

 

 隣から、同じように胸元にオリハルコンの冒険者プレートを掲げた冒険者たちが割って入ってくる。彼らは二色颯(にしょくそう)と並び、竜王国に二つしか存在しないオリハルコン級冒険者チームの一つ、砂漠の眼(デザートアイ)と呼ばれる者達であった。

 中央で今しがた口を開いたのが、そのチームリーダーである男だ。

 頭にはカウボーイ然とした帽子、茶髪の下には無精ひげ。老けた風貌と相まって、その顔からはお世辞にも最高位冒険者としての矜持や誇りなど感じられない。

 

 正直に言えば、アンジェシカはこの飄々とした男があまり好きではない。

 それでも──今、彼が自分たちに向かって話しかけているということだけは分かる。

 

「嫌味……ではなさそうね」

 

「無論だとも。これは自嘲なのさ。……正直に言えば俺たちだって、ここがこんなことになっているだなんて、完全な想定外だったからね」

 

 男はそう言いながら、後方の城を擦れた肩越しに見ていた。

 元々、砂漠の眼(デザートアイ)は四名編成のチームであり、二色颯(にしょくそう)ほど戦闘に特化したメンバーが揃っているわけではない。

 だがその代わり、鍵開けに特化した盗賊や、土の神を信仰する神官といった具合に、まるで七つ道具のようにそれぞれが役割を担う粒ぞろいの面々で構成されている。そのため後ろでは早速、神官の一人が負傷者を癒していた。

 

 チームリーダーの男はそれを視認しながら、人々の中心に寄っていく。既に現場はお通夜ムードだったが、これで終わることなど到底許されるはずもなく──。

 そのことをよく分かっているからこそ、彼は率先して前へと歩み出た。

 

 

「厳しい状況だけど時間もない。皆戻ってきたみたいだし、申し訳ないけど、今一度集まった情報を元に状況を整理しよう」

 

 

 五十名以上の人間の視線が、少しずつ男に集まっていく。最初はもう少し休ませてくれという恨めしい視線こそあったものの、男が裾から血を流し続けていることを視認してからは、そういった雰囲気も収まっていく。

 男は竜王国王城の頂上を血で塗れた手で指差しながら、ゆっくりと話し始めた。

 

「まずは先日の話から。先日……この竜王国王城に竜王──陛下と呼ぶべきかもしれないけど、七彩の竜王(ブライトネス・ドラゴンロード)が降り立った。記憶に新しい人もいるかもしれないし、実際に見てない人たちは今まで半信半疑だったかもしれない。でも、さっき城に入ったときに出現したモンスター。あれこそが陛下が召喚したモンスターとみて、まず間違いないと俺は考えている」

 

「あの化け物共がか?」

 

「俺たちを攻撃してきたぞ」

 

「となると、やはり国祖は我らの敵であらせられるのか?」

 

 次第に、皆の顔に絶望染みた色が浮かび始める。

 アンジェシカとて、部分的には同じ気持ちだった。

 アンジェシカもあの時、空より飛来した七彩の竜王(ブライトネス・ドラゴンロード)を運よく目撃できた者の一人だったが、その立場から言わせてもらっても──人間があれに敵うなどとは到底思えない。

 

 ましてや、いま城に"侵入"しようとしている自分たちの方こそ、真なる正義の行いを鑑みない愚か者なのではないか。

 ──そんな思いすら浮かびかける。だが、アンジェシカはすぐに首を大きく振った。

 

(いや、でもそれは違うわ。だって七彩の竜王(ブライトネス・ドラゴンロード)はあの時、"この世界の危機に際して帰ってきた"って確かに言ってた。けれど、法国に今おわすのはツクヨミ様で……あの御方を八欲王と同一の存在とみなすなんて、どう考えても間違ってる)

 

 アンジェシカは先日のビーストマンとの大戦で、ツクヨミという慈悲の塊のような人の背中を見て、戦って、大切なものを救われた。だからこそ、少数派ではあるが今も彼女のことをガレットと共に信じているのだ。

 

 絶望する面々を前に、それでも砂漠の眼(デザートアイ)のリーダーは力強く頷いた。

 

 

「ともかく。我らが女王陛下があの後、この城から出てきてないのは事実だって話だ。そういった背景があって俺たちも此処に呼ばれたわけで、今後竜王国が法国との戦争を回避するためには……不当にこの城を占拠してる偉大な国祖様を掻い潜って()()()()()女王陛下を救わないといけない。……違うかい?」

 

「……その通りです」

 

 答えたのはアンジェシカ含む冒険者チームに件の救援を要請した、フルヘルムを被った竜王国の騎士だった。

 その手は祈るように、胸の前で固く組まれている。

 

「まぁ、とは言え、ここまでがちがちに守られてるとは正直俺も思わなかったけどね。だってもはや城というよりダンジョンじゃない? 今も後ろからアンデッドが襲ってきたりするかもしれないよ?」

 

 唐突にやってきた笑えない冗談。当然反応する者は皆無だ。

 しかし男は面白いことを言えたとでも思ったのか、『あれ?』という表情をしながら辺りを見回している。

 

「まぁ、それは置いておいて。二色颯(にしょくそう)としても、砂漠の眼(デザートアイ)の言うことには一理あると思っています。このまま城を明け渡すのは危険すぎますし、女王陛下がただただ、心配です」

 

「それはそうだが……でも、あんな化け物ともう一度戦えっていうのか?」

 

「俺は悪いが御免だぞ……。正直もう一度生きて帰れる気がしない……。七彩の竜王(ブライトネス・ドラゴンロード)様に歯向かうこと自体、不味いんじゃないか」

 

「だったら、オリハルコン級であるお二方でどうにかできないだろうか?」

 

「おいおい、それは流石に酷いだろうよ」

 

 しかしやはり──みな頭では分かっていたとしても──もう一度死地に飛び込むということに強い抵抗感を覚えているようだった。

 特に、一介の兵士たちは最初こそ「無駄な戦争を止められるかもしれない」と意気揚々とやってきていたが、そのやる気は、今やすっかり消え失せている。

 その様子を見て、砂漠の眼(デザートアイ)の面々もまた腕を組み、重く唸っていた。

 ガレットも困ったように会話に加わる。

 

「どうする?」

 

「どうするって言っても、女王陛下には多大なる恩しか無いし、俺たちは行くしかないだろ?」

 

「そうだけど。でも、私たちだけじゃ──相当厳しいわよ?」

 

「……じゃあ、どうするんだ?」

 

 場は次第に混沌とした空気感に包まれていく。

 砂漠の眼(デザートアイ)とて普段はおちゃらけた雰囲気こそ見せるものの、その成り立ちは二色颯(にしょくそう)よりもずっと古く、過去には日々の食い扶持を稼ぐべく危険な傭兵活動も行ってきたという。それを考えれば、きっと二色颯(にしょくそう)以上にドラクシス陛下には世話になってきたのだろう。加えて砂漠の眼(デザートアイ)は先日のビーストマン騒動の際に国外に出てしまっていたため、竜王国の危機に立ち会えなかったという悔恨も胸に抱えているはずだ。

 

 そうした積もり積もった想いが、今、反抗心として噴出しているのだ。

 

 

(ほんと……どうしたらいいの?)

 

 

 アンジェシカもまた、右手に持った漆黒の若木の杖を握りしめながら、必死に考える。こんな時にツクヨミ様がいてくださったのなら、どれほど心強かったことだろう。

 

 だが、そんな彼女の助けは今回見込めない。何故なら自分達は、そんな御方に宣戦布告をしてしまった後なのだから。そもそもその考えの──なんと厚かましいことだろうか。

 

 アンジェシカはぎゅっと目を瞑る。

 

 

「私達も──」

 

 

 

 重い選択を迫られる、その時だった。

 

 

 

「……おい」

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

 一団を睥睨するように──城門の手前から、一人の男が歩いてきていた。

 その男の服装は質素そのものであり、まるで農民のような佇まい。

 

 けれどその頭上には木でできたような金色(こんじき)の王冠を。更にその下には白く長い髪と美しいオッドアイ、そして何より──この辺りでは滅多に見ない、森妖精(エルフ)特有の尖った耳を生やしていた。

 

 誰もがその奇妙な闖入者を凝視する。が……ピクリとも反応することはできない。

 

 その風体があまりに異質であったのもそうだが、それ以上に──その二十代位の細身の男が持つ圧倒的なオーラに、気づけば気圧されていたからだ。

 そんな中、男は歩みを止めず、ただただ言い放つ。

 

「聞こえなかったのか。邪魔だ」

 

 全員がその一言に、ようやく一歩後退する。

 

「貴方は……」

 

 アンジェシカがそれを発言するより前に、男──デケム・ホウガンは竜王国王城の入口へと歩を進めていたのだった。

 

 

 

 ────

 

 

 

 

「お、お待ちを」

 

 気づけば、そんな言葉が口から飛び出していた。

 アンジェシカは即座に冷や汗をかく。

 ──それは、森妖精(エルフ)の男が意外にも足を止め、肩越しにこちらを振り返ったからだ。

 

 言うまでも無く、その視線に優しさなどは一切ない。

 その容赦のなさと、肉食獣にも似た危うさに──アンジェシカは直感する。

 一言間違えれば自分は殺される、と。

 

(ど、どうしよ……)

 

 一瞬の逡巡の後、アンジェシカは止めるでも身元を詮索するでもなく、ただ事実を伝えることにする。それがこの場における最適解だと思ったからだ。

 

「この先には七彩の竜王(ブライトネス・ドラゴンロード)とその配下が居ます。非常に危険です」

 

「はっ!」

 

 すると森妖精(エルフ)の男は危険な瞳を嘲笑のそれへと変え、心底可笑しいという風に鼻で笑った。それは普段出れば腹の立つ所作であるものの、この状況においては相手が機嫌を損ねていないという一点で、非常に分かりやすく──言うなれば有難い行動だった。

 

「誰に向かって物申している。そうだな。しょうがない。この場にいる愚か者共にも……特別に教えておいてやろう。私は偉大なる森妖精(エルフ)の王。私を止めることのできるものなど、この世にはおらん」

 

 それだけ言い残すと、森妖精(エルフ)の男はゆったりとした後ろ姿を晒しながら、迷うことなく開け放たれた巨大な扉──その入り口から竜王国の城へと足を踏み入れていった。

 

 それを止めることの出来る者などこの場にはいない。アンジェシカは肩で息を吐く。そんな時だ。

 

「彼に乗っかるかい?」

 

 横からそそくさと移動してきた砂漠の眼(デザートアイ)のリーダーが、アンジェシカとガレットに向かって、小声で話しかけてきていた。

 

「乗っかる、とは?」

 

「いや。正直に言えばこの展開は意外にも好都合なんじゃないかと思ってね。彼の力がどれほどかは分からないけど、見た限り只者では無さそうだ。であればその隙に、俺たちにもチャンスが回ってくるかもしれない」

 

「なるほど。千載一遇の救出の機会だ、ということか」

 

 ガレットが頷くのを見て、アンジェシカもまた考える。

 

 自分達が先ほど城へ入った時、アンジェシカとガレットは正直に言うとぼこぼこにされた。城の中に配置されていた光の蛇……とでもいうべきモンスター達はあまりにも早く、強靭で、こちらの攻撃など微塵も効いていないという様子で次々と襲い掛かってきたからだ。

 

 それを考えると、先程城に入っていった彼も、もしかすると甚大な損傷を受け、死傷してしまうかもしれない。

 ならばせめて、自分達も応戦すべきかもしれない。

 そうすれば城内の敵は減り、女王陛下を救い出せる確率も上がるだろう。それにもしかしたら、勝ちの目まで生まれるかもしれない。

 

「そうね。少数精鋭で邪魔にならない程度に応戦。敵を仕留め、城のどこかにいらっしゃる女王陛下をお救いしましょう」

 

「よし来た! じゃあ……急ごうか。彼が先に行ってしまう前に」

 

 アンジェシカはそれに賛同するように、珍しく男に向かってコクリと頷く。

 そうして二色颯(にしょくそう)砂漠の眼(デザートアイ)は計六名で入口へと走り込む。それを見送るようにして、周りの者が気づかれない程度に息を呑みこんでいたが、それを気にする暇はない。

 

 ……

 

 城内に入るとすぐに目に入ったのは、深紅のカーペットが敷かれた豪華な廊下。普段は衛兵が立っているであろうその場所に人気はなく、荒らされた室内には倒れた花瓶や、割れた台座が見受けられる。

 そんな場所から上階へ繋がっているであろう奥の方の区画へと急ぎ走っていると、すぐに目の前に先ほどの男──森妖精(エルフ)の王の姿が目に入った。

 

「い、いたぞ」

 

「あれは……まずいわっ」

 

 だが、やはり危惧していた問題がそこでは発生していた。なんとアンジェシカが見た右前方および左前方には、既に侵入者たる森妖精(エルフ)の王を囲うようにして全長2mほどにもなる光の大蛇が三体も佇んでいた。

 

 しかもそれだけではない。

 

 森妖精(エルフ)の王はそれに気づかず歩いているようだが、魔法で透明化している竜の頭を持った人間……ドラゴニュートのようなモンスターが階段の手前で行く手を阻んでいた。先ほどあれら数体で五十数名が敗北を喫したことを考えれば、あまりにも過剰すぎる戦力という他なかった。

 

 アンジェシカは考える。

 

(また逃げる……? いや、それだとあの人が()られる)

 

 ここまで来て、冒険者として何もせずに見捨てることは避けたい。ならばせめて、周りのモンスターの気を引いて、彼が逃げられる程度に支援するのがベストだろう。

 砂漠の眼(デザートアイ)のリーダーもそう思ったのか、懐から何らかの薬が入っている小瓶を取り出していた。

 

「行こう」

 

「あぁ」

 

 ガレットもまた背に背負った大剣を取り出す。そうして駆け出す一行。

 既に目線の先のエルフ王の近くには四,五体のモンスターが飛び掛かっており、魔法で援護射撃するにしてもかなりギリギリになるだろうと思われた。

 

 

 

 のだが──

 

 

 

「ゴミ共が。偉大なる王に触れるとは。万死に値する」

 

 

「……は?」

 

 

 ブチィィィィッ!!!!! 

 

 何重にも編まれた鉄製のロープが引き裂かれるような、そんな重く鋭い音が広大な城内に駆け巡る。

 見ればエルフ王に飛び掛かっていた光の蛇の一体が、首を強引に引き千切られるように上下真っ二つの形へ変えられており、真横の廊下へとその頭部を投げ捨てられていた。

 

 続いてすぐ。

 

 エルフ王の両手がいきなり光ったかと思うと──もう一体の大蛇の頭がその左手によって抑え込まれ──右手によって即座に潰される。

 その動きはあまりに早すぎて、オリハルコン冒険者である自分達の目を以てしても到底追いきれない。

 

 

「面倒な雑魚の群れだ。行け、我が土の精霊よ。ベヒーモスは……まぁいらんだろう」

 

 

 その勢いは留まるところを知らず。エルフ王に不意打ちで斬りかかろうとしたドラゴニュートの斧による斬撃が、エルフ王がその場に召喚した土の精霊なる者の腕によって受け止められる。その大きさは2mほどあり、特に自然物を媒体にして作られたような痕跡はなかったものの、その全身をごつごつとした岩で覆っている。そして言うまでも無く、それは人間など非にならないくらいの並外れた膂力を誇っていた。

 

 

 騒ぎに乗じて集まってきた他のモンスター達も、エルフ王に触れることさえできず、土の精霊に殴り殺されていく。

 

 

「……は、はは。なんだあの化け物は?」

 

「……」

 

 

 それを見て、砂漠の眼(デザートアイ)二色颯(にしょくそう)も顔を引き攣らせたのは言うまでもない。例外として砂漠の眼(デザートアイ)の土神官のみが目を輝かせながら、「土精霊(アースエレメンタル)。それも上位のものでしょう!」などと興奮していたが、耳には入ってこない。

 

 そんなこんなで、付近にいたモンスター達は五分もしないうちに全滅する。

 エルフ王もまた、障害など元より無かったと言わんばかりに先へと進んでいく。

 

 六名はお互いに顔を見合わせた後、今後の方針を立てるべく廊下の分岐点となるその場所で身を寄せた。

 

「まぁ結果オーライかなぁ……。これで邪魔者は殆ど居なくなったわけだ。俺たちは俺たちで、女王陛下の捜索に専念しようじゃない」

 

「そうだな……。しかしどう探そうか。城内と言ってもこれだけ広い。一つずつ部屋を探していっては日が暮れるぞ」

 

「某に考えがあります」

 

 砂漠の眼(デザートアイ)のメンバーの一人。盗賊系の職業を持ったフード姿の男が、人差し指を立てる。

 

「連絡の取れない女王陛下。こういった場合、確率が高いのは地下か、最上階に軟禁されているパターンでしょう。時間がない以上、二手に分かれることを提案します」

 

「リスクはあるけれど、それがベストかしらね」

 

「俺も賛成だね。モンスターが一定なのか、増え続けるのかも分からない状況だし、戦うよりは逃げたり隠れたりがメインになるだろうしねぇ」

 

 確かに、とアンジェシカもまた頷く。たとえ六人全員で殴りかかっても勝てないのなら、端から戦うことは考えない方がいい。

 全員がその方針に納得し頷き合うと、最後に砂漠の眼(デザートアイ)のリーダーであるカウボーイ男が懐のポーチ──マジックアイテムの類だろう──に手を差し込むと、その中から多くの薬品や鈴型のアイテムを取り出し、アンジェシカに手渡してくる。

 

「これは鍵解除の鐘(ベル・オブ・オープンロック)。鐘を鳴らすことで鍵を開けることが出来るマジックアイテムさ。こっちの技には不慣れだろ?」

 

「助かるわ」

 

「生きて返してくれれば問題ないさ」

 

 そう言って背を翻すと、迷いなく上へと進んでいく砂漠の眼(デザートアイ)が見える。それを一瞬止めようかと思うが、アンジェシカも口を引き結ぶ。

 ガレットもまた、彼らなりの決断を尊重すると、一礼したのちに口を開いた。

 

「健闘を祈る」

 

「お互いにな。生きて帰ろう」

 

 竜王国の城内にて、そんな現実感のない約束が交わされた。

 

 

 

 

 

 

 

 ♦♦♦♦

 

 

 

 

 

 

「……エルフ王が逃げた?」

 

「……」

 

 場所は変わり、スレイン法国。

 

 首都である神都の中でも特に神聖な地として扱われる大神殿の敷地内にて、その(あるじ)たるツクヨミは部下であるハンゾウからとある報告を受けていた。

 それは森妖精(エルフ)の王であるデケム・ホウガンが法国南陵の小砦から逃げ出したという内容。

 聞くところによるとそれは単騎で行われており、現在、竜王国の対処の為にツクヨミが法国首都に戦力を集中させている隙を見て行われたという。

 

 ツクヨミは正座した状態──敷地内建物の奥側にある裏庭の芝生の上で、視線を地面に下げながら考える。

 白銀の滝の如き長い白髪が吹いた風によってさらさらと揺れ動き、背中に付けたWI(ワールドアイテム)が、曇り空の中一層光り輝く。

 

 その姿は深謀を頭に浮かべる聖女。もしくは人々の安寧を憂う混沌の時代の女神といったところだろうか。

 しかし実際の本人の頭の中は、もっと単純だった。

 

(あぁ……。これは完全にやっちまったなぁ……)

 

 最初にやってきたのは、自分の間抜けさへの落ち込み。

 

 というのも──正直に言えば──これを想定していなかった訳ではない、ということがあった。

 デケムが未だに負けを認めておらず、反抗的な素振りを見せ続けていたのは理解していた。

 デケムがツクヨミに恨みを抱いていることも理解していた。

 

 何より『もしかしたらこいつ、決闘の時の約束を守らないのでは?』という薄っすらとした確信さえ持っていた。

 

 にも関わらずデケムのことを疎かにし、ハンゾウへの負担を増やしていたのは事実。

 それは間違いなくツクヨミの采配における落ち度だった。

 

「ツ、ツクヨミ様……」

 

 思ったより顔に出てしまっていたのか、不安げにツクヨミの顔を覗き込む第七席次の姿があった。

 ツクヨミは今の今まで握り込んでいた右手の掌を開く。

 

 元々、この場所に来ていたのも──宣戦布告を受けてから七彩の竜王(ブライトネス・ドラゴンロード)の手紙の返信を待つ間に、()()()()()()()()()()()()をしていたためだ。

 開いた掌には上下左右、綺麗に"四等分"された球形の石が握り込まれており、これはツクヨミが空中で切り裂いたものである。本当は実戦経験でも積めるのが一番ではあったのだが、第七席次一人にそれを背負わせるのはあまりに酷すぎるだろうと思ったため、こうして簡単な剣技の調整に付き合ってもらっていたのだ。

 

 しかしこうしてみると、随分と悠長なことをしていたのだと思わざるを得ない。

 

 ツクヨミが小さく息を吐くと、対面で今も頭を下げるハンゾウ三名が目に映り──

 

 

 ……

 

 

 ……

 

 

 ──スッ

 

 

「ちょちょちょ! ハンゾウ! ちょっと待ってください……!」

 

 その時、ハンゾウが一瞬で腰の短剣を取り出すや否や、自分達の首にそれをあてがうのを見て、ツクヨミはここ最近でまぁまぁ出したことがないような大声を出す。

 

 ハンゾウがびくりと動き、親に怒られる子供のように──折った膝上に握り込んだ拳を乗せる。

 ツクヨミはそれを見て、ある種強引に、優し気な表情をその顔に戻した。

 

「大丈夫です。私は怒ってません。寧ろこれは私のミスなのです。采配を……少し間違えてしまいましたからね」

 

 こう言うとまず間違いなくそれを否定するように反論することは分かっているので、ツクヨミはここで強引に続ける。

 

「それに。実はこういう時のために()()()()というのは毎回用意しているのです。ほら、これ」

 

「恐れながらツクヨミ様……無知な私にお教えいただきたいのですが、これはなんなのでしょう」

 

 ツクヨミが虚空のアイテムボックスから次々と取り出したのは、計七にもなる巻物(スクロール)群。これらの内訳は簡単に言うと、特定物体を探査できる魔法である物体発見(ロケート・オブジェクト)の魔法に、遠くのものを見るための千里眼(クレアボヤンス)の魔法、それを外部に映すための水晶の画面(クリスタル・モニター)の魔法となっていて、最後にそれを行う際に術者を守るための四重防御魔法の巻物(スクロール)……という構成だ。

 

 ちなみにこれらの所持数はユグドラシル時代にそれぞれ100を超えている。

 

(まぁ、私が使えないっていう最大の問題があるんだがね……)

 

 だからこそ物が溜まったという部分も否めない。

 

 ツクヨミはそれらを一つずつ地面の上に並べ、第七席次に説明していく。そうしてすぐに理解できた風の第七席次は、本人が優れた魔法詠唱者(マジックキャスター)であるということもあって、迷うことなく順番にその魔法を発動していく。

 燃えるように宙へ巻物(スクロール)が消えていく──

 

 

「──神よ。こちらにいらっしゃいましたか!」

 

 

 丁度その時、こちらに向かってくるように、神殿方面から最高神官長および水の神官長、火の神官長。そして風土の副神官長や一部巫女姫までもが小走りに駆けてきていた。

 ツクヨミは慌ててその場から立ち上がる。

 

「し、神官長様。随分と慌てられているようですが、どうかされましたか?」

 

「……い、いえ。ルフス様の御姿が見当たらず、また、御身も神殿内におられなかったため、どちらにいらっしゃるのかと探しておりました。しかしながら、まったくの杞憂でございました」

 

「なるほど。そういうことでしたか……。それは申し訳ないです」

 

「とんでもございません。それより先ほど御声が聞こえたような気がしましたが……」

 

 声、声。

 

 記憶を遡っていると、「あれか……」と、察するものがあり、少々気恥ずかしい気分になる。

 ツクヨミは暗色(あんしょく)である紫の目で瞬きすると、コホン、と咳ばらいをして返答する。丁度隣で、第七席次の水晶の画面(クリスタル・モニター)が問題なく発動したことを視認できたということもあったためだ。

 

「声に関しては問題ございません。それより最高神官長──オルカー様。先に少々謝らねばならないことがございます」

 

「ど、どのような要件でしょう?」

 

「つい先ほど判明したのですが、エルフ王、デケム・ホウガンを逃がしてしまいました。今──ここに映している通り──あれが身に着けていた王冠から、逃げ先の特定を始めている状況です」

 

「なんとそのようなことが……。いえ、早速二の手打って頂き感謝いたします」

 

 神官長達はこちらを非難することなく一礼すると、すかさず目の前の──怪しげに光る青色の画面にくぎ付けとなるように顔を近づけ始めた。

 

「凄まじい魔法ですね」

 

 水の神官長が眼鏡のようなものをクイっと上げる。

 ツクヨミもじっとその中を見やる。

 

(ここは……?)

 

 宙に浮かぶ画面内に映し出されているのはまごうことなきデケムであり、こちらの魔法に気づく素振りは一切見せていない。そしてそんなデケムが今いる場所は、ツクヨミの想定とは随分とかけ離れた場所であった。

 

「場所は、城の中。それも……竜王国の城内のようですね。私も前に一度ドラクシス陛下に招待いただいたので分かります」

 

「して、何故あの者が竜王国に? しかも、こんな短時間に」

 

「正確には分かりません。ただ……おおよそは推測できそうです。何と言ってもエルフ王は私に、強い敵意を抱いていましたから」

 

 ツクヨミは考える。現時点で想定されるのは2パターンだろう。

 一つはデケム自身が何らかの情報を入手し、法国にいるツクヨミを潰すために七彩の竜王(ブライトネス・ドラゴンロード)と手を組みに行ったパターン。

 二つ目は七彩の竜王(ブライトネス・ドラゴンロード)が辺境にいるデケムに目を付け、デケムを呼び出すことでツクヨミの情報を得ようとしているパターン。

 

 二つ目は無駄が多い気もするので、やはり一つ目の『共同戦線』が一番確率が高いかもしれない。

 

 しかしそうなると想定よりもかなり面倒なことになる。何故ならデケムもそれなりの魔法の使い手だ。

 一人ならいざ知らず、戦力が不明である七彩の竜王(ブライトネス・ドラゴンロード)と相対している際に支援のような形で出てこられれば、流石のツクヨミとて絶対に負けないとは言い切れない。

 

 

(どうしようか)

 

 

 ツクヨミが考えに耽っていると、それよりも先に、わなわなと震える老人が声を発する。

 

「あの屑……。御身の御心も知らずに……」

 

「ま……まぁまぁ。まだそうと決まったわけではございません。けれど確かに、こういったことが、裏で色々と進んでいるのは事実のようです」

 

 そうしてツクヨミはようやく決心するように──それを発言する。

 

 

「やはり私も行くべきなのでしょうね──。あの地に」

 

 

「ツ、ツクヨミ様っ」

 

 

 瞬間……画面を見ていた全員が、こちらのことを振り返る。

 その表情は驚きと嘆き。

 

 水の神官長は抱えていた本を地に落とし、火の神官長は手を小刻みに震わせている。巫女姫に至っては全身を震えさせながら涙目になっているし、第七席次は先ほどの楽しそうな雰囲気とは一点、大きな動揺から制服の裾の先の手をぐらつかせていた。

 

 何より最高神官長が、眉間に皺を寄せながら、一歩前に出てくる。

 

「恐れながら申し上げます。それは大変危険な選択でしょう。奴らの誘いに乗るなど、御身に何があるか……。私は反対いたします」

 

「オルカー様……。しかし法国はこのままだと攻撃を受ける可能性が高い。違いますか? 薄々思ってはいましたが私があそこに向かう以外に、きっと解決する手段はないのですよ」

 

「そ、それは……」

 

 普段は融和な主からの意外だったであろう反論に、最高神官長は目を伏せ押し黙ってしまう。それは立場上の問題もあっただろうし、ツクヨミが直近で毎日、竜王国に書簡を出していたことを最高神官長自身が最も近くで見ていたことも関係しているかもしれない。

 だが、それは結果的に後手を招くことになった。

 何より、きっと七彩の竜王(ブライトネス・ドラゴンロード)自体も、そんな和解は端から望んでいないのだ。

 

(そう……私は)

 

 思えば、多くの者に嫌われてしまったものだと、ツクヨミは思う。その多くの相手が悪人だったというのはそうかもしれない。だが、ツクヨミが神として広く行動していくうちに、世界中で敵対する者というのも、やはり増えていった。

 

 森妖精(エルフ)の奇襲。ズーラーノーンの襲撃、聖王国の悲劇。そして……世界を守っているはずの竜王との戦い。

 

 ツクヨミは当初、ただただこの世界が平和になればいいと思った。過酷な世界で生き抜く人々の助けになるため、多くのことをしてきたように思う。けれど、今、ツクヨミという存在が火種となり、各地で自分と無関係の者達が血を流していた。

 

 それはツクヨミにとっても酷く辛いことだった。

 

 

「私が陰ながら行動していれば」

 

 

 ──こんなことにはならなかったかもしれない。

 

 

 ツクヨミはハッとするように途中で口を噤む。それは神官長、ましてや巫女姫の前で発言すべきではない言葉だったからだ。だが、目前に立っていた最高神官長は、ツクヨミの表情をじっと眺めながら、それを耳にするなりそっと顔を伏せ返答する。その声は微かに震えている。

 

「申し訳ございません、ツクヨミ様。……先ほどは出過ぎた真似をいたしました。また、結果的に我々が追い込んでしまったというのも、事実としてあるでしょう。しかし、どうか、これだけはお聞き届けください。そのような御言葉だけは──どうか、決して、お口になさらぬよう……お願い申し上げます」

 

「……」

 

 最高神官長、いや、オルカーは顔を上げ言葉を続ける。

 両の瞳から、静かに涙を流しながら。

 

「神が直近、此度の戦いで御心を痛めていることは、よく理解しておりました。しかし……しかし! もしも神による諍いがあるというのなら──それと同じかそれ以上に……神による慈悲に救われた者も、大勢いるのです」

 

「その通りです、神よ! 我々は神に……ツクヨミ様に救われたのです」

 

「私達も……神様が此処に来てくださったから、この場にいるのですよ!」

 

 涙ながらに抱き着いてくる光の巫女姫に。そして伏してこちらのことを求めてくれるオルカーに、ツクヨミの心も温かくなるようだった。

 

(本当に救われたのは──私なのにな)

 

 ツクヨミは数舜目を瞑ると、それから重たい口を懸命に開く。

 

「ありがとうございます。皆様の御言葉……確かに受け取りました。そしてその上で、二点謝罪させてください。まず一つは至らぬことを聞かせてしまった点。そしてもう一つは──」

 

 ツクヨミは巫女姫の涙を拭いながら答える。ツクヨミは生涯独身だったから今まで全く分からなかったが、これがきっと、"親"の気持ちというやつなのだろう。

 

「ならばこそ──私は行かなければならないということです」

 

「決意は……変わらないということでしょうか」

 

 オルカーのそれにツクヨミが微笑み頷いて見せると、今度こそオルカーは涙を自分で拭った後、一礼する。

 

「承知、いたしました。ただし御身よ。どうかこれだけは御約束を。どうか……どうかご無事で。そしてこの地に再び帰ってきてくださいますよう」

 

 心よりお願いいたします──

 

 ツクヨミはそれに対し、ただ一度力強く頷く。

 

「……分かりました。私は全てを解決し、必ず皆様の元にまた帰ってきます」

 

 広い草原には、風が舞い上がり、ツクヨミの白い髪が巻き上がる。

 話し合いで解決できなそうな以上、もしかしたら──というよりかなりの確率で、七彩の竜王(ブライトネス・ドラゴンロード)とは矛を交えることになるだろう。

 正直に言えば先日のデケムの時とは違い、今回に限っては、本当に生きて帰ってこられる保証などどこにもない。

 

 はっきり言えば今回、ツクヨミは死ぬかもしれない。

 

「……」

 

 それは堪らなく怖ろしい。

 けれど、真の意味で本当に戦う時が来たのだと、それをツクヨミは理解していた。

 アイテムボックスから取り出した笛を吹く。

 

 

「キュ──ッ!!」

 

 

 すぐに、頭上の空に、古の鷲獅子王(エンシェント・グリフォン・ロード)が飛んでくる。

 ツクヨミはそれを視認するなり『飛行(フライ)』の魔法を発動し、地上から跳躍する。

 

 人々の姿が小さく……少しずつ離れていく。

 

 そんな中、神官長達の祈る手と、未だ残った水晶の画面(クリスタル・モニター)だけが微かに見えた。

 もし問題が発生すれば、きっと彼らのことだ。すぐに教えてくれるだろう。

 

「……行こう」

 

 ツクヨミはそれを脳裏に焼き付けると、古の鷲獅子王(エンシェント・グリフォン・ロード)と共に、竜王国の方角へと飛んで行った──

 

 

 

 

 

 

 ~~~~

 

 

 

 

 

 コツ、コツ、コツと。

 

 一定のリズムを刻みながら、その足音は上層へと登っていく。

 開け放たれた大扉を前に、その男は一切怯むことなく、その歩みを進める。

 そうしてその荘厳な室内へと侵入する。

 

 

「──陽光爆裂(シャイニング・バースト)

 

 

 抑揚なく発声されたそれ。しかし実際に発動した魔法はそんな小声から生み出されたとは到底思えないほどの規格外のエネルギーを周囲に放出しており、外気を爆発させるようなけたたましい音とともに柱の立ち並ぶ室内──()()()()()()()を駆け抜けていく。

 

 

 

「む……」

 

 

 シュー……といった、紙が焼け千切れるような音が、その玉座に座る者の右手から起こる。

 魔法を放った男はそのまま玉座の間の中央まで歩いてくると、その口を開いた。

 

「お前が七彩の竜王(ブライトネス・ドラゴンロード)なる者か?」

 

「……」

 

 玉座に座る者──人間種にしか見えない白い髭に白い髪、そして赤と黒が入り混じる水晶のような冠を被った老人は、右手に握っていた焼けた本を横に投げ捨てたのちに、目の前の男を観察する。

 

「その通りだ。そして、私からも一つ質問させてもらおう。貴様。……法国、プレイヤーの仲間か何かか?」

 

「はっ!」

 

 

 その発言に対し、男──デケム・ホウガンは不敵に笑う。

 

 

「仲間だと? 奴らはこの偉大なる"王"の最も憎い"敵"。仲間などとは笑わせるっ」

 

「分からんな。ならば何故、貴様が我を攻撃する必要がある。小人の王よ」

 

 

 

 ピクリ、と。デケムの白い眉が危うげに歪む。

 

 

 

「決まっているだろう?」

 

 デケムの手がもう一度、宙に翳される。それは戦闘の合図と言っても差し支えないものだった。

 デケムは目前の老人を睨みつけながら、最後の台詞を吐く。

 

「お前がこの王にとって……奴らと同じかそれ以上に目障りな存在だからだ」

 

「そうか。そのオッドアイの目──貴様、あの大罪人共の血族か……」

 

 七彩の竜王(ブライトネス・ドラゴンロード)の金色の瞳が、鋼のように冷たかったそれが、炎のように揺れ動き出す──

 

 

 

「いいだろう」

 

 

 

 七彩の竜王(ブライトネス・ドラゴンロード)が玉座から立ち上がる。それは彼にとって、目の前の存在を倒す理由がようやく一つ増えたからである。

 

「かかってくるがいい。愚かな森妖精(エルフ)よ。貴様の前に立つのは」

 

 

 ──真なる世界の守護者である。

 

 




ーーーー
筆者が原作オーバーロードの中で特に好きなシーンとして、アインズを見送るアルベドのシーン(3巻)がありました。今回は若干そのオマージュとなっております(流石に15000字は書きすぎだと思いましたが(白目))

次回、世界の暴君(味方)対 星の賢者(敵)
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