引っ越しなど私生活がバタバタしていましたが、また時間ができたので投稿再開します。
内容を忘れちゃったよという方は、こちらの活動報告に物語の要約をまとめてありますので、ぜひ活用ください(所要1~5分)(62話までのネタバレ注意)
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=341858&uid=310520
ドゴォォォォオォォンッ!!!
ただの余波だけで、王城の壁に大きな亀裂が走る。
ルフスと
稲妻が宙を切り、動き回る両者の詠唱が続く。
全てがこの世界において神話に数えられる魔法だ。しかも、これに加えて玉座方向からは この世の終わりのような雄たけびを上げながらベヒーモス……
元々、ベヒーモスはエルフ王たるデケム・ホウガンが召喚したものの、圧倒的な力を持つ
二人、あるいは一人と一体によって連続して放たれる、超常の連撃。
もしこれが普通の相手であれば、Lv90近いルフスと、Lv80後半のベヒーモス──その両者の攻撃を受けきることなど、世界中の英雄を全てかき集めたとて不可能な領域だっただろう。
しかし──
「ぐ……は……ッ」
魔法の応酬が数度交わされた頃。
部屋の中空を支配していたはずのルフスが、突如として
骨の体は後方の壁に勢いよくめり込んだために激しく軋み、それを受け止めた竜王国王城の壁は大きく損壊。
これによりルフスのHPが大きく消耗していく。
ルフスは自身の火力を限界以上に装備で補強している反面、耐久に関しては
元来は彼の主人──死の神たるスルシャーナの補佐や蘇生行動がメインだったルフスにとって、決定打の足りない消耗戦は圧倒的に分が悪く、これも仕方のない措置だった。
無理やりにでも短期決着を目指し、肉を切らせて骨を断つ。
それがこの"普通でない存在"に挑むためのルフスの決死の作戦だ。
ただ、この状況は──
ベヒーモスの存在があってなお……。いや、
彼らにとって、最悪の無理ゲーと化していた。
「不可視化か。……しかも位階魔法によるものではない。考えられるとすれば……"モンスター固有の能力"」
「その通りだ」
答えたのは、部屋の中央で今も地に足を付けた白髪の老人だ。
その肩には龍の顎を模した肩当が嵌り、既にルフスの数少ない味方であるベヒーモスを吹き飛ばした後なのか、周囲には余裕の砂塵が舞っている。彼──
「
「
ルフスの問いに、
「それだけではない。
上空を飛んでいた藍色──先ほどのものより少し濃い色の龍が凄まじい速度で玉座付近に飛来し、倒れたベヒーモスの巨躯に巻き付き、蛇のようにその身体を締め上げる。
「
続いて三匹目。紫色の龍が
それは誇示行動としてだけでなく、壁に埋まったルフスの方へ勢いよく飛び込み、殺意のままにその口を開いて攻撃してくる。
(……速いっ)
その速度も、全くもって尋常ではない。
例えるなら、人間の10倍の身体能力を持つというビーストマンの走りを更に100倍速くし、その体に身体能力を補佐する機械の装置を取り付け、空気抵抗を無視できる翼を生やした感じだ。
そんな意味不明な感慨を覚えながら、ルフスは即座に身を翻し、敵の攻撃を避ける。
反撃として第九位階に相当する火の魔法を放つも、敵も既に防御行動を取っており、全く致命傷には至らない。
それどころかもう一体の蒼い龍がその傷を回復し、紫魂の竜がすかさず開いた顎から極大の光のレーザー攻撃を放ってくる。
「合わせて三色。しかしこれでもお前達のような弱者を相手にするうえで、行使しすぎたほどだ」
ルフスはそれを、魔力を込めた骨の腕で必死にいなす。実際、その通りなのだろう。
非常に不本意な話ではあるが
(レベルは恐らく私と同等か少し下に迫る実力。しかもこのモンスター……)
「七色。その中での……下から三色、か」
ルフスは己の中の神に問う。私風情ではやはり、あの時のように何も変えられないのかと。
しかし今は亡きスルシャーナも、目の前の
ただ無慈悲に剣が振るわれるだけだ。
「認めはしない。
「終わりだ。──"第十位階魔法"。
その異質な響きの魔法。
世界の構造において有り得ない魔法の詠唱が聞こえた瞬間、ルフスの視界は闇に落ちた。
♦
「ほぅ……。最後の輝き……とでも言うのか」
埃が舞い、荒れ果てた室内でそう呟いたのは、ルフスと今まで対峙していた
そこには先ほどの攻撃──
対して彼が目前に視線を向けると、そこにはもはやルフスとは呼べないような、無惨な骨の残骸が散らばっていた。
原型は残っている。しかし襤褸のローブは消し飛び、上半身と下半身が真っ二つに背骨から折れている。
後ろにいるベヒーモスも、3匹の竜によって蹂躙され、再起不能と化していた。
ここから逆転の奇跡など万に一つも起こるはずもない。
だが、それでも
「……
彼はぱっと動きを止める。そうして腕を下ろし、炎のように揺れる黄金の瞳を、目の前の扉に向けた。
そこには彼がずっと待ち続け、そして、最も殺したいと願った存在が、仲間の遺骸を守るように立っていた。
「プレイヤー」
♦
荒れ果てた室内に急ぎ入って来たツクヨミは、まず中の惨状を見て目を丸くした。
いや、本当のところを言うとかなりのショックを受けた。
(ルフス……様っ)
外で瀕死になっていたデケムと最低限の会話を交わした後、ツクヨミも今まさに室内に突入する際、莫大なエネルギーの発生は何となく感知していた。
ただ、それでもこれほどの威力の魔法というのは、あまりにバランスブレイカー過ぎて、ユグドラシルでも早々ない。だからこそ、何らかの方法でそれを防ぎ、無事であることを心の底から祈っていた。
けれど、ようやく視界に入ったルフスは既に全身が真っ二つに折れ、下半身に関しては骨がバキバキに消し飛んでいた。幸い、死んではいないように見える。しかし、NPCは自発的にリスポーンしないこともあり、即座の回復や蘇生行動が必要なのは目で見るより明らかだ。
ショックを受けている暇などない。
ツクヨミは相手に悟られないよう表情を変えず、即座に骨の前に飛び、着地する。
自身へなるべく注意を引くように、
ひらりと風に舞った裾を高速で払いながら、鋭い視線を目前に送る。
(しかし、どうやって隙を作るか)
予定とは違うが、完全な睨み合いになってしまった。
この状況、せめてルフスを逃がすか、彼自身が回復できる時間を作るのがベストだろう。
とはいえツクヨミ自ら堂々と回復行為を施すのは……難しい。だからといって無関係者を装うのも厳しいだろう。
だから、せめて慎重に状況を運ばなければならない。
極限の緊張感で額から汗が伝いそうになる。ただ、外交者として
「……か……み」
恐らく意識が混濁しているのだろう。
ツクヨミは溢れ出しそうになる言葉を全て呑みこみ、唯一、それを告げる。
「後は、任せてください」
ルフスは『……』と色々と言いたげな雰囲気を醸しながら、それでも何か思ったのか、床に向かって最期の力を振り絞るように骨の指を押し付け、石を削り出すように何かをサッと書きだしていた。
(っ!?)
一瞬だけ後ろを確認したツクヨミは、その行動に今度こそ本気で驚いた。
何故ならそれは"日本語"だった。
ルフスが書いたものも、正確な日本の文字とは言い難い。しかし、この世界において日本語はユグドラシル産の眼鏡等の特別なマジックアイテムを用いなければ翻訳することができない形態のもの。言うなれば暗号だ。
そしてツクヨミはその内容を、0.1秒見るだけでおおよそ理解することができた。
「……ルフス様、デケムを頼みます──」
(すぐにハンゾウが来ますから)
なるべくツクヨミはそこに視線を向けないように、気づかないふりをしながら前を向いたまま告げる。
ルフスが後ろで身体を退く。
しかし、やはりそう甘くはない。
ツクヨミが言い切ると同時、
──破滅光
それは位階魔法とも言い難い特殊な攻撃だが、エネルギー量は恐らく第八位階以上。
ツクヨミの持つパッシブスキル:上位物理無効化Ⅲや上位魔法無効化Ⅲを突破してくる攻撃だ。
(しかし、この程度なら)
ツクヨミはレーザー状に降って来た光線を地面を靴で蹴ることで難なく躱し、そして最後の一撃はルフスを狙ったものであったので、手に持っていた剣で弾き飛ばす。
当然、
「なるほど。それが貴様の力か。しかし──これで改めて確信した。その動き、貴様がスレイン法国に降り立ったこの世界の異物、プレイヤーで間違いはないな」
「……その通りです。
二者は剣を手に握りしめ、その切っ先を相手に向け合う。
とはいえ、ツクヨミも、一為政者として何も考えずに此処まで来たわけではない。
剣先を微かに下ろす。
最悪の初対面だが、相手に理性があれば──あるいは──
「私はツクヨミ。御存じの通りユグドラシルのプレイヤーです。ただ、そのうえで貴方と一度話がしたく、直接会いに来ました」
「……」
手紙を無視し続けていた目の前の男は、やはり何を企んでいるのか読めない。
「率直に申し上げましょう。私は
ツクヨミは周りの損壊した──かつては美しかった城内を見やる。
「そのうえで貴方に提案させていただきたい。まず、私の力は
「……申してみるがよい」
「貴方の言う通り、確かに今後、"世界へ悪意を振り撒くようなプレイヤー"が現れるかもしれません。その時、私も共にこの世界を守る盾となります。そのうえで今は基本的には相互不干渉とさせていただきたい」
これがツクヨミが法国の守護者として、人々の崇める神として取れる最大限の譲歩だ。
対して話を聞いていた
「断る」
「なぜでしょう」
おおよその検討は付くが、食い下がる。ただ、
「世界へ悪意を振り撒くプレイヤー……それがお前でないと、どうして言い切れるのか。我はプレイヤーを信用しない。第一に、お前達を一度たりとも許してなどいない。更に言えば、この機会を逃せば、我はお前を殺せる唯一の機会を失うかもしれない。周囲の懐柔・策謀・逃亡、あるいは改変……いくらでも"今の貴様の性質"なら可能だと分かった。ゆえに──」
「この我がお前達と手を取り合うなど、絶対に有り得ない」
それは断固とした拒絶だった。
ツクヨミはこうなると内心分かっていたが、それでも、あまりに残念で、剣を握りしめる。
「なら」
そしてそれを意外にも制するは
「ただし、この場でこれ以上やり合うのが得策ではない……というところには同意する」
「──そのため、我からも提案だ」
玉座の間の前に巨大な
「雪……?」
どこ? それが最初の思考だった。今は春の季節だ。にもかかわらず、
困惑するツクヨミに、
「我々の因縁の戦いだ。
「っ……!!」
そこで初めて、ツクヨミは彼が
プレイヤーを確実に屠れる、自分の腹の中で戦いたかったのだ。
ルフスが空虚な目でこちらを見上げているのが分かる。いつも寡黙で何を考えているのかも分からない
──神(スルシャーナ)よ。行かないでくれ
だが、ここまで来た以上、断れるはずもない。
ツクヨミは
無論、負ける気もない。
憎悪を断ち切る者として──その中に飛び込んだ。
♦♦♦♦
「……」
ヒューッッ!!!
そんな甲高い雪を切り裂くような音が耳に入ってくる。
肌寒い。初めてそんな感覚を、この世界に来てから感じたかもしれない。
一面は雪景色。
そんな中、ツクヨミは空を見上げた。
(空が、近いな……)
いや、ある意味で言えば、そこは空の上だった。
ツクヨミの立つ場所の下に、雲がある。
「此処は?」
「……世界で最も高い山、その頂上。世界を最も
「答えては、くれるのですね」
ツクヨミは立ち止まり、ゆっくりと奥へと移動していく
見切れてはいるが外側は完全な断崖となっており、平地の広さは距離にすれば直径で約50m、恐らく山の上にある塔のような建物の上に雪が積もっている形だ。
白い髪に更に白い雪が降り積もり、ツクヨミの白い靴の半分を覆うくらいに冷たい雪が纏わりついている。
「逃げようとは思わぬことだ」
ツクヨミが後ろを向いた瞬間、そんな言葉が投げかけられた。
「一つだけ教えておこう。ここでりすぽーんはできない」
「なるほど。……では、転移は?」
「本来不可能だが、
「いえ」
『色々知っているな、こいつ……』と厄介に思いながら、
呆然としている時間など当然ない。出来る限りのことはやっておく。周りを観察し、少しでも生きて帰るための確率を上げる。何故ならこれから行われるのは負けることの許されない、命のやり取りなのだ。
「正真正銘の一対一。そのうえで、我はこれから貴様を容赦なく、残忍に殺す。言い残すことは?」
ツクヨミもまた、指輪を入れ替えつつ振り向く。寒さはもうない。
「いえございません。後はこれで、語らせていただきますから……」
ツクヨミは右手で愛剣コンフラクトゥスを握りしめ、最強最悪の相手とついに向かい合う。
本当に、最悪としか言いようがない。
こんなところで、強さも分からない相手──しかも強いことだけ分かっているボスだ──と初見命がけで戦うなど、ユグドラシル時代なら全てのプレイヤーに『馬鹿過ぎる』と罵倒されているだろう。
ただ、だからといって今更泣き言を言う気はない。最善は自分なりに尽くしてきた。そのうえで、無理だった。きっと譲れないものがお互いにあるのだ。だからもう、最終的にはぶつかるしかない。
ツクヨミは
(絶対負けられない。私は今、スレイン法国1000万を超える民。そして多くの人類と、亜人、異形、将来手を取り合える全ての者の為に、ここに立ってる)
神官長、世話を焼いてくれた副神官長、奔走する聖典、笑顔を取り戻した巫女姫、対等に接してくれるアリシア、死力を尽くし言葉を遺したルフス……デケム、街のオネェ、ドラクシス、宮廷の人々、初めての友人……そして私自身。
あらゆる者のために──
「
暴風が二つの強大な光を避けるように吹雪く。
既に
戦いが、始まる。
来週金曜日(夜頃)にまた次話投稿します。