雪は止むことなく吹き続け、氷塊が露出した肌を掠める。
内側からは高まる体温による熱、外側からは極寒の冷気が容赦なく襲い掛かっていた。
──
それを唱えた瞬間、神聖領域に立つツクヨミの背後に、五振りの伝説級の剣が浮かび上がる。
『雷撃の金剛針』『
それらが頭上の金装飾を照らし、次々と巨龍達の迫りくる連撃を弾き飛ばしていく。
ドッ、ガアアアンッ!!
テールアタックを正面から受け流し、音速で距離を取る。
冷たい風がローブを揺らし、指先に血が滴る。
「魔法の武具……ではないな」
超位魔法の発動準備に入った老竜が怪訝な声を上げる。
無理もないだろう。これは本来、ゲームでは不可能な
(──まさかあの日発見した『バグ』が、ここで役立つとは思わなかったな)
脳裏をかすめたのは法国西への遠征の記憶だ。
コスタートに用意させた現地の剣への
もっとも、コンフラクトゥスにこれを行っても意味はない。
これはデータクリスタルの設計をも無視した、現地における正真正銘の"仕様の穴"であり、運営がいれば即修正案件の……装備の疑似神器化だ。
ツクヨミは持てる限りの全てをここで解放する。
「そろそろ終幕としましょう、
ツクヨミは
「何をしようと無駄だ。そのような
プリズム混じりのそれを──
「
コンフラクトゥスから一対の巨大な真空波を飛ばすも、あろうことかそれを
直後、死角からの
「っ──。
それでも構わず、ツクヨミは神聖領域内で
(果たして止められるか──)
狙うは背後。右手に握る剣──
「周りを無視し、強引に我に直接攻撃を加えるか。愚かなっ!」
老竜が防御行動に走ろうとするが──それは許さない。
「──覇気っ!! 沈みなさい、
「ぐぅううぁ!!」
圧倒的速度差。加えて超位魔法の詠唱による行動制限。
そんな不可避の状況においてようやく、老竜の肩から腹部にかけて稲妻の迸る三連斬が叩きこまれた。
真っ白な雪原に、大量の竜の鮮血が舞い散る。
しかし
「プレイヤーッ、貴様がどれだけ足掻き、世界を踏み荒らそうと……死という運命は既に此処へ定められているっ!
「グゥォォォオオオ──!!」
悍ましい巨大な咆哮がツクヨミの真上から放たれ、
「神聖値解放。
目の前の老人と斬り合いながら
宙に浮かぶ凍える女王の細剣がたちまち中空へと飛び上がり、ツクヨミの死角にいるはずの
更に──
「……
「なんだとっ!」
ツクヨミの背中から放たれた攻撃──
そのうえ、ツクヨミの白く輝いていたはずの聖衣自体が半分ほど暗闇に覆われていたからだ。
これが
体力を激しく消耗する代わりに、攻撃の命中によって『神聖値』を、被弾によって『神蝕値』を蓄積し、それらを消費して特殊
もっとも、常に攻撃を受け続ける必要があるその性質上、思いのほか隙は多い。
しかし、
現にツクヨミは周りから飛来する
「貴方こそ、過去の憎しみに囚われて、現地の望みさえ見えていないのではないですか」
「汚物風情が知ったような口を。……我はここからあらゆるものを、時代を見続けてきた。八欲王……そしてそれに類する愚かな者達が、無惨に殺し合う様を!」
「──過ぎたる力は不要。地面を這いまわる存在に目を向け、必要以上に救い、介入することこそが未来の破滅へと繋がるのだと、何故分からない。……お前たちの存在そのものが、いずれ世界の均衡を崩壊させる。それが全てだ。この憎むべき魔法がそれを証明するだろう!!」
「っ」
「超位魔法──
ついに超位魔法が発動する。ダメージを一定以上受けた場合に中断されるなどの制約はもはやお構いなしだ。
天からは、追加で六体の天使が召喚される。
八十レベル台の
(くっ……。まさかよりによってその魔法か)
数に物を言わせた暴力的なまでの波状攻撃。流石にこれだけの相手を単身で抑えきるのは不可能だ。
ツクヨミも
冷たい水晶が左手の指先に触れ、砕かれる。数は二つだ。
「第十位階魔法、
白銀の聖衣が神蝕の闇に染まりゆく中、ツクヨミは"法国の神"が使役することなど到底許されなさそうな、忌まわしき異形の従者たちを雪の中に解き放った。
ツクヨミの目の前に、深淵の兜と甲冑を纏った巨大な騎士──
それは目前の雪原に大盾を突き立てる。迫りくる龍達を、その大剣で薙ぎ払うように動く。
その背後にいたツクヨミが、飛び出す──
「逃がすかっ!!」
計13体の敵の従える軍勢が、光り輝く領域の中でツクヨミ目掛けて飛来する。だが、その注視こそが戦場では命取りであり、ツクヨミの仕掛けた次なる策だった。
「
巨影に隠していた存在。68レベルの宙に浮かぶ頭蓋骨の化け物が、
魔法攻撃力に優れ、全ての魔法が最強化されている。
「っ!? 己さえ囮にしたか」
それが、後方から次々と魔法を放つ。
(やはり、
天使は猛撃に悶えていた。それを見て、ツクヨミは
──あまりの全身への高負荷により、左の胸にある心臓が早鐘を打つ。
「真の最高位天使を、その目に焼き付けなさいっ!!」
痛みで震える白い指先に掴んだのは、六つの翼を広げた金色の天使の像であった。
最高ランクの魔封じの水晶と比較しても、貴重具合で言えばこちらが圧倒的に上である消費アイテム。特殊な異形種か、あるいは人間種しか使用できないそれを、迷いなく発動する。
神聖領域内に、いや、それをすっぽりと覆う程の大きさの天使がその場に降臨する。
「……異界の天使か」
上位天使たる
それらさえ超える"
その中でも最強の存在である
魔封じの水晶でこのレベルのモンスターを召喚することはかなり厳しく、このアイテムの召喚であっても、正規のそれとは違い、一定範囲での攻撃と耐久性能しか発揮できない。
とはいえ、これ一体でLv100のプレイヤーでさえ釘付けにできるほどの強さを持つ。
「このような技さえ持っていたのは想定外。だがしかし、まだ数では圧倒的にこちらが上だ。消えるがいい──
「
「「
神聖領域内で正反対の攻撃が混ざり合う。
敵の火力を
(十分……彼らも繋いでくれた)
「分かっているはずだ。"魔法"は我には効かぬぞ」
「想定内です」
そのうえでぶち抜けばいい。
「
「熱でも、冷気でもない。っこの光は──」
その魔法は完全な神聖属性。更に、非実体に特攻の魔法。
特に、"霊体"の存在でしかない
「
「ならば!
瞬く間に戦場は漆黒のエネルギーと神炎と雷撃に包まれ、その内部にいる全員に凄まじい破壊を齎していく。
充填を完了した
──
──
ツクヨミと合わせて脅威の三連発だ。
雪山は焼き払われ、足元の巨大な塔だけが表出する。
この一連の流れにより
「はぁ……はぁ、はぁ……」
ただ、言わずもがなこの世界において
ツクヨミのカルマが極善であるとはいえ、巻き添えによる負傷も大きい。
(……あと、どれくらいだ……?)
正直に言えばもう限界に近い。頭上からの熱、そして掌で爆発的に発生する巨大な透明色の熱が……本来息切れを起こすことのないツクヨミに……明確な疲れと意識の混濁をもたらしていた。
だが、駄目だ。
古びた塔にツクヨミの熱い汗が流れ落ち、即座に凍る。
その時だった。
「ん……?」
ツクヨミは黒く染まったローブを掴みつつ、その背後に起こった異様な気配を追っていた。
その下にある、光輪──
間違いなく世界の守りを何度も発動してくれていたか、あるいは大きな抑止力となってくれていたのだろう。
ただ、それが今……発光していたのだ。
(は……?)
ツクヨミは胸から迸る痛みを無視してそちらに意識を割く。
別に特別な効果は発揮していない。ステータスが上がるとか、
ただ、発光している。
しかもその規模は山の頂上のみならず、ツクヨミを起点に円形の光を──地平の彼方まで飛ばしていた。それを見上げ、ツクヨミも冷や汗を流す。
(え? は? え!? ……何!?)
発動の気配はない。ただ、世界を照らすその巨光はあまりにも不気味すぎた。
ただの発光エフェクトか? 多分そうだ。
しかし
ツクヨミは震えながら剣を握り直した。目の前には、やはり、異常な目つきでそれを警戒する
♦♦♦♦
「水の神官長、そして水の巫女姫よ。神捜索の進捗はどのようになっている」
重い空気が張りつめた聖域にそのような老人の声がやってきたのは、巫女姫が神への祈祷を開始してからそれなりの時間が経った後のことだった。
巫女姫の代わりに首を振るのは青い衣装に身を包んだ老齢の神官長であり、更にその隣にいる偉大なる御方……ルフスも重苦しく口を噤んでいた。
水の巫女姫はもう一度深呼吸をし、一度目を瞑ってから再度その両手に神経を研ぎ澄ませる。
ここは六大神殿の聖域たるティナゥ・アル・リアネス。だからこそ、入って来れる人間は限られる。
隣にそっとやってきたのは神器──
けれど、彼の期待に反してというべきか、捜索が上手くいっているかと言えばそんなことはない。
結論、ツクヨミは見つかっていなかった。
水の巫女姫は何とか鏡を操作するもその手つきは拙く、何よりルフスが『目標は大陸中央の高い山だ』と教えてくれているとはいえ、そんなものは世界に無数と言っていいほど存在した。
だがそれでも……その捜索を諦めることはできない。
鼻を啜り、涙を堪える。
プレッシャー、心配、恐怖。
あらゆる感情が水の巫女姫を苦しめるが、その中でも"自分の無力"……その実感こそが、何よりも憎いもので仕方がない。
(あの御方は……私をただ一人の人間として救ってくださった。せめて、あの時の御恩は返さなければ……私は最低の不信心の徒になってしまう)
天井が円形に開いた泉の前で水の巫女姫は正座する。
そうして必死に画面を切り替えていると、その震える腕をルフスによって突然掴まれた。
「この付近だ、間違いない」
その端的で救いのある言葉に、後方に控える神官達にも静かな安堵──それと同じくらい大きな動揺が走る。
最高神官長は息を呑み、急かすように言葉を紡ぐ。
「感謝いたします、ルフス様。……水の巫女姫よ、もう少し絞り込めるか」
「っ。は、はい!!」
そしてその時だった。
「最高神官長、水の神官長っ!!??」
後ろの神官の一人が、慌てた様子で震える声を上げたのだ。
「なんだ」
水の神官長が不機嫌にそれに応じる前に、神官が空に指を向ける。
「そ、空が……」
それを見て、水の巫女姫も……最高神官長も、あのルフスさえも言葉を失った。
そこには曇り空を切り裂く、太陽を凌ぐほどの、神々しい光があったのだ。
水の巫女姫を置いていくように全員が外へ駆けだしていく。水の巫女姫もまた、ルフスと顔を見合わせるようにしつつ
そこで見たのは……神の光だった。
「あ……あぁ……っ!!!」
それを見たあらゆる人々が、大神殿敷地内の地面に膝をつき、平伏する。
嗚咽を堪えきれず、ただ祈りを捧げるように空を見上げた。
その空はただただ美しかった。
ツクヨミの背に灯っていた光が……まるで世界に拡散しているような、そんな光。
水の巫女姫は確信する。
神が……私たちの為に戦っておられる。
その感慨に、水の巫女姫はくしゃくしゃにした頬をもう一度濡らした。
♦♦♦♦
「戦線を維持しろ、奴は北上している!! 絶対に逃がすなっ!!」
世界の中央やスレイン法国から見ても遥か西方に位置するもう一つの戦場、ローブル聖王国の城塞都市カリンシャでも戦いは進んでいる。
長雨をその身体に受けながら民家の上を飛び進むのはアリシア・デイス・ファーイン……番外席次であり、その目線の先には何度か攻撃を受けた痕跡の残る、燃える
盟主は広間での戦闘にこだわらず、寧ろ被害を拡大させるように──あるいは目立つがためにカリンシャの都市を北上し、雷を、時には炎の魔法で民家を焼き払った。
鼻腔には木が焦げる匂い。泥が踏み荒らされる匂い。そして……異様に生臭い匂いが漂っている。
視界の端に映るのは身長5mを超えるタコの化け物があった。
更にその隣には、漆黒聖典と陽光聖典がそれぞれ召喚した切り札……光り輝く最高位天使、
魔神さえも滅ぼす存在。それがひとたび魔法を放てば、家で隠れるのを止め、散り散りに逃走を始めた民衆たちが狂乱するようにそれを見つめ、歓声を上げ始める。
「偉大なる主の執行者たる
「我が進化の傑作がその程度で破れる訳がない。不浄の溶解液を天使に解き放て」
「隊長! 奴を引きずりおろします!」
「番外席次、第四席次が盟主を捕縛する。武技で仕留めろ」
「言われなくてもっ!!」
大量の雑音と声なき悲鳴が交差する戦場を、アリシアが雷のように駆ける。
──とっとと終わらせるっ!!
「武技:疾風走破、限界突破──超斬撃っ!!」
「……何者だ」
「いや、かっっっった!?」
だが、アリシアの持つ巨大な
まずい。
「武技:要塞」
加えて第三席次の障壁が目前に貼られるが……
「ぐぅ……」
打撃。
腕を振り上げた盟主の打撃を受け、アリシアは地面に凄まじい速度で叩き落される。
体勢が悪い。
アリシアが受け身を取ろうとした時だ。
パシッ!!
「……え?」
その身体を真下から掬われるように拾われる。
地面に着地した時、その全貌が露わになる。
ハンゾウだ。
そこには神が遣わせたという最強の眷属がいた。しかも盟主もまた空中からすぐに叩き落され、地面にめり込んでいる。何より、空には曇り空を切り裂くほどの巨大な黄金の光が輝いていた。
(ツクちゃん……っ)
びしょ濡れの街路に降り立ったアリシアの目にもう一人の参入者が映る。
「まさか……あんたも?」
そう。話には聞いていたが、そこにはかつてツクヨミや法国に弓を引いた傲慢不遜なエルフ王、デケム・ホウガンが立っていたのだ。
転移してきたデケムはこちらを一瞥し、冠の無い長い白髪を翻しながら前へ出る。すぐに目の前の煙から
「ちっ。なぜ偉大なる王がこのようなことを」
デケムが舌打ちするも、すぐに盟主の放った死の軍勢がデケムの周りを取り囲む。それだけではない。
「番外席次、倒れてくるぞ!!」
「っ」
ドガァァアアアンッ!
そのようなけたたましい音を立てながらスラーシュの
アリシアはそれを斬り飛ばしながら、デケムの背後に着地した。
「エルフ王……あんた此処に何しに来たの?」
「それは私の台詞だ。全てはあの女の……っクソ。絶対に許さん」
「あの女? ……少しでも邪魔したらツクちゃんの代わりに殺すから」
「小娘が。……多少の血の素質はあるようだが、誰に向かって物を言っている。貴様を先に殺してやってもよいのだぞ?」
ハンゾウの鋭い視線がぎろりとこちらに向く。
ファーインとデケムは背中を合わせながら、聖王国の敵にそれぞれ向かい合った。
♦♦♦♦
「来たか……いや、
そしてもう一つ。
この光をまた、別の角度から見上げていた国があった。
聖王国の北部にあたる亜人国家、アーグランド評議国である。
その首都に建てられた巨大な議会の……巨人の全身よりも大きな硝子の窓から
伽藍洞のそこに靴音が響く。
「久方……いや、
そこには元気な表情を貼りつけた質の良いローブ姿の老婆がおり、その隣にも旧友であるイビルアイが転移魔法の詠唱を終えた様子で佇んでいた。もっとも、その深紅のローブは汚れており、どれだけの道のりを早々と踏破してきたのかはツアーの目をもってしても完全には把握できない。
ツアーは白銀の鎧を僅かに傾け、彼女らと向かい合う。
♦♦♦♦
世界で最も高い塔の上で、何千、何万回目の剣の衝突が起き……火花が舞い散る。
吹雪が二人の身体を再び覆い隠し、空からは黄金の光と赤ずんだ光の両方が差し込んでいた。
戦闘は言わずもがな苛烈だった。
ツクヨミが攻撃し、
残ったのはツクヨミと、
しかし、やはりというべきか、地の利があったのは
ツクヨミはぼたぼたと頭の上から血を流し、
その輝きだけは、ツクヨミ本人の泥臭さに反して失われていない。けれど、ツクヨミはコンフラクトゥスを地面に突き立てるようにして片膝をついた。
「プレイヤー、思いのほか……苦戦させられたぞ……。だが、これでようやく我の勝ちだ」
(流石に、もう受けられないな……)
神聖領域の顕現は効果時間が切れ、霧散した。
残っているMPも
ツクヨミは己の胸に左手を置いた。
「安心しろ、"リスポーン"などさせはしない。……ただ、永遠に、眠ってもらうだけだ」
そのような冷徹で、しかし"畏れ"を過分に含んだ声色が目の前から撒き散らされる。
『お姉ちゃん名前は? え、ツクヨミ? じゃあツクちゃんだね!』
『ツクヨミさん。定時なので一応声を掛けに来ましたが、その様子だと大丈夫そうですね』
『女王として感謝する。ではツクヨミ殿、今後とも宜しく頼む』
あまりにも鮮明な思い出が、脳裏を駆け巡る。
『ただし御身よ。どうかこれだけは御約束を。どうか……どうかご無事で。そしてこの地に再び帰ってきてくださいますよう』
世界にとっては、ちっぽけなことだったかもしれない。
しかし、私の世界は、既に輝かしい宝石に包まれていた。
(私は全てを解決し、必ず皆の元に帰る)
"広い雪原には、風が舞い上がり"、ツクヨミの白い髪が巻き上がる。
ツクヨミは立ち上がっていた。コンフラクトゥスを構え、もう一度
「何故だ。何故立ち上がる」
──何故立ち上がれるのか。
そんな声が聞こえてくるようだった。
ツクヨミは肺の隅々まで空気で満たし、全身を──傷口さえも凍らせながら、五剣を敵に向ける。
「この世界の明日を……私がまた見たいから、です」
「っ──」
ツクヨミは朦朧とする意識の中、爆発的な速度で跳躍する。
老竜がそれを視認し、己の身体を守りながら
恐らくこちらの攻撃は届かない。攻撃する前に敵の凶刃がこちらの身を貫くだろう。
では避ける? あるいはアイテムを使用する?
数多の考えが走馬灯のように浮かび、消え去る。それでは駄目だ。
もっと速く。もっと強く。
限界を超えて──
ツクヨミはそっと目を瞑った。
理屈ではない。この極限の状況において、最も有り得ない択──。
ただ、今まで一度も届かなかった『それ』を、脳裏に描く。
白い睫毛が半分開かれる。
「──武技:疾風加速」
そしてそれは──発動した。
「馬鹿なっ!?」
それは決して有り得ない事象。世界の
「ありえないっ。まさか……世界が……世界がこの者を受け入れたとでも言うのか……!?」
老竜は眼前で突然加速するツクヨミを見て、即座に剣を振り上げる。
いくら武技といってもLv100に達しているツクヨミの
疾風加速など、疾風超走破などの最高位の武技と比較すれば、本当に大したことは無い。
それが事実としてあった。
だがそれでも、
「……ぐっぁぁああああ!!??」
そして、それはついに届いた。
♦
(あり、えない……。この我が……)
白のローブに身を包む、白髪のプレイヤー……ツクヨミ。
今、自分はこのプレイヤーに胸を貫かれている。
(全て完璧だったはずだ……。400年前、あの屑共に苦酸を舐めさせられてから、あらゆる準備を行ってきた。地下には無数の魔力の結晶……数多の魔法の本……奴らの知識……氷結の牢獄まで……あるというのに)
──何が足りなかった……?
何より……長年生きてきた自分の矜持が、浮かびあがるたった一つの真実を許さない。
「プレイヤー、認めぬぞっ。我々が……我々だけがこの世界を……守ってきた。我のかつての同胞も、そのために命など……惜しまなかった」
「支配者? ……その通りだ、我こそが……我らこそがこの世界の秩序を真に保つことができる──。スレイン法国の偽神よ……我らこそが、真の選ばれし
「それが、貴方の……本音なのですね」
「……貴様も必ず、この世界から消し去ってみせる。そうして世界を……必ず取り戻す……」
心の奥底では分かっていた。自分はもう、長くない。寿命とて近づいている身だ。
だが、だからこそ。
この命を賭しても必ず、同胞の雪辱を果たさなければならない。それが自分の最期の使命だ。
「変身解除……っ!!」
巨大な光球に形を変え、その場に浮かび上がったのは、竜としての真の姿。
真なる竜王──
その巨躯が天を割くほどの大きさで浮かび上がる。
数十mを超える血まみれの虹の翼を羽ばたかせ、プレイヤ──―ツクヨミを見据える。
憎たらしいことにその瞳は……あまりにも力強く、美しい。
「
ツクヨミが剣を持ち上げ、こちらに向ける。
「この行く手を阻むというのなら、私は貴方を必ず打ち倒し──その先へ進んでみせましょう」
……世界は委ねられた。
今回は……長くなりました(遠い目
実際の描写には入り切りませんでしたが、王国や帝国の人間、ドラクシスもその光を見上げていることでしょう。沢山書いているので誤字があれば申し訳ないです。
余談ですが、実は今回のタイトルは某有名STGのそれをモチーフにしていたりします。
少々壮大すぎるかもしれませんが数年前の(頂上決戦の)インスピレーション元も貼っておきます。
#【オーケストラアレンジ】偶像に世界を委ねて ~ Idoratrize World