Moon Light   作:イカーナ

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 少し空けてしまいましたが、要望のあった聖王国・現地勢視点の話を執筆してみました。

 平和な閑話に行く前の、聖戦終了後の振り返りといった具合に読んでいただければと思います。(若干独立した内容になります。時系列などは想像にお任せいたします)


幕間
75.追録~死を祓う者


 ローブル聖王国・王朝秘匿指定:目録番号-法国-極秘-Ⅶ-001。

 

 限られた人間のみが立ち入ることを許されるその文書管理室へと、男は足を踏み入れる。

 黄金色に彩られた橙色の灯りに薄っすらと照らされたその部屋には、背の高い多くの本棚が幾つも立ち並び、国家運営によって生じる膨大な数の書類が未だ分類しきれぬまま乱雑に仕舞われていた。

 

 マジックアイテムによって乾燥した室内と、そこに敷かれた煉瓦の床。

 男はそれらを視界の端に入れつつ、聖王国の紋章が刻まれた白いローブを揺らしながら、目的の通路の突き当りにある――他国の紋様が刻まれた棚へとそっと手を伸ばした。

 

 

 『対秘密結社ズーラーノーン、盟主協同交戦記録』

 

 

 積まれた文書の一つ、この国に起きたあの脅威の……原本となるその記録を、男はもう一度深く精査するべく手に取った。

 

 管轄:スレイン法国行政庁

 対象区分:重要参考人

 対象者:エファラ・イーレ・パルトゥーシュ『現場聴取・参考資料』

 

 大戦後、律儀に法国から送られたというその極秘の記録を開いてみると、当時の戦場での交戦状況、一時的に発生した死者数、被害規模および請求補填費用などが淡々と記載されていた。

 事務的でありながらそれはどこか血なまぐさく、生々しい。

 

 男は整った筆跡を指でなぞり、読めば読むほど緻密でありながら、どこか意図的にぼ(・)か(・)さ(・)れ(・)て(・)いるように感じられるそれを捲っていく。

 

 彼が体験しえなかった聖戦。

 

 神の奇跡が降り注ぐ前、その一秒一秒の混戦の中に、人々が何を見ていたのか――

 男は静かに、その"記憶"の底へと、意識を沈めていった。

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 法国七番目の神たるツクヨミが聖王国城塞都市カリンシャに駆けつける前のこと。

 第四席次ことエファラ・イーレ・パルトゥーシュは、死の灰が舞う広場の中で必死に息を整え、白いフード付きローブを掴んでいた。

 

 今、上空には赤黒いオーラに包まれたナイトリッチ、盟主が浮かび上がっている。

 大儀式発動といった聖王の機転により一度退却したはずのこれは、半日程度の時間をおいて再びこの地に戻って来た。

 

 ロイツから移動してきた漆黒聖典はこれを抑えこむべく、元々カリンシャにいた陽光聖典本隊および、ロイツから共に移動してきた陽光聖典分隊の一つ――マルセルという男が率いている隊などと力を合わせ、現地の民衆を脅かす恐るべき死の軍勢との交戦を開始した。

 

 

「偉大なる主の執行者たる威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)! 不浄なるスラーシュの混合獣(キメラ)へと、鉄槌を下すのだっ!!」

 

「我が進化の傑作がその程度で破れる訳がない。不浄の溶解液を天使に解き放て」

 

 

 陽光聖典と漆黒聖典は神殿の切り札たる威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)を二柱も召喚し、対する盟主はスラーシュを元にした化け物をこの地に転移させ、逃げ回るように北上――街を焼き払いながら両者を激突させた。

 

 この時、同刻行方不明であったツクヨミの決死の援助も重なり、エルフ王デケム・ホウガンとハンゾウ二名、合わせて三名の極大戦力がこの地に参戦した。

 だが、それでも戦況は決して容易ではなかった。

 

 エファラは……いや、第四席次は。

 

 六色神殿の誇る"最強の秘密部隊"として、今まで到底味わったことがないほどの苦戦を強いられている。

 

「神木揺籃(しんきようらん)、早く彼の蘇生を頼むっ」

「もう掛けています! しかし……魔法が効きませんっ!!」

「なにっ!?」

 

 疲弊した足に鞭を打ち、戦場を駆け回る。

 雨に濡れて重くなった二つに結われた金髪が聖職者用フードの隙間から垂れ下がる。

 

 蘇生が効かない。

 対象者の生命力が足りない訳でもないのに、なぜか弾かれる――

 前例の無いその事象を前に、急速に血の気が引くのを感じる。

 

 左手の戦場からは、今も凄まじい神聖力と共に、天使の放った光の柱が浮かび上がっている。

 

 それが第四席次の呆然とした顔を白く染め上げる。

 

 

 

「愚かな人間。これが死の神の権能だ。真なる死(トゥルー・デス)」

 

「ぐ……ぁあ……」

 

 

 

 がしゃんと金属鎧が地に転がる。

 また一人、この戦場を駆け回る勇敢な戦士が――まるでゴミのように殺された。

 目の前で倒れている陽光聖典の彼のように。

 

(私のせいだ)

 

 自国の盟友。必死に現場を行き交い、その手に治癒の治癒薬(ポーション)を握って自分の代わりに外回りの負傷者治療を行っていた。

 

 だからこそ狙われた。

 

(あの魔法、最初は発動してきていなかったのに。なんなの……? あれは)

 

 第四席次は急いでもう一度蘇生魔法の発動を試みる。

 しかし、やはりそれも途中で遮られてしまう。

 

 この異質なアンデッドには、神の慈悲が――全く通用しない。

 

 後始末に長けた漆黒聖典という部隊の一員として、こういった人々の狂乱にまみれた現場というのは慣れているつもりだった。が――今更それが甘かったのだと痛感する。

 

「拡散せよ、雷撃の突貫(サンダーショット)」

 

「ぐっ!!」

 

 放たれた盟主の魔法が四方へと拡散し、今まで戦ってきたあらゆるモンスターの攻撃を超えた破壊の衝撃が石床を爆砕させ第四席次の細い体を後方へと吹き飛ばす。

 凄まじい速度で街の建造物、その壁へと衝突し、辺りの煉瓦が砕け散る。

 

 更にそれに追従するように魔法の矢がこちらに向かって数本飛んでくるが、身体を捩ることで壁から抜け出し、側面に飛ぶように着地する。

 

 遠くでは巨大なスラーシュが異様に長い触手を伸ばし、法国の召喚せし威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)の一体を地面に叩き落していた。

 

「に、にげ、逃げろぉぉおお……!!!」

 

「うわぁぁぁああ!?!?!?」

 

「威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)!! 善なる極撃(ホーリー・スマイト)を放て!!!!」

 

 ――シューンッ!!!

 

「ゴポポポポポポポオオォォォオ!!」

 

 混乱する戦場を切り裂くように隊長が号令を出し、剣を振り回しながら反撃の狼煙を上げる。

 それは苦し紛れの足搔きなどではなく、敵を屠る猛攻だ。

 

 上空の剣の天使が複数道を行き交い、ゾンビを破砕する。

 

「……そうだ」

 

 現地には今――漆黒聖典、陽光聖典、王国の冒険者と聖王国の頂点たる聖王が率いる神官団、聖騎士、偉大な主天使二体。何より、神が遣わせたハンゾウ2名と、憎きデケムホウガンまでもが力を合わせて"死の権化"と戦っているのだ。

 

 善なる極撃(ホーリー・スマイト)により貫かれたキメラの不自然に膨張した紫色の体躯。

 その衝撃で千切れた長大な体躯……触手の一つが、第四席次のいる街まで飛んできては民家の屋根を叩き壊す。

 

 第四席次は既に飛び退いている。そして再び仲間の支援を開始する。

 

「番外席次!!」

 

「……了解」

 

 雨を切り裂きながら疾走するのは、大鎌を構えたアリシアだ。

 第四席次は彼女が立つ屋根の向こうへ生命力を宿した蔦を伸ばし、それを見たアリシアは迷うことなくその場で凄まじい跳躍を繰り出してから、中空で蔦を蹴る。

 

 目指すは盟主。

 

 そこに神の意思を宿した大鎌が振り下ろされる――

 

 

 

「――武技:疾風加速! 超斬撃ッ!!!」

 

 

 

 完璧な一撃のはずだった。

 

 

(!?)

 

 

 ぶんっ!!

 

 

 しかし盟主の身体が黒い霧と共に掻き消え、それは空振りに終わる。

 そう思った刹那――

 

 

 ――ズドォォオオンッッ!!!

 

 

 突如としてアリシアの上空に出現した人間大の土エレメンタル。

 それが敵の反撃を許さんと言わんばかりに両腕を振り下ろし、盟主を上空から下方に吹き飛ばしていた。

 デケムの操る精霊の一撃だ。

 

 そしてデケムの隣にいたハンゾウも、既に迅雷の如くその着弾地点に駆けだし、敵の懐に到達している。奥で激しい斬り合いに発展する。それに、第三席次と第五席次も応戦する。

 

 

 

「あのアンデッドはもう虫の息です! 我々も押し込みます!!!」

 

 

 

 キャリスタ・カストディオの号令と共に神官団が建物の真横から前進、盟主の召喚したアンデッドの軍団を切り払いながら、アダマンタイト級冒険者たる鋼鉄と共に前線を押し上げていく。

 

「うぉぉおおお!!!!」

 

 後ろに隠れていた冒険者も喊声(かんせい)を上げ、盟主のいる方向に近寄ろうとする――

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

「……万雷の撃滅(コール・グレーター・サンダー)」

 

 

 

 世界から音が消える。そして次の瞬間――

 

 

 ダァアアアアアアンッッ!!!!!!

 

「ぐわぁああああ……!?」

 

 世界の色が反転する。

 第九位階という窮極の魔法に位置する神話の雷が、盟主のいた建物ごと、雷鳴を響かせながら粉砕したのだ。

 

「第五席次!!!」

 

 老人の叫び声が響く。

 鼻腔には灼けた使役獣の匂いがこびりつく。最期に皆の盾になったようだ。

 

 暴風と顔に吹き付ける雨。吹き飛ばされないように必死に地面を踏みしめ、耐える。

 

 そんな第四席次を庇うように純戦士たる第六席次が目の前に立つ。

 焼け跡から這い出る下級アンデッドの大群により整った陣形は瞬く間に崩された。

 

 冷静さを保つ隊長がハンゾウの一人と短く言葉を交わす中、第四席次は魔法を構える腕がふと震えていることに気づく。

 黒煙の向こうで盟主の影が揺らめいていることに気づくも、声が出ない。

 

 

 ――本来なら、一刻も早く神の救援に向かわなければならない立場なのに。

 

 

 盟主の指先が明確にこちらに向けられ、漆黒に染まる。

 ……あ(・)れ(・)が、あれが来る。来てしまう。

 

(なんで……!!)

 

 なぜ自分はこれほど無力なのか。

 少女エファラは奥歯が揺れるほどに噛みしめながら、喉の奥から悲痛な声を鳴らした。

 

 

「ツクヨミ、様……ッ」

 

 

 祈るように叫んだ、まさにその瞬間だった――

 

 

 

 

 

「――ようやく見つけたぞ、丘陵に死を運ぶ――不浄の徒よ!!!」

 

 

「なにっ!?」

 

 

 

 

 

 

 雷が空から落ち、轟音とともにそれが急降下する。

 盟主は真なる死(トゥルー・デス)の詠唱を即座に取りやめるも、そ(・)の(・)存(・)在(・)を止めるには至らない――

 

 巨大な翼。輝く双眸。

 盟主の頭上より飛来した翼亜人(プテローポス)の黄金の瞳が、鋭く引き絞られる。

 

 

 

「あれは、エシャベリュールッ!?」

 

 

 

 陽光聖典の誰かがそう叫ぶと同時、次の瞬間には高速でこの場に飛来したエシャベリュールは、その鉤爪で盟主を強襲。先の斬り合いで破れたローブを引き千切る勢いでその身体を強引に掴み、高楼の側部に向かって勢いよく叩きつける。

 

 鐘が地面に叩き落ちる。

 しかし、それを受けた盟主はびくともしない。

 

 瘴気を周囲から吸い上げ、逆に万力のように締まったエシャベリュールの爪をどろどろと溶かし始める。

 

「貴様だな、丘陵を荒らし回り、我が友までもを冒涜したアンデッドはッ!!」

「……そのようなことは覚えていない。転移(テレポーテーション)」

 

 盟主は目にも留まらぬ速さで地面に転移する。

 

(殆ど体力が回復しているっ!?)

 

 更に頭上に向かって連鎖する龍雷(チェイン・ドラゴン・ライトニング)の魔法を発動し、エシャベリュールを正確に射抜く。

 

 沸き立つ竜の形をした轟雷――

 

 たったそれだけの所作で、人間を遥かに超える亜人、その王たるエシャベリュールの身体がボロボロに崩れ落ちていく。

 

「ぐ……うぅうっ!!」

 

 しかもそれだけではない。

 先ほどまで西で戦っていたはずの怪物が、こちらに向けて触手を伸ばしてきている。

 エシャベリュールが空中で拘束される。

 

「炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)を動かせ! 奴目掛けて飛来させろ」

「隣から攻める」

「……我らもマルセル班長に続くぞっ!」

「後衛、魔法での支援を頼むっ!」

 

 聖王リ・エンダルと神官団、鋼鉄の戦士達、陽光聖典そして漆黒聖典が波状攻撃を即座に掛けるが、回復し続ける盟主に届く攻撃はごく僅かだ。

 神殿勢力の召喚した天使が光の剣を携えて盟主へと近づくが、次々と消し去られていく。

 デケムもまた動き出そうと足を動かすが、後ろからの攻撃に気を取られた際に盟主から手痛い反撃を受け、民家の奥へ吹き飛ばされる。

 

 

(あれの突破口は一体どこ……)

 

 

 第四席次は必死に目を凝らす。

 その時、第七位階魔法での致命傷を受けた瀕死のエシャベリュールが空中で抵抗し、スラーシュの歪んだ巨腕を今も引き裂こうとしているのが見えた。

 

 亜人――。

 

 生まれてこの方、神殿上層部からは『悉く滅殺すべし』とだけ教えられてきた害獣。

 そんなものを助けて、戦力として期待するのか?

 

(あり得ない)

 

 亜人はすぐに裏切ったり、人を傷つけたりする。

 あれが暴走して法国(皆)の邪魔になるかもしれない。

 

 だが――第四席次の脳裏には、先ほどエシャベリュールが見せた本物の雄姿が確かに焼き付いていた。あれは……爪を溶かされてもなお不徳を許すまいとするあれは、決して演技などではなかった。

 

 何より、敬愛するツクヨミの言葉がふと耳奥で蘇る。

 

 

 

『私はこの力を、友好に接することができる全ての種族の者に対して振るいます』

 

 

 

 神はあの時、確かにそう仰られたはずだ。

 

 

 

「お願いしますっ。……重傷治癒(ヘビーリカバー)!!」

 

 

 迷いを断ち切った第四席次はエシャベリュールの傷を癒し、あろうことか信仰の加護まで与える。

 神聖な光に包まれ、急速に生命力を回復させたエシャベリュールは、即座に敵の触手を薙ぎ払う。そしてその勢いのまま三度(みたび)――盟主の身体をその執念で捕えた。

 

 

「羽虫が……っ」

 

 

 そしてそれは予想よりもずっと――英雄達にとっての千載一遇の好機となった。

 盟主は強引にエシャベリュールを引き剥がすが、既にその前には第一席次と第二席次が走っている。盟主は死の瘴気を受けながら体を揺らし、体勢を崩しながら魔法を乱射する。

 

「魔法三重化(トリプレッド・マジック)、炎焼騎士槍(バーンランス)ッ」

 

「――武技:疾風走破」

 

 しかし、二名はそれを悠々と躱す。

 第二席次が弾幕をこじ開けるように、その手に持った英雄の槍で道を切り拓く。

 第四席次が再びその足元に蔦を召喚し、負傷者を回復していく。

 

 

「皆さん!!! ――行ってください!!」

 

「人間共。くだらないぞっ、百本骨槍(ハンドレッドボーンランス)!!」

 

「――それはこの某、ターム・ガルトームに任せよ!! 武技:要塞!!」

 

 

 横から王国の冒険者、鋼鉄のフルヘルムがその攻撃を一身に引き受ける。

 横でその仲間であろうレヒド・スタックアートがレンジャーの弓使いで盟主を影に縫い留める。

 そして番外席次――アリシア・ディス・ファーインが残る攻撃もその鎌で撃ち落とす。

 

 

 

「武技:超加速――!」

 

 

 

 第一席次が生まれながらの異能(タレント)を宿した瞳で盟主を捉え、その右手に握った氷鉄の剣に全てを込めながら、敵に続く道の上を疾走する――

 

 盟主は転移しようとするが、間に合わない――。

 

 

 

「邪悪なズーラーノーン! 神より命を受けし一撃を、――その身に受けるがいいッ!」

 

「っ……真なる(トゥルー)――」

 

「――超、斬撃ッ!!!」

 

 

 

 第一席次は暗く光った盟主の指先ごと、その全身を切り開く。

 しかし――それでもまだ超越せし不死者に致命傷を与えるには至らない。

 

 盟主は手元で更に強力な魔法を発動しようとする。

 圧倒的なレベルの差。

 所詮自分達程度が足掻いたところで、埋めることのできない溝。

 

 だがそれでも……この泥臭い連携があったからこそ、そ(・)れ(・)は届いた。

 

 

「後は任せましたよ、ハンゾウ殿」

 

 

「――言われずとも」

 

 

「……かはっ!?」

 

 

 盟主の頭蓋へと、背後からの一撃が突き刺さった。

 

 漆黒のクナイから奔流が溢れ、その頭部が無惨に砕け散る。

 盟主は破砕した頭部に向かって腕を伸ばす。……砕けたそれが元に戻っていく――

 

「皆、逃がすな!!」

 

「勝ったと思うなよ、人間……」

 

 低空での飛行(フライ)で逃走を図る盟主。

 しかし、同時にハンゾウによって討たれたスラーシュ混合獣(キメラ)の巨躯が、カリンシャ教会を崩落させながら落ちてくる。

 

 そしてそれは盟主ごと押しつぶすように、爆散した。

 

 

 ――バァァアン!!!

 

 

 限界まで張りつめた風船が破裂するような音がした後、周りの不死(アンデッド)達が悲鳴を上げながら消える。

 

 凄まじい土煙が舞った後、ぽつぽつと雨が和らぎ、周囲の人間がお互いの顔を見合わせた。

 

 

「……か、勝った……? 俺達、勝ったのかっ……!?」

 

「間違いないっ! あのアンデッドを、倒したぞぉぉっ!!!」

 

 

 歓声が上がる中、第四席次は魔力欠乏の末期症状でふらつく。

 状況を確認すべく第一席次たる隊長に近づこうとする。

 

「ハンゾウ殿。奴はまだ倒しきれていない可能性があります。戦闘中も……ええ。間違いなく力を温存するような素振りを見せていた。まだ何か秘策を隠していてもおかしくはありません……」

 

 それだけ言った後、隊長は『ただ……それより』と、まるでそれさえも些事だと言わんばかりに神の従者から目を逸らす。

 その表情は敵の大将を討ち獲った者とは思えないほど硬く、暗かった。

 

「隊、長……?」

 

 第四席次は――エファラは、ふらふらと近づく。

 そしてしゃがみ込む第一席次の足元にあるそ(・)れ(・)を見て――息が止まった。

 

「彼女が、私の代わりに最後の攻撃を受けてくれた。……隊を法国から、いえ、ツクヨミ様から任された者として……取り返しのつかない失態です」

 

 そこには、いつも生意気で自信に溢れていた番外席次ではなく……ただの遺体となって転がったアリシアの姿があった。あまりに呆気なく、彼女は死んでいた。

 

 第四席次はその後、何度か彼女に対し蘇生魔法を発動するも、それは届かなかった。

 

 仲間に止められるまで魔法を発動した第四席次は、目を開かなくなった彼女を見て泣き崩れた。

 

 今になって、自分は彼女に嫉妬していたのだと、羨ましかったのだと分かった。

 ツクヨミに特別扱いされていた彼女が。

 ただそれ以上に――未熟な自分にとって――唯一気兼ねなく話せる妹のような存在だったのだと、この時初めて気づかされた。

 

 隊長は自分を気遣いつつも、盟主の蘇生をずっと警戒し続けていた。

 

 

 

 自分はもうこれ以上戦えない――

 

 

 

 エファラの心が明確に折れたその時だった。神官長達がこの地にやってきたのは。

 彼らは、ただこう言った。

 

 

 『ツクヨミ様が無事帰還し、この地に向かわれている』と。

 

 

 第四席次、いや――エファラ・イーレ・パルトゥーシュは、その時 間違いなく自分達の神に"畏れ"ではなく"怖れ"を抱いてしまった。

 けれど、疑いようもなく、その言葉だけで全て救われることとなった。

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 男はその記録をそっと閉じた。

 この国を救った一人一人の不断の努力と血。そしてその先に起こる奇跡の福音は、今もこのホバンスの地に息づいている。

 外では、午後を知らせる鐘の音が鳴っていた――。




思ったよりぼこられていた盟主が爆誕(一度倒される流れはあったため。それにしても最後の倒れ方はあれですが⋯)

両者の力関係を最後に補足しますと、ハンゾウ達&手負いデケムだけで、街の被害を考慮しなければ時間をかけて十分にズーラーノーンを圧倒できる戦力がありました。(逆に言えば彼らがいなければ人間達がたとえ力を合わせたとしても決定打は与えられなかった(ドミニオンでギリギリ)ものと思われます)
今回はその両者が揃っていたからこそ、被害が最小限で済んだ形でした。

次回以降は平和な閑話をツクヨミ視点など含めてなるべく早めに投稿していきたく思っています。

ーーー
以下、おまけ設定
ーーー
〇ズーラーノーン盟主
・Lv51⇒73(死の螺旋による最終強化値。ただし本人も認知していなかったが、少し魔力暴走的な側面があり不安定だった)
・到達位階:第九位階
・種族:ナイトリッチ

【人物背景】
本作の転移世界において、最も死の支配者(オーバーロード)に近づいた現地のアンデッド。

400数十年頃(六大神降臨の時代から数十年後)、六大神に仕える神官を父に持ち、法国内において誰よりも熱心に神のことを信仰していた。その勤勉さも相まって副神官長の地位まで上り詰めるも、過激な死の信仰が仇となり異端認定され追放。
怒りを燃料にし、アンデッドの研究に手を染め始める。

人体実験を自分で繰り返し、元神官の身分からアンデッドに落ちた後は、スルシャーナの眷属(自称)として隠遁生活を続けるも、ついに400年目の時期が訪れる。スルシャーナが八欲王との戦争で逝去したことを南の土地で知り、発狂する。
それからは死の概念を自分の都合の良いように曲解し、八欲王と神の力に魅入られ始める。
深淵なる躯に一時的に参加するも、主要メンバーになる前に離脱。その頃、南の竜王による魂の簒奪が行われ、それを目にした彼は南の地から急いで離れるも、更に力への執着を強くしていく。(以降の死の螺旋の儀式や都市の壊滅騒動など)

そして中央大陸を経由してからの30年前付近。
再びこの地を踏み、神の遺物と進化の可能性について探り始める。更に数年後、境遇が自分と似ているリヒター(副盟主)を哀れみ、死を隣人とするズーラーノーンを創設、信徒を増やして勢力を拡大するも、彼の求める結果には至らない。以降アベリオン丘陵付近の辺境に移り住み、亜人(スラーシュ)を解体して魔術を埋め込む研究を繰り返すが、出来上がったのは意思を持たぬキメラだった。(いずれ処分予定ではあった)
これにより本作の丘陵は一時的にアンデッドが住み着いていたり、亜人の動きに問題が生じていた。

元々原作時間軸(0年目+100年)に行くにつれ研究成果が出ないことによりこの地を離れ、更に遠くの地へ移動するはずだった彼は、奇しくもツクヨミという転移者(……しかも法国公認の神であるという彼のコンプレックス的存在でもある)が登場したことにより、暴走してしまう。
最終決戦ではツクヨミに存在ごと消滅させられるも、皮肉にも彼が長年恐れ続けていた"死の恐怖"からは、未来永劫 解放されることとなった。
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