催眠おじさんVS美少女勇者:地球最大の決戦!RtA 作:ルシエド
須美が早朝の習慣である水垢離を終え、着替えて庭を歩いていると、奇妙な動きをしているおじさんと、その近くの木陰で本を読んでいる美森が見えた。
"また一緒にいる"と思い少しムッとして、須美は小走りで駆け寄っていく。
「おはようございます!」
「おはよう須美。今日も元気だな」
「おはよう須美ちゃん。そういえばこの頃、私の起床時間このくらいだったっけ……」
「おじさま、何をしてるんですか?」
「見て分からんのか?」
「すみません、分かりません」
「須美ません?」
「発音のニュアンスだけでからかいにかからないでください……何をしてるんですか?」
「ふむ。お前もやるか」
「? はい」
「お前はスカートだからな、前は注意して隠しておけ。
まず腰を深くまで落とす。
左右に開いた両足で地面を踏みしめながら、尻が地面につきそうなほど腰を落とす」
「はい」
「右手を腰の後ろに回し、左腕を前に出す。
左手の高さは、立っている人間の膝より少し下あたりだ」
「はい」
「そして、自分の体で絶妙に隠すようにして、すっ、と左手を少し上に動かす」
「はい」
「すると審判がこう言う。スットラァァァァァイクッ!!」
「ボールをストライクに見せかけるキャッチャーの練習とかして何の役に立つんですか!!!」
須美はスカートを抑えながら勢い良く立ち上がり、美森がくすくすと笑っていた。
「というか、おじさま本当になんでこんな練習を……?」
「小生小学生の頃はチームのキャッチャーだったからな。
友達が居なかったから一度もレギュラーに選ばれたことはなかったが」
「お、おじさま……」
「スマン見栄張った。友達とか関係なく純粋にヘタクソだったから試合出たことないんだわ」
「おじさま……!」
「最近子供の頃のこと思い出すことが何故か増えてなぁ」
須美はおじさんがどこからか取り出したボールを小指の上で高速回転させてるのを見て、ふと思ったことをそのまま口に出した。
「おじさま、キャッチボールっていうのやりましょう!」
「須美やったことあんの?」
「いいえ、ドラマで仲が良い親子がやってるのを見たことがあるだけです」
「……ふーん。ま、いいぞ。教えてやる」
おじさんが東郷が座って本を読んでいた木陰から、グローブを二個持ってきた。
「新品なんですね」
「昨日買った。柔らかくはしてある」
「二個買ってありますね」
「そうだな」
「も、もしかして、私とこういうので一緒に遊びたかったとか……」
「いやそっちは普通に小生とキャッチボールできる美森用」
「……」
「可愛らしい勘違いだな」
須美に猛烈に睨まれ、美森は揺蕩う雲のような掴みどころのない笑顔で手を振って返す。
美森の余裕に須美はちょっとイラッとした。
「興味あるなら今日須美用のも買ってくるぞ」
「! ……いえ、そんなおねだりはできません」
「何色がいい?」
「あ、買ってくることはもう決まってるんだ……すみません、ありがとうございます」
須美は嬉しそうにして、今日のところは美森のグローブを借りる。
相変わらず笑顔で手を軽く振っている美森に、感謝の意を込め、須美は軽く頭を下げた。
おじさんが投げる。
ゆるやかな放物線を描いて飛んだ遅いボールが、須美の胸の前でキャッチされる。
須美が投げる。
おじさんの頭上はるか高くを飛び越えようとした球に、おじさんがジャンプで飛びついた。
また、おじさんが投げる。
ゆるやかな軌道で、左手にグローブを付けた須美が取りやすいよう、少し左に寄せられた遅いボールを、須美が楽々キャッチする。
また、須美が投げる。
おじさんの足元で地面にぶつかり跳ねるボールを、おじさんが高度な技でキャッチする。
「いいぞ、才能あるぞ須美」
「そうですか? なんだかまだよくわかってないですけど、楽しいですね」
"褒められながら新しくできることが増えていくと何だって楽しいんだよ"と思い、口には出すこと無く、おじさんはククッと笑った。
須美が投げた左側にすっ飛んだボールを、飛びつくようにしてキャッチする。
「いや、須美本当に才能があるぞ。
ヘタクソな人間は投げられたものの放物線を想像できないんだ。
だからゆっくり投げられたボールでもキャッチできない。
その点お前はかなり放物線への理解が高い。
飛んでる物と重力への理解ができてる、って言うべきかな。
だから難なくキャッチできる。こういうのを才能って言うんだと思うよ、小生は」
「最近はみっちり空飛ぶものを矢で撃ち落とす訓練をしてるので、そのおかげかもしれません」
「……そうか。そうだな。お前は戦う訓練をしてるんだった」
「思いっきりいきますよー! 受け止めてください、おじさま!」
「人生、努力したことは無駄にはならないといったところか」
「あっ」
「んぐっ」
話の途中で何やら真剣なことを考え始めたおじさんの股間に、素人特有のミス『突然全力で投げて暴投する』が発動し、野球ボールが猛烈な勢いで突き刺さった。
かつて催眠宇宙大帝『サイミンミンゼミ』との戦いですら膝をつかなかったおじさんの意識が明滅し、その膝が折れ、土が膝を汚す。
この時代の勇者は、美森を除いて三人。
三人が前衛中衛後衛に分担されており、須美は後衛に割り当てられている。
訓練で伸ばしている彼女の技能は、"弓での狙撃"。
遠くから飛び道具で正確に敵の弱点を突くことが求められる。
急所の破壊こそが彼女の仕事である、と言い換えることもできるのだ。
彼女が飛び道具で人生初めて貫いたものは、おじさまのおちんちんだった。
金玉が鳴く。
痛い痛いと鳴き叫ぶ。
チー! ロン! 略してチン。チンチン! チンチンが鳴く。
おじさまの脳裏にくだらないワードが次々浮かび、冷静な思考が吹っ飛び、おじさんは自分の体も思考も大変なことになっていることを自覚していた。
痛みによる、脳の逃避行動である。
「ぐっ……おちんちんが
痴漢肺炎。だがそれ以上に大変なことになっていたのは、須美だった。
「あ……私……おじさまに危害を……?」
催眠ハッピーセット、プリセットその1『彼に対して明確に不都合になることはできない』。
おじさんへ危害を加える可能性を摘み取るためのリスクコントロールの一つ。
普通なら問題にならず、むしろ問題を除外してくれる良い催眠だ。
だが須美が格別に生真面目すぎて善良すぎたことが災いした。
おじさんを傷付けたことを『自分がやらかした大失敗』と思い込んでしまったのだ。
『おじさんを傷付けてはならない』と、『おじさんを傷付けてしまった』が、須美の中で精神矛盾を発生させ、須美の心が内部で火薬が爆発するガラス瓶のような状態になる。
10分も経てば精神に後遺症が残りそうな状態に陥った須美に、おじさんは痛みを堪えて即時対処の催眠を刺し込んだ。
「さ……催眠解除! 記憶消去! 催眠!」
須美の催眠を解除し、今おじさんの股間のボールと野球ボールでビリヤードをした記憶を催眠で消し、即座に催眠をかけて元通りの催眠に戻しつつ記憶を整地する。
「あれ? 今私何してたんでしたっけ……?」
「小生が転んで体を打ったから、お前が、心配して駆け寄って来てくれた、ところだ」
「そういえばおじさまのこと心配してたような……た、大変!
待っててくださいおじさま! 今救急箱を持ってきます! もうちょっと頑張って!」
救急箱を取りに行った須美を尻目に、おじさんは真っ青な顔で股間を抑え、ふらふらと立ち上がり、そこで頭を抱えている美森の姿を見た。
「どうした……美森……?」
「いえ、その……須美ちゃんの過去は大体私の過去でもあるので……思い出して……」
「思い出し、落ち込みか……面倒臭いやっちゃなお前……大丈夫か?」
「一番大丈夫じゃなさそうなのはおじさまです」
過去におじさんの股間にボールをぶつけて、おじさんに一時消されていた記憶が蘇り、美森は身悶えしていた。
美森は身悶えしつつも、記憶の苦しみをなんとか乗り越え、息も絶え絶えにどうにかおじさんに手鏡を渡す。
「どうぞ、手鏡です」
「おうサンキュー。『お前はもう痛くない』。……ふう、なんとかなったな」
「飛んだのは痛みだけですよ? ダメージはそのままです。分かってますか?」
「あー分かってる分かってる。大丈夫だから」
「もう」
美森は呆れた様子で、読んでいた本を閉じ、おじさんの隣に座る位置を移した。
「あ、そういえばおじさま、しずくちゃんとこの時期お友達でしたっけ?」
「え……誰それ知らん……みー子の友達?」
「同級生です。
クラスは……一緒になったことは、なかったかな。
おじさまとお友達みたいで時々キャッチボールなどで遊んでるの見てましたよ」
「野球少女?」
「時々凄い動きしてましたよ。おじさまがからかって、よく発勁で吹っ飛ばされてました」
「それ本当に小生のお友達???」
おじさんが疑問を口にし、美森が首を傾げ、おじさんも首を傾げ、二人揃って同角度に首を傾げたまま無言が続き、その答えは誰も知っていないということが確定した。
「で、そのしずくちゃんがどうしたって?」
「えーっと……なんでだったかな……おじさま知ってますか?」
「知るわけないだろ! え、なんで小生? みー子か誰かが小生に紹介したんじゃないのか」
「どうでしたっけ……?」
「ええ……なんでお前が忘れて、って、ああ、そうか」
美森は記憶を消されている。
一部の記憶だけを消されているため、自分でも記憶の齟齬や言動の食い違いに説明をつけられないことがある、ということなのだろう。
消された記憶は、おじさんの末路と、美森が過去に来た理由、そこに繋がる全ての記憶。
おじさんは自分の末路に繋がる情報は全て取得していた。
ならばこれは、須美が過去に来たことに関する何かの記憶であるということだ。
『しずく』なる人物に、おじさんの知らない何かがある。
催眠を解除すれば美森の記憶も戻り、美森に直接問い質すこともできるかもしれない。
だが、おじさんはそこまで美森を甘く見ていなかった。
一度解けば、その瞬間に畳み掛けられ、美森の意思を徹される―――そんな、鷲尾須美/東郷美森への信頼のようなものがあった。
おじさんは、努力している者を甘く見ない。
ゆえに、催眠は解除しない。そこはどこまでも徹底している。
「小生がチェックしてる須美の同級生なんて勇者の二人くらいだったな」
「銀とそのっちですね。可愛いでしょう?
それにとっても優しいんですよ。
私の心の支えだって、胸を張って言えます。
須美ちゃんはまだ出会ってないみたいですけど、かけがえのない親友になるはずです」
「そうなのか。写真は見たが、可愛らしいガキンチョって感じだったが」
「写真で伝わる可愛さじゃないんです……! 銀とそのっちは凄いですよ!」
「お、おう、そうか。
まあ須美も含めて顔が良い三人だったからな。
神樹は顔で勇者選んだロリコンなんじゃないかとも思ったが……」
「神樹様はそういうのじゃないですよ。
なんというか……"人間とは違う尺度"で考えてる、別の常識がある神様です」
「神様はそこそこ見てきたが……」
「見てきたんだ……」
「日本神話系統のタイプに感じるな。
神の性格は、神話体系ごとに千差万別だ。
日本人でないと理解し難い性格……に、感じる。ほぼ勘だが」
「だから、勇者を神様が顔の好みで選んだっていうことはないと思うんです」
「これでお前らがブスだったらブストレイ三人娘って言ってたわ。
みー子はブストレイブルーフレームだったな。まあそうはならなかったが」
「おじさまは親しい相手にブスとか言えないでしょう。
須美ちゃんが仮に顔が良くなかったとしてもブスだなんて絶対に言えないと思いますよ」
「……」
「おじさま、黙ってないで何か言ったらどうですか?」
「お前が勇者に変身した服まるでそこそこ痴女みたいだよな。恥ずかしくないの?」
「ちょっと!」
すぐ自分が勝てそうな話題に切り替えようとするんだからもう、と美森は腰に手を当てて呆れた表情をした。
「須美がお前みたいな服着せられないこと願うばかりだよ」
「私と須美ちゃんの装束は別ですけど須美ちゃんも大体あんなものですよ」
「嘘だろ!?」
「気になりますか? ……まさか、服次第で須美ちゃんに欲情するとか言いませんよね?」
「須美に欲情するくらいなら両津勘吉に勃起するわ、ナメんな」
「おじさま。冗談でも言って良いことと悪いことがあるのでは?」
「すまん、今の十割嘘だった」
「よろしい。尊敬できるおじさまでいてください」
おじさんがまだ写真で顔を見ただけで、出会ってもいない勇者は二人。
「
須美と共に戦う残り二人の、選ばれた勇者か……」
「いい子ですよ、二人共。『とっても』が頭に付くくらいに」
「そういえば美森は、もうこの二人とは一緒に戦った後なのか」
「そう……ですね。
何か忘れてる気がするんですけど……なんだったかな……」
「……ここにもか」
美森の記憶の欠落。しからばここにも、"何か"があるということだ。
三ノ輪銀か、乃木園子か、あるいはその両方か。
「まあでも……美森がそこまで言うほどの友人が須美にできるのは、いいことだな」
「おじさまはいっつもそうですね」
おじさまが考え込んでいると、全力疾走で息を切らせた須美が、額の汗を拭いつつ救急箱片手にようやく戻って来た。
「おじさま! 救急箱で……あれ? もう元気ですね」
「治った」
「本当に……?」
「本当本当」
「怪しい……怪我を隠してませんか?」
「へーきへーき。おい触って確かめるな袖めくるなやめろ」
「見えるところに傷は無い……ほっ、よかった。怪我、無かったんだ……」
露骨にほっとした須美を見て、美森とおじさんは可愛いものを見るような目で、生暖かい視線を送っていた。
須美がその視線に気付き、むすっとする。
「なんですか、言いたいことがあるなら言ったらどうですか」
「「 別に? 」」
「あっハモった……
おじさま!
なんで東郷さんと先にハモっちゃうんですか!
一緒に居た時間私の方が長いのに!
東郷さんなんてうちに来て全然時間経ってないのにハモ!」
「ハモ食いたくなって来たな。小生ハモの唐揚げ割と好きなんだよな……」
「私が作り……いえ、須美ちゃんに頼んでみたらどうですか?」
「そだな。須美、すぐじゃなくていいから頼めるか?」
「え、ええ!? 作ったことないのでレシピ調べないと……」
「楽しみにしてる」
「はい!」
気合いを入れるように、須美が拳を握る。
「そういえば、お二人で何の話をしてたんですか?」
「あれはある夏の日のことだ。
トイレのないキャンプ場。
しかし男は催していた。
男は野外での排便を決める。
しかしズボンを下ろした、その瞬間!
驚いたカブト虫が男の尻に突入!
突然尻にカブト虫が入って来た男はゴジラのような声を上げた。
『ゴジラ』
『ゴジラだ!』
『ゴジラ!?』
深夜に人々は逃げ惑い、ゴジラに怯え恐怖した。
キャンプ地でその伝説はシリ・ゴジラの名前で語り継がれ―――」
「そんな話を!?」
「してないわよ」
「してないんですか!? じゃあ何の話してたんですか!?」
「昔
あの頃は若かった……
龍騎、やつは今どこで何をしているのか……
催眠種付けおじさんと契約した13人の女の戦い。
勝ち残ればどんな願いも叶うという。
だが敗者は生きているおじさんの激しさを体中で確かめられてしまう。
戦わなければ契約おじさんに自分が襲われてしまう。
戦わなければ生き残れない!
小生はドラグレイパーという名で誰も傷付けず戦いを終わらせようとした女に協力していた」
「そんな話を!?」
「してないわよ」
「してないんですか!? じゃあ何の話してたんですか!?」
「デスノートの主人公は夜神月。
夜神、YAGAMI、ひっくり返すとI'm a GAY(私はゲイです)。
デスノートがゲイの隠喩であることは周知の事実だ。
だがその"先"がある。
催眠、SAIMIN、ひっくり返すとminia's。
『流行より自分らしく』を象徴するブランドのことだ。
催眠は自分らしさを引き出す……
デスノートは本性を引き出す催眠のようなもの……
デスノートと出会わなければ月くんは殺人鬼にもホモにもならなかったのかもしれないな」
「そんな話を!?」
「してないわよ」
「してないんですか!? じゃあ何の話……いやもうこれ答えに辿りつけないやつですね」
美森は手に持ってた本で、こつんと、親愛を示すように、おじさんの頭を撫でるように叩いた。
"こいつ催眠の抜け道に慣れてやがる"と、おじさんは目を細める。
「おじさまが話ごまかす時は照れくさい話題になりそうな時よ、須美ちゃん」
「……あ、もしかして、何か私の話してたんですか? 東郷さんとおじさまで」
「ええ。須美ちゃんのことを色々と、ね」
「おじさま……」
「なんだその目は、言いたいことがあるなら言ってみろ」
「須美ちゃんはおじさまの催眠で言えないことだってあるんですよ?」
「それ言われると『ぎゃふん』としか言えん」
「おじさまがもうちょっと素直になってくれれば須美ちゃんは苦しまなくてすむのに……」
「ええ……ううん……素直……? 素直になんか言えって……?」
おじさんは美森が持っていた本――受験用の参考書――を見て、素直な言葉を紡ぐ。
「お前今は中三で受験勉強中だったな。
勉強に集中するのはいい。
それは褒められていいことだ。
ただ運動不足になってないか?
須美っていう比較対象と並んでると、その、な……
よく分かるというか……
腹に僅かに余分な厚みがあるというか……
いや元が十分すらっとしてて痩せてるから目立ちはしてないが……
運動不足なせいで無駄なところに無駄な肉が付いてないか? たとえば―――」
美森の手がノータイムで放たれ、神速でおじさんの口を掴む。
美森は催眠でおじさんを傷付けられない。
一切の危害を加えられない。
彼女の行動はおじさんの不都合に一切直結しない。
少なくとも、彼女の解釈においてはそうだった。
勇者訓練でおじさんを遥かに超える握力を得ている美森が、優しい微笑みのまま、左手の人差し指を立てて己の唇に当て、右手でおじさんの口を掴んで塞いで、肩ではなく頬を揉んでいた。
「おじさま。私、おじさまのことが大好きですよ」
「おうそうかそうか、そうか……小生大困惑」
「だから嫌いにさせないでくださいね」
「小生は健康に気を使って運動してちゃんと適性ラインまで痩せた美森が好きだな」
「……はい」
「不健康は小生だけの敵じゃないぞ?」
「……はい」
「一緒に朝走り込みするか?」
「そうですね……そうした方がいいですよね……」
「あ、二人だけはずるいですよ! 私もおじさまや東郷さんと一緒に走ります!」
翌日から香川に都市伝説が誕生した。
―――『朝五時に外に出ると巨乳の天女が胸を揺らしながら走っている』。
それが、人々を大冒険に駆り立てた。
半信半疑の男。
希望を信じた男。
未知にときめく男
天女をひと目見ようとする男。
誰もが確証があったわけではなく、ただの噂を信じ、愚かにもほんの僅かな可能性に懸け、噂の時間帯と噂の場所を狙い、朝その辺りをうろつき始めた。
あまりにも、あまりも愚かな男達。愚劣にもほどがある。
だがその宝を求める挑戦心こそが―――人間というものの輝きなのではないだろうか?
人は、可能性を、希望を、明日を、信じるならば。
見たい光景があるならば。
見たい明日があるならば。
不確かな"それ"を信じ、僅かな可能性に挑むしかない。
選択肢がないからではない。
それが、人間らしいからだ。
ただの噂に希望を見た男たちは、きっと、誰よりも―――輝いていた。
変な男が増えてきたのでおじさんの提案で美森は走る時間と場所をごっそり変えた。