催眠おじさんVS美少女勇者:地球最大の決戦!RtA   作:ルシエド

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催眠感度14倍

 和気藹々とした空気が広がっている。

 そこかしこで、大人や子供が話している。

 男の子達は走り回り、女の子達はデザートのテーブルの周りできゃっきゃと笑っている。

 皆今日の楽しいパーティーで、大なり小なり鷲尾家と須美に好感は持っただろう。

 文句なしに成功した須美の誕生日パーティーの片隅に、テーブルの上の最後のローストビーフを見るおじさんと、穏やかな笑顔で皿に取る美森の姿があった。

 

「お高いローストビーフが残り一枚だ」

 

「おじさま、どうぞ。あーん」

 

「この歳であーんなんてするか! いいよ、お前食べろ。まだ食べてないだろ」

 

「でも最後の一枚ですよ? おじさまが食べてください」

 

「要らん。手鏡貸してくれ」

 

「? はい」

 

 美森はウェストポーチから手鏡を取り出し、おじさんに手渡した。

 もうしっかりおじさんも"美森はいつも手鏡を常備しているから彼女に頼めばいい"という思考が根付いてしまっている。

 それはおじさんが精神的に、少しではあるが美森に寄りかかり、彼女を頼っているということなのだが、美森以外はそれに気付かない。

 

 須美も美森もこつこつ積み上げるのが得意で、ゆえに他人の好感度をこつこつ稼ぎ、愛される時は本当に深く愛されるタイプである。

 美森は少しずつ、自分を"その人が必要とする人間"にしていく少女であった。

 おじさんは渡された鏡を見つめる。

 

「『このキャベツはこの世で一番美味い肉だ』。……うわなんだこれ美味っ!」

 

 だから美森が放っておけないと思った人物は、彼女が放っておくと、本当にとんでもないところまで行ってしまう人間が多い。

 

「はぁ~この世で一番美味い肉は美味えなぁ~!

 あ、東郷美森さんはそのローストビーフで我慢しててくだせぇな!」

 

「……おじさま本当そういうところですよ?」

 

「これでも須美の飯の方が美味く感じるんだから人間の体は面白え」

 

「そういうところですよ」

 

 おじさんが何を考えているか手に取るように分かる気がして、美森は微笑む。

 彼に譲られた肉が他のどの料理より美味しい気がして、微笑みは確かな笑みに変わった。

 

「おじさまは、巫女と勇者の関係をご存知ですか?」

 

「概要くらいだな」

 

「では説明します。

 勇者は神樹様の力を受け取る少女。

 巫女は神樹様の声を受け取る少女です。

 一緒に投入することで最大の効率で運用することができます」

 

「ああ、電車痴漢おじさんと駅員脅迫おじさんのようなベストマッチのコンビか」

 

「違います」

 

「違うのか……」

 

「巫女は神樹様のお告げを聞き、迫る危機を知ることができます。

 大きな戦いの前に神樹様が何も告げないということはあまりないですね」

 

「ああ、寝取り完了前に女とシてる時、彼氏に電話繋げて最後のチャンスあげるおじさん」

 

「違います」

 

「違うのか……完全に手遅れになる前に警告してるのに……」

 

「未来のおじさまは『まあ完全に手遅れなんだけどな』って言ってましたよそれ」

 

「……」

 

 自分に自分が論破されて、おじさんはぐうの音も出ず黙ってしまった。

 

「私は何度か神託を経験してるので経験則で分かります。須美ちゃん達の初陣は今日です」

 

「!」

 

「巫女が受け取ることができる神樹様の神託。未来に確実に起こる預言とも言い換えられます」

 

「今日……なのか」

 

 隠しきれない狼狽がおじさんの顔に浮かび、美森がおじさんに優しく語りかけ、彼を安心させようとする。

 

「大丈夫ですよ。

 最初の方は確か危なげなく乗り越えれたはずです。

 後続と比べると大分弱いバーテックスだったと記憶しています」

 

「何回目で危なくなる?」

 

「ちょっと危なくなったのは……何回目だっけ……? あれ……?」

 

「……」

 

 おそらく、どこかの戦いで、美森が過去に来た理由やおじさんの末路に繋がる何かがあり、それに繋がる戦いがあったのだろう。

 そこが判然としない。

 おじさんはあの時の選択をまた悔いると共に、あの時美森を安易な考えで扱った自分が、心の底で美森の話に焦っていたことを再認識する。

 

 せめてもう少し考えていれば。

 催眠解除の隙も見せたくない美森の扱いを考慮していれば。

 そう思うが、全て後の祭りである。

 

 正義の味方になれないおじさんの人生は、いつも後悔ばかりだ。

 

「戦いが始まれば時間は止まる、だったな」

 

「はい。勇者とバーテックスの戦いは、止まった時間の中で行われます」

 

「時間停止AVおじさんに時間停止世界への突入を正式に習っておくべきだった……」

 

「前から思ってたんですがおじさまは知人を選んだ方が良いです」

 

「独学で止まった時間の中に入れるかどうか。門外漢だからな、小生は」

 

 神樹は世界を守るため、戦いの間、世界の時間を止める。

 勇者か、特例の巫女くらいしか、止められた時間の中には踏み込めない。

 『時間停止AVの九割はやらせ』と言うが、その一割を担う本物の時間停止AVおじさんでもなければ、きっと勇者を守りに行くことすらできない。

 

 おじさんは、自分が催眠種付けおじさんであることを、少しばかり後悔していた。

 

 せめて自分が時間停止AV専門男優なら―――そう思わずにはいられない。

 

「おじさまは時間停止系に詳しいですよね」

 

「小生の兄が時間停止おじさんなんだからそれはそうだろ」

 

「えっ……おじさまのお兄様は時間を止められたんですか!?」

 

「ん? そっちの小生は話してなかったのか?」

 

「全然聞いてないです。最近記憶があやふやなので断言はできませんけど……」

 

「……しまったな、迂闊だった」

 

「口を滑らせたなら仕方ないですよ。

 私おじさまの家族のこと、もっと知りたいです」

 

「……小生が話すまであの手この手で聞き出そうとしてきそうだな」

 

「おじさまがそう思うなら、そうなんじゃないでしょうか」

 

 くすくす、と美森が笑って、おじさんは溜め息を吐き、語り始めた。

 

「時間停止おじさんは時を止めるおじさんだ。

 時を止めてえっちなことをする。

 時を止めて服を脱がせたり拘束してからえっちなことをする。

 対象の意識を残し時間停止で動きを止め揉みに行く。

 そういう種族だ。

 戦闘力、淫行力、共に最上級。

 弱点は才能に依存するため数が少ないことくらいだな。

 時間停止能力が非常に強力なため、『最強のおじさん』とも呼ばれる」

 

「バトル漫画みたいな話になってきましたね」

 

「天下乳武道会などで戦ってるおじさんも少なくないからな……」

 

 時を支配するおじさん―――それすなわち、神の領域に足を踏み入れた者。

 

「結論から言おう。ほとんどの時間停止おじさんは時間を止めていない」

 

「え?」

 

「単純な時間停止したら空気も止まって窒息死してしまうからな」

 

「ええ……」

 

「止まった空気はまるで見えない鋼鉄だ。

 女体も時間を止めれば鋼鉄に等しい。

 過去には弱い力で時間を止め性的悪戯をしようとして、宇宙時間流に粉砕された者も居た」

 

「ええ……」

 

「ゆえに『本物』の時間停止おじさんは規格外の力を持ち、時に『神』として扱われる」

 

「ええ……」

 

「小生の見立てでは……

 神樹は時間停止AVおじさんと同種の存在。

 おそらくは時間停止AVのそれに近い時間停止能力を保有している」

 

「おじさま、神様の信仰が強いこの世界で絶対そういう話しちゃダメですよ」

 

 神樹時間停止AV男優説。

 

「よって時間停止おじさんは大まかに五種類に分けられる。

 『超加速』。

 『精神操作』。

 『肉体操作』。

 『完全催眠』。

 そして、『時間操作』だ。本物の時間操作タイプは、ほとんどいないのだよ」

 

「バトル漫画みたいな話になってきましたね」

 

「そっすね。

 超加速は加速した結果相対的に時間が止まって見えるもの。

 スピードタイプのおじさんだ。

 精神操作は周囲の生物の精神に干渉し認識の時間を止めるもの。

 形のない精神を操作する。

 肉体操作は周囲の生物の肉体に干渉し認識の時間を止めるもの。

 脳の動きなどを支配する。

 完全催眠は催眠で認識の時間を止めるもの。

 催眠の楔を対象に突き刺して操る。

 そして、時間操作は、都合良く様々な難点をクリアしたご都合の時間停止を行う」

 

「おじさまは催眠おじさんだから、おじさまのお兄様は四つ目なんですね」

 

「まあ、そうなる。

 催眠タイプの時間停止おじさんだ。

 "時間が止まっている"と全ての生物に思わせるものだった。

 時間停止中に術者以外の意識を残すことができる時間停止だったな」

 

 身内に時間停止おじさんの一人がいたがために、おじさんはこの分野に詳しい。

 

 時間停止AVを撮るように、時を止められた世界に侵入し自由に動く技術は、おじさんがかつて何度か思考実験していた内容だが、実践するのは初めてだった。

 

 おじさんにとってもしばらくぶりの『命が懸かったギャンブル』である。

 

「五つ目だけは『本物』だ。

 四つ目までのおじさんはかつて小生でも倒したことがある。

 だが五つ目は希少すぎて戦ったこともない。

 五つ目にあたる神樹の時間停止に自分の能力で抗えるかは、小生も大分賭けだな……」

 

「おじさまは時間が止められた世界に行きたいんですか?

 大人しく私や須美ちゃんに任せていた方がいいんじゃないですか?」

 

「お前の話があったからな」

 

「?」

 

「たった一回。

 最後の一回。

 その時だけでも、入る手段を講じなければ、全部おじゃんだ」

 

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 おじさんが倒さねばならない目標がいる。

 ならば迷うことはない。

 おじさんもまた、時間停止種付けおじさんのステージ、すなわち神の領域に足を踏み入れる必要がある。それだけの話だ。

 

「美森、須美の様子をちょっと見てきてくれ。

 友達と上手くやってるか判断するのは、未来の須美が一番相応しいだろうし」

 

「分かりました。でもきっと上手く行ってますよ。銀もそのっちもいい子ですから」

 

「そうかもな。そうだったなら、後で存分に須美から楽しそうな話でも聞くさ」

 

「ふふっ」

 

 美森を送り出し、おじさんは庭の隅のベンチに腰を下ろした。

 

 深刻な表情で、おじさんは己と向き合い始める。

 

「……時間停止。

 様々な種付けおじさんが挑んでは破れた神の領域。

 あるAVは撮影中に時間が止まってるはずなのに犬が動き……

 ある時間停止能力者はバトルばかりでエロが蔑ろに……

 ある催眠時間停止は一人の思考を止めることしかできず失格とされた……」

 

 向き合うべきは自分自身。

 己の力と、心と、強さと、弱さと、向き合わなかればならない。

 自分と向き合うことすらできないならば、小さな女の子一人守れはしない。

 

 催眠を経路とし時間停止の領域に届かせるのは、聖杯を経路として根源に至る聖杯戦争のプロセスに近い。

 ゆえにこそ強力。

 ゆえにこそ困難。

 ゆえにこそ禁忌。

 かつて時間停止の領域に届いた催眠おじさんの力によって、催眠おじさんの一族が一つ滅んだ事件があったことを、おじさんはよく知っている。

 

 催眠に触れてから約二十年。

 "催眠おじさん"の偉大なる称号を名乗れるようになってから数年。

 鍛錬を重ねてきた自覚はあるが、それでもおじさんにできるという自信はない。

 

「小生の力で届くのか? 兄さんと同じ『神』の領域に……」

 

 その時、おじさんが顔を上げると、『きれいなもの』が目に入った。

 

 子供が笑顔で駆け回っている。

 微笑む大人が子供達を見守っている。

 その中心に、須美が居た。

 全てが守るべきもので、その中心に須美がいた。

 

 子供達が須美の誕生日を祝って、須美が照れて顔を赤くしている。

 照れ隠しと、祝われたことに感謝で返すため、須美は周りの人達に料理を取り分け、せっせと配り始めた。

 主役なんだから今日ぐらいは、と周りが言ってもやめない。

 周りの人に料理を配っては「ありがとう」と言われ、須美は両親や使用人にもよそってあげていく。まるで、普段伝えられない感謝を、今めいっぱい伝えるかのように。

 須美は言う。

 

「これは私の誕生日を祝ってくれた人への、私の素直な感謝だから、いいんです!」

 

 そんな彼女を見て、おじさんの心の奥に、静かに宿る熱があった。

 

 鷲尾須美は愛されていた。

 愛されていて、綺麗だった。

 皆に愛される綺麗なものなら、守ることに意味はあると、おじさんは思った。

 彼女こそが、彼にとっての光だった。

 

「―――できるか、ではない。やるんだ」

 

 呟くように、彼は誓った。

 

 少し辺りを見回すと、皆の中心に居る須美には見えないところで、転ぶ子供が見えた。

 転んだ子供は勢い良くそのまま塀にぶつかって、泣きそうになっていた。

 大人でも泣きそうなくらい勢い良くぶつかっていて、おじさんはその子供に駆け寄っていく。

 

「大丈夫か?」

 

「うっ、うう……」

 

「痛いのか?」

 

「いたい……」

 

「お父さんは? お母さんは?」

 

「うう……!」

 

「頑張れ、痛みに負けるな。痛いところはどこだ?」

 

「っ……!」

 

 痛みのせいか何も言えない子供が、泣きそうになっている。

 一秒でも早く痛みを取ってやろうと、おじさんは"近道"をした。

 

「『痛い痛いの、飛んでけ』」

 

「……あれ?」

 

「次は転ばないようにな。走る時は足元に気を付けてな」

 

 痛みが消えた子供が不思議がって、おじさんに頭を下げ、去っていく。

 子供に出血はなく、打ち付けた部分の痛みさえ取り除けば問題はなさそうであった。

 問題なさそうではあった、が。

 普通の大人が催眠に頼らずとも今の子供を泣き止ませられただろう、と思うと、須美や美森なら催眠がなくても上手くやっただろうと思うと、おじさんは少し思うところがあった。

 

「ここが小生の限界か」

 

 "すぐ催眠に頼る"のは、間違いなく彼の弱さであり、消し去れない欠陥である。

 同時に、自分にだけできることで誰よりも早く泣き止ませて見せたという強さでもある。

 強さと弱さは表裏一体。

 長所と欠点は隣り合わせ。

 変えられない自分、捨てられない自分こそが、"その人らしさ"を構築する柱だ。

 

 不器用な鷲尾須美が、不器用ゆえに誰よりもまっすぐ生きているのと同じように。

 

「だが、小生は、小生にだけ、できることを」

 

 そして、その時。

 

 

 

 

 

 世界が途切れる、音がした。

 

 

 

 

 

 世界が噛み合い、元に戻る。

 

 立っていたおじさんが膝をつく。ぶわっ、と大粒の汗が額に浮かんでいた。

 

 他の者達は気付いていなかったが、今確実に、時間が止まっていた。

 『戦い』があった。

 今世界の時間は止まり、止まった時間の中で勇者とバーテックスの戦いが行われていたのだ。

 おじさんにはそれが分かる。

 

 時間が止められた瞬間、おじさんはそれに抗ったが、あえなく力負けしてしまった。

 時間停止に巻き込まれたおじさんからすれば、意識が一瞬途切れ、また時間が動き始めたようにしか感じられない。

 しかし、おじさんが時間を止められていた間、早ければ十数分、長ければ数時間、須美達はバーテックスなる怪物と戦っていたはずである。

 世界をまるごと塗り替えるような時間停止におじさんは逆らえず、止まった時間に侵入することもできず、須美達の援護に向かうこともできなかった。

 

 神樹の神の――地の神の王の――絶対的なまでの、世界の理を支配する力。

 人間を支配する力を極めたおじさんでは、まだ拮抗すらできない。

 

「これが……本物の時間停止……!」

 

 されど無為には終わらない。

 おじさんは時間が止まり世界の形が変わる瞬間、世界と時間を切り替える境界線を見た。

 その境界線に手が届けば、何かができる実感があった。

 そこに到達すれば、文字通りに"一線を越える"ことができる、感覚的な確信があった。

 辿り着ければ、掴める技があった。

 

「だが、見えた。次は、次こそは……」

 

 きっとあれこそが、時間停止AV男優が持つ固有技能。止まりし時間へ踏み込む入り口。

 

 おじさんは今触れかけた感覚に浸ろうとしたが、そこで声が聞こえる。

 

「須美?」

「あれ……銀? 銀、どこだ?」

「園子? これは……まさか……」

 

 そしておじさんは、己を恥じる。

 勇者達の親である者達の声が、おじさんに彼の醜さを突きつけていた。

 

 戦いが始まれば時間は止まり、世界は変わり、勇者達は前線に転送される。

 そのため、時間停止直前に居た場所から消えるのだ。

 親からすれば、突然愛娘が消滅したようにしか見えない。

 何より先に娘達のことを気にし、それを第一声とした彼らの声が、おじさんにとびっきりの羞恥を叩きつけてくる。

 

「……いや、そうじゃねえだろ。何自分のことだけ考えてるんだ」

 

 おじさんは車庫に向かい、車に乗り込み、法定速度上限ギリギリ超特急で車を飛ばした。

 向かう先は瀬戸大橋。

 戦いが終わった勇者は、そこに転送される決まりだ。

 業務的に勇者を迎えに行く予定になっている大赦の誰よりも早く、おじさんは戦いの興奮冷めやらぬ様子の須美達の下に辿り着いていた。

 

「おうおかえりぃメスガキども」

 

「おじさま!?」

 

「そう、小生です。お疲れ。初陣はちゃんとやれたか?」

 

「……はい! お役目を果たして参りました!」

 

 敬礼し、満面の笑みを浮かべる須美。

 その頬に大きな切り傷が残っていたのを、おじさんは見た。

 痕は残らないだろう、とおじさんは経験則で理解する。

 これならほどなくして治る、と知識をもって傷の深さを推察する。

 大丈夫だ、という理解があった。

 これくらいで済んでよかった、という安心があった。

 

 笑顔の少女の顔の傷を見るだけで、胸の奥に締め付けられるような苦しみが生まれた。

 

「私、勇者としてちゃんと皆を守れました。……嬉しいです」

 

 それでも彼は、誇らしげな須美を見て、その気持ちに茶々を入れる気にはなれなかった。

 

「お前は皆の誇りだよ須美。生きて帰ってきたことが一番偉い」

 

「……ありがとうございます!」

 

「三ノ輪のお嬢も乃木のお嬢もよく頑張った。繰り返すが、生きて帰って来たのが一番偉い!」

 

 おじさんは車の電子ドアをボタン操作で開き、三人を後部座席に誘導する。

 

「ほら乗れ三人とも。疲れてるなら椅子倒して寝てていいぞ」

 

「おじさま、迎えに来てくださったんですね」

 

「鷲尾邸に戻る前にイネス寄るか?

 ご褒美に好きなアイスをなんでも一個買ってやろう。

 よく頑張った勇気あるメスガキども。かっこいいぜ、お前達」

 

「「「 ! 」」」

 

 須美が、自分の頑張りが認められたことを喜ぶ。

 銀が、アイスを奢ってもらえることを喜ぶ。

 園子が、友達と一緒にアイスを食べに行けることを喜ぶ。

 わいわいがやがやと、子供達が乗り込んだ後部座席が騒がしくなって、楽しげな声が車の中に満ちていく。

 

 おじさんの表情が一瞬だけ冷め、すぐに陽気な表情に戻り、からかうような口調で勇者達を軽快に褒めながら、車を発進させた。

 

 タイムリミットは、美森が保証した『最初の方の襲撃』が終わるまで。

 危なげなく須美達が撃退できる時期が終わるまで。

 それまでに時間停止AVの領域に到達することを、おじさんは己に誓っていた。

 

 

 

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